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第23章

リアの回顧録「最後まで魔女を信じた女」

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ハモネーの地方にある村でリアは生まれた。
物心つく頃には父親は家を出ており、母親との2人暮らしだった。
美しい母親とその容姿が似たリアは、村でも評判の美人親子として有名だった。
母親もリアも潜力が低かったが、潜力が低い者の立ち居振る舞いを母親から厳しく指導されたリアは問題を起こすこともなく多くの人から愛される少女だった。
空気を読み気を遣い、友人も多く異性からはかなりモテていた。
リアは10代半ばには村1番の美少女と評され、村1番の美男子と相思相愛になり恋人同士になっていた。
誰もが羨むカップルであり、よく2人は緑豊かな公園や湖でデートをした。

「リアはどの女優よりも可愛いよ」

そんな彼氏の甘い言葉を真に受け、いつしかリアは女優になることを夢見るようになる。
村に唯一存在する演劇学校に通い、お芝居の練習をするようになった。
リアは器量が良いだけでなく、演技力も高く、その学校で開催される発表会では主役を務めるまでになっていた。
講師からも、卒業後は都心部へ出て芸能事務所のオーディションを受けるように勧められる。

都心部に出れば彼と遠距離になってしまうことだけが悩みの種であり、それ以外では何の不満もない幸福な日々を送っていた。
そんな日々がある日突然崩される。

夕方、リアは母親と共に夕食の準備をしていた。
料理上手な母親から料理を教わる時間が、リアは大好きだった。
田舎の夕焼け空が広がり、虫の鳴き声のみ聞こえるとても静かな時間。
そんな空間を扉を蹴り破る轟音で世界は反転した。
一人の大男がリアの家に侵入して来た。
リアには何が起こったのか全く理解できず、手に持っていた野菜を床に落とした。
リアの母は瞬時にリアを自分の背中へ隠す。

「噂どおりの美人親子だな。たっぷり楽しめそうだ」

大男は下品な笑い声をあげる。
リアは母親の背中にしがみつき、恐怖で震えた。

「お金なら、向こうの棚の中にあります。それで勘弁してください」

リアの母親は冷静な声で、貯金を保管してある棚を指さした。
大男がニヤつきながら、棚の方へ視線を送った。
その一瞬の隙をつき、リアの母親はリアの手を強く引いて走った。

窓を破り、リアを抱えて外へ脱出する。
リアには世界が歪んで見え、今の状況が分からない。
ただ、強く手を引く母親に従った。
夕日が沈み、景色が闇に覆われていく。
先程の大男が追いかけてきているかもしれない。
けれど、恐怖のあまり振り返ることすらできなかった。

村にある警察署へ辿り着き、2人は保護された。
署内の明かりで照らされた母親は傷だらけになっていた。
窓から脱出する時に、リアを庇って負傷していた。
白く美しい肌に無数の切り傷ができ、美しいその頬も血で汚れている。
リアはそんな母を見て泣いた。
母親はリアを優しく抱きしめた。

リアの家を襲った強盗は、その日のうちに逮捕された。
リアの母親の対応が早かったからだった。
彼女は潜力が低く女手一つで娘を育てるために、日ごろから危機意識を強くもっていた。
万が一の為に、避難経路も確保していた。
リアはそんな美しく賢い母親を尊敬し感謝した。
けれど、その日からリアは眠れない日々を送る。

破壊された扉は修復され、部屋の片づけも終わっていた。
けれど、脆い家では例え鍵をかけていても潜力の前では藁の家と等しい。
自然が多く静かな地域だったが、夜になれば漆黒の闇に辺りは包まれてしまう。
他の家が隣接しているわけでもなく、また何かあれば走って人に助けを求めるしかない。
リアが愛していた美しい田舎は、力の弱い者にとっては危険な地域だったとリアは認識し始めた。
自分の母親が賢く行動力のある人物で無ければ、あの強盗から逃げられなかった。
金品を奪われるだけでなく、もっと酷いことをされていたかもしれない。
リアは自分の容姿が良いことを自覚していたが、今まで利点でしかないと思っていた自分の姿形が危険を呼び寄せる可能性があることを知った。
夜が来るのが怖くてたまらず、浅い睡眠を繰り返すようになった。

ある夜、リアがお手洗いに行くために夜中に起き出した。
暗い室内を心細く歩き、母親を起こそうか迷っていた時のこと。
洗面所から嗚咽する声が聞こえた。
リアが恐る恐る近づき、洗面所を覗き込むと母親が暗闇の中で吐いていた。
彼女の母もまた、眠れず精神を病んでいた。
今まで母親に守られていたリアは、その光景を目撃した日から意識を変える。
賢く美しい母親もいずれは老いていく。
これからは自分が母親を守らなければならない。

決意の日から、リアの夢物語は消え去り現実的な世界へと変わる。
大好きだった彼氏の潜力は平均よりやや低めであり、急激に熱が冷めていく。
リアを心配し様子を見に来た優しい彼氏に、突然別れを切り出した。
演劇学校も早々に退学した。
講師の制止は耳には入ってこなかった。
リアは愛と夢を全て切り捨てたのだった。

逮捕された強盗犯も、いずれは戻って来る。
狼がやって来るのが分かっているのに藁の家に住んでいるのは愚か者だ。
リアはセキュリティーが整った都心部の住宅へ引っ越す為に、日夜アルバイトに明け暮れた。
潜力が低い者は、安全をお金で買う必要があるとリアは悟った。
肌がボロボロになるのも構わず、寝ずにバイトをした結果相当の貯金ができた。
母を連れ、生まれ育った故郷を去った。

リアは都心部の最新セキュリティーが完備されたマンションを借りた。
家賃も高く母親は心配したがリアは譲らなかった。
そこで新しい生活を始める。
母と二人でメンタルクリニックに通い、精神を安定させていく。
心に余裕ができたリアは次に自分がすべきことを考えた。
セキュリティーが整ったマンションでも完全に安心はできなかった。
住んでいる人物は変わらず、潜力が弱い女二人だからだ。
家に潜力が強い人物を置きたいとリアは考えた。
その為には、潜力が強い誰かと自分自身が結婚してしまうのが早い。
リアは婚活を始めることにした。

ただ潜力が高いだけでは条件として当てはまらない。
自分と母親を捨てた父親のような人物では無く、正義感があり最後まで自分達を守ってくれる男性を探そうと決意した。
その条件に一番当てはまるのが、国家防衛管理局の戦闘課だった。
ハモネーのエリート集団というだけでなく、潜力がトップクラスだということがリアにとって魅力的だった。
戦闘課に近づくためには、同じく管理局に就職するのが最短ルートだと判断する。
編入した学校で猛勉強をしたリアは、管理局の事務課に応募した。

学生時代にエネミーパニックと戦闘課への誹謗中傷を映像放送で観ても、リアの決意は揺るがなかった。
エネミーに襲われた村人は皆殺しに合ったが、戦闘課は若干名だが生き残った。
やはり如何なる危険回避にも、潜力が必要だとリアには分かっていた。
襲われた地方都市は自分の生まれ育った田舎に近かったが、他人の心配をしている余裕はリアには無かった。

