人を愛したら魔女と呼ばれていた

トトヒ

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第21章

ジェイドの回顧録「初めての挫折は、仲間の死」

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ハモネーの極々平凡な家庭にジェイドは誕生する。
両親の潜力は平均値よりもやや劣る程度だったが、生まれてきたジェイドの能力値はとても理想的なものだった。
両親はそれをとても喜び、生まれながらに得た恩恵を大切にしようと、潜力の訓練を幼少期から始めさせることを決める。

ハモネーには潜力が高い者だけ入学を許されている、特別学校がある。
ジェイドは入学を許可され、早くから潜力の使い方を覚えることになった。
その学校では潜力を活かした職業に就くことを目的としており、総合成績が高ければ国家防衛管理局へ推薦入社が約束されている。
管理局程で無くとも、その学校さえ卒業できれば、強い潜力を必要としている他の企業からも引く手数多だった。
幼くして社会での勝ち組が約束されているも同然であり、ジェイドの両親は大変喜んだ。
幸いジェイドも、幼少期から流行りのヒーローものに憧れるような子供であり、学校による国家防衛管理局がこの国の絶対的な正義だという刷り込み教育が影響し、敷かれたレールを外れることは無かった。

近所でもジェイドは、能力値が高く優秀だと一目置かれていた。
単純な性格で、情に厚く、友人も豊富。
厳つい風貌の為、歯向かう者はいない。
ジェイドが女性を口説けば、ほぼ百発百中で落ちる。
ジェイドの世界は、自分を中心として回っていた。
順風満帆な学生生活を終えたジェイドは、見事に国家防衛管理局へ推薦入社する。

管理局の戦闘課へ配属され、そこでもすぐに友人を作った。
明るく人懐っこい性格のジェイドは、同僚だけでなく先輩との距離もすぐに縮めていく。
そんなジェイドは先輩からもすぐに可愛がられるようになった。
入社後も大した苦難は無く、ジェイドの未来は明るかったが本人には多少の不満もあった。

幼い頃から憧れていた正義の味方に、国家防衛管理局へ入社したらすぐになれるとジェイドは思っていた。
しかし実際は、非常時に備えて多少訓練をするだけで給料がもらえてしまう。
戦闘課が動く時は、国家レベルの危機だけであり、その機会はなかなか訪れない。
それは、ハモネーが平和な証拠でもあったがジェイドにとっては刺激が足りなかった。

「先輩、事件起きないっすかね?」

仕事帰りに寄った居酒屋で、戦闘課でよくつるむ3人がカウンター席で食事を取っていた。
ジェイドが右隣に座る先輩に呟く。
入社後の新人を教育するリーダー的存在の彼は、よくジェイドを飲みにつ入れて行った。
少し長い銀髪を一つに束ね、身体は筋肉質な男だった。
名前はギルという。

「馬鹿か。事件が起きない方がいいだろうが!」

ジェイドはギルにはたかれた。

「そうだよ。仕事は楽で給料は高い。僕達は安泰だ。これ以上何を望むんだよ」

ジェイドの同僚であるオレンジ色の短髪の男は、そう言って酒を飲んだ。

「ロードはいいよな、単純で。俺はお前とは違って、崇高な精神をもっているのだよ」

ジェイドは左隣に座っているロードという名の同僚に、フォークを向けて言った。

「人にフォークを向けるんじゃない! お前の頭がお子様なんだよ。学生時代から変わらないよな」

ロードはジェイドを諭す。
ロードはジェイドと同じ学校からの推薦入学者で、2人は幼馴染でもあった。
その年は国家防衛管理局への推薦は、この2枠だった。
学生時代は切磋琢磨し、ライバル同士でもあった2人は、今でも喧嘩をすることも多いが親友でもある。

「選択肢間違えたかな。警察にでもなれば良かったかな」

「お前のせいで、ここの推薦が取れなかった奴に謝れコノヤロー」

ジェイドとロードは睨み合った。

「欲求不満なんじゃないか? 事務課の美人達と遊んで来いよ」

ギルがジェイドを小突く。

「いやー、学生時代に女遊びは一通り終わらせたので」

「世界中の女に土下座しろ」

今度はロードが、ジェイドにフォークを向けていた。
ジェイドがそれをスプーンで制する。

「行儀悪いなお前ら。ほら、最近事務課に新入社員が入っただろ? まだ会って無いか?それが超絶美人なんだよ。うちの課の連中も狙っているやつが多いが、ことごとく撃沈しているらしいぞ」

日々の暮らしに退屈していたジェイドは、その話に興味をもった。
ジェイド自身も、国家防衛管理局の戦闘課はモテると自覚している。
それを次々と振る女とはどれだけの上玉なのか。

「マジすか。じゃあ、俺も挑戦してみようかな。なあ、ロード。どっちが先に落とすか勝負しようぜ」

「お前本当に最低だな。僕はやらないよ」

ロードは目を伏せてグラスに口をつける。

「なんだよ、ノリ悪いな。昔はよく、どっちがモテるか勝負したじゃん。遂に俺に勝てないと認めたか」

「うるせー! 違う! 前に彼女ができたって言っただろうが!」

ジェイドのしつこさに、ロードが顔を紅潮させて怒る。

「ああ。卒業と同時に同級生と付き合ったとか言ってたな。それと何か関係が?」

その発言にロードが睨みながらジェイドに顔を近づける。

「お前、そろそろ恋愛方法を正せ。僕も今回は本気なんだよ。それに……」

ロードはジェイドから顔を離し、そっぽを向いた。

「近々プロポーズしようと思ってる」

ジェイドはそれを聞き、しばらく沈黙していた。
ロードの顔が赤いのは、酒のせいでは無いらしい。

「え? は? お前が?」

ジェイドには、いつの間にか愛を育んでいた親友が信じられなかった。
ジェイドは勢いよくロードを揺さぶる。

「どういうことだよ! 説明しろよ~。いつの間にそんな事になってるんだよ。何で秘密にしてたんだよ」

「やめろ、気持ち悪い。ていうか、秘密になんてして無いだろ! 彼女ができたことは報告してただろうが」

「それしか聞いてないぞ。逐一報告しろよ!」

「気持ち悪いだろ、そんなの! あ、やばい。マジで気持ち悪くなってきた」

ロードはジェイドの服の上に吐いた。
このままでは店に迷惑がかかると、ジェイドとロードはギルに店から引きずり出された。

「お前らいい加減にしろよ!」

ジェイドとロードは地面に正座させられ説教をくらう。

「先輩! 吐かれたから、俺も被害者っすよね」

「それはジェイドに揺さぶられたからです! これは暴力です!」

自分の意見を曲げない二人に、ギルはため息をついた。

「とりあえず、今日は解散だ。ロード、プロポーズ頑張れよ。ジェイド、美人受付嬢を口説いてお前もまともな恋愛をしろ」

「先輩! 一人の女しか愛せないロードは放っておいて、俺とどっちが先に口説くか勝負しませんか?」

ジェイドは右手を高らかに挙げ、こちらを見ている通行人に宣誓でもするかのように発言した。
ロードが呆れた表情でジェイドから視線を逸らす。

「俺は既婚者だ! 馬鹿!」

ジェイドは再びギルにはたかれた。
これはジェイドにとって、日常茶飯事のワンシーン。
ジェイドも仲間も、そんな日常を楽しんでいた。



ジェイドは翌日からすぐに行動に移す。
ギルから聞いたダチュラという新人受付嬢を探すことにした。
長い黒髪の美人という情報しかもらっていなかったが、そんな情報すら必要無かった。
その女を見かけた瞬間、ジェイドは彼女がダチュラだとすぐに分かった。
ジェイドは女性経験が豊富で、今までにも多くの美女と付き合ってきた。
けれどもダチュラはジェイドが出会って来た女性の中で、間違い無く一番美しい女性だった。
ジェイドは腕が鳴る気持ちで、ダチュラと接触した。
ジェイドは学生の頃から訓練している甲斐があり、女性を口説くのが得意だった。
男同士でつるむ時は馬鹿騒ぎばかりしているが、女性相手なら自分の見せ方を変えてスマートに振る舞う。
ダチュラに対しても今までの経験をフル活用し、ジェイドにとっては上手く口説いているつもりだった。
しかし、ジェイドの誘いをダチュラはいつでも用事があると断った。
他の戦闘課社員も苦戦していると聞いていただけあり、ダチュラという女はそう簡単に攻略できないとジェイドは悟った。
それでも、ジェイドの狩人本能が目覚め、ダチュラをどう落とすかばかり思案していた。
そんな日々を送るうちに、ロードが婚約したと戦闘課のフロアで発表をした。

「おめでとう! 結婚式は絶対に呼んでくれよ」

良く飲みに行くジェイドとロードの先輩であるギルは、婚約の報告を聞いて大喜びしていた。

「もちろんですよ。彼女は盛大に式を挙げたいみたいで、これから大変そうです」

ロードはとても幸せそうにはにかんでいた。
他の戦闘課社員も次々と祝福の言葉を送り、ロードをもみくちゃにする。
それを遠目に見ていたジェイドは、心の中で祝福をしていたものの、自分はダチュラを攻略できていない引け目もあり、その輪に入れないでいた。
ロードとは一瞬目が合ったが、すぐお祝いしている社員に埋もれてしまう。
この先いくらでも祝う機会があるので、今は放っておこうとジェイドは考えた。
ジェイドは後に、この考えを悔いることになる。

