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第27話 着ぐるみウサギの正体を探る謎の人物

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 部員が全員帰宅したことを確認し、部室の鍵を閉める。

 空手部は廃部寸前などと言われていたのが嘘のように、ここ数日で活性化していた。

 現在の入部希望者数は約30人。しかも、中には祇園 凌牙という非常に伸びしろのある生徒もいる。今年は大会で結果を出すことも期待できるかもしれない。

 これもすべてあいつ……時野 玲二のおかげだ――

 職員室のストッカーに鍵を返却し、校舎を出るとアタシ――紫藤 美嘉は車に向かって走った。

 雨が降っているが、傘をさすのは面倒だった。

 もう少しで車にたどり着くというとき……。

――ガシャアァッ!!

「っぶねぇ……!」

 唐突に、道をさえぎるかのように鉄の棒が振り下ろされた。

 アタシの目の前には全身黒ずくめのフードを被った人影が立っていた。手には鉄パイプを持っている。激しい雨に霞んでよく見えないが、体格的には女性のように思えた。

「謎の着ぐるみウサギの正体を教えろ」

 フードの人物は淡々と言う。声は低いが、やはり女性だ。

 それにしても謎の着ぐるみウサギって……時野 玲二のことだよな。

 始業式の突発イベントで神堂 朱音の対戦相手役として登場したウサギの着ぐるみに、牧之瀬 万莉亜が急遽名付けたのだ。

 一部の人間しか知らないが、中身は時野 玲二である。

「謎の着ぐるみウサギの正体を教えろ」

 黒フードの女性は尚も同じ言葉を繰り返す。

 この人物がなぜ謎の着ぐるみウサギの正体を知りたがるのかはわからない。ただ、こいつが時野にとって都合の悪い存在であることは間違えないだろう。

 理由は知らないが、時野は自分の実力を徹底的に隠している。それも、なにやら深刻な事情があるようなのだ。

 時野は空手部を救ってくれた恩人だ。義理立てするというわけではないが、アタシはあいつの真の実力を人に話すつもりは一切なかった。

「悪いが、それは答えられない」

「そうか、ならここで消えてもらう」

 そういうと、黒フードは鉄パイプを振り上げた。そして勢いよく、こちらに向かって振り下ろしてきた――

 ◇

 今日は朝から激しい雨が降り続いていた。

 昨日までの、春! 新学年の始まり! という雰囲気の快晴とは打って変わり、鬱々とした曇り空が窓の外に広がっている。

「今日は天気が悪くて気分も下がりますが、1日頑張って乗り越えましょう!」

 両手をグッと握って「今日も1日がんばるぞい!」みたいなポーズをする新島先生。可愛い……。

「あ、それと……1時限目の英語は自習となります。課題のプリントが出席代わりとなりますので、教壇に提出しておいてくださいね!」

 先生が教室を出て行き、ホームルームが終わると俺は立ち上がった。

「ん? 玲二どっか行くの?」

 頬杖をつきながらスマホをイジっていた万莉亜が問いかけてくる。

「実は闇の組織と闘ってて、授業の合間に抜け出して世界とか救っちゃってる感じ?」

「セカイ系の主人公には憧れるが、残念ながら俺は世界が危機にさらされていたことにも改変されたことにも気がつかず、のうのうと授業を受けているだけの一般生徒Aだ」

「一般生徒のモブが始業式に着ぐるみ着て闘ったりしないと思うんだけど」

 ニヤニヤとからかうような笑みを向けてくる万莉亜。

 ぐぬぬ……こいつはもう俺が実力を隠していることをほぼ確信しているだろうに、ときどきこうやってからかってくる。

 一体なぜ、そこまで俺に実力を引き出すことにこだわるのか……。

 非常に気になるが、今は万莉亜と腹の探り合いをしている場合ではない。

 俺はホームルームのあと、指定の場所に来てほしいとから言われているのだ。

 幸い、1時限目は自習となるようなので急ぐ必要はなさそうだが、向こうも時間があるとは限らない。

 ホームルームの後という早い時間に呼び出したことからも、なんだかは急いでいるように思える。

 俺は教室を出ると、駆け足で渡り廊下を越え、指定されていた空き教室へと向かった。

 周りに誰もいないことを確認して、扉を開ける。念のため誰にも見られないようにと指示されていたのだ。

「急に呼び出して悪かったな、時野」

 室内には、俺を呼びだした人物である紫藤 美嘉先生が長い脚を組んで椅子に座っていた。
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