リアは事務課入社試験を無事突破した。
勉学の努力もしたが、生まれ持った容姿を最大限に磨き、かつて鍛えた演技力で面接を突破したのだった。
入社初日、事務課のフロアへ足を踏み入れ、新入社員としてリアは紹介される。
高倍率を突破してきた事務課の先輩女性社員は全員容姿端麗だった。
美しくプライドが高そうな彼女達と上手くやっていく腹積もりでいたリアだったが、一人の女性社員に釘付けになる。
リアの挨拶に対して微笑を浮かべながら拍手を送る、艶やかな黒髪の女性がいた。
かつて彼氏から言われた『どんな女優より可愛い』という表現を思い出す。
それはリアに対する表現よりも、その黒髪女性への表現として適している。
可愛いや美しいという言葉では表現しきれない程の美貌だとリアは感じた。
他の女性社員も美しいが対等でいられる自信がリアにはあった。
しかし、美しい黒髪と黒い瞳を持つダチュラという人物に出会った瞬間、リアは容姿では太刀打ちできないと思った。
リアは女優になりたいと夢見た時期があり、多くの芸能人を知っている。
その中でもダチュラは頭一つ出ている程美しい女性だった。
そして恐らく、事務課の女性社員の中で彼女がリーダー格であろうと判断する。
ダチュラに目を付けられないようにしなければならないとリアは行動に気を付けることにした。

ダチュラという人物がどのような女性なのか知る為に、リアはあえて自分から近づくことにした。

「初めましてダチュラ先輩。新入社員のリアです。ご迷惑かけると思いますが、宜しくお願いします」

リアは最大限の敬意を笑顔にこめた。

「こちらこそ宜しくお願いします。何か分からない事があれば、いつでも聞いてください」

ダチュラは微笑を浮かべる。
初めての二人の会話は、何の変哲も無い挨拶だった。
ダチュラはとても丁寧で優しい言葉遣いだったが、自分に対してあまり興味が無さそうだとリアは感じ取る。
ここまで美しい容姿の為、そこそこの美人が入社してきても動じないのだろうとリアは思い、敵対心を抱かれていないことを安心した。
けれど管理局の戦闘課に勤務する男性社員も、ダチュラを放っておくはずは無いだろうと思った。
人気が集中してしまうのは、リアにとって痛手だった。

そんなリアの心配は入社してすぐに払拭され始める。
ダチュラを気にしていたリアは彼女の行動を観察するようになっていた。
予想通りダチュラは戦闘課からよく声をかけられる。
けれどダチュラの態度はいつも素っ気無い。
そしてダチュラ自身も管理局でモテようとしている素振りも無く、淡々と仕事に打ち込んでいた。
管理局の事務課に入社する女性は、戦闘課との結婚目当てだと思っていたリアには腑に落ちなかった。
現に他の女性社員は、リアと同じような思考回路で、戦闘課に愛想を振りまいていた。
ダチュラという女性は容姿だけで無く、中身までも他とは違っていた。
ダチュラの行動理由は分からなかったが、リアはダチュラを利用しようと思いつく。
ダチュラに近づけば、ダチュラから振られた戦闘課と親密になることができるのではないかと考えたのだった。
リアは、最上級の美人のおこぼれを頂戴する算段をすることにした。

それからリアは迷惑にならない程度に、仕事やプライベートの事をダチュラに相談するようになる。
ダチュラは一人でランチに出かけている事を知り、リアはその時間ダチュラを誘い独占するようになった。
リアの思惑とは裏腹に、リアの悩み相談に対してダチュラは真剣に答えてくれていた。
仕事のミスも優しくカバーしてくれる。
1カ月経った頃には、リアはダチュラに対する警戒心は完全に無くなり、ただ利用しようと目論んでいた感情も変わり、すっかりダチュラの虜になっていた。
誰よりも美しく、賢く、優しいこんな完璧な女性がこの世に存在していることにただ感動していた。
入社前のリアは、管理局の事務課女性社員は足を引っ張り合うような陰険な職場だと予想していたが、全くそんなことは無かった。
職場で一番美しく仕事ができるダチュラという女性が、誰にでも優しく周囲に気を遣い男に媚びない為、他の社員の心も穏やかなのだろうとリアは感じた。

けれどもリアは目的を忘れたわけでは無かった。
戦闘課男性社員のリサーチを徹底し、エネミーパニックの生き残りでありエースの男に狙いを定めた。
時折、事務課フロアに訪れていたジェイドという男である。

事務課の主任と仕事の話をしている以外は、少しダチュラと軽く会話をする男だった。
事務課女性社員は誰でもジェイドを知っており、強くて勇敢だと噂していた。
倍率が高いが、エネミーパニックで生き残ったという事実がリアにとって魅力的だった。
何とか彼に近づけないかと思っている時に、思わぬチャンスが舞い込んでくる。
それが戦闘課新入社員のブライトが企画した合コンだった。
ブライトの教育係だったジェイドも参加するということを知り、リアはこのチャンスを逃すまいと一人闘志を燃やす。

合コン前にお店のパウダールームで事務課女性社員が待機している時、リアはジェイドを狙っている女性社員がどれくらいいるか事前に確認することにした。
1時間前から待機していたリアと違いダチュラはまだ来ていなかった。

「先輩方、誰か狙っている人はいますか? 私、ジェイドさんとお話してみたいんですけど、いいですか?」

リアはストレートにジェイド狙いだと伝えた。
他の先輩に文句を言われたら、作戦を練ろうと考えたのだった。

「ああ、ジェイドさんね。いいわよ」

リアの予想と反して、先輩達はジェイドをすぐに譲った。
リアが入社した当初は事務課の女性社員は皆ジェイドについて話しており、今でも一番人気だと思っていた。

「え、いいんですか? ジェイドさんってすごく人気だったんじゃないですか?」

先輩があまりにもあっさりと手を引いた為、リアは何か裏があるのでは無いかと不安になる。

「まあ、戦闘課エースだからね。でもあの人、色事にあまり興味無いかもよ」

「そうそう、何ていうか戦闘馬鹿って感じ」

「事務課に来ても、私達に目もくれず主任としか話さないもんね」

先輩達は化粧を整えながら思い思いの発言をしていた。
肉食系女子である事務課女性社員達は、早々にジェイドに接触していた。
そして自分達のアプローチにあまり反応しなかったジェイドを、すぐに狙いから外していたのだった。
彼女達にとっては戦闘課ならジェイドでなくとも誰でも良かった。

「でも、ダチュラ先輩とは良く話してますよね」

リアは控え目に聞いた。

「あの人は別格だからね。それに、あの2人は同期だし。恋愛感情というよりも、仲間意識みたいなものじゃない? エネミーパニックを乗り越えた者同士のね」

リアもダチュラ本人にジェイドとの仲を確認した時、かつてダチュラは口説かれた事があったが断ったと言っていた。
そして今は、管理局の仲間として仲が良いということなのだろうとリアは思った。
ジェイドを狙うライバルはいない為、遠慮はいらない。
リアはこの日の合コンにかけることにした。

合コンが始まるとリアはジェイドの真ん前の席に陣取り、ジェイドにひたすらお酌する。
戦闘課は自分の武勇伝を語るのが好きなはずだと、リアはエネミーの戦闘時などの話を振る。
それでもジェイドはあまり話に乗ってこない。
見た目と反して控え目な性格なのかとリアは勘違いし、合コン終了後もジェイドの後をついて行きエネミーの話を振ってしまった。

「ジェイドさんは本当にすごいですよね。エネミーパニックで他の戦闘課と違って、生き残ったんですから。おまけに新人だったんですよね? ジェイドさんがいれば、ハモネーも安泰ですね」