戦闘課の祝福ムードをぶち壊す、けたたましい警報が鳴った。
それは戦闘課の出動要請を知らせるサイレンであり、ジェイドを含めその場にいる社員は全員訓練以外で聞くのは初めてだった。
戦闘課には一瞬緊張が走ったものの、すぐに招集を受け現場へ向かうことになった。
地方都市に非常事態が起きている為、直ちに対処せよという簡素な命令のみ下されていた。
何年もの間ハモネーには国家レベルの危機は無く、緊急事での情報処理方法が整っていなかったのだった。
それでも、潜力と腕っぷしに自信がある戦闘課にはあまり不安は無かった。
ジェイドに至っては、今まで望んでいた活躍ができる好機とすら感じていた。
活動時のみ着用を許されている、戦闘着を着られたことを純粋に喜ぶ。
その戦闘着は深い紺色のジャケットであり、自分の瞳と同じ金色のラインが腕から肩にかけて入っていることをジェイドは気に入っていた。

「一体何が起きたんだろう。事故なのか犯罪なのかすら分かっていないようだし」

戦闘課のために開発された簡素な輸送車の中で、ジェイドの隣に座ったロードが神妙な面持ちで呟く。

「俺達にはその情報を採取する任務もある。戦闘課を派遣するということは、それなりの事態だ。現場には死傷者がいる可能性もあるから、その救助を最優先にするぞ」

ギルは今回の指揮官として戦闘課に指示を出していた。

「まあ、何が起きていても関係ない。俺達の力を見せてやろうぜ!」

ジェイドは自信満々な表情を浮かべて、ロードの肩に腕をかけた。
ロードはそんなジェイドに呆れつつも、微笑を浮かべて肩を組む。
他の戦闘課も同じように、今から自分達が挑む何かしらの敵に対して思いをはせていた。
ここにいる者は、この国で強者に脅かされることが無く生きてきた。
経験が無いことは、想像するにも限界がある。
それは、何年かぶりの非常事態でも同じことであった。

現場に到着した彼らは、想像を絶する光景を目の当たりにする。
自然豊かで閑静な住宅街だったその場所は、見るも無残に破壊されていた。
ほとんどの家屋は崩れ、木々は砕かれ、田や畑は何かに掘り起こされたかのようにめちゃくちゃにされている。
そこでようやく、戦闘課は警戒し始めた。

「どうなってる。何があったんだ」

ロードが周囲の状況を伺いながら呟いた。

「これは自然災害なんじゃないか? とりあえずお前らは、生存者を探すことを優先しろ!」

指揮官であるギルの指示に従い、戦闘課は破壊された家屋から生存者を救出する為に動き出した。
分担して四方に散らばる。

ジェイドとロードは共に、瓦礫の撤去を始めた。
突然の事態に逃げる暇など無かった住民の遺体が見つかり、運び出す。

「遅かったんだな、俺達」

現場の惨状から推測すると、何か大きな被害にあったことは確かだった。
しかし、辺りは静まり返っている。
戦闘課が到着する前に、全て終わってしまったのだとジェイドは思った。

「そうみたいだね。でも、仕方ないだろ。僕らにできることは、死傷者を一人残らず探し出すことだ」

ロードはジェイドの落ち込みを察し、元気づけるように背中を叩いた。
ジェイドはそれに答えるように片手を挙げ、作業に戻る。
その時、人の呻くような声が2人の耳に届く。
ジェイドとロードは急いで、その声の主を探した。
そして、倒れた大きな木の下敷きになっている女性を見つけた。

「大丈夫ですか? 今助けますので、頑張ってください」

ロードはその女性を安心させようと声をかけ、ジェイドがすぐに倒れた木をどかした。
長時間倒れた木に圧迫されていたようで、その女性は衰弱している。
背骨も折れている危険があり、早く手当をする必要があった。
ジェイドとロードは慎重にその女性を運ぼうとした。

「子供……知りませんか?」

その女性が絞り出した言葉に、二人はぞっとする。
辺り一面は家屋も自然も混ざり合っているように混沌としており、もちろん人影など見当たらない。
このような事態になる直前まで子供が近くにいたとしたら、どこかへ吹き飛ばされたか埋まっているということになる。

「お、俺、探してくる!」

「待て! 落ち着け! お子さんの特徴は? この辺りで一緒にいたのですか?」

走り出したジェイドの背中に向かって、ロードが引き留めた。
闇雲に探しても望みは薄い。
せめて何か手掛かりを知ろうと、ロードは負傷した女性に尋ねる。

「ピンクのパーカーを着ています。一緒に帰っていたら……突然、下から化け物が……」

「下から化け物?」

ロードは女性の発言に戦慄する。
ギルが発言していたように、ロードもこの状況はハリケーンなどの自然災害が原因だと考えていたからだ。
この女性は意識が朦朧としている為、混乱しているのかもしれないとロードは考え冷静になろうとした。
しかし突如、地鳴りがし、遠くで悲鳴が聞こえる。

「お前ら! ここにいたか」

呆然としているジェイドとロードのもとへ、ギルが駆けつけてきた。

「先輩、何があったんすか? さっきの悲鳴は?」

「一旦退却だ! 地中に化け物が潜んでいやがる」

その言葉に、ジェイドとロードが驚いて顔を見合わせた。

「ほ、本当に化け物が? でも、この人のお子さんが行方不明なんです」

ロードが負傷した女性を抱え、悲痛な声で訴える。
ギルも女性を一瞥したが、首を横に振った。

「後だ。その女性だけ連れて、一旦戻るぞ。もう戦闘課にも負傷者が出てる。このままじゃ二次災害だ」

自分達の仲間が巻き込まれたという発言を聞き、ジェイドとロードはギルに従うことに決めた。
態勢を整えて再度、この女性の子供を探しに戻ることを2人は固く誓った。
女性は意識が混濁しており、大人しくロードの腕に抱かれている。
本来は慎重に怪我人を運びたいところだが、今はそんなことを言っている場合では無い。
ギルの話によると、地中から突如化け物が襲ってくるようで一刻の猶予も無いという。
3人は自分達が乗って来た輸送車に向かって走った。
その途中ジェイドは走りながら足がほつれる感覚に襲われ、背中を思いっきり押されてはじき飛ばされた。
前のめりに倒れ込み何が起きたか振り返ると、巨大な化け物がジェイドを見下ろしていた。
ゴツゴツした長い胴体は銀色に輝き複数の尖った足が生えている。
頭部には鋭利な2本の牙が見え、例えるならそれは巨大なムカデのような姿だった。
ジェイドは思わず小さな悲鳴を上げた。

「先輩……そんな」

 そう呟いたロードも、ジェイド同様に地面に倒れていた。
怪我人の女性も少し離れた場所に転がっている。
ジェイドはロードの視線を辿り、そして凍り付く。

「せ、先輩!」

ギルは離れた場所に血まみれの状態で倒れていた。
地中から現れた化け物にいち早く気づいたギルは、ジェイドとロードを弾き飛ばして庇ったのだった。
しかしギル自身は対応に間に合わず、化け物の牙に抉られ放り出されていた。
ジェイドとロードが叫んでも、ピクリとも動かない。
そして化け物は、次の標的に狙いを定める。
地面に横たわる怪我人の女性に向かって、化け物は牙を振り上げる。
それを察したロードが女性のもとへ駆け出した。

「ロード! よせ!」

ジェイドの静止を聞かず、ロードは怪我人の上に覆いかぶさった。
そこへ化け物は突進し、2人諸共叩き潰す。
ジェイドはその場から駆け出した。

「誰か! 助けてくれ!」

ジェイドはギルとロードを助ける為に、他の戦闘課に助けを求めようと大声で叫んだ。
けれども、どこからも応答は無い。
輸送車へ戻る道中で、理由を悟った。

「嘘……だろ」

地面に転がる、仲間たちを確認した。
今日この現場に来ている半分以上の戦闘課が、さっきまでロードの婚約を祝っていた自分の仲間が、無残な肉塊になっている。
ジェイドは眩暈と吐き気に襲われかけたが、そんな暇を与えてはくれない。
ジェイドは自分を狙う化け物の攻撃に気づいたが、避け切れず吹き飛ばされる。
地面に叩きつけられるジェイドを執拗に襲うが、ジェイドは咄嗟にそれを受け止めた。
生まれ持った高い潜力を最大限に拳に込め、化け物の頭部を殴り飛ばした。
手ごたえを感じたが、その化け物はまだ動いている。
鈍い動きになった化け物を、ジェイドは何度も殴った。
ギルとロードと他の仲間の仇を討つように、怒りに身を任せる。
そしてやっと一体倒したが、敵はジェイドを休ませてくれない。
次から次へと化け物が集まる。
幼少の頃から潜力の使い方を学び、体力にも自信があったジェイドだったが、さすがにスタミナ切れを感じた。
怒りで頭が熱くなっていたが、疲れたことで冷静になる。
ここで数が分からない化け物を狩って時間を無駄にするよりも、増援を呼んで負傷した仲間を助けるべきだ。
ジェイドは輸送車に向かって再び走り出す。

