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37 君の恋愛対象
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――君の恋愛対象が同性なら。
「…………」
――すごく、嬉しいな。
「ぅ、わ……」
思い出しても、まだびっくりして、思わず、声が出ちゃった。だから、その時はもっとものすごくびっくりしちゃって、口、開いちゃった。
口開いたまま、ちょうどそのタイミングで来店したお客様の方に振り返っちゃったから、その人、すっごい驚いて、ビクってなっちゃってたくらい。
だって、あれってさ。
あれってつまり、国見さんって俺のこと。
「っ」
そ、そう言う意味ってこと、でしょ?
お風呂に浸かりながら、ぎゅっって、身体を丸めて。なんか、すごいことを言われたんだと噛み締めたりして。
だってだって、だってさ。
あの人、国見さん、かっこいいんだよ? 小さいけど、自分のお店持ってて、買い付けに海外だって渡り歩いちゃったりして。この前はスウェーデンに行ったって話してくれた。その前にはチェコ。英語もペラペラ、スペイン語もイタリア語も、ちょっとくらいなら話せて。あとポルトガル語もなんて。仕事できて、物腰柔らかで、顔も良くて、優しくて。そんな人、三十代で結婚もしてないなんて場合は大体、何か強い癖があったりすると思う。もしくはゲイ。
―― 君がゲイなら嬉しい……けど、君があの彼と恋人なら、嬉しくないって思ったよ。
なにそれ、言い方カッコ良すぎる。
ね、そんな人が俺のこと、とか、さ。
国見さんが、俺のこと?
そう、あのあとからずっと繰り返し頭の中でぐるぐる走り回ってるその言葉をもう一度、頭の中で呟いて。湯船の中で一日中立ちっぱなしでむくれがちなふくらはぎを揉みながら。
「ブグ……ブグググ……」
嘘みたいなシチュエーションの真っ只中に自分がいることが信じられなくて、顔を湯船の中につけてみる。
お湯から顔を出したら、さっきまでのは夢でしたってなったりしない? なんて思ったりして。昨日の旭輝との一日を終えて、歩き疲れた俺はもしかして湯船に浸かりながら寝ちゃってて、今日の国見さんは丸ごと夢だったんじゃないかって。今、ここで顔を上げたら、動物園行って、陽介と飲んで、ナンパされた日に巻き戻ってたりしてって。
「……聡衣?」
お湯の中に顔をつけていると、外からそっと声をかけられて、驚いて、ものすごい勢いで顔を上げた。
バシャンって!
その音に驚いたのか、もう一度、旭輝の低い声が俺のことを呼んで。
「! は、はいっ」
「大丈夫か?」
「は、ハイっ!」
曇りガラスの向こうに、ぼんやりとしたシルエット。すぐそこにいて、その曇りガラスを二度ノックした。
「ご、ごめんっ! 帰ってきたんだ? 今、出るねっ」
気が付かなかった。俺の方が早く帰ってきて、先にお風呂入っていて、帰ってきた物音が聞こえなかった。
先に入ってくれて構わないって、言われて。それを待たれると気を使われてると落ち着かないからって。本当に自分の部屋だと思ってなんでも好きにしてくれていいからって。
だから、晩御飯作り終わった後は大体帰りが遅くなる旭輝よりも先に入っちゃってた。
「いや、いい。ゆっくり入っててくれ。あまりに風呂から出て来ないから中で寝てんのかと思っただけだ悪かったな」
「う、ううん、寝てない、よ」
びっくり、した。
「聡衣」
「? うん?」
「いや……なんでもない」
