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ドラッグ売りのアンジェラ
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エデンが無ければ毎日を健やかに過ごすことができなくなっていた。
用法を守っているけれど、まさか中毒じゃないだろうな。
ドラッグは高いから、今まで俺は手を出したことがなかった。
中毒とそうでない場合の違いが分からない。
赤坂もまだ学校に戻ってこない。
誘拐されていた俺の方が早く学校に復帰できたわけだ。
賭けに勝ったクラスメイトはもう一人に、ドラッグを奢ってもらっていた。
もしかしたら、叔父さんが言うようにドラッグは怖いものなのだろうか。
でも、俺の症状を病院で診察するわけにもいかない。
エデンが違法ドラッグじゃないか、調べても分からなかった。
そして毎日飲み続けた結果、白い缶の中にエデンが残り僅かになってしまった。
俺はそれが恐ろしくなってきた。
あっくんにもらったショップカードを取り出す。
お店は渋谷にあるようだ。
今度は公平と一緒に出かけることはできない。
一人で繁華街へ行かなければ。
渋谷もあまり立ち寄らない。
でも、若者に人気のショップが並ぶこの街はクラスメイトはよく買い物に来ているという。
休日の渋谷は人が多く圧倒されたが、俺はショップカードに記載されている地図を頼りに歩き続けた。
駅から離れた入り組んだ道に入り、その店を探した。
そして、小さな看板をみつけた。
入口は酷く分かりにくく、いかにも怪しい店だ。
入口すぐに階段が地下へと続いていて、地上からだと店の中が全く分からない。
恐ろしいけど、エデンを手に入れるために俺はその『エンジェル・ハーブ』という如何わしい名前の店へと下りて行った。
どんな恐ろしい店かと思っていた俺は、地下へ辿り着いて驚いた。
壁一面がピンク色で、ガラスの瓶に入ったハーブが棚いっぱいに並べられている。
もしかしたら、女子は写真を撮ってネットにあげるかもしれない。
そういう行為が流行っているらしい。
「いらっしゃい。何かお探しかしら坊や」
俺が派手な店内に圧倒され、辺りを見回していると野太い声が聞こえた。
振り返ると、そこには土屋に負けず劣らずの筋肉質の大男が現れた。
スキンヘッドで唇は真っ赤、目の上は紫色のアイシャドウを塗っている。
ピンク色のティーシャツに白いフリルのエプロンという、なんとも言い難い容姿をしていた。
とても失礼なことだが、俺は呆気に取られて固まっていた。
「どんなハーブティーがいいかしら」
大男が腰をくねらせる。
「ここは、ハーブティー屋さんですか?」
「そうよ。もしかして、お店を間違えちゃったかしら。それとも、迷子?」
頭の中が迷子になりそうだ。
「ここって、ドラッグは売っていないんですか?」
大男の目つきが一瞬変わった。
何かまずいことを言ってしまったのだろうか。
「この辺りって、ドラッグ屋さん多いからね。うちはハーブティー専門なのよ」
確かにショップの名前も『エンジェル・ハーブ』だ。
俺はハーブに詳しくないけど、ドラッグに加工する前のハーブをお茶として楽しむ人もいると聞いたことがある。
でも、俺がほしいのはエデンだ。
でも、この大男はドラッグが無いという。
一体どういうことだろう。
そういえば名乗ればもらえると、あっくんが言っていた。
よく考えれば、あっくんのような怪しい人間と付き合いがある店なら、誰にでもドラッグを売ってくれないのかもしれない。
紹介制というやつか。
「あの、俺はやっくんという者なんですが」
やっくんという単語を聞いて、大男が口元に手を当てた。
「あらやだ。早く言ってよ。君がやっくんなのね。危うく上客を追い返すところだったじゃないの」
その大男が満面の笑みを浮かべて、俺を店の奥へと案内した。
小さなガラステーブルについた俺に、ハーブティーを入れて持ってくる。
ミントの香りがした。
「はじめまして。私はアンジェラよ。今後ともご贔屓にしてね」