しかし、今までより一回りも大きい化け物がジェイドの前に立ち塞がる。
一瞬ジェイドは怖気づき、化け物の尾で薙ぎ払われた。
頭を打ち、瞼の裏に星が飛ぶ。
霞んだ視界に化け物の姿を捉える。
ここで諦めたら、ロードやギルを助けに行けない。
そう思ったジェイドは気力を振り絞り、巨大な化け物と闘った。

ボロボロになりながらも化け物を戦闘不能に追い込んだジェイドは、輸送車に這いながら乗り込み、もしもの時のために備えられたSOS信号を送るスイッチを押す。
そうすれば国家防衛管理局に連絡が行き、非番の戦闘課が送り込まれる手筈となっている。
初めてそのマニュアルを事務課から教えられた時、ジェイドはそんな事態になるとは想像しておらず笑い飛ばしていたことを思い出す。
その記憶のまま、ジェイドの意識は暗闇に落ちて行った。



『俺、将来はヒーローになるんだ』

幼い頃のジェイドは、隣に座る友人に言う。

『お前って本当にガキだよね』

友人はジェイドにそう返した。
ジェイドは隣の友人の頭を叩く。
友人のオレンジ色の髪の毛が乱れた。

『またケンカを始めるつもりか?』

『お前が俺の夢をバカにしたからだろ!』

ジェイドとロードの顔は傷だらけ、服は泥にまみれている。
昔からよく2人はケンカをしていた。
子供の頃は挨拶代わりに取っ組み合いを行い、大人達に怒られ、傷の手当をしながら雑談をし、次の日には怪我が治りまたケンカをする。
その繰り返しだった。

『別にバカになんかしてないよ』

ロードは立ち上がり、前を進んで行く。

『お前はガキの頃からガキで、大人になった今でもガキのまんまだと思う。でも……』

振り返ったロードは、成人男性の姿だった。

『お前のその夢は、嫌いじゃなかったんだよな』

ロードは微笑み、そしてまた前を向いて進んで行ってしまう。
勝手に自分を置いていく友を呼び止めようとした時、情景が白くぼやけていく。
そしてジェイドの意識は覚醒した。

ジェイドが目覚めたのは、ハモネーの都心にある病院の集中治療室だった。
ベッドの上で点滴などの管につながれ、身体中が包帯で巻かれている。
目覚めた直後は状況が呑み込めていないジェイドだったが、徐々に記憶が蘇る。
急いで起き上がろうとしたが、前身に鋭い痛みが走り呻き声を上げる。
その声で慌てて病室に入って来た看護師に、ジェイドは必死に訴える。

「どうなってる! 仲間が、怪我人が! 早く助けに行かないと!」

「落ち着いてください。あなたが運ばれてから3日経っています。現場には新しい人員が送られていますよ」

看護師の言葉にジェイドは多少安堵したものの、自分も今から向かうと暴れ始め、医者から鎮静剤を打たれるはめになった。
それから2週間もの間、ジェイドは集中治療室に閉じ込められ外の情報も遮断されていた。
ようやく通常の病室に移ることができたジェイドだったが、その場所にも外の情報を得るツールは無かった。
看護師に問いただすと、事務課から映像放送を写すモニターや新聞などはジェイドが回復するまで、病室へ持ち込む事を禁止するように言われているという。
怒りに震えたジェイドは、事務課の担当者を呼び出すように看護師を怒鳴りつける。
その後、長身体躯で眼鏡の奥に冷徹な瞳を覗かせる事務課社員がジェイドの病室に現れる。
これが、ジェイドとルチルの最初の出会いであった。

「あんたか、俺に外部の情報をシャットアウトするように命令しやがったのは!」

「はい」

ジェイドの凄まじい剣幕に対して、ルチルは無表情のまま淡々と答える。

「てめー、どういうつもりだ?」

「まずはご自身の回復を優先していただきたいと思いましたので」

「俺の回復と情報を取り上げるのに、一体何の関係があるっていうんだ!」

「意識が回復した当初、重症だったにも関わらず現場に行くと騒がれたそうですね。お気持ちは分かりますが、それはデメリットでしかありません。ジェイドさんの性格から判断し、まずは回復に専念していただきたいと考えました」

ルチルは丁寧に言葉を選んではいたが、ジェイドには怪我人がこれ以上迷惑行為に及ぶなと言われているようにしか聞こえない。

「現場に行っていないお前に、俺の気持ちが分かるのかよ!」

「申し訳ございません」

ルチルはそう言って頭を下げた。
今のジェイドにとっては、その行為もバカにされたようで腹立たしい。

「あんた、管理局の事務課だろ? 現時点で分かっている情報を全部話せ! 現場の負傷者はどうなったんだ? それから……」

「分かりました。一方的に情報を奪うのは良くありませんね」

ルチルはすぐにジェイドの言い分に従い、ジェイドは拍子抜けした。
しかし。

「ジェイドさんが知りたい情報は全て提供すると約束します。その代わり、こちらの案も飲んでいただけますか? それが条件です」

そしてルチルが取り出したのは、一枚のボードだった。
そこには小さくて丁寧な文字が埋め尽くすように並んでいた。

「何だそれ?」

「ジェイドさん用のリハビリプランです。この計画表に従い、この部分まで終わらせたら情報を提供致します」

ルチルはボードの真ん中を指さして説明した。
この期に及んで自分にリハビリを強要しようとするルチルは、昔自分が疎んでいた真面目な教師のようでジェイドは忌々しく感じる。
しかし、今のジェイドは病室は移されてもほとんど立ち上がることすらできず、自慢の腕力も意味をなさない。

「くそ真面目かよ!」

「では、明日から理学療法士の指示に従ってください。お大事にしてください」

そう言ってルチルは去って行った。
ジェイドは体が動くようになったら、ルチルを殴ってやろうと決める。
そして、ルチルが言ったように次の日からリハビリが始まった。
もともと身体は丈夫で、体力もあり、何よりも高い潜力があるジェイドは、過酷なリハビリを次々とこなしていく。
目標はルチルという冷徹な男を殴り飛ばし、そして外の情報を得ること。
ロードやギル、他の仲間がどうなったのか。
ロードが庇った怪我人や、その子供は無事発見されたのか。
答えの無い不安と疑問に頭の中が一杯になり、盲目的にリハビリを続ける。
1カ月近く経過した頃、ジェイドは松葉杖を使いながらなら歩けるようになっていた。
ルチルと約束したリハビリの目標地点まで、まだまだ足りなかったが、移動できるようになったジェイドは病室を抜け出し売店へ向かう。
そこには新聞が売られている。
ジェイドはルチルとの約束を守る気など無かったのだ。

ジェイドは真っ先に売店へ向かい、新聞を手に取ろうとした。
しかし近くに置いてあった雑誌の見出しに目が留まる。
予想だにしていなかったその文言に、ジェイドは固まった。

『国家防衛管理局の大失態』『恥知らずな税金泥棒』

読まなければ良いものを、ジェイドはその総合雑誌を手に取り広げてしまう。
そこには自分達戦闘課に対して、誹謗中傷する文字が羅列されていた。

『国家危機の為に設けられていた国家防衛管理局の戦闘課。この国でトップレベルの潜力を誇る超エリート達。しかし、彼らの実態は無能なハリボテ集団だった……。そんな木偶の坊のために血税を支払ってきた罪なき住民は皆殺しに合い、戦闘課もあえなく殲滅される。被害者を置いて逃げ延びた少数名は、一体今何を思うのか?』

病室に引きこもっている間、ジェイドは被害に合った住民や仲間達の事ばかり気にしていた。
世間が自分達をどう見ているかなんて考えもしなかったのだ。
現場にいた時点で、戦闘課の仲間も多くの死傷者がいたことは確かだ。
ジェイド自身も必死で戦った。
同情されるならまだしも、恨まれる筋合いなど無いはずだ。
ジェイドは無意識に手に力を込め、まだ購入していない雑誌をひしゃげる。
店員の注意は耳には届いていない。
けれど、病院の待合室に設置されているモニターから流れるキャスターの声に耳を奪われた。

『未曾有の被害にあったこの町は、立ち入り禁止区域となることが発表されました。近隣地域の住民も、町を離れる動きが止まりません。当時現場に向かった国家防衛管理局の戦闘課も生存者はわずか3名と報告があり、住民の不安を加速させている要因でしょう』

ジェイドは耳を疑った。
戦闘課の生き残りが3名とあのキャスターは言った。
当時出動していた戦闘課は15名だったはずであり、その中でたった3名しか生き残っていない。
その内の1人は、今ここにいる自分だ。
後2名の中にロードとギルは含まれているのか。
もし含まれていたとしても、他の仲間達の死亡が確定するだけだ。

