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第2章

第11話

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主人公の親友ポジションのオレ、千尋司ちひろつかさは後輩ヒロインの日南茜ひなみあかねが苦手である。


なぜかと聞かれればそれはヤツが後輩ヒロインポジションである。ということに集約される。



ハーレムラブコメにおいて後輩ヒロインポジションというものを説明しよう。

後輩ヒロインポジションは、通常時は学年が下ということはおのずと年齢が下なわけで、学校での経験も1年分の差があり。困ったり、わからないことがあったときはぴえん的な顔して、なにかと先輩に頼ってくる可愛い女の子として存在している。


しかしながらそれは、あくまでも通常時は、という話だ…。
この後輩ヒロインポジション。ハーレムラブコメのメインヒロイン争いが激化して話がもつれだすと、なぜか不思議なことに年下であるはずの彼女は、とたんに精神年齢が主人公たちを追い越してしまうのだ。
そして誰よりも大人で客観的かつ冷静な視点で主人公とヒロインたちの恋愛模様を一歩ひいたような位置で理解しているキャラクターに早変わりする。


下手をすれば作中で、急に後輩ポジションの1人語りがはいったりして、主人公とヒロインたちとの状況をわかりやすく説明してくれちゃったりもする。

そんな第三者的な裏回しの役割をこなしたりするのだ。





……さて、お分かりいただけただろうか。


つまりこの後輩ポジション、なんか主人公の親友ポジションと役割がかぶってるよね…?




しかも、主人公の親友ポジションである、こちとら主人公の恋愛対象外の同姓である男の子だ。
しかし後輩ポジションは女の子でもある。

女の子であれば親友ポジがやるような裏方的な仕事をこなしがらも都合の良いときにはメインヒロイン争いに絡ませることもできる。
ようするに後輩ポジションのヒロインとは1人で2役こなせるハーレムラブコメにはもってこいの一石二鳥的な女の子なのだ!



……そうなのだ。
親友ポジションの役割とは、昨今さっこん後輩ポジションの女の子で充分にこなせてしまうことがバレたのだ。


つまり日南茜ひなみあかねがその役割までこなしてしまうと、主人公の親友ポジションが存在する必要性が無くなってしまう。



そして必要性がなくなったキャラクターはどうなる?

答えは簡単。フェードアウトである…。

それはサラリーマンが上司にポンと肩を叩かれれ地方に飛ばされるがごとく。急に転校していったり、旅に出たり、どこかにいったわけでもないのに物語に絡まなくなったり。
とにかくなんでも理由をつけられて物語からフェードアウトさせられてしまう。



あわれなり、主人公の親友ポジションよ…。
君たちはもはやハーレムラブコメにおいては確固たる必要性のあるポジションでは無いのだ。


…そして、『君たちは』と他人事を装ってみても、このハーレムラブコメの主人公の親友ポジションとは何を隠そうオレのこと。


…つらい。つらすぎる。
こんなことが許されていいだろうか?

日南茜ひなみあかねの動きしだいではオレは、主人公になるどころか主人公の親友ポジションすら剥奪されてしまいかねないのだ!




以上の理由によりオレはこの後輩ヒロイン、日南茜ひなみあかねが苦手なのだ。
苦手どころか敵まである。


この女の子オレにとってはよんよりも、よっぽど死を予感させるアンラッキーパーソン。
主人公の親友ポジションのオレとしては常に彼女の動向どうこうには目を光らせて警戒をしなくてはならない。瞳孔どうこうを開いて警戒しなくてはならない。
…言い直すほど上手いこと言えて無かったか。




そのためにオレは日南たちの会話を『とりあえずけんだな…』とバトル漫画の強キャラのような態度で聞き役にまわっていた。



そんなオレの考えなど知るよしもなく日南はタイヨウたちと高いテンションでペラペラと喋っている


「それで結局なんなんだよ用事は?」

タイヨウが話をもとにもどす。


「そうでしたそうでした。いやぁー。ちょっと料理に目覚めまして。それでタイヨウ先輩のためにお弁当つくってみたんですよぉ」


でたよ。手作り弁当。ド定番のアイテムである。とりあえず日南も今のところは裏方にまわるよりもハーレムラブコメのメインヒロイン争いに積極的なようだ。

しかしそのド定番の手づくり弁当係りは、すでに野々村の担当になっている。


「いや、オレ弁当あるし…。泉じゃあるまいし、そんなにいっぱい食えないぞ?」

「ちょっと。わたしを大食いキャラにするのやだなぁ~」

野々村はブーッとふくれた。
こういうところは年ごろの女の子なのか、大食い扱いされることをあまり好ましくは思ってないようだ。

まぁ確かに野々村はこの前は2人分の弁当をペロリとたいらげたが、いつもは標準的な1人前の弁当で満足している。
普段は大食いしないけれど、食おうと思えば食えるタイプの大食いなのだろう。



「大丈夫です!だからご飯は抜きでオカズだけ作ってきましたから」

野々村がタイヨウのぶんの弁当をつくっていることは、日南も元々知っていることだ。


「まぁそれなら、なんとか食えるか…?」


「というわけで、先輩に私の愛情のつまったお弁当あげちゃいます!」


日南はタイヨウの机に弁当を置き。じゃーんと言ってフタを開いた。




開かれた弁当を皆で見る。

そこには、おそらく卵焼きであろうもの。おそらくミニハンバーグであろうもの。おそらくタコであろうウィンナーであろうもの。

などなど全てに【おそらく】という文字をつける必要のある、見るも無惨むざんな見た目になってしまっているオカズたちが散りばめられていた。
いやこれミニハンバーグとかレンジでチンしただけだよね?なんでこれで、こんな見た目になっちゃうの?

ラブコメにはよくいるんだよなぁ。料理ど下手なヒロイン。
まさか日南がそれだったのか…。
普段はあざといくせに料理の腕前は全然あざとくないのかよ。





その日南の、【おそらく弁当】を見てタイヨウは何も言わずに目をぱちくりさせている。

さっきまであんなに明るかったムードメーカーの野々村も暗い表情で、言葉を失っている。


たしかにこれを見せられて、なんて言っていいものか…。
もし食レポのプロだったとしても、この【おそらく弁当】への最初のコメントはかなり迷うだろう。

ここはオレがなにか言うしかないのか…?




「これはまずいわね…」

うーむといった感じでアゴに手をあて、1人つぶやくように、だが確実に聞こえる大きさの声で雨宮がバッサリと言った。


さすが雨宮!切り込み隊長!


「うわ、ひどっ!人の料理を不味まずいって断言した!なんなんですかこの先輩!綺麗きれいな顔して言うことキツすぎるんですけど!」

日南はグイグイと雨宮にツッコミをいれる。
まあ雨宮は良く言えば素直、悪く言えば空気読めない女の子なので、それを知らない日南が驚くのも無理はない。


「あ、いや。ごめんなさい。まずいというのは見た目の話であって、味が不味まずいというわけではなくて。ほら料理は見た目と味が比例するとは限らないものだし。味は食べてみないとわからないわ」

雨宮がすこし慌てて、さっきの言葉のフォローする。やはり女の子に対してはタイヨウやオレに比べて少し物腰が柔らかくなるようだ。
フォローになっているかは、かなり疑問だが。


つまり見た目が【微妙びみょう】でも味が【美味びみよぉ】なら問題ないと言いたいのだろう。
オレってまとめ上手。


「でも、まぁ確かにそれは一理あります。てかそれです。大事なのは見た目じゃなくて味なんですよ。それに見た目が良いのは私で充分なんですよ!かわいい私が作った料理なんだから、それだけでも価値があるんです!」


日南は雨宮の意見に全乗っかりして味の重要性をアピールしだす。
いや全乗っかりどころか、雨宮もそこまでは言ってなかったが。大事なのは見た目じゃなくて中身あじだと熱弁する。

…でもそれだと見た目のかわいい日南あなたも大事なのは中身せいかくということになりませんかね?

前半と後半でなんとなく矛盾しているような気がするんですが。



「大事なのは味ってことは、お前これ自分で試食したんだろうな?」

「いやしてないですよ?なんで私が食べなきゃいけないんですか。やですよ怖い」

「なんでそれをオレには食わそうとしてるのかな?」

「だってタイヨウ先輩に食べてもらうために作ったんですもん」

「いや、あのなぁ…」

日南とタイヨウはそんなアホみたいな押し問答を続けている。

理屈で勝つのは諦めたのか、日南は急にしおらくし瞳をうるうるさせて、アゴをひき、あざとさ全開の上目遣いポーズを決める。

「…それに今朝早起きして、がんばって作ったんです」



オレはさておき、タイヨウも日南のあざとさが天然では無いとはわかっている。
しかし、だからと言って女の子から『がんばってお弁当つくったんです…』アピールをされてしまったら、見た目はどうあれ、朝早起きして弁当を作ったというのはまぎれもなく事実なのだ。
無視することなどハーレムラブコメの主人公にできるわけがない。


それを日南も重々承知なのだろう。
やはりこの女。あざとい…。

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