アンジェラはカウンターの奥へ行き、白い缶を持ってきた。
その中には、赤い球体が敷き詰められている。
俺はそれを見て安心した。
「聞いていると思うけど、お代はいただいているから持って帰っていいわよ。ハーブティーはサービスだから飲んで行ってね。リラックス効果があるわ」
ミントが香るお茶はとてもお美味しかった。
喉と鼻が通る感じがする。風邪を引いた時にいいかもしれない。
「君に会えるのを楽しみにしていたのよ。ここに来たら盛大におもてなしするように言われているから、ゆっくりしていってね」
アンジェラは見た目はいかついが、愛想がいい人だった。
でも、ゆっくりはしていられない。
これから天野と約束がある。
またあの高級マンションへ行って、裸にならなければならない。
その前に、エデンについてアンジェラからいろいろ聞き出さなければならないと思った。
俺の調べ方が悪いのか、エデンというドラッグはネット上では出てこなかったからだ。
「あの、エデンはもしかして違法ドラッグですか?」
俺が控えめにそう言うと、アンジェラが首を傾げた。
「例の彼から何も聞いていないのね。まあ彼って、口数多い方じゃないけど。知らないものをよく飲んでいられるわね」
「例の彼って、あっくんのことですか?」
俺の発言を聞き、アンジェラが大笑いし始める。
「あっくんって呼んでいるのね。彼のことを、そう呼べるのは世界中で君ぐらいよ」
そのニックネームが相当可笑しかったようで、アンジェラは涙を浮かべている。
「変ですか。あっくんの本名を知っていますか?」
アンジェラは腕組みをして、俺を見下ろしてくる。
「坊やは大切なお客だから忠告しておくけど、ああいう人物の正体を探ろうとしない方がいいわよ。知らない方がいいことは、この世界に多いの」
確かにあっくんはヤバい人物だ。
平気で人を銃で撃ち殺して、その辺に捨ててくるし。
そのあっくんとつながっているアンジェラも、ヤバい人ということだろうか。
俺はこんな所で呑気にお茶を飲んでいて大丈夫なのだろうか。
「エデンについてだったわね。違法ドラッグじゃないわよ一応。違法ドラッグをこんな大量に店に置いていたら、警察の抜き打ち検査でお終いよ」
エデンは違法ドラッグじゃなかったのか。
安心した。
「俺、これを毎日飲んでいるんです。飲まないと気分が落ち込んで学校に行けないくらいで。これってもしかして、中毒ですか?」
アンジェラはドラッグを売っているくらいだから、その辺の話にも詳しいはずだ。
「用法は守っているの?」
「はい。一日一錠ですよね」
「中毒の定義は難しいの。スマホだって中毒になる時代だし。用法を守りながら円滑に日常を送れれば特に問題は無いわ。どうしても心配なら、やっぱり病院に行くのがベストね」
病院になんか行きたくない。
用法はちゃんと守っている。
それで問題無いなら、このままでいいや。
「今日はエデンだけで大丈夫かしら。他に欲しいものを言ってくれれば、予約しておくわよ」
そういえば、あっくんもそんなことを言っていた。
あの時は死のうと思っていたけど、予定を変えたから今は死ねるドラッグも必要ないし。
「じゃあ、このお茶買います」
いつも俺のせいで疲れている叔父さんに買って帰ろう。
酒よりは体に良さそうだし。
「あら。ちょっと高いけど大丈夫かしら」
「五万で足りますか?」
「やだ。さすがにそこまでぼらないわよ。君、そんな大金使って平気なの?」
「最近バイトを始めたんで」
天野からの脅迫をバイトということにして気を紛らわせた。
こんな金、全て使ってしまおう。
「君って案外、図太く生きていきそうね。想像していた子と違うわ」
「想像って?」
「幸薄くて、すぐ死んじゃいそうだと思ってたわ」
アンジェラが口元に手を当てて笑っている。
「あっくんがそう言ってましたか?」
確かにあの時は死ぬことしか考えていなかったからな。
「例の彼はそんなこと言わないわ。君のことは噂で聞いて、私が勝手に妄想したの」
「噂って?」
