人を愛したら魔女と呼ばれていた

トトヒ

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第15章

あの人と似て非になる人「私の好きなものは、金色の髪と青い瞳」

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ジェイドが入院してから、リアは毎日お見舞いに行くようになった。
私も誘われたけれど、ジェイドとの仲が深まるチャンスだから一人で行くように言い、私はあまり病院に顔を出さなかった。
お見舞いに行っている時間なんて無いもの。
ハモネーの国民は潜力の影響で治癒力が高い。
特に能力値が高いジェイドが、怪我を完治させるのはそう遅くないはずよ。
ルチルがジェイドのリハビリプランを立てているみたいだし、きっと医者が言っていた予定よりも早く治ってしまうはず。
この前ゴーレムを差し向けた時は、ジェイドの他に戦闘課にダメージを与えられたけれど、どいつも軽傷だった。
ジェイドが復活する前に、この国にとどめを刺さなければ。

「ダチュラ、お家に入れてよ」

私が帰宅するのを見計らって、クリスドールが私に付きまとうようになってしまった。
振り切ることができず、私の住処までついて来る。

「散らかっているから嫌よ」

「そんなの昔からじゃん。マスターの家に住んでた時も、本とか工具が散らばっていたもんね」

どうせ私は片づけが苦手よ。
花嫁修業は私には何の効果も無く、完全に無駄な時間だったみたい。

「ねえねえ、死ぬ気が無いならまた一緒に暮らそうよ。こんな暗い場所じゃなくて、ダチュラが前に住んでいた王宮みたいに綺麗な所へ」

支離滅裂ね。
まあ人間の感覚とは違うし、私が与えてしまった知能だから誰にも文句が言えない。

引っ越すという概念が、この国に侵入してからの私には無い。
人っ子一人いない廃工場の地下が私の住処。
とても人が住む場所では無いけれど、私にはお似合いだと思っている。
やっと手に入れた私だけの工房、ここが今の私にとって城なのだから。

「お家探すよ。お家の片づけもするよ」

「そう。じゃあ探してきて。候補は100くらい欲しいわ」

私の要望にクリスドールは素直に従う。
クリスドールは完璧な笑顔で微笑み、その場から去って行った。
私が一番叶えてほしい願いは聞いてくれないくせに、くだらない命令は聞いてくれる。
うんざりする。
あの子が戻ってくる前に、早く作業を進めなければならないわ。

焦っていたのがいけなかったのかもしれない。
私は、久しぶりに失態を犯した。
職場から急いで帰ろうとした時に気づいた、ペンダントが無い。
いつも首からかけている、チェーンに通されたあの人の形見の指輪が無い。
出社した時には付けていたはずだから、この建物内にあるはず。
私は慌てて探した。
こんなことをしている場合では無いのに。

「ダチュラさん、どうかしましたか?」

声の方を振り向くと、そこにはブライトが立っていた。

「何でもありません」

「探し物をしているように見えましたけど」

ブライトがゆっくり近づく。
窓から差し込む日の光でブライトの髪の毛が黄金に輝いていた。

「手伝いますよ。何を落としたんですか?」

「……ペンダントです。チェーンに指輪が通されています」

指輪と聞いてブライトが何かを感じ取ったみたいだったけれど、彼は快く探すのを手伝ってくれた。
2人で探してから1時間程近く経った頃、ブライトが私のもとに笑顔で駆け寄ってきた。
彼の手には、私の大切なペンダントが握られている。

「これですか?」

「はい……」

彼は私にそれを差し出した。
更衣室の扉近くに落ちていたようだった。
制服から着替える時に落としたらしい。

「僕これから、ジェイドさんのお見舞いに行くんです。良ければ一緒に行きませんか?」

「……ごめんなさい。私、この後用事がありますの」

「そうですか。じゃあ、途中まで一緒に帰りましょう」

ブライトが歩き出し、私はその後をついて行く。
外に出ると、とても美しい夕焼け空が広がっていた。
夕日はブライトの金髪を一層輝かせる。
昔、あの人と一緒に外を散歩した日を思い出した。

「綺麗な指輪ですね。クリスドールさんから貰ったんですか?」

「違います!」

思わず否定してしまった。
そのままはぐらかしていれば良かったものを。
けれど、その嘘だけはつけなかった。
ブライトは一瞬驚いた表情をしたけれど、それ以上指輪について何も触れない。

「先日は、すみませんでした。クリスドールさんを責めるようなことを言ってしまって」

ブライトが急に謝罪してきた。
そういえばジェイドの手術中に、今回クリスドールが助けに来なかった理由を尋ねられたわね。
あの時は緊急事態だったこともあり、話がそのまま流れていた。

「クリスドールさんは僕達と違って、ボランティア活動ですもんね。給料をもらっている僕達と同じ土俵に上げること自体間違っていました」

ブライトは振り向かずに話を進める。

「本当のことを言いますと、八つ当たりです。ジェイドさんが殺されそうな時に僕、腰を抜かしたんです。戦闘課失格です。恥ずかしい。それに、僕が大好きだったダチュラさんが、純白の英雄と付き合っていたのもショックだったんです」

