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第2章

第14話

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後輩ヒロイン、日南茜ひなみあかねからオレンジジュースをせびられているオレ。
将来的には主人公になるはずの男、現在リストラ候補(?)、千尋司ちひろつかさ


「いやいやいや、ちょっと待て。おかしいおかしい。お前はタイヨウにコーラをおごるんだよな?」

「はい。そうです」

「つまり、おごるがわの人間ってことだよな」

「タイヨウ先輩にはそうですよ。コーラを私がおごります」

「人にジュースおごっといて、自分のぶんのジュースはオレにおごらせるのか?」

「そうですよ?」

「それはおかしいだろ?1度の買い物で人におごりながら、おごられるなんてことは無いだろ」

「いえいえ、おかしくないですよ」

「それじゃ、実質オレがタイヨウにジュースおごってるのと同じじゃねーか」

「違いますよ。実質とか、そういう問題じゃないです。私がタイヨウ先輩のジュースを買うので、タイヨウ先輩は私に感謝します。千尋先輩は私にジュースをおごるので私から感謝されます。大事なのは誰に恩を売れるかです」


恩を売るとか下心丸出しなの発表しちゃってるし…。

「お前はタイヨウに恩を売っときたいだろうが、オレがお前に恩を売るメリットがわからんのだが…」

「美少女に恩を売っといて損はないですよ」


いやもうオレにとっては後輩ヒロインであるお前の存在自体がぶっちゃけデメリットなのだが…。

日南に恩を売るメリットか…。
オレの、親友キャラというポジションの役割を奪わないでくれるとか…?
イカン、発想が卑屈すぎる。

しかし130円くらいで恩を売れるのならば、とりあえず売るべきかもしれない。
この日南茜、考えることは潔いくらいにゲスいが、その策士っぷりはなかなかのものだ。
そんなあざといことを思いつく発想力、いつかなにかの役に立ってくれるかもしれない。


「まぁ、さすがにそれはムリがありましたか」


1人で頭の中で日南にジュースをおごるメリットを色々と考えていると、オレは日南の提案に対して数秒間、黙りこんだままでいる形になっていたようだ。
そんなオレを見て日南は、わりとあっさりジュースをおごらせるのは諦めたようで、自分の女の子らしいコンパクトな折りたたみ財布を開きながら自販機に近づいていく。


「…ったく。いつかホントにおん返せよ?」

「え…?さっすが千尋先輩!ふとっぱら!信じてましたよ!返します返します」

「調子いいなぁ…。なんかノリもかりぃし…」

オレの言葉を聞くやいなや、さっきまで開かれていた、おりたたみ財布をパタンと勢いよく折りたたみ直した。

…いや、タイヨウのぶんと野々村のぶんはお前で買うんだよ??
なんか全部オレが出すようなテンションやめてくれるかな?


こうして、オレは日南のぶんのオレンジジュースを買うことになった…。
マジでジュース代くらいの恩は返してくれよ?






ちゃっかりとカンよりも高額なペットボトルの果汁100%だかなんだか知らんがフレッシュなオレンジジュースをオレに買わせた日南とともにオレはタイヨウたちの待つ教室へと踵を返している。


タイヨウのぶんのコーラとイチゴオレと、たったいまオレに買わせたオレンジジュースをかかえながら日南は、またオレに話しかける。



「とにかく。千尋先輩、今度の土曜日ひまですか?」

「なんだよ、土曜日になにするつもりだ」

「とりあえず皆で出かけましょう!タイヨウ先輩と千尋先輩、あと雨宮先輩と泉先輩もいれて5人で遊びましょう」

「なんだ?雨宮のことギャースカ言っといて雨宮も頭数にいれてるのか?」

「ちっちっち…。虎穴に入らずんば虎子を得ず、ですよ千尋先輩。とにかく雨宮先輩はライバルなわけですし、どんな人か知っておいて損は無いですよ。それに仲良くなっちゃえばタイヨウ先輩に手を出さないように牽制することもできますしね」

「なるほど…」

…悪いやっちゃなぁコイツ。
オレよりよっぽどダークヒーローかもしれん。

てかなに、その『ちっちっち』っていう、古いアクションは。
そんな古いアクションを、いまどきの女の子がやることによって逆にかわいい感じの仕上がりになっちゃってるじゃねーか。
嗚呼、あざといあざとい…。



「なんで、教室戻ったら千尋先輩が皆で土曜日遊びに行こうって切り出して下さいよ!」

「オレが切り出すのかよ!」

「はい!お願いします。かわいい後輩のかわいい頼みですし~」

きゃぴるん!という効果音が似合いそうな、わざとらしい上目遣いで日南はオレを見る…。



……なるほど。

ようやく日南がオレを飲み物を買いに教室の外まで連れ出した理由がわかった。
このお願いのために、わざわざ飲み物を買ってくるなんて言い出して、手伝ってくれと選んだのはタイヨウではなくオレだったわけだ。

…しかもついでにオレンジジュースまで買わしてるし。

策士さくしすぎだろ。
女子まじこえぇ…。
オレとはダークヒーローの才能が違う。
オレはやはりダークヒーローにもなれないのか…。



いやいや、しかし主人公になることは諦めないぞオレは…!