「君、私達の業界でちょっとした有名人になっているから」
俺の頭は相当足りないらしい。
天野が言っていたことがじわじわと分かってきた。
秘密というものは、そう簡単に隠せるものではないようだ。
用法を守っているけれど、まさか中毒じゃないだろうな。
ドラッグは高いから、今まで俺は手を出したことがなかった。
中毒とそうでない場合の違いが分からない。
赤坂もまだ学校に戻ってこない。
誘拐されていた俺の方が早く学校に復帰できたわけだ。
賭けに勝ったクラスメイトはもう一人に、ドラッグを奢ってもらっていた。
もしかしたら、叔父さんが言うようにドラッグは怖いものなのだろうか。
でも、俺の症状を病院で診察するわけにもいかない。
エデンが違法ドラッグじゃないか、調べても分からなかった。
そして毎日飲み続けた結果、白い缶の中にエデンが残り僅かになってしまった。
俺はそれが恐ろしくなってきた。
あっくんにもらったショップカードを取り出す。
お店は渋谷にあるようだ。
今度は公平と一緒に出かけることはできない。
一人で繁華街へ行かなければ。
渋谷もあまり立ち寄らない。
でも、若者に人気のショップが並ぶこの街はクラスメイトはよく買い物に来ているという。
休日の渋谷は人が多く圧倒されたが、俺はショップカードに記載されている地図を頼りに歩き続けた。
駅から離れた入り組んだ道に入り、その店を探した。
そして、小さな看板をみつけた。
入口は酷く分かりにくく、いかにも怪しい店だ。
入口すぐに階段が地下へと続いていて、地上からだと店の中が全く分からない。
恐ろしいけど、エデンを手に入れるために俺はその『エンジェル・ハーブ』という如何わしい名前の店へと下りて行った。
どんな恐ろしい店かと思っていた俺は、地下へ辿り着いて驚いた。
壁一面がピンク色で、ガラスの瓶に入ったハーブが棚いっぱいに並べられている。
もしかしたら、女子は写真を撮ってネットにあげるかもしれない。
そういう行為が流行っているらしい。
「いらっしゃい。何かお探しかしら坊や」
俺が派手な店内に圧倒され、辺りを見回していると野太い声が聞こえた。
振り返ると、そこには土屋に負けず劣らずの筋肉質の大男が現れた。
スキンヘッドで唇は真っ赤、目の上は紫色のアイシャドウを塗っている。
ピンク色のティーシャツに白いフリルのエプロンという、なんとも言い難い容姿をしていた。
とても失礼なことだが、俺は呆気に取られて固まっていた。
「どんなハーブティーがいいかしら」
大男が腰をくねらせる。
「ここは、ハーブティー屋さんですか?」
「そうよ。もしかして、お店を間違えちゃったかしら。それとも、迷子?」
頭の中が迷子になりそうだ。
「ここって、ドラッグは売っていないんですか?」
大男の目つきが一瞬変わった。
何かまずいことを言ってしまったのだろうか。
「この辺りって、ドラッグ屋さん多いからね。うちはハーブティー専門なのよ」
確かにショップの名前も『エンジェル・ハーブ』だ。
俺はハーブに詳しくないけど、ドラッグに加工する前のハーブをお茶として楽しむ人もいると聞いたことがある。
でも、俺がほしいのはエデンだ。
でも、この大男はドラッグが無いという。
一体どういうことだろう。
そういえば名乗ればもらえると、あっくんが言っていた。
よく考えれば、あっくんのような怪しい人間と付き合いがある店なら、誰にでもドラッグを売ってくれないのかもしれない。
紹介制というやつか。
「あの、俺はやっくんという者なんですが」
やっくんという単語を聞いて、大男が口元に手を当てた。
「あらやだ。早く言ってよ。君がやっくんなのね。危うく上客を追い返すところだったじゃないの」
その大男が満面の笑みを浮かべて、俺を店の奥へと案内した。
小さなガラステーブルについた俺に、ハーブティーを入れて持ってくる。
ミントの香りがした。
「はじめまして。私はアンジェラよ。今後ともご贔屓にしてね」
アンジェラはカウンターの奥へ行き、白い缶を持ってきた。
その中には、赤い球体が敷き詰められている。
俺はそれを見て安心した。
