11 / 15
第10話 聖錬高校に隠されたシステム①
しおりを挟む
賀藤 勝司が委員長決めで完全敗北をした数日前……つまり、入学式翌日の朝に時間は巻戻る――
◇
鳴海先生から週末に委員長決めがあるという話を朝のホームルームで聞き、このままでは賀藤を中心とした陽キャグループが完全にクラスを支配してしまうだろうと考えた。
俺は相羽さんや海原さんに言った通り自動販売機でウーロン茶を買いながら、チャットアプリでメッセージを送ったとある人物を待っていた。
ポケットに残っていたチョコレートを口の中に放り込み、ウーロン茶を飲み干したところで俺が連絡をした人物――鳴海 茜先生はやってきた。
「やほー、おまたせーい」
気さくに話しかけてくる鳴海 先生。しかし、彼女の本性を知っている俺としてはその口調で話されるのは複雑なものだ。
「いきなり呼び出しちゃってどした~? あっ、純二くんも茜お姉さんにしつけられたくなっちゃったのかな♡」
「いえ、俺はお姉さんには甘やかされたい派なので」
と、適当に冗談をいったところで俺は本題に入る。
「今週末、委員長決めがあるって言いましたよね。その件で……」
「えっ? まさか本気だす気になったの? 昨日はわたしがお願いしても全然動こうとしてくれなかったのに!」
「いえ、本気を出すというか……このままの流れで委員長が決まったら、俺にとって不都合な状況になるので。もちろん目立つような行動はしません。俺は平穏第一なので」
「なるほどね~。ま、わたしとしてはこの1年1組が勝てるようにしてくれればなんでもいいんだけどさ」
と、なぜ俺が鳴海先生と連絡先を交換していて、しかもこんな風に話す間柄になっているわけを話すには、昨日の放課後から語らなければならない。
◇
入学式の放課後。
学校内の探索を終えて相羽 美緒、海原 心春と連絡先を交換した五十嵐 純二は、その後1人で校舎に戻っていた。理由は職員室の調査をしていなかったためである。
放課後に可能な限り探索を行ったが、用事がないことから職員室の様子を見ることはしていなかった。
しかし担任の鳴海先生がいれば話は別だ。部活動の入部届がほしいとか適当に理由をつければ数分間は室内に留まることができるだろう。
そう考えた純二はそろそろ鳴海先生が職員室に戻ってることを祈り、扉をノックしようとしたところでその手をとめた。室内から、なにやらただならぬ気配を感じたからである。
「今年のゲーム、我々4組の勝利確定ですねぇ。なんせ、優等生たちがそろってますから。ふひひひっ」
今話しているのは1年4組の担任であるハゲの蛇渕 久蔵だな、と純二は判断する。なんと、彼は入学式の間だけで1年生を担当する教師全員の名前と顔、そして声まで記憶をしていたのである。
(しかしゲーム? なんのことだ?)
純二はしばらく中に入らず様子をうかがうことにした。
「それにくらべて鳴海先生の1組は……ふひっ、不良品の集まりじゃないか! ふひっ、ふひひひひひ!」
蛇渕は心底おかしそうに両手を広げ、高笑いをする。現在、職員室内には1年生の担任を務める4人しか存在しない。
「蛇渕先生、お静かに」
3組担任の女性教師、榎本 冴姫が蛇渕をたしなめる。
それでも聞く耳を持たない蛇渕に2組担当の林道 健も口を挟む。
「そもそも、この聖錬高校のシステムをゲームなどと表現するのは不適切です」
「ひひっ、2人そろってつれないねぇ。これだから優等生ちゃんたちは」
と、蛇渕は1組担当の鳴海 茜に顔を近づけ、その特徴的な蛇のように長い舌を出す。
「俺はやっぱ、ノリのいいエッチな女の子が好みだ」
「ちょっ、ちょっ……そんなことしてると茜お姉さんセクハラで訴えちゃいますよ~」
と、鳴海はいつもの調子でおちゃらけて蛇渕から距離を取る。
ここ、聖錬高校には生徒達には知らされていない教師たちにも設けられたシステムがある。
1年間で自分が受け持つ生徒達の成績の総合点を算出され、その結果によって与えられる給料や等級が変わるというものである。もちろん、成績が優秀なほど高い給料が与えられ、昇給の可能性も高くなる。
(そういえば、聖錬高校の理念には個性と競争心と書かれていたか……)
と、純二はこの高校のパンフレットを思い出しながら考える。
(個性というのは、生徒や教師の髪色や服装といった校則の部分が通常の高校と比べて非常に自由度が高いことからもわかりやすい。競争心というのは……競い合わせるシステムがあるということか? 生徒だけでなく、教師も含めて……)
と、教師たちの会話から考える純二の推測は当たっている。
聞き耳を立てているうちに教師陣が職員室から出てくることを察知した純二は、その場を離れて近くに設置されている自動販売機に隠れることにした。
しかし、どうやら彼らのうちの誰かが純二の隠れた自動販売機に向かってきたようだ。
(飲み物を買うのか……?)