とにかく皆でお出かけイベントということか…。
そこで日南は自分がメインヒロインレースを勝ち抜くための、自分のプラスになるような、なにかしらのキッカケをつくろうとしているようだ。

その、お出かけイベントはオレが言い出すのが無難《ぶなん》であると日南は考えているのだろうか。
たしかに親友ポジがしゃしゃって話し出す時って、そんな提案する時とかだけかもしれない……。
って、やかましわい。


しかし、なんか今のところ恩を返されるどころか、売ってばっかりな気がするんですけど…。



……待てよ?
 
メインヒロインを目指す、策士さくしの、後輩ヒロイン日南茜ひなみあかねのプランを逆にオレが上手く利用してやれば主役の座に一歩近づけるのでは…?

ヒロインだ主人公だのという用語はオレたちの中で共通認識として話せているが、日南はオレが主人公の座を狙っているとは夢にも思って無いだろうな…。

タイヨウへの恋愛感情は結局よくわからなかったが、とにかく日南の狙いはメインヒロインになること。
それはオレと日南にとっての共通認識だ。
しかし、オレが主人公を目指していることを日南は知らない。
これは使いようによってはアドバンテージにもなりえるかもしれない…?



日南じゃないが、オレが主役になるのにも何かキッカケは必要だ。
休日お出かけイベントはオレにとっても悪い話じゃないような気もする。


というか、よくよく考えれば。
そもそも、この皆で遊ぼうという提案を日南がオレに頼まず自分で言い出したら、それこそ親友ポジの役割もこなしていることになるよな…!?


やべぇ、やべぇ!!
そうなったらオレの知らないとこでそんな話になって、もうお出かけイベントに参加すらしてない可能性もあったわけだ…!

危ないところじゃねーか!!


行く!行く!
ボクもそのお出かけイベント行きます!!!

助かった!
オレもお出かけイベントに参加できるのだからむしろ日南には感謝せにゃならんレベルだ。


「わかったよ。仕方ねーな。これも恩な?」

「さすが頼りになるじゃないですか千尋先輩!」

なんか、上から目線で褒められたのだが、オレはクールをよそおいお出かけイベントへの参加権を獲得しながら、日南にさらに恩を売るというファインプレーを決める。
さすがオレ。だんだん調子が上がってきた。


「こう見えて義理堅い女ですから私。恩返しは安心してくださいよ」


オレの調子が上がっているなか、日南は自分の提案に、オレからすんなりとOKをもらえて調子に乗っているようだ。

まあ良い。ある意味コイツのおかげでお出かけイベントが開かれるわけだしな。

こうしてみると後輩ヒロインの日南ってのも、そんなに悪いヤツじゃないじゃないか。
オレもちゃんとお出かけイベントの頭数に入れてくれているわけだし。

オレにとって天敵てんてきみたいなやつだと思っていたけど、使いようにようっては時にオレを助けてくれる点滴てんてきのようなヤツなのかもしれない。

ダジャレの調子もあがってきているようだ。
日南、お前の強力な協力者よりもクォリティーが高いぜ?

いやいや、良いんだ良いんだ。
策士とはいえ、なにしろキミは一個下の後輩だ。
先輩であるオレのほうがどうしても優れてしまうのは仕方ないこと。むしろ後輩はちょっと自分より出来ない子だから可愛いものなのよ。
キミも、その調子でガンバりなさい。


と、ちょいちょい上から目線の日南を、さらに上から目線で見てやることに成功して、調子爆上がり気分上々のオレ。


「てゆうか、先輩」

「ん?」

「飲み物2本買ってますけど、雨宮先輩のぶんですか?」

「あ、ああ。」

オレは自販機で自分の分を買う時に、要らないとは言っていたが、ついでに雨宮のぶんも一応買っておいたのだ。


「いや、なんか1人だけ無いのもなんとなくアレだろ。別に要らなきゃオレが2本とも飲むし」

……まぁ、こういうことも主人公になるために何か役に立つかもしれんしな。
やれることはやっておく。準備周到なオレ。

そんなオレを日南は、フーンという感じでジト目で見て、また口を開いた。


「ちょっと千尋先輩のそうゆーとこ、あざといですね」


うるへー!!
誰が言うとんねん。

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