「聞いていると思うけど、お代はいただいているから持って帰っていいわよ。ハーブティーはサービスだから飲んで行ってね。リラックス効果があるわ」
ミントが香るお茶はとてもお美味しかった。
喉と鼻が通る感じがする。風邪を引いた時にいいかもしれない。
「君に会えるのを楽しみにしていたのよ。ここに来たら盛大におもてなしするように言われているから、ゆっくりしていってね」
アンジェラは見た目はいかついが、愛想がいい人だった。
でも、ゆっくりはしていられない。
これから天野と約束がある。
またあの高級マンションへ行って、裸にならなければならない。
その前に、エデンについてアンジェラからいろいろ聞き出さなければならないと思った。
俺の調べ方が悪いのか、エデンというドラッグはネット上では出てこなかったからだ。
「あの、エデンはもしかして違法ドラッグですか?」
俺が控えめにそう言うと、アンジェラが首を傾げた。
「例の彼から何も聞いていないのね。まあ彼って、口数多い方じゃないけど。知らないものをよく飲んでいられるわね」
「例の彼って、あっくんのことですか?」
俺の発言を聞き、アンジェラが大笑いし始める。
「あっくんって呼んでいるのね。彼のことを、そう呼べるのは世界中で君ぐらいよ」
そのニックネームが相当可笑しかったようで、アンジェラは涙を浮かべている。
「変ですか。あっくんの本名を知っていますか?」
アンジェラは腕組みをして、俺を見下ろしてくる。
「坊やは大切なお客だから忠告しておくけど、ああいう人物の正体を探ろうとしない方がいいわよ。知らない方がいいことは、この世界に多いの」
確かにあっくんはヤバい人物だ。
平気で人を銃で撃ち殺して、その辺に捨ててくるし。
そのあっくんとつながっているアンジェラも、ヤバい人ということだろうか。
俺はこんな所で呑気にお茶を飲んでいて大丈夫なのだろうか。
「エデンについてだったわね。違法ドラッグじゃないわよ一応。違法ドラッグをこんな大量に店に置いていたら、警察の抜き打ち検査でお終いよ」
エデンは違法ドラッグじゃなかったのか。
安心した。
「俺、これを毎日飲んでいるんです。飲まないと気分が落ち込んで学校に行けないくらいで。これってもしかして、中毒ですか?」
アンジェラはドラッグを売っているくらいだから、その辺の話にも詳しいはずだ。
「用法は守っているの?」
「はい。一日一錠ですよね」
「中毒の定義は難しいの。スマホだって中毒になる時代だし。用法を守りながら円滑に日常を送れれば特に問題は無いわ。どうしても心配なら、やっぱり病院に行くのがベストね」
病院になんか行きたくない。
用法はちゃんと守っている。
それで問題無いなら、このままでいいや。
「今日はエデンだけで大丈夫かしら。他に欲しいものを言ってくれれば、予約しておくわよ」
そういえば、あっくんもそんなことを言っていた。
あの時は死のうと思っていたけど、予定を変えたから今は死ねるドラッグも必要ないし。
「じゃあ、このお茶買います」
いつも俺のせいで疲れている叔父さんに買って帰ろう。
酒よりは体に良さそうだし。
「あら。ちょっと高いけど大丈夫かしら」
「五万で足りますか?」
「やだ。さすがにそこまでぼらないわよ。君、そんな大金使って平気なの?」
「最近バイトを始めたんで」
天野からの脅迫をバイトということにして気を紛らわせた。
こんな金、全て使ってしまおう。
「君って案外、図太く生きていきそうね。想像していた子と違うわ」
「想像って?」
「幸薄くて、すぐ死んじゃいそうだと思ってたわ」
アンジェラが口元に手を当てて笑っている。
「あっくんがそう言ってましたか?」
確かにあの時は死ぬことしか考えていなかったからな。
「例の彼はそんなこと言わないわ。君のことは噂で聞いて、私が勝手に妄想したの」
「噂って?」
「君、私達の業界でちょっとした有名人になっているから」
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