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第5話 個性豊かで残念美人な先生たち

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 アイツの妹ちゃんの手作りだというサンドウィッチをありがたくいただいてから、アタシは教室に戻った。

 5時限目の授業は怠惰の権化、宇佐美うさみ 銘子めいこ先生の数学だ。

「じゃー5時限目始めるー、起立気を付け礼お願いします着席ー」

「ウサちゃん先生適当か!」

 宇佐美先生は生徒たちからウサちゃん先生という愛称で親しまれている。

 いつでも眠たそうなトローッとしたタレ目で、ダボダボのジャージに裾がゆるゆるの短パンというラフな格好。濃い茶髪のぼさぼさなロングヘアはセットするのがめんどくさいらしく無造作に垂れ流している。

 せっかく顔は美人なのだから、格好や口調を変えたら相当モテると思う。まぁ、ウサちゃん先生は適当なところが魅力なんだけど。

 なんにせよ、ウサちゃん先生はアタシが大好きな先生だ。

 剛田や小田のように嫌な教師が多い中、ウサちゃん先生は学校中から嫌われているアタシにも普通に接してくれる数少ない先生。アタシが1年生だったころの担任でもある。

 ……でも今日は、大好きなウサちゃん先生の授業も全然頭に入ってこない。

 アイツのせいだ、アイツがアタシのこと、かわ……可愛いとか、言うから……。

 考えないようにしてたのに、さっき荷物を届けに行ったときに会ったらまた一時限目のことを思い出してしまった。

「……ッ!!」

 なんなんだよ、なんなんだよ……アタシが可愛いとか、そんなわけないだろうが!

 アタシは目付きも悪いし、口調もこんなだし、地毛はの遺伝《いでん》で派手だからヤンキーだと思われるし。

 近づいて来る男はみんなヤることしか考えてない。普段冷たくされている女に優しくすればワンちゃんあるんじゃね? っていう魂胆が見え見えなんだよ。

 あるいはみんなから嫌われている女子に優しくしてる俺カッケーって、自分に酔ってるヤツか。

 いずれにせよ、今までアタシに近づいて来た男にアタシをひとりの女子高生として扱ってくれたヤツなんていない。

 なのに……。

『西城さん可愛いんだから、そんな無防備な格好してたら……』

 ああぁっ、マジで調子狂う……。

 なんなんだよ、ちょっと太もも出してたくらいで無防備って……。

「じゃー5時限目おしまいー、起立気を付け礼ありがとうございましたー」

 頭の中でぐるぐると考えているうちに、気が付くと授業が終わってしまった。ノートは一応取れたけど、全然集中できなかった……。

「じゃーわたしは職員室に帰って寝るー」

「出たっ、ウサちゃん先生の早歩き!」

 ウサちゃん先生はものすごい速度の早歩きでサササーッと教室を出て行く。まるで靴の裏にローラーでもついているんじゃないかってくらいの素早さだ。

 きっと、職員室でのお昼寝タイムを一秒たりとも無駄にしたくないのだろう……。

 ♣

「それじゃあ、これで手当ては終了だ」

 ショートパンツから伸びる白くて長い脚を組み、倉西くらにし先生は澄ました顔でデスクのパソコンに何かを入力し始める。

 時間は5時限目が終わったくらいだろうか、俺は湿布や包帯を取り替えてもらっていた。

 倉西 静流しずる先生はクールで美人な保健室の先生ということで人気がある。いつも丈の長い白衣を羽織っており、女医が主人公の医療系ドラマで主演を務めていそうなほどの美人顔だ。

 腰のあたりまで伸びる黒くてサラサラな髪と対比するように肌の色は白く、丸眼鏡の奥からのぞくつり上がり気味の瞳はクールな印象を与える。

 そんな美人で大人っぽい保健室の先生から一対一で手当てをしてもらえるなんて幸せだ! 

 と、思っていた時期が俺にもありました……。

 多くの生徒が倉西先生は美人でクールな大人の女性だと……そう認識していると思うが、俺は知ってしまっている。

 彼女は、倉西 静流は――変態だ。

「ところで東野、最近尻の調子はどうだ。よければ診察をしてやろう」

「いや結構です!!」

 考えていたらまさに恐れていた事態がやってきた。倉西先生が変態性を発揮し始めてしまったのだ! 俺の頭の中では警告音がビービーとけたたましく鳴り響いている。

 すべての始まりは、俺が1年生のときのことだ。去年も俺は体育の授業で転んで倉西先生のお世話になったことがあるんだが、そのときは背中ではなく臀部を痛めた。

 そのとき、手当てという名目で俺は倉西先生から尻を散々撫でまわされて……ヒエッ、思い出すだけでも恐ろしい……!
 
「ふふっ、ショタの尻はイイゾ。特に東野、おまえのショタ尻には私の嗜好を読み取るアンテナがビンビン反応している」

 ヤバすぎる。この人絶対保健室の先生にしちゃいけない人なんじゃ……。

「さぁ、遠慮することはない。私におまえの全て(尻)を見せてくれ」

「ひぃっ……」

 倉西先生の小さくて白い綺麗な手が、俺の尻をそっと撫でる。もう、あんな恥ずかしい思いをするのはもうこりごりだ。あれ、でもなんか結構気持ちいいかも……?

「もう感じてしまったのか? どうやら私のテクニックも日々上がっているようだ」

「言い方ァ!!」

 変な気分になり、もうこのまま身を委ねてしまいたい。悪魔の誘惑に流されかけたとき……。

 ――ドドドドドドドドドッ!!

「なっ、なんだっ!」

 なんか、廊下からものすごい音が聞こえてきた。

「どうせまたウサが早歩きでもしてんだろ」

「宇佐美先生がっ!?」

 倉西先生は数学教師の宇佐美先生と仲がいいらしく、彼女のことをウサと呼んでいる。

 そういえば5時限目は宇佐美先生の数学だったか。彼女はこの時間帯の授業が終わると早く昼寝をしたいらしく、ものすごい早歩きで教室を出て行くのだ。

 しかし、早歩きであんな音が巻き起こるとか……。きっとウ〇娘たちも驚きのスピードで廊下を駆け抜けているのだろう。もう宇佐美先生の頭の中ではうさぴょい伝説が流れちゃっていることだろう。

 なんにせよおかげで俺は悪魔の囁きから解放された。ウサちゃん先生ナイス!

「と、とにかくお尻の診察は大丈夫なのでっ! 俺はもう寝ます!」

「そうか、それは残念だ。また尻を触られたくなったらいつでも言ってくれ」

 尻を触られたくなったらって、一体どんな状況だよ……。そう思いながらも、俺はさっき倉西先生にお尻を触られたとき少し気持ちよくなってしまったことを思い出す。

 いや、きっと今日は怪我をして体がちょっとおかしかっただけだ。そんな希望的観測を浮かべながら、俺は再び眠りにつくのだった。

 ♠

 次に目を覚ましたときは、すでに放課後だった。カーテン越しに夕日の日差しが差し込んでいるのを感じる。

 西城さんはもう帰ってしまっただろうか。ジャージは洗って返すにしても、色々お礼とか言いたかったんだけどな……。

 同時に気が付く。俺はお礼を言いたいだけでなく、彼女に会いたいと思っているのだと。また明日まで会えないことが、寂しいのだと。

 そんな、ブルーな気分で起き上がろうとして、俺は言葉を失った。

「えっ、ちょ……」

 なぜか西城さんが、俺を枕にして布団の上で眠っていた。
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