5 / 26
第4章
3年前の事件と1年前の奇跡「ハモネーにおとずれた危機と現れた英雄」
しおりを挟む
きちんと舗装された道はとても歩きやすい。
寸分の狂いもなく、私は同じ時間に出社する。
時々こちらを振り向く人や、声をかけてくる人も多いけど、相手にしていたら遅刻してしまうわ。
ハモネーは潜力だけに頼らず、他国から科学技術も吸収し目覚ましい成長を遂げた。
都市開発も着々と進み、特に国家防衛管理局がある地域には高層ビルが立ち並んでいる。
昼夜人通りも多く活気があり、能力値が低い人でも安心して出歩ける。
そう、とても平和な国。
高層ビルの一つに備え付けられている映像放送を写す画面は、今日も爽やかな笑顔で微笑む英雄の姿があった。
『人を助けることに理由は必要ありません』
『このように純白の英雄クリスドール様は言い残し、その場を後にしました。彼に賛同するように、各地では国防ボランティア集団が生まれています。エネミーパニックから3年、我々は謎のエネミーに負けることなく、さらなる平和と繁栄を……』
画面に映る純白の英雄クリスドール、それを称える女性キャスター。
街を歩く若い女の子はキャーキャー言いながら画面の英雄に見とれ、男の子達は羨望の眼差しを向けている。
クリスドールが現れてから1年経つけど、英雄ブームは未だに盛り上がっている。
本人の素性が世間に全く知られていないため許可をとれなかったのか、非合法のグッズまで販売される有様。
髪も肌もそして目まで、人間離れした色素の青年。
透き通るような白い肌という表現があるけれど正にそのとおりで、白を通り越して透明とうい表現が合っているかもしれないわね。
顔は完璧に整い、いつも爽やかに微笑み、そして何よりも強い。
そんなあの子は、英雄という要素だけでなく世間からアイドルスターのような見方をされている。
私はいつものように出社し、まずは自分のデスクで簡単な書類仕事をすることにした……のだけれど。
「先輩~。ちょっとお時間いいですか?」
私の背後にリアが立っていた。
いつもより表情が硬いみたい。
昨日の合コン……じゃなくてお食事会のことで、他の女の子から何か言われたのかしら?
「私……ジェイドさんに嫌われたかもです」
あらあら、そっちの話ね。
確か昨日は、お食事会の後に帰り道が逆にも関わらずジェイドと帰って行ったはず。
そこで何かやらかしたのかしら。この子は。
「何かあったの?」
「ジェイドさんに、君は平和ボケしすぎているから態度を改めた方がいいって言われました。これって、嫌われてますよね?」
「一緒に帰ってからすぐ言われたの?」
「いえ、私がいろいろ聞いた後で。しつこかったのかも……」
話が長くなりそうね。
離れた席で作業をしている主任が、こっちを気にしている。
あまり話していると怒られてしまうわ。
「リアちゃん。ランチの時に話を聞かせてくれるかしら」
リアは力強く頷いた。
ランチは仕事場近くのカフェ。
内装が飾り立て過ぎずシンプルで少し気にいっている。
私はカフェオレと小さなマフィンを頼んだ。
向かいに座るリアの前にはキャラメルマキアートとサンドイッチが置かれている。
「先輩、小食ですね。だからスタイルをキープされているんですね」
「私は朝ごはんを食べすぎちゃったの。リアちゃんだってスタイルいいわよ」
リアは溜息をつきながらサンドイッチに手を伸ばした。
「それで昨日なんですけど。私どうしてもジェイドさんをゲットしたくて、いっぱい質問しちゃったんですよ。そしたらたぶん……あんまり聞いてほしくないことも聞いちゃったぽくて。地雷を踏んだってやつですかね」
「ジェイドさんって明るい性格だから、そんなに怒ることもないと思っていたけれど」
「いや~後から考えたら不謹慎だったなって。私、3年前の『エネミーパニック』について聞いちゃったんです」
3年前、ハモネーは突如謎の敵に襲われた。
その敵は全身鋼鉄の蛇のようなムカデのようなモンスターという表現をされているけれど、未だにどこから現れて何が原因なのか誰も特定できず、いつの間にか単純にエネミーと呼ばれるようになった。