リアの誉め言葉に、ジェイドの表情が険しくなる。
ジェイドは立ち止まり、目を細めてリアを見た。

「君は平和ボケしすぎているから態度を改めた方がいい。エネミーを甘く見るな」

ジェイドは少し強い口調でそう言い、そのままリアを置いて去って行った。
リアは自分の作戦が失敗したことに気づいた。
けれど、同時に少し腹が立った。
リアにとってエネミーは自分が考えなければならない脅威では無い。
もっと小さな危険を回避することで精一杯だったからだ。
平和ボケなんてしていない、自分が管理局にいるのもジェイドを追いかけたのも身を守るためだったからだ。
リアは自分を落ち着かせ、冷静になる。
新しい作戦を練らなければならない。
その為には、ジェイドの同期であるダチュラに相談するのが早いだろうと考え、翌日ダチュラをランチに誘った。

ダチュラに相談をした後、もう一度ジェイドに接触するために機会を窺っていたがなかなかチャンスがやって来なかった。
ダチュラとランチに出かける頻度が高くなり、リアは愚痴を聞いてもらうことが多くなる。

「思っていたよりも、事務課と戦闘課の接点は無いですね」

ダチュラとよく行くカフェで、リアはココアを飲みながら呟いた。

「あら、この前リアちゃん戦闘課の男性から声をかけられていたじゃない」

向かいに座っているダチュラが優しく微笑む。

「ああ、そうでしたね。キープ中です。でも、ジェイドさんを諦められないんですよね」

「ジェイドさんの方がタイプ?」

「容姿はどうでもいいです。やっぱり潜力が重要なんです!」

リアは語気を強めた。

「それって愛なの?」

ダチュラは肩をすくめた。

「愛で安全は守られません。ハモネーは潜力が全てです。先輩は怖くありませんか? そんなに綺麗なら、危ない目にも合いやすいんじゃ」

「もう何かが怖いって感情が無くなったわ。年かしら」

「またまた! 私とそんなに変わらないじゃないですか」

リアは無邪気に笑った。

「先輩は他の人と違って、男目当てで入社したんじゃ無いんですね。どうして、管理局の事務課にいるんですか? 私だったら女優になってますよ。絶対に売れます!」

「国を守るためよ」

そう答えたダチュラの瞳を、リアは見つめる。

「先輩って、女神様?」

ダチュラはゆっくりと首を振った。

「先輩って他の人と違う。先輩みたいな人に会ったこと無いです。何かあだ名とかありました? 女神とか女王とか姫とか呼ばれてたでしょ」

ダチュラの眉は垂れた。
少し俯く。

「魔女……」

「魔女?」

「そう。酷いでしょ」

「なるほど!」

リアの声が弾んだことにダチュラは驚いて顔を上げる。

「そっちか! 先輩って人間を超越した美しさですもんね。その瞳の奥に隠された、妖艶さとか女神より魔女の方が合ってるかも」

ダチュラは少し驚いているようだった。

「魔女ってあまり良い意味じゃ無いわよ」

「そうですかね。賢くて美しい女性の事じゃないんですか? 正に先輩のことじゃないですか。誰かに媚びず闘う女性。いいな~。私も生まれ変わったらそうなりたいです」

リアは微笑みながらサンドイッチを口に運んだ。
ダチュラはそんなリアの様子を見て、少しだけ微笑んでいた。

それから暫くして、リアに再度チャンスが訪れる。
ダチュラからジェイドが参加する飲み会に誘われた。
ダチュラは昇進し、戦闘課との戦略会議に参加するようになった。
そのお陰でダチュラは今まで以上に戦闘課との接点ができ、それはリアにとってメリットが大いにあった。
ジェイドがリアに強い口調で説教をしてしまったことを気にしていたとダチュラから聞き、リアは有頂天になっていた。
何故か自分が苦手としていた事務課の主任が参加することには引っかかっていたが、リアは今度こそジェイドに良い印象を与えようと決意する。

店に案内されジェイドの前に座ったリアは、日頃から練習していた上目遣いでジェイドに謝る。
ジェイドからも謝罪の言葉をもらったが、やはりジェイドは自分にそこまで感心を寄せてこない。
事務課の先輩達が早々と手を引いた理由がなんとなく分かった気がした。
さらにジェイドが戦闘課の女性社員を呼んでいたことがリアにとってショックだった。
現れたのはリアとは全くタイプの違った女性。
身なりに気を遣うという概念が無いような出で立ちだった。
リアが詮索するとジェイドとブライトそして現れたトリンという女性でよくつるんでいるという。
ジェイドのタイプは煌びやかな事務課女性社員では無いのではと不安になった。
しかし観察していると、トリンの視線は終始事務課主任であるルチルに向いている。
トリンは顔を赤らめ、それは正に恋する乙女だった。
ダチュラがリアに目配せをし、完全に理解した。
ジェイドとトリンが恋仲では無いことに安心をしたものの、暗い性格で何を考えているか分からないルチルという男性に惹かれている女性がいることにただただ驚いた。

リアはルチルが苦手だった。
仕事以外で接触は無かったものの、リアに対する目線が他の男性と違ったからだった。
大抵の男性は、リアには下心含めて好意的な目線を送ってくる。
しかし、ルチルは無機質な表情を崩さず冷徹な瞳のままだった。
そこから感情を読み取ることがリアにはできない。
その視線が少し怖かった。
ダチュラ程の美女に対しても同じ対応をする為、リアにとっては扱いに困る男性だった。
けれどもトリンに対する見た目の評価をルチルが口にした時、リアが抱いていた恐怖心は少しだけ無くなる。
怖い人というわけでは無く、感情が薄い人物なのだろうと感じた。

トリンからルチルの為に身なりを女性らしくしたいと相談された時、リアにとっては堅物なルチルが少しでも柔らかくなれば自分も仕事がしやすくなると考えた。
そして、ジェイドとの仲をトリンに取り持ってもらう約束まででき、リアは自分の思惑が順調に運んでいることを喜ぶ。

トリンの服装やヘアメイクを変えていくことは、リアにとって単純に楽しいものだった。
今までは自分の為だけにファッションのスキルを使っていたが、誰かの為に尽力する自分が久しぶりに誇らしいと感じていた。
そのまま明るい気持ちで帰宅できれば良かったのだが、ガラの悪い男達にナンパされることになる。
ナンパには慣れていたが、相手は酔っぱらているようで強い力でリアの手首を掴む。
リアは恐怖したが、心情を悟られないように相手を強く睨む。
男に弱気な態度を取ることはできない。
潜力が低いことがバレてしまう。
リアが必死に抵抗していると、トリンが男の一人を背負い投げしてしまった。
リアの手を掴んでいる男性の意識がトリンに移り、トリンに目掛けて拳を振るう。
リアは思わず目を覆ったが、トリンは易々と男の拳を片手で受け止めてしまった。
トリンがナンパ男を撃退した後、リアは潜力が高い者への憧れを強くした。

翌日、トリンがリアとダチュラが選んだ服装で事務課のフロアを訪ねて来た。
リアは心の底からトリンを愛らしい女性だと感じた。
同じ女性として、一途な恋心を応援したいとも思った。
気が利くダチュラは、ルチルと一緒に飲むようにコーヒーを淹れて来る。
トリンが休憩室へ向かった後、リアはダチュラの隣の席に腰掛けた。