「あ~~~!! くそがっ! 蛇渕のクソハゲっ、死ねっ、死ねっ!」
(と思ったら蹴り始めた! やめっ、ラノベの世界みたいに蹴ったら飲み物が出てくるわけじゃないんだぞ!)
あまりの振動に純二がその場を自動販売機から離れてしまうと……。
「あ? 誰だよ……」
彼の目に映ったのは、教室で見たときとはまったく異なる攻撃的なオーラを放つ、鳴海 茜先生の姿だった。
◇
鳴海先生から週末に委員長決めがあるという話を朝のホームルームで聞き、このままでは賀藤を中心とした陽キャグループが完全にクラスを支配してしまうだろうと考えた。
俺は相羽さんや海原さんに言った通り自動販売機でウーロン茶を買いながら、チャットアプリでメッセージを送ったとある人物を待っていた。
ポケットに残っていたチョコレートを口の中に放り込み、ウーロン茶を飲み干したところで俺が連絡をした人物――鳴海 茜先生はやってきた。
「やほー、おまたせーい」
気さくに話しかけてくる鳴海 先生。しかし、彼女の本性を知っている俺としてはその口調で話されるのは複雑なものだ。
「いきなり呼び出しちゃってどした~? あっ、純二くんも茜お姉さんにしつけられたくなっちゃったのかな♡」
「いえ、俺はお姉さんには甘やかされたい派なので」
と、適当に冗談をいったところで俺は本題に入る。
「今週末、委員長決めがあるって言いましたよね。その件で……」
「えっ? まさか本気だす気になったの? 昨日はわたしがお願いしても全然動こうとしてくれなかったのに!」
「いえ、本気を出すというか……このままの流れで委員長が決まったら、俺にとって不都合な状況になるので。もちろん目立つような行動はしません。俺は平穏第一なので」
「なるほどね~。ま、わたしとしてはこの1年1組が勝てるようにしてくれればなんでもいいんだけどさ」
と、なぜ俺が鳴海先生と連絡先を交換していて、しかもこんな風に話す間柄になっているわけを話すには、昨日の放課後から語らなければならない。
◇
入学式の放課後。
学校内の探索を終えて相羽 美緒、海原 心春と連絡先を交換した五十嵐 純二は、その後1人で校舎に戻っていた。理由は職員室の調査をしていなかったためである。
放課後に可能な限り探索を行ったが、用事がないことから職員室の様子を見ることはしていなかった。
しかし担任の鳴海先生がいれば話は別だ。部活動の入部届がほしいとか適当に理由をつければ数分間は室内に留まることができるだろう。
そう考えた純二はそろそろ鳴海先生が職員室に戻ってることを祈り、扉をノックしようとしたところでその手をとめた。室内から、なにやらただならぬ気配を感じたからである。
「今年のゲーム、我々4組の勝利確定ですねぇ。なんせ、優等生たちがそろってますから。ふひひひっ」
今話しているのは1年4組の担任であるハゲの蛇渕 久蔵だな、と純二は判断する。なんと、彼は入学式の間だけで1年生を担当する教師全員の名前と顔、そして声まで記憶をしていたのである。
(しかしゲーム? なんのことだ?)
純二はしばらく中に入らず様子をうかがうことにした。
「それにくらべて鳴海先生の1組は……ふひっ、不良品の集まりじゃないか! ふひっ、ふひひひひひ!」
蛇渕は心底おかしそうに両手を広げ、高笑いをする。現在、職員室内には1年生の担任を務める4人しか存在しない。
「蛇渕先生、お静かに」
3組担任の女性教師、榎本 冴姫が蛇渕をたしなめる。
それでも聞く耳を持たない蛇渕に2組担当の林道 健も口を挟む。
「そもそも、この聖錬高校のシステムをゲームなどと表現するのは不適切です」
「ひひっ、2人そろってつれないねぇ。これだから優等生ちゃんたちは」
と、蛇渕は1組担当の鳴海 茜に顔を近づけ、その特徴的な蛇のように長い舌を出す。
「俺はやっぱ、ノリのいいエッチな女の子が好みだ」
「ちょっ、ちょっ……そんなことしてると茜お姉さんセクハラで訴えちゃいますよ~」
と、鳴海はいつもの調子でおちゃらけて蛇渕から距離を取る。
ここ、聖錬高校には生徒達には知らされていない教師たちにも設けられたシステムがある。
1年間で自分が受け持つ生徒達の成績の総合点を算出され、その結果によって与えられる給料や等級が変わるというものである。もちろん、成績が優秀なほど高い給料が与えられ、昇給の可能性も高くなる。
(そういえば、聖錬高校の理念には個性と競争心と書かれていたか……)
と、純二はこの高校のパンフレットを思い出しながら考える。
(個性というのは、生徒や教師の髪色や服装といった校則の部分が通常の高校と比べて非常に自由度が高いことからもわかりやすい。競争心というのは……競い合わせるシステムがあるということか? 生徒だけでなく、教師も含めて……)
と、教師たちの会話から考える純二の推測は当たっている。
聞き耳を立てているうちに教師陣が職員室から出てくることを察知した純二は、その場を離れて近くに設置されている自動販売機に隠れることにした。
しかし、どうやら彼らのうちの誰かが純二の隠れた自動販売機に向かってきたようだ。
(飲み物を買うのか……?)
