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第10話 聖錬高校に隠されたシステム①

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 賀藤 勝司が委員長決めで完全敗北をした数日前……つまり、入学式翌日の朝に時間は巻戻る――

 ◇

 鳴海先生から週末に委員長決めがあるという話を朝のホームルームで聞き、このままでは賀藤を中心とした陽キャグループが完全にクラスを支配してしまうだろうと考えた。

 俺は相羽さんや海原さんに言った通り自動販売機でウーロン茶を買いながら、チャットアプリでメッセージを送ったとある人物を待っていた。

 ポケットに残っていたチョコレートを口の中に放り込み、ウーロン茶を飲み干したところで俺が連絡をした人物――鳴海 茜先生はやってきた。

「やほー、おまたせーい」

 気さくに話しかけてくる鳴海 先生。しかし、としてはその口調で話されるのは複雑なものだ。

「いきなり呼び出しちゃってどした~? あっ、純二くんも茜お姉さんにしつけられたくなっちゃったのかな♡」

「いえ、俺はお姉さんには甘やかされたい派なので」

 と、適当に冗談をいったところで俺は本題に入る。

「今週末、委員長決めがあるって言いましたよね。その件で……」

「えっ? まさか本気だす気になったの? 昨日はわたしがお願いしても全然動こうとしてくれなかったのに!」

「いえ、本気を出すというか……このままの流れで委員長が決まったら、俺にとって不都合な状況になるので。もちろん目立つような行動はしません。俺は平穏第一なので」

「なるほどね~。ま、わたしとしては11なんでもいいんだけどさ」

 と、なぜ俺が鳴海先生と連絡先を交換していて、しかもこんな風に話す間柄になっているわけを話すには、昨日の放課後から語らなければならない。

 ◇

 入学式の放課後。

 学校内の探索を終えて相羽 美緒、海原 心春と連絡先を交換した五十嵐 純二は、その後1人で校舎に戻っていた。理由は職員室の調査をしていなかったためである。

 放課後に可能な限り探索を行ったが、用事がないことから職員室の様子を見ることはしていなかった。

 しかし担任の鳴海先生がいれば話は別だ。部活動の入部届がほしいとか適当に理由をつければ数分間は室内に留まることができるだろう。

 そう考えた純二はそろそろ鳴海先生が職員室に戻ってることを祈り、扉をノックしようとしたところでその手をとめた。室内から、なにやらただならぬ気配を感じたからである。

「今年のゲーム、我々4組の勝利確定ですねぇ。なんせ、優等生たちがそろってますから。ふひひひっ」

 今話しているのは1年4組の担任であるハゲの蛇渕じゃぶち 久蔵ひさぞうだな、と純二は判断する。なんと、彼は入学式の間だけで1年生を担当する教師全員の名前と顔、そして声まで記憶をしていたのである。

(しかしゲーム? なんのことだ?)

 純二はしばらく中に入らず様子をうかがうことにした。

「それにくらべて鳴海先生の1組は……ふひっ、不良品の集まりじゃないか! ふひっ、ふひひひひひ!」

 蛇渕は心底おかしそうに両手を広げ、高笑いをする。現在、職員室内には1年生の担任を務める4人しか存在しない。

「蛇渕先生、お静かに」

 3組担任の女性教師、榎本えのもと 冴姫さきが蛇渕をたしなめる。

 それでも聞く耳を持たない蛇渕に2組担当の林道りんどう たけるも口を挟む。

「そもそも、このをゲームなどと表現するのは不適切です」

「ひひっ、2人そろってつれないねぇ。これだから優等生ちゃんたちは」

 と、蛇渕は1組担当の鳴海 茜に顔を近づけ、その特徴的な蛇のように長い舌を出す。

「俺はやっぱ、ノリのいいエッチな女の子が好みだ」

「ちょっ、ちょっ……そんなことしてると茜お姉さんセクハラで訴えちゃいますよ~」

 と、鳴海はいつもの調子でおちゃらけて蛇渕から距離を取る。

 ここ、聖錬高校には生徒達には知らされていない教師たちにも設けられたシステムがある。

 1年間で自分が受け持つ生徒達の成績の総合点を算出され、その結果によって与えられる給料や等級が変わるというものである。もちろん、成績が優秀なほど高い給料が与えられ、昇給の可能性も高くなる。

(そういえば、聖錬高校の理念には個性と競争心と書かれていたか……)

 と、純二はこの高校のパンフレットを思い出しながら考える。

(個性というのは、生徒や教師の髪色や服装といった校則の部分が通常の高校と比べて非常に自由度が高いことからもわかりやすい。競争心というのは……競い合わせるシステムがあるということか? 生徒だけでなく、教師も含めて……)

 と、教師たちの会話から考える純二の推測は当たっている。

 聞き耳を立てているうちに教師陣が職員室から出てくることを察知した純二は、その場を離れて近くに設置されている自動販売機に隠れることにした。

 しかし、どうやら彼らのうちの誰かが純二の隠れた自動販売機に向かってきたようだ。

(飲み物を買うのか……?)

「あ~~~!! くそがっ! 蛇渕のクソハゲっ、死ねっ、死ねっ!」

(と思ったら蹴り始めた! やめっ、ラノベの世界みたいに蹴ったら飲み物が出てくるわけじゃないんだぞ!)

 あまりの振動に純二がその場を自動販売機から離れてしまうと……。

「あ? 誰だよ……」

 彼の目に映ったのは、教室で見たときとはまったく異なる攻撃的なオーラを放つ、鳴海 茜先生の姿だった。
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