「先輩って本当に気配りができますよね。本当の本当に尊敬します」

「ちょっと盛っておいたわ」

ダチュラが妖艶に微笑んだ。
リアが真顔で驚く。

「何をですか! まさか媚薬ですか?」

ダチュラが呆れたように目を細めた。

「お酒よ。給湯室に隠し持っている社員がいてね、ちょっとだけ拝借したわ」

「嘘! コーヒーに混ぜたんですか? 大丈夫ですかね」

リアはさすがに焦る。

「微量よ。それくらいしないと、あのルチル主任と進展なんて望めないもの。ただのブラックコーヒーじゃ、話が弾まないまま休憩時間が終わるのが目に見えるわ」

リアは目を輝かせて、胸の前で手を組んだ。

「さすが先輩! やることが違いますね」

リアは初めてルチルが戻ってくるのを心待ちにしていた。
ルチルの休憩は短く、すぐに事務課フロアへと戻ってくる。
ルチルの表情に変化は見られなかった。

「主任、報告書の記入終わりました」

「ご苦労様です」

リアは自分からルチルに声をかけ、報告書を渡す。
ルチルが報告書を受け取ろうとしたが、リアは離さない。
ルチルは怪訝な表情でリアの顔を見た。

「主任、トリンさんと会いましたか?」

ルチルの顔を覗き込んでも、やはり感情は読み取れない。
少なくとも、明るい雰囲気では無い。
リアは自分やトリンの思惑が上手くいったのか気になって仕方がなかった。

「はい」

ルチルの返答は短く、リアはイライラする。

「どうでした?」

「どう、とは?」

ルチルとリアはどうも会話がスムーズにいかない。

「トリンさん、いつもと違いませんでしたか? 服装とか」

「そうですね。戦闘課の皆さんと、何か特別な集まりがあるのかもしれません」

ルチルの発言にリアは愕然とする。
ルチルにはトリンの意図が全く伝わっていなかった。

「似合ってましたよね!」

「……はい」

「ちゃんと言ってあげましたか?」

「いえ」

「そういう事は、相手に伝えた方が良いですよ!」

「僕はそう思いません」

ルチルはきっぱりと否定した。
リアは面食らう。

「相手の容姿や服装に対し、管理局の規定に反しない以上何か発言することは危険です。似合う似合わないなどという表現は、セクシュアルハラスメントに該当します。リアさんも被害に合われた場合は、相談窓口をご利用ください」

ルチルはそう言い、報告書を持って自分のデスクへと帰って行った。
リアはダチュラの近くに小走りで向かう。

「聞きましたか、あの堅物発言! 次回は倍の量いや、カップ全部酒にしましょう!」

「……バレちゃうわ」

ダチュラは苦笑いを浮かべた。

「もう、このままじゃトリンさん成就できませんよ。先輩ならどうやって主任を落としますか? 参考までに」

「脅すしか無いんじゃない?」

「先輩面白いこと言いますね。本当にそれしか無いかも」

リアは笑った。

「冗談よ。時間をかけるしか無いわね」

「時間かかり過ぎそうです」

「恋愛は本人達次第だもの。ルチル主任が永遠に心を開かないもしくは、トリンさんの熱が冷める可能性もあるものね。感情に振り回される人間の業よ」

リアにも思い当たることがあった。
かつて好きだった彼氏への熱は、潜力が低いという理由で一瞬にして冷めてしまった。

「先輩って理性的ですけど、大恋愛とかしたことあります? 感情に身を任せることなんてあるんですか?」

「大昔は酷かったわ」

「また、そうやって昔話みたいな。今は誰かにときめいたりしないんですか?」

「私はね、もう干からびてしまっているのよ。身も心もね」

干からびているという表現が世界一似合わないとリアは思った。
圧倒的に美しいその横顔はどこか寂しそうだった。

「リアちゃんは?」

ダチュラがリアに振り向く。

「え?」

「ときめいてる?」

ダチュラが優しく微笑みかける。
間近に見るダチュラの美しい顔にときめきかけているリアがいた。
そして、リアは自分がかつて彼氏を振って以来恋愛をしていないことに気づく。

「もう、甘酸っぱい夢を見る時代は終わりましたから」

「リアちゃんだって、私のことは言えないじゃない。恋じゃなくても、仕事にときめきを感じる?」

リアは首を横に振る。
リアにとって事務課の仕事にやりがいは無い。
これは婚活のための手段だったからだ。

「リアちゃんこそ、思うままに生きてみても良いのではないかしら」

ダチュラの言葉はリアの胸に響いたが、今更何をすべきかなんて分からなかった。

後日リアは、トリンとランチをしながらルチルとジェイドの情報交換をした。
行きつけのカフェに入る。
ジェイドの情報も知りたかったが、何よりトリンの恋愛の方に興味を持ち始めていた。

「ジェイド先輩に言われたのですが、イメチェン対決はルチルさんの勝ちだったと。私は全身コーデをしたのに、ルチルさんの前髪に敵いませんでした。すみません」

トリンの発言から、ジェイドは思ったことをすぐに口にする考えようによっては失礼な人物だとリアは思った。
ルチルがあれほどセクハラに気を遣っているにも関わらず、ジェイドは訴えられても仕方ないような発言ばかりしている。
ただし、国家防衛管理局でジェイドを告発しようなんていう人物はいないだろうとも思った。

「私の事、ジェイドさんは何も言ってませんよね」

リアの質問に、トリンは申し訳なさそうに頷く。

「やっぱり他の先輩方に習って、ジェイドさんは諦めようかな。早くしないとキープしている人も誰かに取られるかもしれないし」

リアのぼやきにトリンは目を丸くする。

「えっ、リアさんはジェイド先輩の事が好きだったんじゃ無いんですか?」

「好きですよ強いし。でも、私の目的は恋愛じゃなくて結婚なんです」

「恋愛と結婚って違うんですか?」

「同じだという人もいますけど、私は違うんです。私は選べない立場なので」

トリンは意味が分からないという表情をする。

「リアさんはとてもお綺麗ですし、選べないわけが無いかと」

「好きになる人と、結婚したい人が同じだとは限らないんです。だんだん面倒くさくなってきちゃって。戦闘課なら誰でもいいかも」

リアは目を瞑ってケーキを口に運ぶ。

「そ、そんな勿体ないですよ。もし、ジェイド先輩の事が好きなら、私は最大限応援します。ジェイド先輩は、いい人ですよ。リアさんには、好きな人と結ばれてほしいです」

リアは正直、ジェイドの事を恋愛感情として見ているか判断がつかなかった。
けれど、トリンの言葉は嬉しかった。
むしろ、真っすぐで優しいトリンには恋を成就してほしいと願った。

堅物なルチルをトリンが落とすのは難しいと判断したリアは、その日からトリンの代わりに恋愛マニュアルを探し、トリンの現状にピッタリな物を見つけて渡した。
トリンを通して自分が疑似恋愛をしている感覚になる。
トリンはジェイドとリアをくっつけようと、毎回決まって飲み会に誘ってくれる。
リアとトリンのそんなやり取りを知ったのか、時々ブライトもリアにダチュラの情報を求めてくるようになった。
トリンとブライトはとても恋愛に対してピュアで、リアが失ってしまった恋愛感情を補足してくれているようだった。
食事や飲み会に行く頻度が高くなり、リアは当初の目的を喪失し始める。
自分の為にジェイドと近づこうとしていたが、トリンとブライトの恋愛を応援するようになっていた。
正直ダチュラが異質すぎてブライトにはあまり見込みを感じていなかったが、トリンはもしかしたら上手くいくのではないかとリアは思っていた。
頻繁に集まりに行く度に、ルチルという男はダチュラよりも人間味があると思えるようになってきたからだった。
けれど、ジェイドは酔っぱらうとルチルに絡み始め完全に邪魔者になっていた。
リアはジェイドの人間性は好きだったが、この行為はさすがに呆れていた。

「もういっそのこと、あの2人でくっついてしまえばいいわ」

飲み会から帰宅している最中、リアは愚痴をこぼした。
前を歩くジェイドは酔っ払い、ルチルの肩に支えられながら千鳥足になっている。
ダチュラはジェイドのために水を買いに行ってしまっていた。

