人を愛したら魔女と呼ばれていた

トトヒ

文字の大きさ
上 下
4 / 26
第3章

平和なお食事会「つまらないお食事会だったわ」

しおりを挟む
ブライトと約束したお食事会は、無事開かれることになりました。
彼は食事会の打ち合わせをするために、ちょくちょく受付に顔を出すようになった。
ブライトに女性事務社員は全員参加だと伝えると、律義に男性社員の人数を合わせてきた。
私は合コンのつもりはなかったから、人数はどうでも良かったのだけれど。

管理局の事務社員はもともと人数が少なく、声をかけた女性社員は全員参加となった。
戦闘課の社員は管理局の中でも、エリート中のエリートのため、女性事務社員は二つ返事で食事会参加となった。
まあ、社内で円滑に仕事を進めるためには同僚に恩を売っておくことも重要よね。
こうして戦闘課と、パウダールームで戦闘モードに切り替えた女性達との5対5のお食事会(合コン)が幕を開けました。

「それでは、この国で出会えたことに乾杯!」

恥ずかしげもなくクサイ乾杯の音頭をとったのは、戦闘課のエースだと謳われているジェイドだった。
炎のように真っ赤なスパイクヘアと黄金の瞳を持つ彼は、黙っていれば厳つい風貌のため近寄りがたい印象を与えている。
しかし、ひとたび口を開けばとても気さくな人間であることが分かる。

「やだ素敵! 私も出会えて良かったです~」

リアはジェイドの真ん前を陣取っていた。
私がジェイドに気が無いと知り、年功序列も無視してその席についた。
この中で一番後輩なのに先輩を無視して好きな席をとるなんて、後で他の女の子から制裁がないか少しだけ心配。

「いや~我らが新しい戦力よ。よくぞこの会を開いてくれたもんだ。お前が幹事に向いているとは見抜けなかったな」

ジェイドは隣に座っているブライトの頭をクシャクシャにした。
ブライトは慌てて髪を整え、真ん前に座る私と目が合う。

「ダチュラさんの提案なんです。ありがとうございます」

「お前がしつこく誘ったんじゃないのかあ?」

「えっ、すみませんダチュラさん。迷惑でしたか?」

「いえ、そんな。戦闘課の方たちと私たちは直接交流する機会が限られていますので、国を守る者同士でお話がしたいと思っていたんです」

ジェイドは大きな音で拍手をし始めた。
それにつられて、他の戦闘課も皆拍手をし、女性陣までもが拍手をし始める始末。

「これだ、この心意気が管理局には必要なんだよ。特に戦闘課にはな! それなのに、最近はどいつもこいつもたるんでいやがる」

ジェイドは自分のグラスに注がれた酒を一気飲みする。
見た目に負けず劣らず豪快な男ね。

「ジェイドさん、お酒つよ~い! さあ、もう一杯どうぞ~」

抜け目なくリアがジェイドのお酒を注ぐ。

「ジェイド先輩、あまり飲み過ぎないでくださいよ。いつ呼び出されるか分からないんですから」

「ばかやろう、お前と違ってこっちはベテランだぞ。酔ってようが素面だろうが、俺は負けねぇよ!」

あっという間にジェイドのグラスは空になる。
そこへすかさずリアがお酒を注ぐ。
これはそう簡単に止められそうにない。
同じことを思ったのか、ブライトと目が合い微笑み合う。
ブライトのグラスには、乾杯のために注がれたお酒がまだ半分残っていた。

「ブライトさんはあまり飲まないのですか?」

「はい……僕はあまりお酒に強くないので。非常時戦えないとまずいですし」

真面目なのね。
隣のジェイドや他の戦闘課達は普通に飲んでいる。
女性社員もとても楽しそうに談笑していた。
戦闘課は自分の武勇伝を誇らしげに語り、女性社員はオーバーリアクションで褒めたたえる。
あちらの話を聞いても、あまり身にならなそうね。

「さすがですね。そういえばこの前も警報が鳴っていましたが、あの時は大丈夫だったのでしょうか?」

ブライトが私を誘ってきた日にあった警報で、戦闘課の大半は駆り出されたはず。
彼にとってはもしかしたら、初戦闘だったのではないかしら。

「ここだけの話、すごく緊張しました。戦闘訓練は受けていたのですが、本番となると違いますね」

ブライトは恥ずかしそうに頭をかいている。

「私不安で~、ジェイドさんも参加したんですか?」

リアがジェイドに話をふった。

「俺はこいつの教育係的なものに任命されちまったからな。初戦闘はついて行ってやったよ。まあ緊張はしていたが、そこそこやれてたんじゃないか?」

ジェイドはブライトの肩をバシッと叩いた。

「いっ! でもあの『エネミー』は弱い方だったんですよね?」

ジェイドの力が強かったようで、ブライトは肩をさすっていた。

「そうだな。初級編だな。ありがたいと思えよ。俺の時みたいにいきなり上級エネミーが来たら、自分の力で何とかするしかねえ」

「ジェイドさんって、新人の頃から強かったんですよねぇ? 私、ジェイドさんが戦っている所見たいです! 映像放送されるのは、戦闘後だから残念」

リアの発言にジェイドは少し驚いたのか、目を見開いた。
それからゆっくり目を細めてグラスを置いた。

「……この前の戦い、国中に流れてもいいか?」

ジェイドはブライトを小突いた。
すかさずブライトは首をふる。

「無理です無理です。皆さんが思っているように、かっこよくなんて戦えませんよ。リアさんは『純白の英雄』に影響を受けすぎです!」

「だって、映像放送ではあの人ばかり映ってるからぁ。会ったことあります? 話したことは?」

「僕は無いです。この前が初戦闘でしたし」

「この前のエネミーはショボかったからヤツは来なかったよ。俺は数回ある。あの野郎、人気を独り占めしやがって。これまでこの国を守ってきたのは俺だっつーの!」

ジェイドはお酒を飲むことを再開した。

「すご~いジェイドさん! どんな人でしたか?」

「……分からん。話してない」

残念~とリアが笑う。
その後は取り留めもない話をし、戦闘課は特に呼び出されることもなく、その日は平和に終わった。
ブライトが途中まで送ってくれたけれど、彼はまだ新人ということもあり深い話まではできなかった。


今日の集まりは、平和すぎて完全に時間の無駄だったわ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

処理中です...