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第3章

第35話

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オレ、角におけない二枚目男の千尋司ちひろつかさは横に『彼女』である夏目彩夜なつめあやを連れて歩いていた。


『彼女』とは言っても。
数時間限りの『彼氏彼女のフリ』だがな。

夏目宅を出発して、とりあえず駅のほうへと向かって歩いているオレたち2人。

「そんで、今日はどういう段取りなんだ?」

待ち合わせ場所と時間しか、事前に聞いていないオレは歩きながら彩夜に質問してみる。

「んー。向こうに本当に彼氏か疑われてる感じだし、とりあえず私たちがちゃんと恋人だって信じてもらうために、デートしてるって既成事実を作ろうと思って」

「ほうほう」

「うん。てことで、とりあえずカフェでも入って過ごしてようかと思うけどなんか最近人気のカフェらしくて普通に行きたいし」

有名カフェ…だと…?
なにやら既視感が。

「おい…そのカフェって、もしかしてプリンが有名なやつか…?」

「おっ、そう!へぇーツカサ知ってんだ意外!なんかそういう流行ってるものとかはとりあえず否定しといて悦に入るタイプの人間かと思ってた」

「……やかましわい」

まあ、わりとそういうタイプなとこありますけど…。
ってか知ってるもなにも、そこ先週も行ってるんすけど…。

「んん、まぁ…そこでもいいか。そんでどうすんの?」

「うん。そんでそのコが来たら、そこで話してもいいし、まぁ状況しだいで、お店出るなりして外とかで話して、彼氏いるってことを納得もらおうかと」

「なるほど。ちなみに聞いとくとソイツは熱くなりやすいタイプなん?オレ暴力反対だし、もし店内で騒がれたら、店とか周りとかに迷惑になっちゃうからなぁ」

もうそのパターンのイベントは、けっこう前に不良にからまれてる雨宮でやってるからなぁ。

つーか、今回の話に主人公タイヨウ関係ないし『イベント』ですらないし…。
なんにせよ、とにかくめんどいのはヤダ。

「ん~。いやぁどうなんだろう?別にヤンキーとかそういう感じではぜんぜん無いし、急に暴れるとかいう人では無いと思うんだけど…」

「だけど…?」

「なんていうかクセが強いっていうの…?なんか、話してるとだんだんこっちのペースを崩されるっていうかぁ…」

よくわからんが、話のすり替えの上手い詐欺師みたいなヤツってことか…?

だとしたらやっかいだな。
オレも同じ詐欺師として……って誰が主人公詐欺やねん!!

『もしもし…オレ、オレ。そう、主人公』ってアホかぁ!!!

詐欺、ダメ、ゼッタイ!

……とりあえず、1人ノリツッコミも済ませたところで、修羅場的な展開は無さそうなので、ほっと胸を撫で下ろす。

「そっか。ならまあいいか。とりあえず出たとこ勝負というか、流れにまかせますか」

「りぃーかぁーい」

……了解したのか理解したのか良くわからん返事だが、とにかく意見に相違はないようだ。


そんなこんなで目的地を改めて、再び2人で目的地へと向かう。

道すがら暇をもてあましたのか、彩夜が話しかけてくる。

「てかさー、ツカサって彼女とかいないの?」

「は…?んなもん、いたら休日にこんなことしてねーでしょーが」

「へー。そうなんだぁ」

「たりめーよ」

オレが欲しいのは、彼女よりも主人公という称号なのだ。

彼女など主人公になればいくらでもつくれる。
優先順位を間違えてはならないのだ。

「でもツカサって、ヌマブラはザコだけど、けっこう見た目は悪くないし、性格もヌマブラは弱いけど、良いヤツだからけっこうモテてもおかしくないけどねぇ?」

「ねぇ、ヌマブラがザコいこと言い過ぎじゃない…?てかオレ別にヌマブラ、ザコくないから…。お前が強すぎなだけですから」

「まあまあそれは置いといても、ホントにもしウチの学校にツカサいたら結構周りの女子からモテそうな感じするけどな~」

置いちゃったよ…。
いやオレヌマブラザコくないから!!

ザコくないよね…?

「中3のガキんちょにモテてもなぁ~。…つーか彩夜こそ好きな男の子の1人でも居ねーのか?色んなやつに告られてるのに全部断ってるわけだし、他に誰か目当てがいんの?」

とまぁ、自分でそうは聞いたものの…。

妹キャラはだいたいお兄ちゃんラブだし、そうじゃなくとも全ヒロインとくっつかなった時に、まあ恋愛だけが全てじゃないじゃん的な『家族エンド』という最後の砦としていなければいけない。

ので妹キャラに彼氏が出来たりするのは、もうちょっと先の話なんだろうけどな。

「ん~、そだなぁ…」

そんな己の運命を知るよしもない哀れな彩夜はアゴに手をあててオレの質問への答えを考えこんでいた。

「なんていうかアレなんじゃない?ちょっと同級生の男子とかガキじゃん?あんましそんな風に見れないっつーかぁ」

「ほーん。まぁたしかに中3の男子なんてアホのカタマりみたいなもんだからな。オレにも覚えがある」

『もしウチの学校に居たらモテてたかも』なんて話も出たが。

ふと自分の中学時代を思い出す…。


若気の至りというやつか。

中学生の当時のオレはというと、今よりも露骨に主人公になりたい主人公になりたいと、己の欲望がむき出しで、いわゆる『トガっていた』とでも言うのだろうか、周りの目なんて考えずにひたすらに主人公になるように、そして主人公のように振る舞うことに、突っ走っていたような気がする。

…もちろんそんなトガったやつがモテるわけも無く。
女子との色っぽい話なんてあるわけも無い。



……自分で言ってて悲しくなってきた。
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