「金食い虫の能無し共が」

待合室に座る中年男性の心無い呟きが聞こえた。
ジェイドは松葉杖を地面に思い切り叩きつけ破壊した。
周囲が騒然となる。
先程の中年男性が目を見開き、ジェイドを凝視する。
ジェイドはその男の顔面を叩き潰したい衝動にかられたが、支えを失った身体は地面に倒れる。
耳鳴りがし、過呼吸を起こして意識を失った。

ジェイドは病室に連れ戻されていた。
暴れ出さないように、ベッドの上で固定されている。
通常時のジェイドならそんな結束バンドはいともたやすく解けるのだが、そんな体力も気力も残されていなかった。
消灯時間が過ぎていたようで、辺り一面は静まり返り薄い暗闇が広がる。
病室の片隅で微かに人の気配を感じ取り、ジェイドは身構えた。
目を凝らすと、リハビリプランが書かれたボードに何かを付け加えているルチルの姿があった。

「あんた、こんな時間に何してるんだ?」

ジェイドの声にルチルは振り返る。

「起こしてしまいましたか。申し訳ございません」

「何してるんだって聞いてんだ」

「ジェイドさんが病室を脱走したと連絡がありましたので、立ち寄らせていただきました。無理をされ、怪我が悪化したようです。ですので、リハビリプランに変更点を付け加えていました」

ここまで真面目な対応をされると、さすがのジェイドも呆れるしかない。

「怒らないんだな。俺があんたとの約束を破った事」

「想定内なので」

「は?」

「あなたの性格で、動けるようになったら大人しくしていられないでしょう。僕が設定した目標地点の前に、ジェイドさんが動くことは予想していました」

「何なんだよ。じゃあ、何の為にあんな約束したんだよ。意味わかんねーよ」

「動けるということは、ある程度回復した証拠ですからね。それなら、精神的なダメージを受けても多少耐えられるかと」

肉体と精神には密接な関係がある。
重傷を負っていた当初のジェイドに現状を伝えれば、精神も肉体も耐えられないとルチルは判断し、リハビリの約束をしたのだった。
ルチルが示した通りにリハビリを終えることが理想的だったが、ジェイドが動けるようになってしまえばジェイドを閉じ込めておくことは不可能だとルチルは予想していた。
全てはルチルの想定通りに運んでおり、ジェイドは自分を情けなく思う。

「じゃあ、あんたの想定通りに俺が動いているなら、俺が今からする質問の内容も分かるよな?」

「おおよそは」

「教えてくれ」

「ジェイドさん。今度こそ、しっかり回復されてから……」

「頼むよ! ここまで来て、はぐらかさないでくれ。こんなの生殺しだ。生き残った2人の名前だけ教えてくれ」

ジェイドは歯を食いしばりながら、ルチルから表情が見られないように横を向いた。

「……エミリさんと、テイラーさんです」

ルチルからは、ロードの名前もギルの名前も告げられなかった。
ある程度は予想していた。
エミリもテイラーも大切な仲間に違いは無い。
けれど、親友の名前が出ることをジェイドは願っていた。

「戦闘課で見つかっていない奴はいないのか?」

「戦闘課は15名全員確認済みです」

ジェイドの微かな希望は打ち砕かれた。
確認済みということは、ロードの遺体が確認できているということだ。

「そうか……。二人は元気か?」

「エミリさんは全身複雑骨折で療養中。テイラーさんは……右足を切断されました」

雑誌に書かれた誹謗中傷の言葉を思い出す。
こんな思いをしているのに、なぜ叩かれなければならないのか。
ジェイドの気丈な心は限界を迎える。

「分かった。もう帰ってくれ」

「失礼致します。お大事にしてください」

ルチルが退出した後、ジェイドは一晩中泣いた。
自分中心に回っていた世界に裏切られたような気持ちだった。

翌日のジェイドはまるで死人のようにベッドに横たわったまま一日を終えたが、その次の日は病室に心理カウンセラーがやって来た。
それもルチルの手配によるもので、ハモネーでトップレベルの人材をすぐさま派遣したのだった。
当初ジェイドはカウンセリングを受けようともしなかったが、来る日も来る日もそのカウンセラーはジェイドが口を開くまで待ち続けた。
落ち着いてきたジェイドはカウンセリングを受け始め、そしてリハビリを再開させた。
身体を動かすことが好きだったジェイドは、リハビリに専念することで空虚な心を埋めていった。

「素晴らしい回復力ですね。もう退院しても大丈夫でしょう」

数か月のリハビリを乗り越え、ジェイドは遂に医師からの退院許可をもらう。

「俺の潜力と努力の結果っすよね」

ジェイドはリハビリと同時にカウンセリングも続け、以前のように軽口を叩けるまでになっていた。

「それもありますが、ルチルさんのリハビリプランは完璧でした。うちで雇いたいくらいですね」

「ルチル?」

「よくあなたの病室に来ていたグレーの髪の人ですよ。医師や理学療法士と相談した上で、あなた用にリハビリをカスタマイズしていましたからね」

その時初めて、何度か病室に訪れていた冷徹な目をした男がルチルという名だとジェイドは知った。
医師はルチルのリハビリプランのお陰でジェイドの回復が予想より早かったと熱弁し、ルチルの言いつけを守らなかったジェイドは少しばつがわるい思いをした。

「我々病院側も感謝していたとお伝えください。マスコミが押し寄せた時は、本当に助かりましたから」

「マスコミ?」

ジェイドの反応に、医師は口が滑ったことを後悔した。
しかしジェイドの問い詰めは激しく、医師はジェイドのリハビリ中に起きていた事について話し始めた。
戦闘課の生き残りがいる病院をマスコミは突き止め、ジェイドにインタビューしようとこの病院に押し寄せたのだという。
他の患者も多く病院側もパニックに陥ったが、それをルチルは一人で対応した。
生き残った戦闘課であるエミリとテイラーもそれぞれ別の病院に入院しており、そこに押し寄せたマスコミに対してもルチルは同様に対処したという。
ルチル一人で対応していることを疑問視したその医師は理由を聞いたが、他の事務課も日々殺到する問い合わせに対応しているとのことだった。
それを聞いたジェイドはさすがにこのままではまずいと、渋々謝罪とお礼を言いに行くことにした。

本調子では無いものの、ジェイドは自分の足で国家防衛管理局まで久々に出社し、事務課のフロアを訪ねた。
ジェイドは慌ただしいフロア内を探したが、ルチルの姿は見当たらない。
近くの社員を呼び止め、ルチルがどこにいるか尋ねた。
その社員はルチルの上司らしく、ルチルは現在外部に出かけていると教えられた。
ルチルが出かけている理由を聞き、ジェイドはすぐにそこへ向かった。

ジェイドが向かった先は、管理局から少し離れた広場だった。
その中心に厳かな石板が鎮座されており、落書きされた文字を消しているルチルの後ろ姿をジェイドは見つける。

「ルチルさん!」

ジェイドの声に、ルチルは振り返った。
ジェイドの病室に現れた時と同様に、無表情で冷たい眼差しをしている。

「ジェイドさん。退院されたのですね。おめでとうございます」

ルチルは淡々と答えた。

ジェイドはルチルの近くまで歩み寄り、ルチルが掃除している石板に目を向けた。
それは無くなった戦闘課の為に用意された慰霊碑だと、ルチルの上司に教えられた。
戦闘課へのバッシングが激しい中、周りの反対を押し切りルチルが発案したという。
世論の影響もあり、慰霊碑が建てられた後は落書きやごみを捨てられるなどのいたずらが後を絶たない。
ルチルの発案ということもあり、この慰霊碑はルチルが一人で管理しているという。
慰霊碑にはジェイドが知っている仲間の名前が刻まれており、その中にロードとギルの名前を見つける。
ジェイドの涙腺は緩んだが、涙を必死でこらえた。

「あんた、何でこんな物建てたんだよ」

世間に背を向け、上司に疎まれながらルチルが慰霊碑を建てたことをジェイドには理解できなかった。
この忙しい中、ルチルは毎日慰霊碑の掃除をしているという。
優先度が高い仕事があるにも関わらずルチルが余計な時間を消費していると、遠まわし気にルチルの上司は愚痴っていた。

「理由はありますが、ジェイドさんに話す内容としては適さないかと」

無表情に告げ作業に戻るルチルに、ジェイドは再び苛立ち始めた。
ルチルの表情と発言に対し、懸命に落書きを消そうと雑巾がけしている姿がそぐわない。
ルチルの上司から事情を聴いた時は、複雑な喜びが押し寄せルチルに感謝の言葉を伝えようとしていたが、怒りの沸点が低いジェイドは感情をコントロールできない。