「? な、何?」
「なんでもない。風呂邪魔してすまないなってだけ」
「えぇ? ねぇ、ちょっと気になるってば」
なにそれ、言いかけたんなら言ってよ。
「……大したことじゃない。今週末、忘年会で帰りが遅くなるから」
「あ、うん」
「それだけ、風呂上がったら飯にできるように温めておくな」
「は、はいっ」
なんだ。何か、言いかけたの、もっとなんか。
すごいことかなとか思っちゃったじゃん。
なんだ。飲み会の連絡か。
今週末、だって。金曜日ってこと、だよね。そっか、その日は、じゃあ、一人だ。それなら陽介誘ってどこかで飲んだり、しようかな。
そんで、国見さんのこととか相談できるかな。いや、あいつのことだから、すごい、とか、羨ましいとか言って、もしかしたら、連れてこいとか言い出しそうだけど。同類ならそれこそいいじゃんなんて、無責任に軽いノリで。
でも、一人でいても頭の中がぐるぐるするだけで、疲れちゃいそうだし。
そんな頭じゃ、土日の、しかもギフト関係ですっごい忙しくなるだろうクリスマス前の週末にミスとかしちゃいそうだし。
なんか、パッと陽介に話だけでも――。
「聡衣君は今週末、金曜、忙しいかな」
「へ?」
「大変申し訳ないんだけど、少し、遅くまでいられたりしない?」
話だけでも陽介に聞いてもらおうと思ってた……んだけど。
「本当は今日か明日に入荷するはずだったクリスマス用の小物が金曜入荷になっちゃってね。無理そうならいいんだ。急遽だし。予定もあるだろうから」
海外からの輸入、しかもコストを安くするために空輸じゃなくて船での輸送だから入荷予定がこんなふうにずれることがあるんだよって国見さんが前に教えてくれたっけ。
もう十二月、クリスマス用の小物ならこの週末にはちゃんと陳列させたいよね。むしろ、本当は遅いくらいだもん。それにクリスマス用の小物じゃ、今、売らないともうこの後一年後まで在庫になっちゃうだけ。
「……ぁ」
今週末。
金曜日……は。
「いいですよ。俺、特に用事ないし」
旭輝、いないし。
「全然、陳列、やれます」
だから、残業大丈夫ですって笑うと、国見さんもにっこりと柔らかく微笑んでくれた。
「…………」
――すごく、嬉しいな。
「ぅ、わ……」
思い出しても、まだびっくりして、思わず、声が出ちゃった。だから、その時はもっとものすごくびっくりしちゃって、口、開いちゃった。
口開いたまま、ちょうどそのタイミングで来店したお客様の方に振り返っちゃったから、その人、すっごい驚いて、ビクってなっちゃってたくらい。
だって、あれってさ。
あれってつまり、国見さんって俺のこと。
「っ」
そ、そう言う意味ってこと、でしょ?
お風呂に浸かりながら、ぎゅっって、身体を丸めて。なんか、すごいことを言われたんだと噛み締めたりして。
だってだって、だってさ。
あの人、国見さん、かっこいいんだよ? 小さいけど、自分のお店持ってて、買い付けに海外だって渡り歩いちゃったりして。この前はスウェーデンに行ったって話してくれた。その前にはチェコ。英語もペラペラ、スペイン語もイタリア語も、ちょっとくらいなら話せて。あとポルトガル語もなんて。仕事できて、物腰柔らかで、顔も良くて、優しくて。そんな人、三十代で結婚もしてないなんて場合は大体、何か強い癖があったりすると思う。もしくはゲイ。
―― 君がゲイなら嬉しい……けど、君があの彼と恋人なら、嬉しくないって思ったよ。
なにそれ、言い方カッコ良すぎる。
ね、そんな人が俺のこと、とか、さ。
国見さんが、俺のこと?
