人を愛したら魔女と呼ばれていた

トトヒ

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第3章

平和なお食事会「つまらないお食事会だったわ」

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ブライトと約束したお食事会は、無事開かれることになりました。
彼は食事会の打ち合わせをするために、ちょくちょく受付に顔を出すようになった。
ブライトに女性事務社員は全員参加だと伝えると、律義に男性社員の人数を合わせてきた。
私は合コンのつもりはなかったから、人数はどうでも良かったのだけれど。

管理局の事務社員はもともと人数が少なく、声をかけた女性社員は全員参加となった。
戦闘課の社員は管理局の中でも、エリート中のエリートのため、女性事務社員は二つ返事で食事会参加となった。
まあ、社内で円滑に仕事を進めるためには同僚に恩を売っておくことも重要よね。
こうして戦闘課と、パウダールームで戦闘モードに切り替えた女性達との5対5のお食事会(合コン)が幕を開けました。

「それでは、この国で出会えたことに乾杯!」

恥ずかしげもなくクサイ乾杯の音頭をとったのは、戦闘課のエースだと謳われているジェイドだった。
炎のように真っ赤なスパイクヘアと黄金の瞳を持つ彼は、黙っていれば厳つい風貌のため近寄りがたい印象を与えている。
しかし、ひとたび口を開けばとても気さくな人間であることが分かる。

「やだ素敵! 私も出会えて良かったです~」

リアはジェイドの真ん前を陣取っていた。
私がジェイドに気が無いと知り、年功序列も無視してその席についた。
この中で一番後輩なのに先輩を無視して好きな席をとるなんて、後で他の女の子から制裁がないか少しだけ心配。

「いや~我らが新しい戦力よ。よくぞこの会を開いてくれたもんだ。お前が幹事に向いているとは見抜けなかったな」

ジェイドは隣に座っているブライトの頭をクシャクシャにした。
ブライトは慌てて髪を整え、真ん前に座る私と目が合う。

「ダチュラさんの提案なんです。ありがとうございます」

「お前がしつこく誘ったんじゃないのかあ?」

「えっ、すみませんダチュラさん。迷惑でしたか?」

「いえ、そんな。戦闘課の方たちと私たちは直接交流する機会が限られていますので、国を守る者同士でお話がしたいと思っていたんです」

ジェイドは大きな音で拍手をし始めた。
それにつられて、他の戦闘課も皆拍手をし、女性陣までもが拍手をし始める始末。

「これだ、この心意気が管理局には必要なんだよ。特に戦闘課にはな! それなのに、最近はどいつもこいつもたるんでいやがる」

ジェイドは自分のグラスに注がれた酒を一気飲みする。
見た目に負けず劣らず豪快な男ね。

「ジェイドさん、お酒つよ~い! さあ、もう一杯どうぞ~」

抜け目なくリアがジェイドのお酒を注ぐ。

「ジェイド先輩、あまり飲み過ぎないでくださいよ。いつ呼び出されるか分からないんですから」

「ばかやろう、お前と違ってこっちはベテランだぞ。酔ってようが素面だろうが、俺は負けねぇよ!」

あっという間にジェイドのグラスは空になる。
そこへすかさずリアがお酒を注ぐ。
これはそう簡単に止められそうにない。
同じことを思ったのか、ブライトと目が合い微笑み合う。
ブライトのグラスには、乾杯のために注がれたお酒がまだ半分残っていた。

「ブライトさんはあまり飲まないのですか?」

「はい……僕はあまりお酒に強くないので。非常時戦えないとまずいですし」

真面目なのね。
隣のジェイドや他の戦闘課達は普通に飲んでいる。
女性社員もとても楽しそうに談笑していた。
戦闘課は自分の武勇伝を誇らしげに語り、女性社員はオーバーリアクションで褒めたたえる。
あちらの話を聞いても、あまり身にならなそうね。

「さすがですね。そういえばこの前も警報が鳴っていましたが、あの時は大丈夫だったのでしょうか?」

ブライトが私を誘ってきた日にあった警報で、戦闘課の大半は駆り出されたはず。
彼にとってはもしかしたら、初戦闘だったのではないかしら。

「ここだけの話、すごく緊張しました。戦闘訓練は受けていたのですが、本番となると違いますね」

ブライトは恥ずかしそうに頭をかいている。

「私不安で~、ジェイドさんも参加したんですか?」

リアがジェイドに話をふった。

「俺はこいつの教育係的なものに任命されちまったからな。初戦闘はついて行ってやったよ。まあ緊張はしていたが、そこそこやれてたんじゃないか?」

ジェイドはブライトの肩をバシッと叩いた。

「いっ! でもあの『エネミー』は弱い方だったんですよね?」

ジェイドの力が強かったようで、ブライトは肩をさすっていた。

「そうだな。初級編だな。ありがたいと思えよ。俺の時みたいにいきなり上級エネミーが来たら、自分の力で何とかするしかねえ」

「ジェイドさんって、新人の頃から強かったんですよねぇ? 私、ジェイドさんが戦っている所見たいです! 映像放送されるのは、戦闘後だから残念」

リアの発言にジェイドは少し驚いたのか、目を見開いた。
それからゆっくり目を細めてグラスを置いた。

「……この前の戦い、国中に流れてもいいか?」

ジェイドはブライトを小突いた。
すかさずブライトは首をふる。

「無理です無理です。皆さんが思っているように、かっこよくなんて戦えませんよ。リアさんは『純白の英雄』に影響を受けすぎです!」

「だって、映像放送ではあの人ばかり映ってるからぁ。会ったことあります? 話したことは?」

「僕は無いです。この前が初戦闘でしたし」

「この前のエネミーはショボかったからヤツは来なかったよ。俺は数回ある。あの野郎、人気を独り占めしやがって。これまでこの国を守ってきたのは俺だっつーの!」

ジェイドはお酒を飲むことを再開した。

「すご~いジェイドさん! どんな人でしたか?」

「……分からん。話してない」

残念~とリアが笑う。
その後は取り留めもない話をし、戦闘課は特に呼び出されることもなく、その日は平和に終わった。
ブライトが途中まで送ってくれたけれど、彼はまだ新人ということもあり深い話まではできなかった。


今日の集まりは、平和すぎて完全に時間の無駄だったわ。
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