「先輩とジェイドさんって同期なんですよね?」
「時期は少しずれるけれど、だいたい同じね。ジェイドさんが新入社員として先に入社していて、私はその少し後に事務として入ったから」
「先輩とジェイドさんが入社してすぐに『エネミーパニック』が起きたわけですよね。それでジェイドさんは新人でエネミーとの戦いに勝って、頭角を現したって聞いていたんですけど。それについて詮索したら、ジェイドさん不機嫌になっちゃって……」
なるほどね。
エネミーパニックはハモネーにとっても、国家防衛管理局にとっても一大事件だった。
けれど3年という月日が経った今、1年前にクリスドールという完全無欠の英雄が現れたこともあり危機意識は薄れていった。
エネミーが現れるのは郊外であり、都市部の人間にはさらに危機感は無い。
リアも入社したばかりということもあり、当時をあまり知らなかったのね。
「あの時は大変だったのよ。国家防衛管理局ができて以来、初めての本格的な戦闘だったから。報道もされていたけど、死者もかなりいたのよ。ジェイドさんの同僚や先輩も亡くなったしね」
「そう……ですよね。先輩に当時のことを聞いて、予行練習しておけば良かった」
予行練習という表現をしているあたりで、リアが落ち込んでいるのはジェイドに悪いことを言ったという部分ではないみたい。
ジェイドをものにするというミッションを失敗したことを悔いているのね。
なかなか根性がある子だわ。
「まあ、ジェイドさんの性格なら謝れば大丈夫じゃないかしら。それに、あまりにも危機感が無いリアちゃんを心配したのかもしれないわよ」
「う~ん、確かにこれをチャンスに変えて逆転することもできますよね。昨日の合コンはジェイドさん狙いで他の人とはほとんど話さなかったしぃ。私頑張ります! 先輩ありがとうございます!」
そう言ってリアはサンドイッチを平らげた。
本当に元気で平和ボケした子ね。
寸分の狂いもなく、私は同じ時間に出社する。
時々こちらを振り向く人や、声をかけてくる人も多いけど、相手にしていたら遅刻してしまうわ。
ハモネーは潜力だけに頼らず、他国から科学技術も吸収し目覚ましい成長を遂げた。
都市開発も着々と進み、特に国家防衛管理局がある地域には高層ビルが立ち並んでいる。
昼夜人通りも多く活気があり、能力値が低い人でも安心して出歩ける。
そう、とても平和な国。
高層ビルの一つに備え付けられている映像放送を写す画面は、今日も爽やかな笑顔で微笑む英雄の姿があった。
『人を助けることに理由は必要ありません』
『このように純白の英雄クリスドール様は言い残し、その場を後にしました。彼に賛同するように、各地では国防ボランティア集団が生まれています。エネミーパニックから3年、我々は謎のエネミーに負けることなく、さらなる平和と繁栄を……』
画面に映る純白の英雄クリスドール、それを称える女性キャスター。
街を歩く若い女の子はキャーキャー言いながら画面の英雄に見とれ、男の子達は羨望の眼差しを向けている。
クリスドールが現れてから1年経つけど、英雄ブームは未だに盛り上がっている。
本人の素性が世間に全く知られていないため許可をとれなかったのか、非合法のグッズまで販売される有様。
髪も肌もそして目まで、人間離れした色素の青年。
透き通るような白い肌という表現があるけれど正にそのとおりで、白を通り越して透明とうい表現が合っているかもしれないわね。
顔は完璧に整い、いつも爽やかに微笑み、そして何よりも強い。
そんなあの子は、英雄という要素だけでなく世間からアイドルスターのような見方をされている。
私はいつものように出社し、まずは自分のデスクで簡単な書類仕事をすることにした……のだけれど。
「先輩~。ちょっとお時間いいですか?」
私の背後にリアが立っていた。
いつもより表情が硬いみたい。
昨日の合コン……じゃなくてお食事会のことで、他の女の子から何か言われたのかしら?
