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第3章

第25話

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以前にも話に出たことがあったが、ラブコメには【適齢期】というものが存在する。


そして、特にハーレムラブコメにおいての適齢期とは高校生2年生のことを指す。

もう1度言う。

ハーレムラブコメの適齢期とは高校2年生だ。

高校2年生ったら高校2年生なのだ!
高校2年生であるべきなのだ!!

なぜならば校内に【先輩ヒロイン】も【後輩ヒロイン】も存在するのが高校2年生。
ハーレムを築くには高校2年生がベストでマストでジャストなのだ。

韻を踏むと気持ちいいがいいのだ。


主人公が2年生となれば先輩とは必然的に3年生となる。

そしてハーレムラブコメにおいて
【3年生の先輩ヒロインとは生徒会長のことを指す】



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


憂鬱ゆううつな授業も一段落ついて昼休み。
このハーレムラブコメでは親友ポジという埋没まいぼつした存在のオレ。
クラスの雰囲気は殺伐さつばつと……。


いや、やっぱり無理だわ。韻ふむの。
別に殺伐としてねーし。

韻ふみむっず…。
無理して踏んでみたものの踏んだのは自分自身の地雷だけでした。


ともあれ、現在昼休み中である。

席順が前後で固まっている、オレとタイヨウのところへ野々村がやって来て3人で昼飯――という流れに転校生でタイヨウの隣の席である雨宮がなんとなく加わって4人でワイワイしながら昼を食べるという形も、すっかり慣れてきて、もはやいつものことのようになっている。

ワイワイと言うと、仲むつまじく聞こえるが、その会話の半分は雨宮とタイヨウの些細で本当に、ど~でも良いようなことでの言い争いである。

まあ主人公とヒロインの痴話喧嘩とも言えるのだが。

そして残りの半分は、野々村のお得意のアホ発言に総ツッコミが入ったり、学校の噂話だったり、さっきまでの授業の話だったりする。

……あれ、オレがメインで話してる時って無いんだっけ?

いやいやいやいやそんなことは無い。
オレも結構話には参加している。

雨宮とタイヨウの言い争いに間をぬってチャチャをいれたり、時には仲を取り持ってみたり。
野々村のアホ発言を的確にツッコんでみたり。

…やっぱサブやんけ!

いや、むしろでしゃばらずに要所要所で話をまとめる姿はMC的であるとも言える。

MCとは番組のメイン。
やっぱりオレはメインがよく似合う男の子であるとも言える!

『髪切った?』
『じゃあ、明日の友達紹介して』
『明日来てくるかな?』

これらのセリフを違和感なく言えるようにサングラスでも買いに行こうかしら?

まあ、とにかくオレたち4人は楽しくワイワイと昼を過ごしている。
そこにたまに後輩ヒロインの日南が、教室にやって来て5人になったり。

そんなことを思って、ふと教室の後方のドアをチラリとみやると、タイミングよくガラガラとそのドアが外側から開かれたところだった。

噂をすればなんとやらかと思って『明日来てくれる』どころか今日来ちゃったか?と、外から教室に入ってくる人物を確認するが、そこに後輩ヒロイン日南茜の姿は無く。

別のお友達だったようだ。


いやお友達という表現は適切では無いだろう。
失礼にあたるかもしれない、あの人には…。


「失礼する」

その遠くまで良く通る勇ましい声、礼儀正しすぎる物言いと共に俺たちの教室、2年A組の中に颯爽さっそうと入ってきたのは、俺たちの1年先輩にあたる3年生の女生徒だった。

そして、彼女のことをオレたちは知っている。
いや、オレたちばかりでは無い。

おそらく全校生徒が彼女のことを知っている…と言っても過言では無いぐらいに彼女は校内では有名人だ。


彼女は、先輩ヒロインの西園寺彩夏さいおんじさいかセンパイその人だ。


西園寺彩夏さいおんじさいか
オレたちの一個上にあたる3年生で、この学校の生徒会長も務めている先輩ヒロインあるあるど真中の先輩である。

長い黒髪をポニーテールでまとめ、着崩すという概念すら、そもそも持ち合わせていないのだろうかと思うほどにキッチリと、そしてしっかりと様になって着こなされている制服。

オレは学生手帳をまじまじと読んだことなど無いので知らないが。
おそらく学校の服装規定に、ほんの1ミリも反していないような着こなしは彼女が生徒会長だからなのだろうか、それともそんな彼女だからこそ生徒会長になれたのだろうか。

そもそも彼女が生徒会長であることには、ある種の必然的なバックボーンもあるのだが。

なんでも親父さんが地元の権力者というヤツで、地元の権力者とは学校とも関わりがあるのがあるあるなもんで(あ、韻ふめた?)
その娘である西園寺センパイが、いわば学校の生徒の代表である生徒会長を務めることは必然的なことである。

つまりのところ西園寺彩夏センパイは、先輩ヒロインというものに、いわゆるベタなお嬢様属性がプラスされている。


「やぁ夏目。今日も元気そうでなりよりだ」

「あ、ども。先輩。なんか用っすか?」

もはや説明不要だと思うが、もちろんタイヨウと西園寺センパイは知り合いだ。

なぜ知り合ったかというくだりは、オレのことじゃ無いし主人公腹立つからとりあえず今は説明は止めておこう。


そんなことよりオレにとって大事なのは過去では無い、今なのだ!

西園寺センパイがタイヨウを訪ねにオレたちの教室まで来るなんて、今までめったに無いことだ。

これからハーレムラブコメが加速しそうな予感がプンプンしやがる…。

そうなってくると、オレとしてもこの流れに乗り遅れるわけには絶対にいかないのだ!!


「うん、いやキミの様子も気になってはいるのだが…今日来させてもらったのは別件でね」

「別件?」

そういうと先輩はタイヨウから、スッ目線を外して、お目当ての人物へと目を向ける。


なん…だと…!?


そう2年A組に西園寺センパイが来たというのにハーレムラブコメの this is 主人公タイヨウに用が無いということは残る人間は1人しかいないだろう…!

しかし、一体何の用だろうか?
そっちのほうは全く見当もつかない。


先輩は、タイヨウの奥に座るオレ――では無くタイヨウの隣に座る雨宮のほうを向き話しだす。

「時に、雨宮。今日はキミと話したくて来たんだ。単刀直入に言うが剣道部に入らないか?」


うん。オレのわけないよね。知ってるお。



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