上 下
112 / 145

陛下の最後

しおりを挟む
 「其方に......初め会った時誓ったのだ。ニーアスを守り抜くと......なのに余はニーアスを守るどころか傷付けてしまった。アリアスも守られはならぬ存在だったのに......」
 「......お父様」
 「余は過ちを犯し続けた。其方達を傷付けて罪滅ぼしもせんかった」
 「そんな事は!」
 「アリアスはどんな時でも余の側に居ったな。嬉しかった」
 「......」
 「皇妃と育てた娘を自らの手で死に追いやった事は今でも後悔している」
 「それはお父様のせいではありません!私が洗脳なんてしたから......だからニーアスお姉様は死んだんです。だからお父様が気に病むことなんてありません」
 「そんな事はない。アリアスよ。其方のせいではないのだ。いつからかニーアスを邪険にしておったのかもしれん」
 「......」
 そう。陛下が過ちに気付けなくなったのはきっと皇妃殿下が亡くなった時だと思う。
 「其方を育てるに合ったって余は良く知らんかった。ニーアスがこんなにも聡明なことに......」
 「ありがたき言葉です」
 違う。私が言いたい事はそんなことじゃない!でもなんて言えばいいの?もう陛下の命はあとほんのわずか。喋れていること事態おかしなことよ。
 「アリアス。其方に皇帝陛下の跡を継いでほしいのだ」
 「私は......皇帝の座よりも貴方に......お父様に生きててほしい」
 「すまぬ。それは無理な話だ。其方に継いでほしいのだ。其方なら必ず立派な皇帝になれる。そう信じておるぞ」
 「お父様‼︎私は!私は......お父様が大好きでずっとお側に居られると思っていました。いつかはお別れが来るとしてももっと先の話だと思っていました。なのにこんなのってあんまりですよ!うわああん!」
 堪えきれずに泣くアリアスをそっと引き寄せた。
 「アリアス。気持ちはわかるけど......お父様をもう休ませてあげましょう」
 もう助からない。ウリスの力さえ及ばない。だからせめて安らかに眠ってほしい。それが私に出来る最後の陛下への願い。
「アリアス......ニーアス......余は本当に其方達を......心から......愛......して......おる」
 「お父様⁇」
 「......」
 「ねぇ?返事をしてください。タチが悪いですよ?冗談はやめてください!?」
 私はそっとアリアスの肩に手を乗せた。
 「ラティス⁇」
 「......」
 「嘘よね?嘘って言ってよ?こんなにもあっさりと......こんなにも簡単に殺されるはずがない。お父様は誰よりも強くて聡明で......私の自慢な......お父様で......それで......それで......ううぅ。ゔわあああああん!」
 「うぅ......」
 「そんな死に方ってないよ!ルーク.ハート絶対に許さない‼︎洗脳して地獄よりももっと辛い痛みを与えてやる!」
 「......アリアス。憎しみに囚われないで」
 「ラティス?何を言っているの?ルークを倒すことが私達の目的でしょ?」
 「......そんなのは目的でもなんでもない。違うから」
 「なんでそんなこと言うの?私、皇帝になる。なってルークを徹底的に追い詰める!」
 「そんなことしたら!?」
 「そんなことをしたら何?私がルークと同じ駄目になるとでも言いたいの?」
 「......」
 「図星なんだ?ねぇ、ラティス⁇貴方何が出来るの?」
 「え......」
 「記憶もない。戦う力があっても以前のようには動けない。誰かの悲しみを前のように取り払うことも出来ない。そんな状態で私のことをとやかく言わないで!」
 ダッ
 「アリアス!?」
 アリアスを怒らせてしまった。そうだよね?陛下が殺されたんだもん。あんな言い方したら怒るよね?でも憎しみに囚われた人間を私は知っている。私も一度囚われそうになった。陛下の愛を独り占めする貴方に......。
 「ラティス。お前のせいじゃない。だから気にするな......とは言わない。だが、あんま気に病むな」
 「......うん」
 「アリアス皇女様は俺達がなんとか説得する。だからラティスは少し休みなさい」
 「......はい」
 「僕が送り届けるよ。ラティスは僕の妹だからね」
 「......」
 「あれ?僕だけ反応なし?それは悲しいな」
 少しは空気を読んで!送り届けてくれるのはありがたいけど‼︎今はそんな気分じゃないの!とは言えない。言ったら絶対に公子が傷付く。
 「僕の力が足りないばかりに君達を傷付けてごめんね」
 「......別にウリスのせいじゃない。だからウリスもあまり自分を責めないでね」
 「そうだね」
 「ねぇー。僕だけ反応がないのは悲しいよ!」
 「......ありがとう」
 「え?ありがとう⁇あっ!送り届けてくれるのが?いいよ。僕は兄だからね!」
 マジで空気読めないな?
 そう思ったラティスなのであった。
 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?

tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」 「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」 子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

【番外編】貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン
ファンタジー
『貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。』の番外編です。 本編にくっつけるとスクロールが大変そうなので別にしました。

婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……

こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

処理中です...