「お得意の秘密か! 同情するのもたいがいにしろ! こんな物を建てて、死んでいった奴らが喜ぶとでも思っているのか?」

「いえ」

ルチルが短く返答し、ジェイドは肩透かしを食らう。

「じゃあ何なんだよ。あんたの考えてる事は、俺には何一つ分からないんだよ。この通り回復したんだ、何を聞いても平気だ俺は」

ルチルは作業を中断し、ジェイドに向き直った。

「個人的な意見として聞いてください。慰霊碑とは死んだ者の為でなく、生きている者の為に建てる物だと思います。僕には、魂やあの世という概念がありませんので」

ジェイドの口は間抜けに開く。

「我々事務課がやらなければならない事は、国家防衛管理局を存続させ強化させることです。正直、今は存続の危機に瀕しています」

「管理局存続と慰霊碑に、何の関係が?」

「戦闘課の士気が下がれば、国家防衛管理局は崩壊します。人間は想いや概念を目に見える物体としてとらえたい生き物です。戦闘課の皆さんには、仲間の死を尊ぶ物があった方がやる気を出していただけるかと思いました。それに、世間からのバッシングに一番辛い思いをしているのは遺族です。人の気持ちは連鎖しやすいので、本来一番戦闘課の肩を持たなければならない遺族も潰されてしまうかもしれません。そんな彼らも、立派な慰霊碑を見れば亡くなった戦闘課を誇りに思い前向きになっていただけるかと。世論と闘うには、彼らの助けが必要ですからね」

無表情のまま流暢に話すルチルに、ジェイドは呆気にとられた。
堅苦しい言葉の向こう側に、ルチルの思いやりを感じる。
必死で耐えていた涙は容易くあふれ出し、ジェイドはその場にへたり込んでしまった。

「やはりまだお辛いのでは?」

ルチルは慰霊碑の目的を伝えたにすぎず、ジェイドの気持ちを察することはできなかった。
ジェイドの体調のみ案じる。

「違う。感動してんだよ。あんた、人の気持ち分かるのか分からないのか分からない奴だな」

ルチルは首を傾げ思案していたが、誰か呼んでこようかと動く。
ジェイドはそれを止めた。

「大丈夫だ。俺にも何か手伝わさせてくれ」

涙を乱暴に袖で拭う。

「ありがたいのですが、帰宅されて休んだ方が宜しいかと」

「本当に真面目だな。やりたいんだよ!」

強情なジェイドにルチルは折れた。
脇に置かれた色とりどりの生花を指し示し、慰霊碑に備えられている萎れた花と交換するように指示を出した。
しばらく2人は黙って作業に取り掛かり、慰霊碑の掃除と花の交換を終えた。
几帳面なルチルは慰霊碑の隅々まで磨き上げ、薄曇りの中でも雲の隙間からこぼれる日の光に石板が反射していた。
花を取り換えただけのジェイドの服は汚れてしまっていたが、ルチルの服は染み一つ無かった。
そんなルチルの器用さに、ジェイドは苦笑いを浮かべた。

「あんた……ルチルさんは、こんなこと毎日やってて平気なんすか? 今、すげー忙しいんですよね」

ルチルの上司が愚痴っていたのを気にする。

「お気遣いありがとうございます。僕の仕事は全て終わっていますので、問題ありません。後は定時まで他の社員のヘルプに入ります」

ルチルを雇いたいと言った医師の気持ちが分かる。
愚痴をこぼしていた上司よりも圧倒的に仕事ができる人物なのだと、ジェイドは悟った。

「ありがとうございました。それから、すみませんでした。いろいろ迷惑かけて」

ジェイドはルチルに頭を下げた。
今まで生きてきた中で、ここまで素直に謝罪する気持ちになることは無かった。

「お礼も謝罪も必要ありません。全て業務内ですから」

今のジェイドの心境には、ルチルの業務的な言葉が心地よかった。
ジェイドは顔を上げて慰霊碑に目を向ける。
刻まれた仲間の名前を一つ一つ確認した。

「こいつらの家族は、慰霊碑を見に来てくれたんすか?」

「恐らく数名は。けれど、まだ堂々とは来れないでしょう」

「遺族がいつ来てもいいように、毎日掃除してるんすね。すごい人っすね」

「仕事ですから」

ルチルは掃除道具を片付け始めている。

「あの事件があった日、ロード……親友が婚約を発表したんです。俺、おめでとうって一言すら言えなかった」

ジェイドはロードの名前を見つめる。
ロードには大切な人がいた。
ギルにも妻と子供がいた。
何故自分が生き残ってしまったのか、ジェイドは入院中ずっと考えてしまった。

「俺って最低っすよね」

ジェイドは自虐気味に笑う。

「何か言ってくださいよ」

ルチルは手を止めて、ジェイドに向き直る。

「僕に言ってますか?」

「ルチルさんしかいないじゃないっすか! これは業務外ですか?」

ルチルは手を顎に沿わせ、何かを考えるしぐさをする。

「親友の定義とは何でしょう?」

「は?」

「親友というものに明確な定義は無いと思います。ジェイドさんなりの定義で構いません」

ルチルの真面目さに再び呆れる。

「俺はそういう難しい話が苦手なんすよ。友情は頭で考えるもんじゃない。感じるものだ」

「では、それがジェイドさんの定義ですね」

「え?」

「言葉に出さずとも、通じ合える者同士が親友ということです。ジェイドさんが何も言わなくても、ロードさんは気持ちを汲み取ったと思います」

ジェイドは言葉が出なかった。

「僕には親友と呼べる者がいませんので、この程度のことしか言えません」

ジェイドにとっては十分すぎるくらいだった。
再び涙が溢れる。

「ルチルさん、何回俺を泣かしたら気が済むんだよ」

ジェイドはそのまま、ルチルが業務に戻った後も慰霊碑を眺めていた。
そして、死んでいった仲間と親友に誓う。
自分が国家防衛管理局の戦闘課を導くと。

けれどジェイドの誓いとは裏腹に、戦闘課に対し世間は厳しい目を向け続ける。
ジェイドは焦りと激しい憤りを感じていた。
ジェイドと同様に生き残った仲間の1人であるテイラーは屈強な男だったが片足を失い、戦闘課への復帰は絶望的だった。
重傷を負ったエミリは既に退院していることを知り、ジェイドは退院祝いと今後の戦闘課について話し合うために彼女の自宅を訪れた。

「ジェイド君。元気になったのね」

「エミリ先輩も元気そうで良かったっす。退院祝い持ってきました」

ジェイドはお土産の菓子が入った紙袋を渡した。
ジェイドの言葉にエミリは微笑を浮かべる。
ジェイドは部屋に通され、エミリはお茶の支度をする。
当時は薄紫色の綺麗な長い髪だったが、短く切りそろえられていた。

「エミリ先輩、引っ越すんですか?」

部屋の中は閑散とし、いたる所に段ボールが積まれていた。

「うん。実家に帰るの」

「実家って、管理局から遠いんすよね? 不便じゃないっすか?」

エミリはティーカップにお茶を注ぎ、テーブルについたジェイドの前にそっと置く。

「私、辞めるの」

ジェイドは驚いてエミリを見つめる。
エミリもテーブルにつき、ジェイドと向い合せになった。

「何で? これから戦闘課を立て直すって時じゃないですか! 俺達がやらなくて誰がやるんすか」

「ごめんなさい」

エミリは俯く。
前髪で表情が見えない。

「親に何か言われましたか? 世間体っすか?」

ジェイドも両親から管理局を止めるように療養中の頃から説得されていた。
ジェイドはこのまま逃げ出すことはしたくないという思いがあり、そしてルチルが慰霊碑を建てたことで完全に気持ちをかためていた。
エミリも自分と同じ気持ちだと信じて疑わなかったジェイドは、予想外の発言に焦る。

「そう、親に言われた」

「じゃあ、俺も一緒に説得しますよ!」

「それだけじゃない。私、怖いの」

ジェイドはその言葉に愕然とする。
こんな状況で、怖いなんて言っていられない。
自分達は生き残ったのだから。
死んでいった仲間の分まで闘う義務があるとジェイドは思っていた。

「今更何言ってるんすか! 俺達は国家防衛管理局の戦闘課ですよ。危険を顧みず闘うのが仕事です。それを選んだのはあんだだろ!」

エミリは肩を震わせた。

「私が……甘かったのよ。夢に出てくるのよ。あの日の光景が」

「俺だってこんなことになるとは思ってませんでした。ロードとギル先輩が死ぬ光景を、俺も夢で何度も見ました。でも、だからこそ逃げたくないんです!」

エミリは顔を上げた。
彼女の髪色と同じ瞳から、雫が零れ落ちる。

「ジェイド君は強いのね。私は、弱いの」

呼吸を荒くしたエミリは、そのまま床に倒れ、ジェイドは救急車を呼ぶことになった。
久しぶりの戦友との再会は、最悪な結末となった。

「ジェイドさん、帰宅されて大丈夫ですよ」

病院の待合室で項垂れていたジェイドに、ルチルが声をかける。
エミリの担当医から管理局の事務課へ連絡がいき、当然のようにルチルが派遣された。
医者からの説明を聞き終えたところだった。
事務課はルチル以外機能していないんじゃないかと、ジェイドは思った。

