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第4章
3年前の事件と1年前の奇跡「ハモネーにおとずれた危機と現れた英雄」
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きちんと舗装された道はとても歩きやすい。
寸分の狂いもなく、私は同じ時間に出社する。
時々こちらを振り向く人や、声をかけてくる人も多いけど、相手にしていたら遅刻してしまうわ。
ハモネーは潜力だけに頼らず、他国から科学技術も吸収し目覚ましい成長を遂げた。
都市開発も着々と進み、特に国家防衛管理局がある地域には高層ビルが立ち並んでいる。
昼夜人通りも多く活気があり、能力値が低い人でも安心して出歩ける。
そう、とても平和な国。
高層ビルの一つに備え付けられている映像放送を写す画面は、今日も爽やかな笑顔で微笑む英雄の姿があった。
『人を助けることに理由は必要ありません』
『このように純白の英雄クリスドール様は言い残し、その場を後にしました。彼に賛同するように、各地では国防ボランティア集団が生まれています。エネミーパニックから3年、我々は謎のエネミーに負けることなく、さらなる平和と繁栄を……』
画面に映る純白の英雄クリスドール、それを称える女性キャスター。
街を歩く若い女の子はキャーキャー言いながら画面の英雄に見とれ、男の子達は羨望の眼差しを向けている。
クリスドールが現れてから1年経つけど、英雄ブームは未だに盛り上がっている。
本人の素性が世間に全く知られていないため許可をとれなかったのか、非合法のグッズまで販売される有様。
髪も肌もそして目まで、人間離れした色素の青年。
透き通るような白い肌という表現があるけれど正にそのとおりで、白を通り越して透明とうい表現が合っているかもしれないわね。
顔は完璧に整い、いつも爽やかに微笑み、そして何よりも強い。
そんなあの子は、英雄という要素だけでなく世間からアイドルスターのような見方をされている。
私はいつものように出社し、まずは自分のデスクで簡単な書類仕事をすることにした……のだけれど。
「先輩~。ちょっとお時間いいですか?」
私の背後にリアが立っていた。
いつもより表情が硬いみたい。
昨日の合コン……じゃなくてお食事会のことで、他の女の子から何か言われたのかしら?
「私……ジェイドさんに嫌われたかもです」
あらあら、そっちの話ね。
確か昨日は、お食事会の後に帰り道が逆にも関わらずジェイドと帰って行ったはず。
そこで何かやらかしたのかしら。この子は。
「何かあったの?」
「ジェイドさんに、君は平和ボケしすぎているから態度を改めた方がいいって言われました。これって、嫌われてますよね?」
「一緒に帰ってからすぐ言われたの?」
「いえ、私がいろいろ聞いた後で。しつこかったのかも……」
話が長くなりそうね。
離れた席で作業をしている主任が、こっちを気にしている。
あまり話していると怒られてしまうわ。
「リアちゃん。ランチの時に話を聞かせてくれるかしら」
リアは力強く頷いた。
ランチは仕事場近くのカフェ。
内装が飾り立て過ぎずシンプルで少し気にいっている。
私はカフェオレと小さなマフィンを頼んだ。
向かいに座るリアの前にはキャラメルマキアートとサンドイッチが置かれている。
「先輩、小食ですね。だからスタイルをキープされているんですね」
「私は朝ごはんを食べすぎちゃったの。リアちゃんだってスタイルいいわよ」
リアは溜息をつきながらサンドイッチに手を伸ばした。
「それで昨日なんですけど。私どうしてもジェイドさんをゲットしたくて、いっぱい質問しちゃったんですよ。そしたらたぶん……あんまり聞いてほしくないことも聞いちゃったぽくて。地雷を踏んだってやつですかね」
「ジェイドさんって明るい性格だから、そんなに怒ることもないと思っていたけれど」
「いや~後から考えたら不謹慎だったなって。私、3年前の『エネミーパニック』について聞いちゃったんです」
3年前、ハモネーは突如謎の敵に襲われた。
