上 下
2 / 39
第1章

第2話

しおりを挟む

イスから急に立ち上がり例の美少女転校生を指さしているのが、このハーレムラブコメの主人公であり、オレの友達、夏目太陽なつめたいようである。

この夏目太陽はハーレムラブコメの主人公のほしのもとに生まれた男なのだ。

高校1年の春、初めて同じクラスメートとして知り合い、意気投合して色々な話を聞くうちにオレはすぐにそのことに気づいたのだった。
こいつにはハーレムラブコメの主人公のあるある的な特徴が見事に当てはまっているのである。


いくつか例をあげよう。

1、タイヨウの親は両親とも海外赴任をしていて、いまはかわいい妹と一軒家に2人暮らしをしている。
2、そんな家の近くに住み、幼稚園から高校までずっと同じの幼なじみのかわいい女の子がいる。
3、この高校にタイヨウにやたら懐いてるかわいい後輩の女の子がいる。
4、タイヨウをやたらとかわいがっている、かわいい女の子の先輩もいる。
5、そしてその全ての女の子はおそらくタイヨウにラブ的な好意を持っているだろう。


タイヨウのこのような主人公あるあるの当てはまり具合にはオレも思わず
「あれ、オレって本当は女の子で、男装して高校に通ってるんだっけ?」
と親友のはずの男の子が、実は女の子でしたパターンすらありえるのでは?と思い自分の性別までも一瞬うたがってしまったほどだ。


他にもタイヨウは、相手が大事なセリフをいったときに限って急に聴力が低下するのだろうか『え、なんか言った?』
と言いがち…。

などなど例をあげればキリがないのだが…。

そのどれもが。

夏目太陽なつめたいようはハーレムラブコメの主人公である】

ということを決定づけてしまうようなあるある設定のオンパレードを地でいく男なのだ。


そして、そこにきての美少女転校生である…。

さっき転校生というワードを聞いたときに、またあらたに1人かわいこちゃんが、このハーレムラブコメのメインヒロイン争いに参戦してきたのだとオレが考えガクガク震えるのも自然なことだ。
…いやタイヨウ君いったい何人の女の子から取り合いされれば気が済むのアナタは?


そしてこの1人語りをしている、オレ、千尋司ちひろつかさは、自分では全く認めていないがタイヨウが主人公だということをふまえて冷静に状況分析するに、どーもこのハーレムラブコメにおいては主人公の親友というポジションにあたってしまいそうなのである。

……いやいや、そんなアホな。


ハーレムラブコメの主人公の親友ポジションとは。
普段は主人公とくだらないバカ話をしたり…。
時には主人公と彼をとりまくヒロインたちとの恋愛模様を一歩も二歩もひいたところから見て、なにを言うわけでもなく、ただ物知りげに
『ふぅ仕方ねーなお前たちは。でもそんなお前らのことも全部オレはわかってるけどな』
といったような、どや顔でウンウンとうなずいたり…。
エピソードによっては、ほとんど登場もしなかったりするやつのことである…!!


……そんな親友ポジションなどまっぴらゴメンじゃい!!

オレはちっちゃな頃から主人公に憧れて生きてきたんだ!
17で親友ポジションと呼ばれている場合ではないのだ…!


イヤだイヤだ、主人公じゃなきゃヤダー!!!


と、だだっ子のようでとっても可愛らしいキュートな1面をもつという点においても、やはりオレが主人公であるべきなのだ!


認めん!認めんぞオレは!

タイヨウが主人公で、オレがその主人公の親友ポジションなど絶対に認めん!
タイヨウがどれだけ主人公にありがちな設定をもっていようが主人公の座を諦めるか!
とにかくオレは主人公というものになりたいのだ!!


しかしそんなオレの願いもむなしく、今クラスの注目の的は美少女転校生とタイヨウだ。

タイヨウの口ぶりいわく、なにやら2人には今朝なんらかの出来事があったのだろう。
やはりここらへんもラブコメの主人公である。転校前にしっかりとヒロインと遭遇そうぐうイベントをこなしておったか。

おそるべし主人公パワー…。
いやいや認めん!

もちろんオレはこの転校生とは完全に今が初対面なんだよー。ウフフ。

……なんでオレって転校前に町で偶然会ってたり、実は昔の知り合いだったりしないんだろう。

明日から登校するとき遭遇そうぐうイベントを狙ってムダにいろんなとこブラブラしてみようかなぁ。
『ちひろんの食パンくわえて町ブラ散歩』
と、低視聴率まちがいなしの番組タイトルを考えたところで、いやまず企画書通らないってんだってば、オレがメインじゃ。

という自虐的な空想世界に脳内で1人でぶっとんでいると、現実世界では美少女転校生が口を開くところだった。

「ああ、今朝の…」

と、いたって冷静な声で一言だけタイヨウに返して、ハイこの話はこれで終了とばかりに、クラス全体に顔を向き直して自己紹介をはじめた。

「はじめまして、今日からこのクラスでお世話になります雨宮鈴花あめみやすずかです」

それは、すごく短くあまりにもシンプルすぎる自己紹介だった。 

文言こそ丁寧ていねいだが雨宮鈴花は、無表情で、愛想笑いや柔和な雰囲気など一切無く。
ただその場に立ち、事務的に挨拶あいさつをこなしているように見える。



「自己紹介も済みましたし、もう席についてよろしいでしょうか?」

といって担任にむかって確認し、雨宮鈴花は自分の席を探すようにキョロキョロしている。


あ、なにこの子クール系ヒロインのパターン?


しかし担任も彼女の自己紹介の短さに、このままだと雨宮がクラスで浮いてしまうのではないかと心配でもしたのだろうか。

「雨宮、みんなに雨宮のキャラクターを知ってもらうためにも、もうすこし自己紹介してみたらどうだ?ほら趣味とか特技とか好きなモノとか」

「いえ、自分の話をするのはあまり得意ではないので大丈夫です。私の席はどこですか?」

と担任の出した助け船(?)を完全に沈没させて、自己紹介を打ち切った。
彼女は浮くことも沈めることも気にとめていないのだろう。

あ、この子あきらかにクール系ヒロインっすね。


担任の教師は、そんなクール系ヒロインの雨宮鈴花に圧倒されたのか。

「まあ、そうか。無理にあれこれ喋ることもないしな。アッハッハッ」

と苦笑い(?)をしている。
それに雨宮は愛想笑いも一切せずに凛とした姿勢で担任を見つめている。

「っと雨宮の席だな?そうだな雨宮の席は~っと。おお、あそこが空いてるな」

そんな雨宮の視線に気づいたのか、雨宮の席の話に話題を移す。
担任が指さしたのは、窓側の一番奥に位置するオレの席となり…。

ではなく一個前の席の、タイヨウのとなり席だ…。


これもタイヨウの持つ主人公パワーの仕業なのだろう。
なぜか雨宮が転校してくるまで、タイヨウのとなりの席は空席となっていたのだ

本来クラスに余分な席など用意するはずが無いが、それが存在させてしてしまうのがラブコメの主人公の力なのだ。


この空席、我らが担任の『生徒主導で話し合いをするときに私が座る用のイスだ。ワハハ』という一応の存在理由はあるのだが。

それにしたって不自然である。
そういう席は一番後ろのどこかにもうけるのか妥当だろう。
そう!例えば窓際の一番奥に位置するオレの席のとなりなんか超妥当なんじゃないでしょーか!?

かくゆうオレの隣の席は実際は空席などではなく、しっかりと生徒が座っている。

しかも男子…。

彼は今まで、たまーに担任が座るだけの、自分の前の席の、この空席の存在をどうおもっていたのだろう…。
しかし今は美少女転校生の雨宮が座るということでちょっと嬉しそうな顔をしている。
現金なヤローだ。

そんな違和感ぬぐいきれぬこの空席もタイヨウのとなりにあるとすれば、オレからしたら存在理由は非常に簡単だ。
美少女転校生の座席は主人公のとなりと古来いにしえから決まっている。(古来といにしえって同じ意味だっけ?やばいわかんない?頭痛が痛い)

つまりこの空席は、担任の先生のためでもなく、オレのためでもなく、ましてやオレのとなりの現金ヤローのためでもなく、ハーレムラブコメの主人公のためだけに存在しているのだ。

しかしながら担任が座るためという大義名分のような理由に、担任に気に入られているのも主人公のあるあるか…。
と納得していたオレには、このハーレムラブコメに転校生まで登場するとは想像できていなかった。
まいったな、おい…。



……ん?

しかし待てよ、この転校生のクール系ヒロイン、主人公と既に1度会ってるとはいえ、まだほとんど初対面。

まだ主人公にホレるような段階ではない…!?


あれ……!!?

もしかしたらもしかしたら、これからのオレの動きかたしだいでは、彼女をハーレムラブコメのヒロインの1人にしないようにもできるのではないだろうか!?

あわよくば彼女とオレの、ハーレムじゃない、オレが主人公(ここ重要!超重要!)の純愛ラブコメがスタートするのでは…?


キタ!
オレの時代!!


オレが主人公になれるわずかな希望が見えてきたのである!!

しおりを挟む

処理中です...