「また迷惑かけたな」

「僕も説明不足でした。エミリさんはまだ心療内科に通われています。接触を避けるように言うべきでした」

頭を下げるルチルに、ジェイドはため息をつく。
ルチルは今までジェイドを叱責したことが無い。
叱責する価値が無いと呆れられているのだと感じた。

「俺は間違ったことを言ったのか? ルチルさんだったら、どうやってエミリ先輩を止めました?」

「我々に彼女を止める権利はありません」

「だが、辞められたら困るだろ。俺達にはこの国を守る義務がある」

ジェイドが退院した時点で、当時非番だった戦闘課も数名無断欠席が続いている。
そのまま退職してしまうのは目に見えていた。
ただでさえ半分の人員が削られてしまっているにも関わらず、退職者が増えていけばルチルが言ったように管理局は崩壊する。

「ハモネーは民主主義の国です。生き方は本人の自由ですよ」

「ここで逃げるのは間違っている!」

「逃げるのではなく、生き方を変えるのです。人それぞれ闘い方は違います」

どこまでも大人なルチルに、ジェイドは反論できない。
エミリを追い詰めてしまったことを反省はしていた。
それでも、一緒に闘いたかったという思いが着地点を失う。
ジェイドは途方に暮れていた。

「ジェイドさんは、目的の為に回り道をせずに突き進むタイプですよね。今回の事は、国が始まって以来の大きな事件です。申し訳ございませんが、しばし辛抱していただけますか」

「じゃあ、どうすればいいんだよ」

ジェイドは暗い待合室の天井を仰いだ。

「マスコミ操作をします」

意外な発言に、ジェイドは怪訝な表情でルチルを見る。

「操作なんかできるのか?」

「そろそろマスコミや世間も、管理局への攻撃に飽きている頃です」

「飽きてるって……」

「申し訳ございません。人間とはそういうものです。マスコミも新しい情報を欲している頃でしょう。戦闘課や遺族のもとへ押しかける前に、こちらから新しい情報を渡してしまいます」

「何を?」

「地方都市を襲った化け物についてです」

化け物という単語を聞き、ジェイドが一瞬震える。

「テイラーさん、エミリさん、そしてジェイドさんからある程度の情報はいただきました。その化け物がいかにおぞましく恐ろしいかを公表します。後はマスコミが勝手に盛り上げてくれるでしょう」

ジェイドには全く無い発想だった。
マスコミ操作がその後どのような影響を及ぼすかもジェイドには分からない。
けれど、ルチルにはその先が見えているということは何となく理解できた。

「それから……ジェイドさんにお伝えしようか迷ったのですが。秘密はお嫌いということで伝えておきます」

ルチルはもったいぶるように間を置いた。

「ロードさんの婚約者の方が、記者会見を開きたいと志願されました」

ジェイドは思わず立ち上がる。
身体中が震えた。

「どういう……」

「亡くなった戦闘課に対する誹謗中傷が我慢ならないそうです」

ジェイドは無言で首を振った。
そんなことをすれば、彼女は世間から白い目で見られるかもしれない。
これからロード以外に愛する人を見つけたとしても、結婚ができなくなってしまうかもしれない。
ジェイドは親友が愛した人に、そんな思いをしてほしくなかった。

「僕も止めたのですが、彼女の意思は頑なでした。なので、記者会見を開くタイミングはこちらの指示どおりにしていただくことを約束してもらいました」

「タイミングで、何か変わるのか?」

「努力します」

その時のジェイドには何が何だか全く分からなかった。
しかし後日、ルチルがまるで未来予知でもしていたかのように事が運ぶことを目の当たりにしていった。

まずルチルが言っていたように、化け物の情報を得たマスコミは連日その恐ろしさを報道した。
戦闘課へのバッシングで埋め尽くされていた新聞や雑誌の内容も急に変更される。
潜力のお陰でほとんど敵無しと考えられていたハモネーにとって、初めて遭遇する強大な敵として認知されていく。
今まで戦闘課の落ち度として報道されていた内容が、いつしか同情的に変わり、戦闘課だけでなく国民全体の問題として持ち上がった。
世論に変化が訪れた頃、ロードの婚約者が記者会見を行った。
ルチルはこのタイミングを見計らっていたのだった。

席についたロードの婚約者は、ウェディングドレスをイメージさせる純白のワンピースを着て現れた。
それとは対照的に化粧は控え目にし、悲壮感を漂わせていた。
美しいブロンドヘアーは肩までの長さに揃えられている。
その物悲しく美しい姿に世間は魅入られる。
その背後には志願した他の遺族も腰掛けていた。
ギルの妻と子もそこにいた。
ロードの婚約者は、戦闘課が襲われた住民を救えなかったことを素直に謝罪した。
けれどその後、涙ながらにこの危機について一国民としてのとらえ方を説き続けた。
彼女の聡明な人柄が世間を味方につけた。
まだ籍を入れていない彼女は、世間からのバッシングから逃れることもできたはずだった。
それをせず彼女は亡き婚約者と共に闘うことを選んだ。
その姿が国民の胸を打ったのだった。
会見を観ていたジェイドは、ロードが選んだ女性が強く美しい人物だったことを誇りに思った。

それからジェイドは訓練に精を出し始めた。
しかし従来の訓練をした所で何か変化があるとも思えない。
悩んだジェイドはルチルに相談することにした。

「相談する相手を間違えていると思います」

訓練方法について尋ねたジェイドに対し、ルチルは冷たく言い放つ。
しかし、ジェイドはルチルに何でも聞いてみれば解決策があると根拠のない自信があった。

「頼む! 何でもいいっす。気づいたことがあれば、教えてください」

ジェイドは頭を下げた。
その様子を見つめていたルチルは少しだけ困った表情をする。

「僕は潜力の使い方すらよく分かっていないのですが、訓練の中に防御は含まれているのでしょうか?」

「防御? 受け身とかはやってますけど」

戦闘課同士で組を作り訓練することもある。
攻撃を避けたり、手で防いだり、投げ飛ばされた時の受け身なら訓練していた。
ジェイドは一通り説明する。

「潜力を使って、肉体強化の訓練はしないのですか?」

ジェイドは学生時代の記憶を手繰り寄せる。
入学当初の基礎練習時に一回だけ習ったことがあった。
しかしその後の潜力訓練では、攻撃方法ばかりを習っていた。
戦闘課でも同様で、潜力を拳や足など一か所に集中させて力を放つ方法ばかり訓練していた。

「やってないっすね。ほら、攻めは最大の防御って言うじゃないっすか」

「なるほど、現代では必要無くなってしまったのですね」

「どういう意味っすか?」

「かつてこの国を一つにまとめたサンドローザは、防御力に長けていたと聞いたことがあります。そのお陰で攻撃を防ぎ、ハモネーのトップに上り詰めたのです。現代では内戦は起きておらず、自分と同等かそれ以上の攻撃を肉体強化によって防ぐ必要が無くなり、訓練の優先度が低くなったのでしょう」

「あのサンドローザが……。ルチルさんは、肉体強化が必要だと思います?」

「はい。今回の事件は、敵が予測不可能な動きで奇襲してきた為、犠牲者が多かったと考えられます。攻撃を受ける際に肉体強化できれば、ダメージが少なかったでしょう。また、一度攻撃を受けてしまえば体勢を整えられず隙が生まれます。攻撃に転じる余裕は無いので、肉体強化でガードする必要があります。僕からのアドバイスは、これが限界です」

「いや、十分だ」

ジェイドは当時を思い起こす。
自分とロードをかばったギルは、化け物の牙に貫かれていた。
もし、肉体強化していたらもう少し傷は浅かったのか。
ロードは怪我人と共に叩き潰された。
肉体強化していたら、耐えることができたのか。

「大丈夫ですか?」

ルチルの声に我に返る。

「ああ。あのさ、被害に合った住民は全員確認が取れてるんですか?」

「だいたいは確認が取れていると聞いています」

「そうか。ロードが助けようとした人の子供が行方不明だったんだけど……ピンクのパーカーを着てる……いや、すまない。何でもない。ありがとうございました」

あの悲惨な現場で1人の子供を見つけるのは困難である。
当時のあやふやな記憶と少ない情報を提示しても仕方がない。
ルチルにお礼を述べ、言われた通りに肉体強化の訓練に励んだ。
仲間の戦闘課にもその訓練を促す。
当時の生き残りであるジェイドのアドバイスを聞かない社員はいなかった。

そして、数週間が経った頃再び警報が管理局の全フロアに鳴り響いた。
前とは比べ物にならない程の緊張感が、戦闘課に駆け巡る。
それでも残った戦闘課の気持ちは強く、すぐさま輸送車で現場へ向かった。
到着した彼らが目撃したのは、ジェイドがあの日見た光景に似ていた。
地方都市から住民がほとんど避難していたことが、唯一の救いだった。
ジェイドは地中から飛び出す化け物と再会する。
あの日の光景が蘇り、ジェイドは蛇に睨まれた蛙のように固まってしまった。
ジェイドめがけて襲ってくる化け物を避けることができない。
その時ルチルの言葉が蘇り、訓練を続けていた肉体強化をする。
化け物に弾き飛ばされたジェイドだったが、ほとんど痛みを感じなかった。
すぐさま起き上がると、ジェイドを仕留めたと思っていたのか化け物はそっぽを向いていた。
そこへジェイドはすぐに移動し、化け物を得意の打撃で叩きのめした。