その敵は全身鋼鉄の蛇のようなムカデのようなモンスターという表現をされているけれど、未だにどこから現れて何が原因なのか誰も特定できず、いつの間にか単純にエネミーと呼ばれるようになった。
「先輩とジェイドさんって同期なんですよね?」
「時期は少しずれるけれど、だいたい同じね。ジェイドさんが新入社員として先に入社していて、私はその少し後に事務として入ったから」
「先輩とジェイドさんが入社してすぐに『エネミーパニック』が起きたわけですよね。それでジェイドさんは新人でエネミーとの戦いに勝って、頭角を現したって聞いていたんですけど。それについて詮索したら、ジェイドさん不機嫌になっちゃって……」
なるほどね。
エネミーパニックはハモネーにとっても、国家防衛管理局にとっても一大事件だった。
けれど3年という月日が経った今、1年前にクリスドールという完全無欠の英雄が現れたこともあり危機意識は薄れていった。
エネミーが現れるのは郊外であり、都市部の人間にはさらに危機感は無い。
リアも入社したばかりということもあり、当時をあまり知らなかったのね。
「あの時は大変だったのよ。国家防衛管理局ができて以来、初めての本格的な戦闘だったから。報道もされていたけど、死者もかなりいたのよ。ジェイドさんの同僚や先輩も亡くなったしね」
「そう……ですよね。先輩に当時のことを聞いて、予行練習しておけば良かった」
予行練習という表現をしているあたりで、リアが落ち込んでいるのはジェイドに悪いことを言ったという部分ではないみたい。
ジェイドをものにするというミッションを失敗したことを悔いているのね。
なかなか根性がある子だわ。
「まあ、ジェイドさんの性格なら謝れば大丈夫じゃないかしら。それに、あまりにも危機感が無いリアちゃんを心配したのかもしれないわよ」
「う~ん、確かにこれをチャンスに変えて逆転することもできますよね。昨日の合コンはジェイドさん狙いで他の人とはほとんど話さなかったしぃ。私頑張ります! 先輩ありがとうございます!」
そう言ってリアはサンドイッチを平らげた。
本当に元気で平和ボケした子ね。
寸分の狂いもなく、私は同じ時間に出社する。
時々こちらを振り向く人や、声をかけてくる人も多いけど、相手にしていたら遅刻してしまうわ。
ハモネーは潜力だけに頼らず、他国から科学技術も吸収し目覚ましい成長を遂げた。
都市開発も着々と進み、特に国家防衛管理局がある地域には高層ビルが立ち並んでいる。
昼夜人通りも多く活気があり、能力値が低い人でも安心して出歩ける。
そう、とても平和な国。
高層ビルの一つに備え付けられている映像放送を写す画面は、今日も爽やかな笑顔で微笑む英雄の姿があった。
『人を助けることに理由は必要ありません』
『このように純白の英雄クリスドール様は言い残し、その場を後にしました。彼に賛同するように、各地では国防ボランティア集団が生まれています。エネミーパニックから3年、我々は謎のエネミーに負けることなく、さらなる平和と繁栄を……』
画面に映る純白の英雄クリスドール、それを称える女性キャスター。
街を歩く若い女の子はキャーキャー言いながら画面の英雄に見とれ、男の子達は羨望の眼差しを向けている。
クリスドールが現れてから1年経つけど、英雄ブームは未だに盛り上がっている。
本人の素性が世間に全く知られていないため許可をとれなかったのか、非合法のグッズまで販売される有様。
髪も肌もそして目まで、人間離れした色素の青年。
透き通るような白い肌という表現があるけれど正にそのとおりで、白を通り越して透明とうい表現が合っているかもしれないわね。
顔は完璧に整い、いつも爽やかに微笑み、そして何よりも強い。
そんなあの子は、英雄という要素だけでなく世間からアイドルスターのような見方をされている。
私はいつものように出社し、まずは自分のデスクで簡単な書類仕事をすることにした……のだけれど。
「先輩~。ちょっとお時間いいですか?」
私の背後にリアが立っていた。
いつもより表情が硬いみたい。
昨日の合コン……じゃなくてお食事会のことで、他の女の子から何か言われたのかしら?
「私……ジェイドさんに嫌われたかもです」
あらあら、そっちの話ね。
確か昨日は、お食事会の後に帰り道が逆にも関わらずジェイドと帰って行ったはず。
そこで何かやらかしたのかしら。この子は。
「何かあったの?」
「ジェイドさんに、君は平和ボケしすぎているから態度を改めた方がいいって言われました。これって、嫌われてますよね?」
「一緒に帰ってからすぐ言われたの?」
「いえ、私がいろいろ聞いた後で。しつこかったのかも……」
話が長くなりそうね。
離れた席で作業をしている主任が、こっちを気にしている。
あまり話していると怒られてしまうわ。
「リアちゃん。ランチの時に話を聞かせてくれるかしら」
リアは力強く頷いた。
ランチは仕事場近くのカフェ。
内装が飾り立て過ぎずシンプルで少し気にいっている。
私はカフェオレと小さなマフィンを頼んだ。
向かいに座るリアの前にはキャラメルマキアートとサンドイッチが置かれている。
「先輩、小食ですね。だからスタイルをキープされているんですね」
「私は朝ごはんを食べすぎちゃったの。リアちゃんだってスタイルいいわよ」
リアは溜息をつきながらサンドイッチに手を伸ばした。
「それで昨日なんですけど。私どうしてもジェイドさんをゲットしたくて、いっぱい質問しちゃったんですよ。そしたらたぶん……あんまり聞いてほしくないことも聞いちゃったぽくて。地雷を踏んだってやつですかね」
「ジェイドさんって明るい性格だから、そんなに怒ることもないと思っていたけれど」
「いや~後から考えたら不謹慎だったなって。私、3年前の『エネミーパニック』について聞いちゃったんです」
3年前、ハモネーは突如謎の敵に襲われた。
その敵は全身鋼鉄の蛇のようなムカデのようなモンスターという表現をされているけれど、未だにどこから現れて何が原因なのか誰も特定できず、いつの間にか単純にエネミーと呼ばれるようになった。
「先輩とジェイドさんって同期なんですよね?」
「時期は少しずれるけれど、だいたい同じね。ジェイドさんが新入社員として先に入社していて、私はその少し後に事務として入ったから」
「先輩とジェイドさんが入社してすぐに『エネミーパニック』が起きたわけですよね。それでジェイドさんは新人でエネミーとの戦いに勝って、頭角を現したって聞いていたんですけど。それについて詮索したら、ジェイドさん不機嫌になっちゃって……」
なるほどね。
エネミーパニックはハモネーにとっても、国家防衛管理局にとっても一大事件だった。
けれど3年という月日が経った今、1年前にクリスドールという完全無欠の英雄が現れたこともあり危機意識は薄れていった。
エネミーが現れるのは郊外であり、都市部の人間にはさらに危機感は無い。
リアも入社したばかりということもあり、当時をあまり知らなかったのね。
「あの時は大変だったのよ。国家防衛管理局ができて以来、初めての本格的な戦闘だったから。報道もされていたけど、死者もかなりいたのよ。ジェイドさんの同僚や先輩も亡くなったしね」
「そう……ですよね。先輩に当時のことを聞いて、予行練習しておけば良かった」
予行練習という表現をしているあたりで、リアが落ち込んでいるのはジェイドに悪いことを言ったという部分ではないみたい。
ジェイドをものにするというミッションを失敗したことを悔いているのね。
なかなか根性がある子だわ。
「まあ、ジェイドさんの性格なら謝れば大丈夫じゃないかしら。それに、あまりにも危機感が無いリアちゃんを心配したのかもしれないわよ」
「う~ん、確かにこれをチャンスに変えて逆転することもできますよね。昨日の合コンはジェイドさん狙いで他の人とはほとんど話さなかったしぃ。私頑張ります! 先輩ありがとうございます!」
そう言ってリアはサンドイッチを平らげた。
本当に元気で平和ボケした子ね。
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