「そ、それは困ります! リアさんだって困るでしょ?」

リアの発言を聞き、トリンは狼狽える。

「もういいです。他をあたります」

リアが項垂れる。

「リアさんって案外冷めてるんですね。僕だってダチュラさんに全く相手にされてませんが、諦められないですよ」

ブライトがリアの顔を覗き込んで言った。

「ブライトさんとトリンさんとは違うんです。私は死活問題なんです。私は弱いから。私と母を危険から守ってくれる人を早く探したいんです。それなら誰でもいい」

酔っていることもあり、リアは暴露した。

「友達じゃないですか。そういうことなら早く言ってくださいよ。僕達がいつでも助けに行きますよ」

「そうですよ! 私の力使ってください」

リアは少し嬉しかった。
婚活は上手くいっていないが、友情が生まれた。

そこへ、水を買っていたダチュラが駆け足で戻ってくる。

「あら、リアちゃん良い事あったの?」

ダチュラがリアの表情に気づき尋ねる。

「私が危なくなったら、トリンさんとブライトさんが助けに来てくれるって」

「まあ、素敵」

そう言ってダチュラはジェイドへ水を手渡しに行く。

「ねえ、ジェイドさん。リアちゃんが悪い人に襲われていたらどうします?」

「はあ? そんなもん俺がぶっ飛ばすに決まってるだろ。社会復帰不可能なまでにな」

ジェイドはリアへ振り向き水を飲み干した。
ダチュラがリアに微笑みかける。
少し乱暴でも、そんなジェイドの言葉がリアには嬉しい。
そして、リアを思いやりジェイドに話を振ったダチュラという先輩をリアは心から慕った。

「リアさん、ストーカー被害に合われているのですか? それなら、良い相談窓口や支援団体をご紹介しますが」

ルチルは振り返りはしなかったが、リアが何か被害に合っているのか尋ねる。

「ご心配無用です。今のところ大丈夫ですよ」

リアはルチルが良い上司だったのだと最近分かって来た。

「管理局って社員のプライベートの被害まで支援する制度まであるのか? 知らなかったぜ」

ジェイドは感心するように呟いた。

「いえ、僕個人的に利用している団体です」

「はっ?」

ジェイドは目をひん剥いてルチルを見た。

「ルチルさん、ストーカー被害に合ったことあるんですか?」

トリンが驚き大声を上げる。

「ハモネーは、潜力が低い者には生きづらい国です。能力値が低いと分かれば、良からぬ事を考える輩は存在します。僕達のように潜力が低い者は、第三者に助けを乞うしか手段がありませんから」

リアはルチルの言葉に共感した。

「主任! やっぱり、その団体教えてください」

「分かりました。費用や用途までさまざまなので、明日までにリストアップしておきます」

ルチルは仕事が早くそして正確だということをリアも分かっている。
ルチルのリストは完璧に違いない。
費用面も配慮してくれるのはリアにとってありがたかった。

「なんだよ、お前ら。水臭いな」

ジェイドはルチルの肩から腕をはずし、振り返って腰に手をあてた。

「そんな団体なんかより、俺を頼れよな。いつでもどこでも駆けつけるから」

「そんなわけにいきません」

ジェイドの善意をルチルが一刀両断する。

「365日24時間、他者に構うのは不可能です。責任を取ることもできません。家族ですら常に気を張っていては精神に支障をきたします。こういう問題は、プロに頼むのが一番です」

ルチルの真っ当な意見に、ジェイドは言葉に詰まる。

「だ、だけどよ……」

「お気持ちだけで結構です」

ジェイドは観念したように頭を掻いた。

「分かったよ、俺が甘かった。でもな、ルチル、リア、ダチュラ、困ったことがあったら頼ってくれ。できる限り力になるから」

「は~い! ジェイドさん、頼りにしてますからね」

リアはいつもの調子で答えたが、内心は穏やかではなかった。
ルチルの言葉で思い知った。
例え潜力が高い人物と結婚し、同居できたとしても四六時中自分や母親を守ってくれるわけではないということを。
相手が仕事やその他の用事で外出している時はどうすれば良いのか。
自分が外出する時はついて来てもらうのか。
そうすれば、結局母を一人残してしまうのは今と変わらない。

翌日、ルチルは約束通り団体とコースをまとめたリストをリアへ渡した。
ルチルらしく簡潔にまとめられており、とても分かりやすい資料だった。
資料自体に不満は無かったが、費用面とセキュリティ面ではどれも帯に短したすきに長しといった具合だった。
他者を助ける団体とはいえ、結局はビジネスだった。

「主任はどれを利用してますか?」

「僕はこちらを利用させてもらっています」

ルチルが指さしたコースは一番高額だった。

「え! 主任、やっぱりお金持ちですね」

「こう見えて、貯金はほぼありません」

真顔で答えるルチルにリアは笑いそうになったが、リアも人の事を言えなかった。
リア自身も給与の大半を家賃に奪われているからだ。
ルチルの場合は身の回りを守るためにお金を使ってはいるが、住んでいる家はセキュリティーが低く質素な暮らしをしている。

「主任もいろいろあったんですね。もしかして、その前髪はカムフラージュですか? 変な人に目を付けられないように」

「あまり意図してませんでしたが、そうかもしれませんね。あまり髪型を整えすぎていると、高所得者だと思われそうですし」

「それだとマズイんですか?」

「入社してすぐ、僕が管理局に勤めていると情報が漏れて、恐喝されかかったことがあります。管理局は所得が高く、事務課なら潜力が低い可能性が高いので格好の標的になりますからね。都心部なら安全だと思っていたのですが、考えが甘かったと痛感しました」

ルチルがセキュリティ団体の高額コースを選んでいる理由が分かった。
そして、リア自身怖くなってきた。
ルチルと同じコースにしたいところだが、家賃との兼ね合いで金銭的負担が尋常では無かった。
リアが悩んでいる様子をルチルは観察する。

「まあ、当時僕は遅くまで仕事をして帰りが遅かったのも原因だったかと。自宅も人通りが少ない場所だった為、狙われやすかったのでしょう。そこまで深刻に悩まなくて宜しいと思います。お手軽なコースを試してみてはいかがですか?」

「ありがとうございます。検討してみます」

自分を気遣ってくれたルチルに頭を下げ、リアは自分のデスクに戻る。
仕事中のダチュラにルチルから貰ったリストを見せた。

「先輩も申し込みませんか?」

「私はいいわ」

ダチュラは短く答えた。

「先輩こそ何か加入した方が良くないですか?」

「私は大丈夫よ」

考える間もなくダチュラは拒否した。

「先輩ってもしかして、潜力そんなに低く無いんですか?」

「いいえ。リアちゃんより低いわよきっと」

リアには意味が分からなかった。
ダチュラはかなり目立つ。良い意味でも、悪い意味でも。
変な虫が寄ってくることもあるだろう。
こんなに美しい女性が、潜力が低く守ってくれる者も存在しなければ、それこそ格好の餌食となってしまうのでは無いか。

「先輩! もう少し、自分を大切にしなくちゃダメですよ」

ダチュラは微笑んだ。
とても困ったように微笑んでいた。
リアは常に自分を優先して生きて来たが、ダチュラのことを本気で心配していた。

しかし、ある日いつものメンバーで飲み会から帰宅した時、突然現れたクリスドールと夜の街に消えていったダチュラを眺めて安心した。
純白の英雄であるクリスドールと親密な関係だった為、ダチュラは恋愛にも自分の安全にも無頓着でいられたのだろうと勝手に判断した。
リアはそう思いたかったのだった。
自分にクリスドールとの関係を秘密にしていたことを少し寂しく思っていたが、それでもダチュラに素晴らしいパートナーがいたことをリアは嬉しく思っていた。

そんな安心も束の間、翌日にジェイドがエネミー討伐中に負傷し緊急搬送されたと知らせを受ける。
仕事を片手間に終わらせ、ダチュラと共に病院へ向かう。
ジェイドの手術中、リアは感情的に泣いてしまった。
想い人の負傷というよりは、自分を助けてくれると言っていた良き友人が重症を負ったことが辛かった。
自分の目が腫れていくのをよそに、隣に座っているダチュラは涙一滴流さない。
とても毅然とした態度で、ジェイドの手術が終わるのを待っている。
自分と違いダチュラはいつでも強い心を持っているとリアは思っていた。

ジェイドの手術は成功し、口もきけた。
その様子が嬉しく、リアは再び泣いてしまう。
今度はトリンやブライトですら泣いていた。
途中から入って来たルチルは泣きはしなかったが、いつもよりもかなり感情的になっていることがリアには分かった。
それでも尚、ダチュラは同じ表情を貼りつけている。
ダチュラが冷静すぎてリアには不思議だった。

「はい、リアちゃん。これで目の腫れが治まるわよ」

病院からの帰宅途中で、ダチュラはわざわざリアの為に目元用のパックを買ってきてくれた。
ジェイドの生死がかかっている時はダチュラの感情が分からなかったが、リアに対する行いは思いやりが詰まっていた。
ダチュラはただ冷静だったに違いないとリアは思うことにした。
自分達が泣いている中、1人冷静に強くあろうとしたのだろうとリアは考えた。

その後はジェイドのお見舞いに何度かダチュラを誘ったが、全て断られてしまった。
名目上はジェイドとより親密になるように、ダチュラが遠慮している形だった。
けれど、どこかダチュラはあの日以来ジェイドを避けているようにリアは感じていた。

理由は分からなかったが、ダチュラにも何か思うことがあるのだろうとリアは考え、トリンと一緒にお見舞いに行く頻度が高くなった。
そして遂に、トリンからルチルに告白する決意を告げられる。

「服装のアドバイスをお願いします!」

とても純粋で真っ直ぐに相手の事を思うトリンを、リアは羨ましく思いながら全力で応援したいと思った。
リアは無条件に誰かを好きになれなくなっていることを自覚していた。
自分が恋をしているのは人ではなく潜力だった。
だからこそ、自分の代わりにトリンには好きになった人と上手くいってほしいと思った。

「ずばり、真っ白なワンピースですよ! 男は結局、そういうのに弱いんです」

「ルチルさんもでしょうか?」

「ああいう堅物タイプこそですよ。シンプルイズベストです。告白もストレートに伝えるのがいいです」

「わ、分かりました! いつもありがとうございます」

こうしてトリンの告白作戦はスタートした。
リアはわざわざ告白前日に、トリンと予行練習までした。
ルチルがどう反応するかリアにも確実には分からなかったが、まずはトリンの気持ちを知ってもらうところから始める必要があると思った。
正直トリンが告白してすぐにルチルが了承するとは思えなかったが、その後は全力でフォローし絶対にルチルとトリンをくっつけてやるとリアは意気込んでいた。
その日、まさか最悪な知らせを聞くことになるとは思いもよらなかった。

トリンが告白する当日、リアは仕事も手に着かずまるで自分の事のようにそわそわしていた。
ルチルを時々観察し、トリンと入れ違いにならないように気を配る。
そこへ、慌ただしく一人の女性が事務課フロアへ飛び込んできた。
彼女はリアの先輩で、丁度受付業務をしているはずだった。
血相をかいてルチルのもとに駆けていく姿を見て、リアに嫌な予感が襲う。
恐らく外部の客人が受付にやって来て、何か問題が起きたか緊急の知らせでも飛び込んで来たのだろうとリアは思った。
ルチルの数少ない昼休みが再び奪われてしまえば、トリンの告白は延期になってしまう。
その時まで、リアは起きた問題よりもトリンの心配をしていた。

「主任! 大変です!」

「どうしましたか?」

受付嬢の女性は若干取り乱し、フロア中に聞こえるくらいの大声でルチルに助けを求めた。
他の社員も何事かと様子を窺っている。
ルチルは冷静な対応をしていたが、彼女の様子から尋常じゃない事態が起きていることを悟っていた。

「戦闘課のブライトさんが、亡くなったようです」

リアはその言葉を聞いてから、急に耳が聞こえなくなった。
聞き間違いだと思いたかったのだろう。
その後、先輩受付嬢がルチルに説明している内容を聞くことを拒否したのだった。
ルチルは落ち着いて彼女の言葉に耳を傾けていた。
けれど、ルチルの微かな同様がリアの目には写っていた。
さすがのルチルも、何度も食事に出かけたブライトが死んだらショックを受けるのだろうとリアは他人事のように見ていた。
それ程に、リアは混乱していた。

話を聞き終えたルチルは、足早にフロアから出ていく。
リアには情景がまるでスローモーションのようになっているように見えた。
ルチルのゆったりとした動きの中で、一瞬ダチュラの方を見つめてすぐに目を逸らす。
リアもつられてダチュラを見たが、彼女はいつもと同様美しい表情のまま俯いていた。
ルチルが何故ダチュラを見たのか、それはブライトがダチュラに好意を持っていたことを知っているからだろうとリアは思った。
宙を見つめていたリアだったが、ダチュラが急に立ち上がったのを目にとらえて我に返る。
スローモーションだった世界が、正常に戻っていく。
リアもつられて立ち上がり、ダチュラの行方を追った。
廊下でトリンがぶちまけたコーヒーを片付けているダチュラを眺めた。
リアはダチュラを手伝うことすらできず、ただ棒立ちになっていた。
白いワンピースをコーヒーで汚したトリンが駆けて行くのを黙って見ていた。
なぜ、こんな日にこんなことが。
リアはそれだけ思った。

その日からリアは足早に帰宅する。
人通りが多く、明るい道でも彼女にとっては恐ろしかった。
あの強いブライトが殺されてしまった。
それも人通りが多い場所で遺体が見つかった。
リアは俯きながら一目散に自宅へ逃げ帰る。
すれ違う人々全てが信用できない。
家に帰ってもまだ安心できない。
再び眠れない日々が再発してしまった。
そんな毎日を過ごし、ブライトの葬儀の日になる。

最後にブライトにお別れを言うことは許されなかった。
ブライトの棺が埋められるのを目の当たりにし、リアにようやく悲しいという感情が生まれた。
その日までリアは恐怖心で支配されていた。
けれど、ブライトは紛れもない大切な友人だった。
リアと恋愛について話、危険から守ってくれるとも約束してくれた。
リアは涙を止めることができず、泣きはらす。
けれど、隣に静かに佇むダチュラの横顔を盗み見することは忘れなかった。
ダチュラはいつもどおり、美しい表情のままだった。
涙で顔をめちゃくちゃにしているリアとは違う。
けれどリアには、ダチュラが少し悲しんでいるように感じていた。
こんな時くらい、目を腫らして泣いても良いのに何故この先輩はそれを拒否するのかリアには分からなかった。
以前ダチュラは、自分が干からびてしまっていると言っていた。
本当にそうなのかもしれないとリアは思った。
涙が枯れる程の何かがダチュラにはあったのだろうと。

ブライトの葬儀が終わり、参列者は散っていく。
リアに再び恐怖心が襲う。
その様子が分かったのか、ルチルはトリンを付き添いにしてリアに帰宅するように促す。
リアは心の中で、ルチルに感謝した。
トリンにリアの自宅へ送ってもらう道中、二人は無言だった。
けれど自宅に近づいた瞬間、リアはトリンの手を握りしめた。

「お願いトリンさん! しばらく家に泊まってください。お金払いますから」

リアはもうか弱い母親と二人で、家に籠ることが耐えられなかった。
トリンにとっては、大切な後輩の葬式の後であり、こんなお願いをしている自分は自己中心的で酷いと分かっていた。
けれど、自分と母親の命を最優先にしたいと本能が叫んだ。

「えっ! お金? そんなのいらないですよ。友達なんですから」

トリンはリアが友人を失った悲しみで、誰かと一緒にいたいのだろうと思った。
トリン自身、1人暮らしの自宅に帰るのは気が滅入る思いだった。

リアの自宅はハモネーの都心部の中でも、高級なマンションだった。
セキュリティーは万全で、侵入者がいればすぐに警備会社に連絡がいく。
家賃はもちろん高額だった。
リアは自宅の部屋に入るとすぐに、母親のもとへ走って行った。

「おかえりなさい。大丈夫なの?」

最近娘の様子がおかしかったことを気にしていたリアの母親は、リアをすぐに抱きしめた。

「戦闘課で一番潜力が強い人がしばらく泊まってくれるって」

リアの母親はトリンを見つけ、会釈する。
トリンはリアの様子に戸惑いながら、頭を下げた。
リアの母親は娘に寝室で休むように促し、トリンにソファーへ腰掛けるように勧める。

「娘が無理を言って申し訳ございません」

リアの母親は、トリンに紅茶を淹れながら謝った。

「いえいえ。こちらこそお邪魔してすみません。私も今日は、一人でいたくありませんでしたので、リアさんに誘ってもらって嬉しかったです」

トリンは紅茶をすする。
トリンの実家で飲んでいたお茶と違い、とても上品な味わいだった。
美しいリアの母親にとても似合うとトリンは思った。

「リアさん、相当ショックだったようですね。大丈夫でしょうか」

トリンの問にリアの母親は困ったように微笑む。

「戦闘課の友人が亡くなったと聞きました。トリンさんの方が辛いのではないですか?」

「私の後輩でした。とてもよくできた。正直辛いです。リアさんともよくご飯に行って、仲良しで……」

トリンはおさまっていた涙が再び流れ始め慌てる。
リアの母親はトリンの隣に座り、背中をさすった。
トリンは優しい自分の母を思い出し、少しホームシックになる。

「リアも悲しんでいます。けれど、あの子の症状は恐怖なんです。もしかしたら、また通院することになるかもしれません。それでも、あの子と仲良くしてもらえたら嬉しいです」

「通院?」

トリンはわけが分からず、リアの母親の顔を見つめる。
その愛らしい瞳は、リアに受け継がれていた。
リアの母親は、自分と娘がかつて強盗被害に合いそれからしばらく通院していたことを簡単に説明した。
今住んでいるこの自宅も、そんな体験から娘が無理をして借りていることも話した。
トリンはその話を聞き、以前ルチルとリアが潜力が低い者を保護する団体について話していたことを思い出す。
トリンは、潜力が低い者の恐怖をしっかり理解できていないことに気づいた。

「犯人が見つかるまで、こちらにお世話になって宜しいでしょうか? リアさんの送り迎えもします!」

「いえ、それは悪いです」

「死んだ後輩とも約束したんです。リアさんに危険が迫ったら助けるって。やらせてください!」

トリンは頭を下げた。
リアの母親は、自分の娘に良い友人ができたことにほっとしていた。
そして、しばらくトリンはリアの自宅に居候することになった。

リアの母親は料理が得意だったが、大食漢のトリンには足りない。
トリンは、大量の料理を作らせるのは悪いと感じ出前を頼むことにした。
当初、出前を頼むという行為すらリアが怖がっていた事にトリンは驚く。
赤の他人を家に呼ぶという行為が、リアには不安だった。
トリンがリアを守ると約束し、頻繁に出前を頼むようになる。
リアも少しずつ慣れていき、母親の作った食事と一緒に食べるようになった。

リアはトリンのお陰もあり、少しずつ安心し、平常心を取り戻していく。
心が安定すると共に、他人を気にする余裕も生まれた。
職場には出勤していたリアだったが、ブライトの葬儀以来ダチュラと仕事以外で会話をしていない。
リアはダチュラの様子を窺ったが、一見いつもと変わらず美しかった。
けれど、疲労困憊している様子であり気持ちも沈んでいるようにリアは感じ取る。
やはりブライトのことで、落ち込んでいたのだろうとリアは思った。
自分はトリンと一緒に過ごし、悲しみを分かち合えた。
けれどダチュラは一人になってしまっていた。
クリスドールが傍にいたかもしれないが、ブライトと面識がある者と一緒だった方が良かったかもしれない。
リアはダチュラも自宅に招けば良かったと後悔した。
頃合いを見て、また少しずつ皆で出かけられれば良いと思っていた。
しかし、その機会は永遠に訪れることは無かった。

リアは気持ちを落ち着かせ、トリンと共に久々にジェイドの病室へと訪れる。
ブライトの死はジェイドが一番辛いのでは無いかとリアは思っていた。
あの屈強なジェイドも泣いていたが、やはり彼の精神力は強く、病室で共に黙祷する。
今まで自分の心配ばかりしていたリアだったが、この時はブライトを想い冥福を祈った。
とても静かな空間を、ルチルが入室してくることで破られた。

それからは早回しのような展開で、ルチルがブライトを殺した犯人がダチュラだと言う。
リアはダチュラのことが好きだった。
信頼もしていた。
そんな彼女を悪者のように言うルチルを許せず、頭に血が昇る。
ルチルを引っぱたき、その発言を撤回してほしかった。
けれど、用意周到なルチルは完璧な証拠を残していた。
リアには何の証拠も無く、ただの感情しか無い。
反論する武器が無いリアは、崩れ落ちるしかなかった。
ジェイドもトリンもルチルの味方で、ダチュラの味方はしてくれない。
リアもルチルを信頼していないわけでは無かったが、ダチュラと一緒にいた時間が誰よりも長いリアはダチュラを孤独に信じることにした。

リアの予想通り、戦闘課社員全員もルチルの指示に従うことになった。

「リアさんは、当分の間休暇を取られてはいかがでしょうか?」

ジェイドの病室で戦闘課社員との作戦会議が終わった頃、隅っこに座っていたリアにルチルが言う。

「主任、私を除者にするんですか~?」

リアはいつもの調子でおどけて言った。

「……まさかそのような反応が返ってくるとは思いませんでした。作戦に加わるおつもりですか?」

「そのつもりです」

ルチルがあっけに取られていた。
リアが含み笑いをする。

「正直、潜力が低い者にできることはありません。それどころか、作戦が成功するかも五分五分です。最悪、我々と心中することになりますよ」

「主任だって潜力低いじゃないですか」

「僕には責任があります。ダチュラさんが危険な存在だと気づきながら、放置してしまいました。死で罪が償えるなら安いものですよ」

誰も気づかなかった真相を解明し、作戦まで立てている張本人が後ろ向きな考えである事にリアは呆れた。

「私はそんなことにならないと信じます。先輩は犯人じゃないかもしれない」

ルチルがリアに厳しい目を向ける。

「リアさん、彼女を信じたいお気持ちは分かりますが現実を見てください」

「じゃあ主任、私と賭けをしませんか?」

ルチルが目を丸くする。

「先輩が犯人で管理局を襲撃したら、主任の勝ち。先輩は犯人じゃなくて管理局も無傷なら、私の勝ち」

「何を言っているのですか?」

「私が勝ったら、主任にお願いを聞いてもらいます。主任が勝ったら、どうします?」

「……僕が勝ったら、この国の終わりですよ」

「何でそういうこと言うんですか! 先輩を成敗して、また平和な国に戻るかもしれないじゃないですか! ていうか、戦闘課が負けるって主任が思ってたらダメじゃないですか」

ルチルはハッとしてリアを見つめる。

「確かに、リアさんの言う通りですね。戦闘課の皆さんを巻き込んでおきながら、彼らを信じていませんでした」

「で、主任が勝ったらどうします? 何でも言う事聞いてあげますよ~」

リアはウィンクをした。

「僕が勝ったら……また、皆さんと食事に行きたいです」

ルチルは少し寂しそうに呟く。
リアは吹き出した。

「主任、欲無さすぎです」

「国が滅ぶかもしれないのに、皆が無事でまた今までのように過ごしたいなんて、贅沢な願いではありませんか?」

ルチルが少し微笑んだ。
リアも頷きながら微笑み返した。
涙をこらえるのに必死だった。

それからリアは何事も無かったかのように出社し、仕事をこなしていく。

「先輩、ここが分からないんですけど」

いつものようにダチュラに接した。
リアの演技は完璧で、その様子を遠くから観察していたルチルも舌を巻いた。
その光景は、いつもの職場だった。
可愛い後輩と美しく仕事のできる先輩。
ダチュラもリアを気遣っているようにしか見えない。

「リアちゃん、最近眠れている?」

リアは化粧でクマを隠していたが、ダチュラはリアの微妙な表情などから万全な体調でないことを察していた。
自分の体調を気遣うダチュラを、やはり犯人だとリアは思えなかった。

「ちょっと寝れてないかもです。先輩も疲れてるように見えますけど、大丈夫ですか?」

「私はいいのよ、どうでも」

ダチュラは微笑む。
このような状況になっても、リアはダチュラを心配してしまっていた。

リアはこの国で、一番ダチュラの傍にいた人間だった。
ダチュラの美しい容姿と所作に人々は騙されたが、決して心を開かない分厚い壁があることをリアは気づいていた。
それでも、その分厚い壁の向こうにダチュラの人間らしさをリアは微かに感じ取っていた。
だからこそ、リアはダチュラを最後まで信じることにした。
そして、運命の日を迎える。

ダチュラとリアは一緒に受付業務に付いた。
いつもと同じはずだった。
リアは心の中で、このまま永遠に事件が起きなければ良いと願った。
その願いは届かず、久しぶりに警報が鳴り響く。
すかさずルチルが動いた。
リアに下がるように伝えに来る。
明らかにおかしい指示だったが、従うしかない。
警報が鳴ったが、それでもリアはまだダチュラを信じようとした。
最後にダチュラの顔を見つめる。
ダチュラはいつもの美しい表情。
けれど、きっと、リアに悲しい眼差しを向けていた。

リアがジェイドやトリンが待つ戦闘課フロアへ向かおうとするのを、後ろからルチルに呼び止められる。

「リアさん、これを」

ルチルが渡したのは、小さなメモ用紙だった。
リアにはこれが何を意味するのか分からず、受取ながら首を傾げる。

「彼女と約束していた、僕用の避難場所です。彼女を信じるならば、ここなら安全なはずです。今なら逃げることができます」

「賭けは私の負けですね」

リアはメモをしばし眺めた後、それを破り捨てた。
ルチルは黙ってリアを観察していた。

「約束は守りますよ。皆でご飯行きましょう。私は先輩を止めます!」

ルチルは溜息をつく。

「リアさんはずる賢い女性だと思っていましたが、違ったようです。僕の人を見る目もまだまだですね」

「主任ったら失礼ですね」

ルチルとリアは戦闘課フロアへ向かう。
そこで待機していた全戦闘課へ、ルチルは犯人の正体を告げた。
予想通り全員驚いていたが、ジェイドとトリンの様子から真実だと察する。
ルチルとリア、そして戦闘課以外の人員を速やかに避難させる。
そして管理局にゴーレムが現れたのを合図に、皆出陣した。

受付にいつものように可憐に咲く花のようなダチュラを、リアは真正面から見つめた。
トリンが先程吹き飛ばしたゴーレムが横たわり、床や壁が破壊されている。
そんな背景の中でもダチュラは美しかった、余計に美しいとリアは感じた。
今まで隠されていた分厚い壁が全て取り払われた、ダチュラの真実の姿がそこにあった。
やっと本当のダチュラに会えたことにリアは微かな喜びを感じていた。
そんな自分に苦笑しつつも、今のダチュラと話したいとリアは思った。
自分が憧れていた女性が、本当は何を思い何をしてきたのか。
リアや他の皆への思いやりも確かにあったはずなのに、なぜこのようなことになってしまったのか。
自分にできることは少ないとリアは自覚していたが、今この場に留まったことに後悔は無かった。
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新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

異世界の物流は俺に任せろ

北きつね
ファンタジー
 俺は、大木靖(おおきやすし)。  趣味は、”ドライブ!”だと、言っている。  隠れた趣味として、ラノベを読むが好きだ。それも、アニメやコミカライズされるような有名な物ではなく、書籍化未満の作品を読むのが好きだ。  職業は、トラックの運転手をしてる。この業界では珍しい”フリー”でやっている。電話一本で全国を飛び回っている。愛車のトラクタと、道路さえ繋がっていれば、どんな所にも出向いた。魔改造したトラクタで、トレーラを引っ張って、いろんな物を運んだ。ラッピングトレーラで、都内を走った事もある。  道?と思われる場所も走った事がある。  今後ろに積んでいる荷物は、よく見かける”グリフォン”だ。今日は生きたまま運んで欲しいと言われている。  え?”グリフォン”なんて、どこに居るのかって?  そんな事、俺が知るわけがない。俺は依頼された荷物を、依頼された場所に、依頼された日時までに運ぶのが仕事だ。  日本に居た時には、つまらない法令なんて物があったが、今では、なんでも運べる。  え?”日本”じゃないのかって?  拠点にしているのは、バッケスホーフ王国にある。ユーラットという港町だ。そこから、10kmくらい山に向かえば、俺の拠点がある。拠点に行けば、トラックの整備ができるからな。整備だけじゃなくて、改造もできる。  え?バッケスホーフ王国なんて知らない?  そう言われてもな。俺も、そういう物だと受け入れているだけだからな。  え?地球じゃないのかって?  言っていなかったか?俺が今居るのは、異世界だぞ。  俺は、異世界のトラック運転手だ!  なぜか俺が知っているトレーラを製造できる。万能工房。ガソリンが無くならない謎の状況。なぜか使えるナビシステム。そして、なぜか読める異世界の文字。何故か通じる日本語!  故障したりしても、止めて休ませれば、新品同然に直ってくる親切設計。  俺が望んだ装備が実装され続ける不思議なトラクタ。必要な備品が補充される謎設定。  ご都合主義てんこ盛りの世界だ。  そんな相棒とともに、制限速度がなく、俺以外トラックなんて持っていない。  俺は、異世界=レールテを気ままに爆走する。  レールテの物流は俺に任せろ! 注)作者が楽しむ為に書いています。   作者はトラック運転手ではありません。描写・名称などおかしな所があると思います。ご容赦下さい。   誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第、直していきますが、更新はまとめてになると思います。   誤字脱字、表現がおかしいなどのご指摘はすごく嬉しいです。   アルファポリスで先行(数話)で公開していきます。

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