私達は分かれ道に到達した。

「でも、クリスドールさんならダチュラさんを絶対に守ってくれますし、安心しました。負け惜しみじゃないですよ」

彼はようやく私の顔を見る。
青い瞳が美しく輝いていた。

「幸せになってくださいね。あ、でもこれからも仲良くしてください」

彼はそう言って、ジェイドが入院している病院へと向かった。
私と違って、真っすぐに育ったのね。

もうすぐジェイドがリハビリを開始するらしい。
早く作業を終わらせなければならない。
けれども連日クリスドールが私の住処付近をうろつく。
引っ越し先の候補を100種類集めてこいと言う私の無茶ぶりにも、彼は難なく対応してしまった。
大量のパンフレットや写真を見せてくる。
どれも外観が豪華な建物だった。
その中には如何わしいホテルの写真が含まれていて呆れた。

「どれもイマイチね。別の所がいいわ」

どれでもいいし、興味も無い。
適当にクリスドールを撒こう。

「ダチュラが好きそうな建物を選んだのに。これとかダチュラが住んでた王宮に似てるでしょ」

クリスドールが見せてくる写真は家ではなくホテルだ。
男女が愛を育む城ではあるけれど。
私とクリスドールにとって一番相応しく無い場所だと言える。

「王宮に似ている建物は調べ尽くしたんだけど」

「誰も王宮に住みたいなんて言ってないわ」

別に住処にこだわりは無い。
私は王宮に住みたかったのではなく、好きな人と一緒にいたかっただけ。

「じゃあ、もうちょっと具体的な希望は無いの?」

無いわよ何も。
でもその時閃いた。
クリスドールにとって一番難しい要望を。

「あんたが住みたい所を探しなさい」

予想通り、クリスドールは頭をひねった。
表情は変わらないけれど。
機械人形であるクリスドールが、自分の望みを考えることほど難しいことは無いわよね。

「それは、どうすればいいの?」

「いろいろ見て、考えるのよ」

「分かった」

クリスドールは去って行った。
上手くいったわ。
このままオーバーヒートしてくれたら、私は嬉しいけれど。

そんな私の思いとは裏腹に、クリスドールは毎日私につきまとう。
どうなっているのよ。

「家は見つかったの?」

「考えてる」

早く壊れてしまえばいいのに。
けれどこの子は、私の住処である地下までは下りてはこない。
それは私が禁じているから。

「ダチュラ最近はお友達と遊ばないんだね。すぐに帰ってくるし。忙しいの?」

忙しすぎるわ、あなたのせいでね。

「もう国の破壊を止めたのに、新しいことを始めたんだね」

私に新しいことなんて、何一つ始めることなんてできない。
私の時は止まっている。

「新しいことは、オレも手伝えること?」

クリスのせいで、あなたは私を手伝うことができないわ。
私はクリスドールを無視して、自分の住処へ戻って行った。

毎日クリスドールを無視し続け、私のゴーレムは完成間近となった。
急いで帰宅すると、廃工場の隅っこでクリスドールが膝を抱えて座っていた。
表情はいつものように笑顔だけれど、何だかぼーっとしているみたい。
そろそろ頭でも爆発してくれるかしら。
クリスドールが私を見つけると、笑いながら手を振る。
どいつもこいつも元気そうで腹が立つわ。

急いで地下に降りようとした時、下から叫び声が聞こえた。
私の住処から、人の声がするなんてありえない。
思わず後ずさりする。
そして勢いよく地上へ駆けあがって来た人物を見て、私は硬直した。
見慣れた金髪に青い目、ブライトだった。

「ダチュラさん」

彼が私の名前を囁いた。
どうしてあなたがいるのよ?
クリスドールを横目で見た。
いつもの表情で微笑んでいる。
ブライトが地下に降りて行くのを黙って見ていたということ?
私がこの国への破壊活動を止めていないと知って、ブライトに止めさせようとしたの?

私は瞬時にその考えを取り消した。
いえ、そんなわけ無いわね。
私はクリスドールに地下へ下りることを禁じてはいたけれど、侵入者を止めろとは命令していなかった。
だからクリスドールは、ブライトが地下へ下りて行くのをただ見ていただけだったのね。
つまり、問題なのはブライトが何故ここにいるかということ。

「ダチュラさん、クリスドールとグルだったんですか?」

ブライトは困惑の表情で私に尋ねる。
その発言に私も困惑する。
グル?

「エネミーを使って、クリスドールを英雄に仕立て上げたんですか? 一体何がしたいんですか!」

違うわ。
結果的にそうなっただけで。
でもこの状況を見たら、そう考えるのが妥当かもしれない。
クリスドールがここにいて、私の住処にゴーレムがある。
完璧な物的証拠ね。

「何とか言ってくださいよ!」

ブライトが私に飛びつき、私は地面に叩きつけられた。
ブライトは私の肩を抑え込む。

「言い訳しないんですか! 今までどういうつもりだったんですか!」

彼の手に力が込められる。
けれど痛くはないわ。
私にはもう、痛みなんて感じない。

「多くの人が亡くなったんですよ! ジェイド先輩も大怪我したんです!」

ブライトの瞳が怒りに燃えていた。
けれど、悲しみの表情を浮かべている。
ああ、私はもしかしたら悪いことをしてしまったのかもしれない。
ブライトの美しい青い瞳を、こんなにも歪めてしまったのだから。
あの人と重なる……
お願いだから、そんな目で私を見ないで――。

これ以上彼の顔を見ていられなくて、私は目をつぶった。
瞼の向こうで、何か鈍い音がした。
何かしら?
ゆっくり目を開けると、私の上にブライトはいなかった。
その代わり、傍らにクリスドールが立っている。
そして、その拳には血痕がついていた。

そっと反対側を見ると、少し離れた場所にブライトが倒れていた。
暗くてよく見えない。
彼の青い瞳がどこにも無い。

「片づけ手伝うよ」

クリスドールが微笑みながら私に言った。
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