そう、あのあとからずっと繰り返し頭の中でぐるぐる走り回ってるその言葉をもう一度、頭の中で呟いて。湯船の中で一日中立ちっぱなしでむくれがちなふくらはぎを揉みながら。
「ブグ……ブグググ……」
嘘みたいなシチュエーションの真っ只中に自分がいることが信じられなくて、顔を湯船の中につけてみる。
お湯から顔を出したら、さっきまでのは夢でしたってなったりしない? なんて思ったりして。昨日の旭輝との一日を終えて、歩き疲れた俺はもしかして湯船に浸かりながら寝ちゃってて、今日の国見さんは丸ごと夢だったんじゃないかって。今、ここで顔を上げたら、動物園行って、陽介と飲んで、ナンパされた日に巻き戻ってたりしてって。
「……聡衣?」
お湯の中に顔をつけていると、外からそっと声をかけられて、驚いて、ものすごい勢いで顔を上げた。
バシャンって!
その音に驚いたのか、もう一度、旭輝の低い声が俺のことを呼んで。
「! は、はいっ」
「大丈夫か?」
「は、ハイっ!」
曇りガラスの向こうに、ぼんやりとしたシルエット。すぐそこにいて、その曇りガラスを二度ノックした。
「ご、ごめんっ! 帰ってきたんだ? 今、出るねっ」
気が付かなかった。俺の方が早く帰ってきて、先にお風呂入っていて、帰ってきた物音が聞こえなかった。
先に入ってくれて構わないって、言われて。それを待たれると気を使われてると落ち着かないからって。本当に自分の部屋だと思ってなんでも好きにしてくれていいからって。
だから、晩御飯作り終わった後は大体帰りが遅くなる旭輝よりも先に入っちゃってた。
「いや、いい。ゆっくり入っててくれ。あまりに風呂から出て来ないから中で寝てんのかと思っただけだ悪かったな」
「う、ううん、寝てない、よ」
びっくり、した。
「聡衣」
「? うん?」
「いや……なんでもない」
「? な、何?」
「なんでもない。風呂邪魔してすまないなってだけ」
「えぇ? ねぇ、ちょっと気になるってば」
なにそれ、言いかけたんなら言ってよ。
「……大したことじゃない。今週末、忘年会で帰りが遅くなるから」
「あ、うん」
「それだけ、風呂上がったら飯にできるように温めておくな」
「は、はいっ」
なんだ。何か、言いかけたの、もっとなんか。
すごいことかなとか思っちゃったじゃん。
なんだ。飲み会の連絡か。
今週末、だって。金曜日ってこと、だよね。そっか、その日は、じゃあ、一人だ。それなら陽介誘ってどこかで飲んだり、しようかな。
そんで、国見さんのこととか相談できるかな。いや、あいつのことだから、すごい、とか、羨ましいとか言って、もしかしたら、連れてこいとか言い出しそうだけど。同類ならそれこそいいじゃんなんて、無責任に軽いノリで。
でも、一人でいても頭の中がぐるぐるするだけで、疲れちゃいそうだし。
そんな頭じゃ、土日の、しかもギフト関係ですっごい忙しくなるだろうクリスマス前の週末にミスとかしちゃいそうだし。
なんか、パッと陽介に話だけでも――。
「聡衣君は今週末、金曜、忙しいかな」
「へ?」
「大変申し訳ないんだけど、少し、遅くまでいられたりしない?」
話だけでも陽介に聞いてもらおうと思ってた……んだけど。
「本当は今日か明日に入荷するはずだったクリスマス用の小物が金曜入荷になっちゃってね。無理そうならいいんだ。急遽だし。予定もあるだろうから」
海外からの輸入、しかもコストを安くするために空輸じゃなくて船での輸送だから入荷予定がこんなふうにずれることがあるんだよって国見さんが前に教えてくれたっけ。
もう十二月、クリスマス用の小物ならこの週末にはちゃんと陳列させたいよね。むしろ、本当は遅いくらいだもん。それにクリスマス用の小物じゃ、今、売らないともうこの後一年後まで在庫になっちゃうだけ。
「……ぁ」
今週末。
金曜日……は。
「いいですよ。俺、特に用事ないし」
旭輝、いないし。
「全然、陳列、やれます」
だから、残業大丈夫ですって笑うと、国見さんもにっこりと柔らかく微笑んでくれた。
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