「皆! 肉体強化しろ! 化け物に隙ができたら一気に叩け!」

ぐちゃぐちゃに潰された化け物の上で、ジェイドが叫んだ。
それを見た戦闘課はジェイドに習い、化け物を殲滅していった。
その日から、ジェイドは戦闘課のエースとなった。

化け物討伐を終え、戻った戦闘課は自分達の休憩室で休んでいた。
初めて化け物と対峙した頃より人員が少なくなっていたにも関わらず一掃できた。
戦闘課一同は、その事実をかみしめていた。


「皆! 肉体強化しろ! 化け物に隙ができたら一気に叩け!」

ぐちゃぐちゃに潰された化け物の上で、ジェイドが叫んだ。
それを見た戦闘課はジェイドに習い、化け物を殲滅していった。
その日から、ジェイドは戦闘課のエースとなった。

化け物討伐を終え、戻った戦闘課は自分達の休憩室で休んでいた。
初めて化け物と対峙した頃より人員が少なくなっていたにも関わらず一掃できた。
戦闘課一同は、その事実をかみしめていた。

「皆さん、お疲れ様でした。こちら差し入れです」

戦闘課のフロアに事務課の女性スタッフ3名が飲み物と軽食を運んできた。
酒ではないが、戦闘課はそこで祝杯をあげる。

「ジェイドさん、お疲れ様でした」

ジェイドの目の前に現れたのは、かつて自分が口説こうと奮闘していたダチュラだった。
窓から入る夕日に艶のある髪が輝いている。
以前と変わらず美しいと思ったが、今のジェイドは女性を口説く意欲は無い。
それよりも世論からのバッシングで事務課も退職者が出ていたにも関わらず、ダチュラが管理局に残っていたことに感心した。

「ルチル主任からこちらを渡すように頼まれました」

そう言ってダチュラが手渡して来たのは、長3の封筒だった。
ジェイドはそれを受け取り、すぐに破いた。
折りたたまれた書類に目を通し、ジェイドの瞳から涙が零れる。
その書類は、ロードが助けようとした女性の子供が既に母親と一緒に埋葬されていることを証明するものだった。
ロードと一緒に、子供を探しに戻ろうと誓ったがそれは叶わなかった。
ずっと心の奥で気にしていた。
言葉を途中で切ったが、ルチルはそれを覚えていたのだった。
子供は見つかっていた。
助けられはしなかったが、母親のもとで一緒に眠っている。

「ルチルさんは、まだいるか?」

「はい。まだお仕事中です」

それを聞いたジェイドは、事務課のフロアへと駆け出していた。
ジェイドの後ろ姿をダチュラは冷ややかに見つめていた。

「ルチルさん!」

事務課のフロアに飛び込み、ルチルがデスクで書類仕事をしているのを見つける。
ジェイドはルチルのもとへ駆け寄り、跪いて大泣きし始めた。
さすがのルチルもギョッとする。
慌ててフロア内を見渡したが、幸い他の社員は出払っていた。

「どうしました?」

「どうしましたじゃないっすよ。これですよ」

ジェイドは涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を隠しもせず、封筒を振りかざした。

「ああ、気になっていたようなので。迷惑でしたか?」

ジェイドは大袈裟に首を横に振る。

「ありがとうございます」

「僕は調べただけです。お子さんを発見したのは、戦闘課です。残念ながら、どなたが発見されたのかは特定できませんでしたが」

それを聞いてジェイドは再び泣き始めた。
ルチルはいよいよ困り果てる。

「もう俺、ルチルさんに全部従うよ。あんたは100パーセント正しい人間だよ」

「100パーセント正しい人間なんていませんよ。あまり人間を信用すぎない方がいいです」

それでもジェイドは、ルチルへの信頼が絶対的なものになっていた。
ようやく顔を拭って落ち着き始める。

「いや、俺には分かる。ルチルさんは間違えない。俺、考えないで感じるタイプなんで。分かるんっすよ」

ジェイドは満面の笑みをルチルに向けた。
ルチルは窓から差し込む光の逆行になっていて、ジェイドからは表情が見えない。

「今日から俺、ルチルさんを親友にする。だから、ルチルって呼んでもいいか?」

「どのように呼んでも構いませんが」

「俺の事もジェイドと呼んでくれ」

「それはお断りします」

ジェイドは一瞬面くらったが、その後苦笑した。

「そうだよな。俺はルチルに何も返せてないし。じゃあまだ、俺の片思い中ってことで。親友(仮)だな」



それからのジェイドはルチルへの恩返しと親友と認められる為、戦闘課内で奮闘する日々を送った。
ルチルが戦略会議へ参加することになってからも、戦闘課とルチルを繋げることに尽力する。
ルチルからもらった訓練時のアドバイスも、仲間にしっかり伝え、戦闘課の強化に努めた。
マスコミの誰かが命名したエネミーパニック以来、何度かエネミーが攻撃してくる時もあったが生まれ変わった戦闘課は負けなかった。
戦闘課の汚名はほぼ払拭され、翌年には数は多くはないが新入社員も入って来た。
その中にいた不器用だが潜力が人一倍強いトリンに対しても、エネミー戦闘時には確実に役に立つと考えフォローを入れる。
戦闘課が苦戦した時に、クリスドールという謎の人物が戦闘を手助けするようになり、ハモネーの国民はかつての明るさを取り戻していった。

「ボランティアで助けてくれるのはいいんだけどよ、何か面白くないんだよな。クリスドールについて何か知ってるか? いつも逃げられるんだよな~」

終業時刻に、ジェイドは事務課を訪ねルチルに問う。
ジェイドはよくルチルに愚痴をこぼすようになっていた。

「僕もスカウトできればと思い調べてみたのですが、全く分かりませんでした。彼のことは放っておいた方が良いでしょう」

スカウトという言葉を聞き、ジェイドは少し嫉妬する。
ありがたいという気持ちも当然あったが、今まで国を守ってきたのは戦闘課だった。
その功績をあっさり奪われた気持ちでいた。

「ルチルでも分からないことがあるんだな」

「分かったことは、クリスドールは得体が知れない人物だということだけです」

ジェイドは首を傾げた。

「ボランティア団体を一つ一つ調べても、どこにも所属していない。誰も素性を知らないというのは異常です。この国は国民一人一人をきっちり管理しています。マスコミの執拗な追跡も無駄に終わっているようですし。クリスドールをスカウトするという思惑は、叶わないでしょう。むしろ、関わらない方が宜しいかと」

ルチルが感じたクリスドールへの危機感にジェイドは気づかなかったが、ルチルに従わない理由が無かった。

クリスドールのお陰もあり、ハモネーはまるでかつての平和を取り戻したかのように浮かれていた。
戦闘課への応募人数も、以前と同じくらい多くなっていた。
ブライトのような優秀な人材が入社して来たのは喜ばしいことだったが、戦闘課の士気が下がるのをジェイドは危惧していた。
それだけでなく、ブライトが企画した合コンに参加した時も事務課の女性に危機意識が無いことに憤慨してしまう。
帰り道について来たリアという女性が、エネミーパニックについて軽んじていたように感じ、思わず説教をしてしまった。
自分の怒りっぽさにジェイドは反省したが、国民の心が穏やかになる程反比例するようにジェイドは焦燥感にかられる。

その気持ちは、エネミー討伐に現れる。
ルチルの戦略を全面的に信頼しているジェイドだったが、いざ現場に着くと頭より先に身体が動いてしまう。
仲間がエネミーに殺されるのはもう見たくなかった。
自分が何とかすれば、誰も死なずに済む。
そのような考えに支配され、戦略を無視し続けた。
ルチルが正しいと自分で言ったにも関わらず、ルチルから注意されていたにも関わらず、ジェイドは約束を破りそのつけを払う時がやってきた。
ジェイドの行動を全てお見通しだとでも言うように、エネミーに翻弄される。
訓練を続けていた肉体強化でガードをするものの、エネミーの執拗な攻撃にジェイドは限界を迎える。

病室で目覚めたジェイドは、いつもの仲間に囲まれていて安堵する。
3年前は目覚めても誰もいなかった。
お見舞いに来ていたリアが泣き始めたのをきっかけに、可愛がっていた2人の後輩も涙を流す。
ジェイドは気恥ずかしい思いでいたが、後から病室に入って来たルチルに初めて叱責された。
皆が帰った後、一人病室で反省する。
仲間が傷つかないようにという思いで自分が行った行為が、仲間の心を傷つけてしまったかもしれない。
仲間が傷つく辛さを誰よりも知っていたはずなのに、後輩に自分と同じ思いをさせてしまったことをジェイドは後悔した。
ルチルにも失望されたのでは無いかと思い、合わせる顔が無いと考えた。
けれどそんな思いとは裏腹に、翌日にルチルは当然のように病室を訪ね昨日叱責したことを謝ってきた。

「何で、いつもルチルが謝るんだよ。悪いのは120パーセント俺だろうが」

「僕が謝っているのは、感情的に叱責したことです。もちろん戦略を無視し、勝手なことをしたのはあなたが悪いです」

ルチルが発した感情的という表現が、ジェイドを驚かせる。
いつも無表情なルチルが、少しだけ憂いを帯びた表情をする。

「皆さんと同様、僕も心配しました。今後は戦略を無視することを禁止します……仲間として」

ジェイドが自分を認めてくれたと思い、申し訳ないと思っていた気持ちが消えて喜びに変わる。

「もう絶対に破らない。リハビリも頼んだぜ親友」

ルチルは肩をすくめた。
けれど、少しだけ口元は笑っていた。

ジェイドはこのような状況にも関わらず、喜んでいる自分が罰当たりではないかと苦笑した。
その罰が、数日後に当たるとまでは考えていなかった。

療養が終わりそろそろ本格的なリハビリを開始できる頃、病院の廊下をバタバタと走る騒音でジェイドは目を覚ました。
扉が勢いよく開け放たれ、血相をかいたトリンが飛び込んでくる。
相変わらず騒々しい女だとジェイドは思ったが、トリンの狼狽えぶりに戸惑う。

「どうした? もしかして、遂にルチルに振られたか?」

当初はトリンの潜力の高さを、エネミー討伐に使えると考え何かと手助けをしていたが、そのうちに信頼できる後輩へと変わっていた。
ルチルに好意があると相談された時も、見る目があるとジェイドは感心し、全力で恋の応援をしていた。
今まで誰かの恋愛に首を突っ込んだり応援しようと思ったことは無かった。
ルチルとトリンという人物だから、力になろうとした。
けれど、2人共色恋に不器用な為すぐに上手くはいかないだろうとジェイドは思っていた。
トリンが突っ走って、ルチルに振られるというオチも想定していた。

「まあ、一度ダメでも諦めないことが重要なわけで――」

「ブライト君が、死にました」

失恋したトリンを慰めようなどと考えていたジェイドは、トリンの言葉をしっかり理解できなかった。
ジェイドの混乱を察し、トリンが真っ青な顔で説明し始める。

「頭を殴られて、殺されたって。公園で遺体が見つかったって」

「ふざけんじゃねーぞ!」

ジェイドはベッドに横たわりながら怒鳴っていた。

「くだらない冗談言ってるとぶっ飛ばすぞ。アイツがその辺でくたばるわけねーだろうが!」

エネミーに仲間が殺されないかという心配ばかりしていたジェイドだったが、この平和な国の道端で後輩が殺されるなどとは予想していなかった。
ましてや国家防衛管理局の戦闘課であるブライトは、期待の新人と言われるだけあって潜力も高く頭も良かった。
訓練次第ではジェイドを超える人材になるとさえ思っていた。
自分を超えさせようと、次世代のエースになるように厳しく大切に育てていた。

「死体でも見たってのか!」

「私はまだ見てません」

「誰から聞いたんだ、そんな馬鹿みたいな話!」

「ルチルさんです!」

その名前が出た瞬間に、ジェイドは黙りこくった。
トリンの眼球が小刻みに震える。

「事務課に連絡があったって、教えてもらいました。ルチルさんは今、警察です。忙しそうで、あまり詳しくは聞けませんでした」

トリンがいつ病室から出て行ったのかジェイドは覚えていない。
ジェイドはただひたすらに、ルチルが病室に来るのを待っていた。
けれど、ルチルが現れないままブライトの葬儀の日になる。
病室に何度か訪れていたトリンからはルチルの伝言を聞いていた。
葬儀に出席するなら車椅子や付き添う医師を用意すると言ってもらえたが、そこまで迷惑はかけられないとジェイドは断る。
ジェイドはただベッドに横たわったまま時間が過ぎ去るのを待っていた。
数日後にトリンとリアが病室を訪れる。

「ちゃんと、食べてますか?」

リアが静かに尋ねた。

「お前らこそ食ってるのか? 随分やつれてるぞ」

トリンとリアがベッドの脇にある椅子に腰掛け、そのまま数分間沈黙していた。
その静寂に耐え切れず、ジェイドが口火を切る。

「葬儀はどうだった?」

馬鹿みたいな質問だとジェイドは思った。
おめでたい式典ならまだしも、葬儀がどうだったかなんて話題が膨らむはずもない。
トリンとリアは何も答えられない。

「嘘じゃなかったんだな。本当にブライトは死んだんだな」

リアがすすり泣きをする。
トリンが俯きながら頷いた。
2人は本気で悲しんでいる。
ジェイドを騙そうとくだらない嘘はついていない。
そもそも、そんな理由なんて無い。
ジェイドはやっとブライトが死んだことを実感する。

「何で、いい奴ばっかり死ぬんだ。俺みたいなクソ野郎は、毎回無様に生き残るってのに」

ジェイドは拳をにぎりしめて、ベッドを叩いた。
両目から涙が流れる。

「俺は勝手な行動して、勝手に怪我して、あいつを見送ることもできないクズ野郎なのに! 何でなんだよ!」

ジェイドは腕で目を覆ったが、涙が止まらない。
トリンはそんな先輩の姿を見て、何も言えず涙を流し始める。
しばらく3人で無言のまま泣いていた。

「お前達には悪いけど、ここで一緒にブライトを追悼させてくれ」

トリンとリアはジェイドの言葉を素直に聞き入れ、静かに黙祷していた。
その静寂を病室の扉を開ける音で破られる。

トリンのように乱暴では無かったが、ノックも無く扉を開けてルチルが入って来た。
自分の腕の隙間から久しぶりに見る友の顔は、少し衰弱しているようで心配になった。
けれどジェイドを真っ直ぐ見据えている瞳は変わらず凛々しい。
自分とブライトの対応で忙しかったのだろうとジェイドは考えた。
今日ここへ来たのも、全ての仕事を終わらせ自分のリハビリの為に来たのだろうと。
けれど、ジェイドの予想と反しルチルの口からはブライトの事件について述べられた。
ジェイドの血圧は急激に上昇する。

ブライトはエネミーと関係なく、通り魔にやられたと聞いていた。
警察に任せるしかなくジェイドには何もできないということだった。
犯人が見つかるまで、犯人が刑に処せられるまで何もできないもどかしさに気がおかしくなりそうだった。
けれどルチルは犯人について語ろうとしている。
ルチルのことだから、警察を出し抜いて犯人を探し出したとしても不思議ではないとジェイドは思った。
ならばこっちも警察や法律を全て無視して、犯人を殺してやる。
ブライトを殺した犯人とエネミーに何か違いなど無い、ジェイドにとっては同じような仇だった。
けれど、ルチルから聞いた犯人の名はとてもよく知る人物だった。

かつて自分が口説こうとした女。
ブライトが惚れて悩んでいた女。
トリンに化粧を教えてくれた女。
友人だと仲間だと思っていた女。

ジェイドの頭では抱えきれない。
100パーセントの信頼をしている男が、遂に間違いを犯したとジェイドは思った。
思いたかった。
けれど、自分の本能が叫ぶ。
ルチルという男はいつでも正しいと。
そして、トリンの声に我に返る。
彼女は自分と同様、ルチルへの信頼が強い。
それはジェイドの気持ちとは違い、無条件の思いだった。

ルチルが取り出したボイスレコーダーという機械をジェイドは知らなかったが、そこから聞こえるブライトの声がダチュラをテロ犯だと語る。
そしてルチルとダチュラの会話を聞き、ブライトを殺したと自白した。
ルチルが危険を冒してまで用意した証拠は完璧だった。

音声の中でルチルはダチュラに協力すると話していた。
混乱しているジェイドは、それが本当なのではないかと思ってしまう。
ルチルは自分達を見捨て、ダチュラと共に行ってしまうのでは無いかと不安に駆られる。
結局はルチルと親友になんてなれておらず、自分の気持ちは一方通行なのではないか。
見捨てないでほしいと無様にすがることしかジェイドにはできない。
ルチルはそんなジェイドの手を取った。
今まで見たことも無い慈愛の表情を浮かべ、一筋の涙をジェイドに見せる。
ジェイドは無我夢中でその手を握り返した。

ジェイドはルチルの考えた計画に全て委ねる。
集まった戦闘課も異論は無かった。
ジェイドにできることは、ダチュラがテロを仕掛ける前にできるだけ身体を動かせるようにすることだった。
ルチルに最短でリハビリを終えられるようにプランを変更してもらうように頼む。

「しかし、それではジェイドさんの身体が……」

「クソ真面目かよ! 俺のリハビリを長引かせても、国が亡んだらどうにもならないだろ!」

ルチルは渋々承諾し、身体に負担がかかるリハビリプランに変更した。
ジェイドは国家防衛管理局のトレーニングルームに寝泊まりし、ひたすらリハビリをする。

「ジェイドさん。休憩はしっかりとってくださいね。潜力を治癒力に回すためには、休むのが一番です」

ルチルもジェイドと共に寝泊まりし、ジェイドが無茶をしないか監視をしていた。
寝ずにリハビリをしたい気持ちをおさえ、今度こそジェイドはルチルの指示に従った。
そして、再び警報が鳴り響いたのを合図にエネミーとの最後の戦いが始まる。
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