「私……ジェイドさんに嫌われたかもです」
あらあら、そっちの話ね。
確か昨日は、お食事会の後に帰り道が逆にも関わらずジェイドと帰って行ったはず。
そこで何かやらかしたのかしら。この子は。
「何かあったの?」
「ジェイドさんに、君は平和ボケしすぎているから態度を改めた方がいいって言われました。これって、嫌われてますよね?」
「一緒に帰ってからすぐ言われたの?」
「いえ、私がいろいろ聞いた後で。しつこかったのかも……」
話が長くなりそうね。
離れた席で作業をしている主任が、こっちを気にしている。
あまり話していると怒られてしまうわ。
「リアちゃん。ランチの時に話を聞かせてくれるかしら」
リアは力強く頷いた。
ランチは仕事場近くのカフェ。
内装が飾り立て過ぎずシンプルで少し気にいっている。
私はカフェオレと小さなマフィンを頼んだ。
向かいに座るリアの前にはキャラメルマキアートとサンドイッチが置かれている。
「先輩、小食ですね。だからスタイルをキープされているんですね」
「私は朝ごはんを食べすぎちゃったの。リアちゃんだってスタイルいいわよ」
リアは溜息をつきながらサンドイッチに手を伸ばした。
「それで昨日なんですけど。私どうしてもジェイドさんをゲットしたくて、いっぱい質問しちゃったんですよ。そしたらたぶん……あんまり聞いてほしくないことも聞いちゃったぽくて。地雷を踏んだってやつですかね」
「ジェイドさんって明るい性格だから、そんなに怒ることもないと思っていたけれど」
「いや~後から考えたら不謹慎だったなって。私、3年前の『エネミーパニック』について聞いちゃったんです」
3年前、ハモネーは突如謎の敵に襲われた。
その敵は全身鋼鉄の蛇のようなムカデのようなモンスターという表現をされているけれど、未だにどこから現れて何が原因なのか誰も特定できず、いつの間にか単純にエネミーと呼ばれるようになった。
「先輩とジェイドさんって同期なんですよね?」
「時期は少しずれるけれど、だいたい同じね。ジェイドさんが新入社員として先に入社していて、私はその少し後に事務として入ったから」
「先輩とジェイドさんが入社してすぐに『エネミーパニック』が起きたわけですよね。それでジェイドさんは新人でエネミーとの戦いに勝って、頭角を現したって聞いていたんですけど。それについて詮索したら、ジェイドさん不機嫌になっちゃって……」
なるほどね。
エネミーパニックはハモネーにとっても、国家防衛管理局にとっても一大事件だった。
けれど3年という月日が経った今、1年前にクリスドールという完全無欠の英雄が現れたこともあり危機意識は薄れていった。
エネミーが現れるのは郊外であり、都市部の人間にはさらに危機感は無い。
リアも入社したばかりということもあり、当時をあまり知らなかったのね。
「あの時は大変だったのよ。国家防衛管理局ができて以来、初めての本格的な戦闘だったから。報道もされていたけど、死者もかなりいたのよ。ジェイドさんの同僚や先輩も亡くなったしね」
「そう……ですよね。先輩に当時のことを聞いて、予行練習しておけば良かった」
予行練習という表現をしているあたりで、リアが落ち込んでいるのはジェイドに悪いことを言ったという部分ではないみたい。
ジェイドをものにするというミッションを失敗したことを悔いているのね。
なかなか根性がある子だわ。
「まあ、ジェイドさんの性格なら謝れば大丈夫じゃないかしら。それに、あまりにも危機感が無いリアちゃんを心配したのかもしれないわよ」
「う~ん、確かにこれをチャンスに変えて逆転することもできますよね。昨日の合コンはジェイドさん狙いで他の人とはほとんど話さなかったしぃ。私頑張ります! 先輩ありがとうございます!」
そう言ってリアはサンドイッチを平らげた。
本当に元気で平和ボケした子ね。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜
月城 亜希人
ファンタジー
二〇二一年初夏六月末早朝。
蝉の声で目覚めたカガミ・ユーゴは加齢で衰えた体の痛みに苦しみながら瞼を上げる。待っていたのは虚構のような現実。
呼吸をする度にコポコポとまるで水中にいるかのような泡が生じ、天井へと向かっていく。
泡を追って視線を上げた先には水面らしきものがあった。
ユーゴは逡巡しながらも水面に手を伸ばすのだが――。
おっさん若返り異世界ファンタジーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)
IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。
世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。
不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。
そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。
諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる……
人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。
夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ?
絶望に、立ち向かえ。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。
阿吽
ファンタジー
クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった!
※カクヨムにて先行投稿中
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる