教師が生徒にしかも男子に手を出してどうするんですか

上野佐栁

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怪我

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 高校生に入学してから数日が経ち、明日は休日だ。

 「なぁなぁ、お前と渦巻先生って幼馴染なんだろ?」
  
 武井がいきなりわかりきったことを聞いてきた。

 「うん。と言っても七年ぐらい離れていたからお互い知らないことの方が多いかも」

 そう。俺が小学生の時にかっちゃんは引っ越して行った。大学の進学のために地元を離れ、この七年間一度も俺に会いに来なかった。

 「その渦巻先生なんだけどさぁ、体育の授業もう少し優しくしてってお願いできないか?」
  
 「は、はあ?」

 意味不明だ。

 「だーかーらー!あの先生ってスパルタだろ?だからもう少し穏やかになってほしいって、きょーちゃんから言ってくれない⁇」

 そうだった。武井は運動神経はいいが、とてもめんどくさがりでメンタルが豆腐以下だ。

 「……」

 俺は武井を少し呆れた目で見た。

 「なんだよ!お前はいいよなぁ?幼馴染の特権持っているからそんなに厳しくないかもしれないが、俺たちはそんな特権持ってないんだぞ⁉︎」

 武井が特権とか贔屓だとずっと叫び続けるもんだから後ろからかっちゃんがぬっと現れた。

 「あっ……」

 「な、なんだよ?」
  
 俺がいきなり後ろを見たから少し不思議そうに武井も振り返った。

 「鈴木……」

 「うううう!渦巻先生⁉︎すんまっせん!!!!!!!矯正貸すんで、俺はこれで!」
  
 シュッ

 光の速さで俺を囮にして、武井は逃げて行った。

 「お、おい!」

 逃げる際に俺をかっちゃんの方へと押したせいで二人とも仲良く階段の踊り場まで落ちてしまった。

 ドドドドドーン

 「きゃあああ⁉︎」

 「どうしたの⁉︎」

 「都賀くんと渦巻先生が!」

 「か、かっちゃん⁉︎大丈夫!!!!!!!」

 「……」

 「かっちゃん⁉︎」

 必死に呼びかけたけど頭打って気絶してしまった。

 俺を庇ったからかっちゃんが怪我をしたんだ。

 保健室

 「グスグスッ」

 「……」

 「かっちゃんばか!あほ!もっと自分を大切にしろよなぁ!」

 「わ、悪かった」

 保健室に運ばれたあと、少したら目を覚ましたかっちゃんは問題ない。戻るって言ったけど、右腕を痛めて、今はそれどころじゃない。俺のせいで怪我をしたって思ったら涙が止まらなくなった。

 「うゔぅぅ!かっちゃんが死んじゃったらどうしようって思ったよ」

 「ごめんなぁ?」

 そう謝りながら俺をそっと抱きしめる。

 「もう絶対にあんな無茶しないでよ?」

 「ああ」

 そもそも原因は武井だが、今はかっちゃんが怪我をした事実を受け入れたくない。

 「俺、明日行くから。掃除も洗濯も全部任せて‼︎」

 かっちゃんは少し考えたあと、勝手しろって言った。

 なので次の日の早朝

 「……」

 ぐつぐつ

 「あっ!かっちゃんおはよー」

 「なんでいるんだ?」
  
 少し困惑しているのか、ドアから俺をそっと見てくる。

 「言っただろ?今日行くって」

 「だからって朝五時に来るなぁよ?」

 そう疲れた顔で言った。

 「だって、かっちゃんほっといたら朝も昼も抜かすしここ最近、かっちゃんって野菜食べてないでしょ⁇」

 ギクッ

 「そんなことは……」

 かっちゃんが言い訳する前に俺は言ってやった。
  
 「あるよ!ここ数日のかっちゃんのぼっち飯見てきたけど、ほぼパンかおにぎりか飲むゼリーだよ!」

 驚いたって顔で、俺を見てかっちゃんがぼっち飯はしていないと言った。

 「誰もいないのは確認済みだからね!」

 俺は昔からかっちゃんの後ろをついて回るのが好きで、お昼に一緒に食べようと思ったのに、かっちゃんがどこにもいないから探し回り校舎裏でぼっち飯をしているのを知った。

 「俺はあれでいい」

 「だめ!」
  
 かっちゃんは昔から野菜が大の苦手で少しでも目を離すと避けてしまう。

 「かっちゃん。今日の朝ごはんは野菜たっぷりのカレーだから」
   
 「!!!!!!!っ!??!」

 野菜という単語でその場にしばらく固まったと思ったら自分の家から逃げようとしたので、かっちゃんにしがみついた。

 「どこに行くの!」

 「ち、ちょっとタバコを買いに……」

 嘘だ!

 俺は知っている。都合が悪くなると何かを買いに出かけて夕方まで戻らないことを知っている。

 「ち、ちょっ!矯正離せ⁉︎俺は野菜は少し食べるだけでいいんだ」
  
 そう叫び俺を引き離そうとした。

 「何やってるんだ。かっちゃんは怪我人なんだから大人しくする」

 「その怪我人に力一杯しがみつくやつがいるか⁉︎」

 しばらくの間、離せ離さないが続いたが、かっちゃんが根負けした。

 「はぁー」

 大きなため息をつきながらカレーができるのを待った。

 「かっちゃん。ここ数日野菜食べないでしょ⁇」

 「お前の変なところで妙に鋭い感やだ」

 そうぽつりと呟いたが、本気で嫌がってはいない。

 「あっできた。かっちゃん皿持ってきてー」

 俺がそう言うと、皿をスッと目の前に置き少なめでと言った。

 「だーめー!かっちゃんは大食いじゃないけど、野菜を食べたくないからって量を減らすと体に良くないよ?」

 そう言って普通よりも少し多めに盛った。

 ズーン

 「……」

 珍しく本気で落ち込んでいる。いくら健康のためだと言ってもやりすぎたかなぁ?

 「お前、いつまでうちにいる気だ?」
  
 「えっ?明日までいるよ」

 「はあ⁉︎」

 心底驚きスプーンをその場に落とした。

 「あっ……」

 「ぶっ!」

 かっちゃんには悪いけど、俺は少し吹き出してしまった。

 そのあと、朝ごはんを食べ終えて、かっちゃんがまた二度目をしようとしたので外に「強制的に」連れ出し散歩をした。

 「はぁー。休みぐらいは家にいたいのだが……」

 「だーめ!かっちゃんは休みの日に寝すぎだよ」

 「お前は俺の母親か何かか?」

 「えへへ。幼馴染の特権です」

 昨日、武井が言ってたことをかっちゃんに言った。

 ちなみにそのあと、武井からすごく謝られたししばらくの間はひとりでトレイ掃除を命じられている。

 「頑張れー」

 数時間後

 「お前はもう家に帰れ」
  
 「えっなんで?」
  
 また家に帰れと言われたけど、帰る気などさらさらない。

 ボソッ

 「どうなっても知らないからなぁ」

 「ん?かっちゃん何か言った?」

 「何も……」

 そのあと夕食を食べた後の記憶がない。気がついたら朝になっていた。
  
 「あれ?」

 昨日は夕食を食べて……何してたっけ?

 隣で、かっちゃんが爆睡している。

 「覚えてない」

 んんんー?久しぶりにはしゃいだから眠くなって寝ちゃったのか。かっちゃんに迷惑かかったよなぁ。

 昨晩

 「すぅーすぅー」

 「よく寝ている」

 まさか、矯正が自ら泊まりに来るとは思ってみなかった。

 「もう引き返せない」

 矯正の飲み物に強力な睡眠薬を入れた。だから当分の間は起きない。

 「お前は誰にも渡さないからなぁ。矯正」
 
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