「あ~~~!! くそがっ! 蛇渕のクソハゲっ、死ねっ、死ねっ!」
(と思ったら蹴り始めた! やめっ、ラノベの世界みたいに蹴ったら飲み物が出てくるわけじゃないんだぞ!)
あまりの振動に純二がその場を自動販売機から離れてしまうと……。
「あ? 誰だよ……」
彼の目に映ったのは、教室で見たときとはまったく異なる攻撃的なオーラを放つ、鳴海 茜先生の姿だった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
最底辺の落ちこぼれ、実は彼がハイスペックであることを知っている元幼馴染のヤンデレ義妹が入学してきたせいで真の実力が発覚してしまう!
電脳ピエロ
恋愛
時野 玲二はとある事情から真の実力を隠しており、常に退学ギリギリの成績をとっていたことから最底辺の落ちこぼれとバカにされていた。
しかし玲二が2年生になった頃、時を同じくして義理の妹になった人気モデルの神堂 朱音が入学してきたことにより、彼の実力隠しは終わりを迎えようとしていた。
「わたしは大好きなお義兄様の真の実力を、全校生徒に知らしめたいんです♡ そして、全校生徒から羨望の眼差しを向けられているお兄様をわたしだけのものにすることに興奮するんです……あぁんっ♡ お義兄様ぁ♡」
朱音は玲二が実力隠しを始めるよりも前、幼少期からの幼馴染だった。
そして義理の兄妹として再開した現在、玲二に対して変質的な愛情を抱くヤンデレなブラコン義妹に変貌していた朱音は、あの手この手を使って彼の真の実力を発覚させようとしてくる!
――俺はもう、人に期待されるのはごめんなんだ。
そんな玲二の願いは叶うことなく、ヤンデレ義妹の暴走によって彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。
やがて玲二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。
義兄の実力を全校生徒に知らしめたい、ブラコンにしてヤンデレの人気モデル VS 真の実力を絶対に隠し通したい、実は最強な最底辺の陰キャぼっち。
二人の心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。
貴重な男の中で一番優しいのは俺らしい
クローバー
恋愛
男女比率の違っているお話。
だが、その要素は多すぎず、普通の恋愛話が多目である。
主人公、心優しい25歳、松本修史は訳あって流れ星にお願い事をする。
願いは叶ったが、自分の想像とは斜め上を行った願いの叶い方だった。
かっこよくなって高校生に戻ったかと思いきや、妹がいたり世界の男女比がおかしくなっていた。
修史は時にあざとく、時に鈍感に楽しく学園生活を生きる。
時々下ネタぶっこみますが、許してください。
性的描写がいつしか出てきたとしても許してください。
少しシリアスからのハッピーエンドがあります。
一夫多妻の世界なので、恋人は7人ほど出来る予定です。
もしかしたら14人になるかもしれません。
作者の我慢の限界が来たら…R18的な行為もしてしまうかもしれません。←冗談です。
作者の休日は月曜日なので、月曜日更新が多くなります。
作者は貧乳とロリが好物なため、多少キャラに偏りがありますがご了承ください。
ひんぬー教、万歳!
Twitterで更新するとき言うので、フォローお願いいたします。
@clober0412
クローバー うたっこ
恋する乙女と守護の楯という神ゲーの穂村有里がトプ画です。
大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について
ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに……
しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。
NTRは始まりでしか、なかったのだ……
男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る
電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。
女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。
「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」
純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。
「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
彼女の浮気現場を目撃した日に学園一の美少女にお持ち帰りされたら修羅場と化しました
マキダ・ノリヤ
恋愛
主人公・旭岡新世は、部活帰りに彼女の椎名莉愛が浮気している現場を目撃してしまう。
莉愛に別れを告げた新世は、その足で数合わせの為に急遽合コンに参加する。
合コン会場には、学園一の美少女と名高い、双葉怜奈がいて──?
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる