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ノワールとノル

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 ノワールはラティスの言葉を聞くたびに自分が情けなくなっていく。わかっている。ノルはルークを好きだから救いたい。でもこの感情は罪悪感で出来ているんだ。
 「俺がなんとかしなきゃ」
 そう。自分が招いた種だ。最初から知っていたのに知らないふりをした。弱っているラティスに告白をして、自分のものにしたかった。そうすればラティスはノワールだけに笑顔を向けてくれるような気がしたからだ。
 「ルークを裏切るのか?」
 ノルが低声で話しかけてくる。
 この感情に飲み込まれるな。
 「俺はルークを救う。ルークを邪魔するものは殺す。あの時そう決めただろ?」
 違う。ノルの記憶ではそんなことになっていない。だけど、本当にこの記憶は正しいのか?
 「お前はもう後戻り出来ない。何故ならお前は既に、ラティス.ハンル.モールドを傷っているからだ」
 「......っ!?」
 追い打ちをかけるかのように冷たい声でそう言う。
 「俺は......」
 こんな自分が嫌いだ。こんな自分じゃ、ラティスに幻滅される。嫌われる。いやだ。嫌わないでくれ。なんでもいいからラティスの側に居たい。
 「愚かな男だ」
 ノルはそう吐き捨てるように言い、ノワールの意識をまた奥深くへとやろうとしたその時
 「幻滅なんてしない‼︎」
 「この声はラティス⁇」
 ラティスの声が聞こえる。ラティスが何か言っている。なんて言っているんだ?
 「この言葉に耳を傾けるな」
 自分を多い尽くすノルはまた、闇が広がるようにノワールの心を蝕んでいく。
 だけど、ラティスの声がだんだんと大きくなりはっきりと聞こえる。
 「ノワールが自分を信じられないのなら私を信じてよ。私はノワールを一生信じてついて行くって決めたの!!!!!!!だからノワールには帰って来てくれなきゃ困るんだよ。ひとりにしないでよ。勝手に何処かに行こうとしないでよ!ずっと側に居てよ。約束したじゃない。どんな時も一緒だって!言ってたくせにノルなんかに負けないでよ。帰って来てよ」
 「俺のためにこんなことを言うのか?」
 溢れ出した感情はもう止まらない。止められないのだ。たったひとつだけ残った希望。自分だけの光。
 「俺の......俺だけの希望の光」
 「やめろ!!」
 怒鳴りつけるようにノルはノワールに大きな声を出しノワールにこう言う。
 「俺達は誓っただろ?ルークを守るって。だからラティスなんて知らないよなぁ?」
 脅すように威圧するノル。
 だけど、ノワールはそんなのちっとも気にしない。何故ならラティスが自分を望んでいるから。
 「ああ、言ったさぁ。俺はラティスを捕まえるってなぁ!お前はとっとと、ルークを捕まえてこいよ!この大馬鹿野郎が!!!!!!!」
 「な、なあっ!?」
 一体何が起きているんだ?わからない。全てを見透かされて、ラティスは何もかもわかった状態で喋りかけているんだ。ノルという汚物に。
 「ノル。私に任せてよ。必ずルークを助けるから......だから私達に協力して!」
 その言葉を信用していいのか?それが嘘だったら何も信じられなくなる。
 「ラティスが言ってんだ!さっさと協力しやがれよ!」
 そう言って、ノワールはノルに頭突きを喰らわれた。
 「ガッ!」
 あの石頭よりかは痛くないけど、思い知らされた。あの時、お前をルークを捕まえるって言っておきながらこのザマかよ?馬鹿だ。
 「俺は馬鹿だった」
 ルークを人のままであの世に連れて逝く。
 「いいだろう。お前らが何処までやれるのか見ててやるよ」
 そう言って、ノルの気配は消えた。目の前が光だしラティスの顔が見える。
 「ノワールお帰りなさい」
 今にも泣きそうだが、とびっきりの笑顔で、ノワールを見てくれるラティスが好きだ。大好きだ。
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