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第3話 授業中の逃避行①

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 席替えが行われてから数日……。

 今日は朝から雨が降っていた。

 それだけでも憂鬱な気分だと言うのに、一時限目から俺が一番苦手な体育の授業がある。もう最悪だ……。

 雨でグラウンドが使えないということで、体育の授業は体育館にて行われることになった。

 しかも今日は女子担当の先生が不在ということで、男女合同でバスケットボールをするらしい。それも好きにチームを組んでいいとかいう自由形式で。

 大半の生徒が仲のいい人とチームを組めることに歓喜の声を上げているが、俺にとってはたまったものじゃない。

 準備運動の2人1組もしかり、修学旅行の班決めもまたしかり、自由にグループを組んでいいという状況は、ぼっちにとっては地獄でしかないのだ。

 どこのグループにも入ることができず、哀れむような視線を向けられながら息を殺してやり過ごす。俺は1人でいることも、人から嫌われることも苦ではないけれど、白い目で見られて恥をかかされることにだけは、いまだ慣れない。

 現に今も次々とグループが出来上がっていく中、俺は手持ち無沙汰に棒立ちをしている状況。体育教師の小田おだはそんな俺を見てニヤニヤと笑みを浮かべるだけ。

 この先生はゴリゴリの体育会系の男で、ノリのいい陽キャたちには優しいけど、俺みたいな陰キャは嫌っているから、1人であぶれている俺を見ているのが楽しいのかもしれない。

「くそっ、なんなんだよ……」

 なんともみじめな気分になり、小声でつぶやくと俺はその場を離れた。

 授業が終わるまで隠れてやり過ごそうと思い、体育館の隅に向かうとすでに先客がいた。

「あ、西城さん……」

「おう……」

 声をかけると、西城さんはそれだけ言って顔をこちらに向けた。半袖のTシャツから伸びる綺麗な白い腕で、長い脚を抱えるようにして座っている。

 一瞬見学かなと思ったが、体操着に着替えているのでそうではない。だとすると、俺と同じ状況ということか……?

「隣、座ってもいい?」

「……アタシと一緒にいると、おまえまで変な目で見られるぞ」

 西城さんには良くない噂が付きまとっている。だから、自分と一緒にいることで俺に悪影響を与えることを気にしているのだろう。

 しかしあいにく、俺はもともとクラスメイトからの評価は悪いのでこれ以上嫌われたところで関係ないのだ。

「対して仲も良くないクラスメイトからどう思われようが構わないよ。アイツらの目を気にするくらいなら、西城さんと仲良くしたいし」

「んなっ! なぅぅ……なに恥ずいこと言って……」

 西城さんは不意打ちを食らったかのように赤面し、ひざに顔をうずめて表情を隠してしまう。

 隣の席になってからときどき会話をするようになったけど、彼女はよくこうやって可愛い反応を示す。

 さっきのは俺もちょっと恥ずかしいことを言ってしまった自覚があったけど、西城さんの可愛い顔が見られたので結果オーライだ。

「わ、わかったよ……ったく。けど、ここじゃ目立つからこっち来い」

 西城さんは立ち上がると、強引に俺の腕を引っ張って体育館の外に進んでいく。

「えっ……ちょっ、今授業中だよ!?」

「別にいいだろ、どうせあそこにいたって何もしないで一時間過ごすだけなんだし」

 確かにあの先生のことだ、俺みたいな陰キャが消えたところで気付きもしないだろう。

 あぶれ者をバカにするようなあの顔を思い出すとイライラしてきて、ちょっとくらい反発してやりたいという気にもなってくる。

「……わかった、じゃあ行くか」

 どこに行くのかもわからないけれど、俺は西城さんの手に引かれて体育館から抜け出すことに決めた。

 ♣

「この雨の中、わざわざここまで見回りに来る教師もいないだろ」

 西城さんに連れられてたどり着いたのは、学校の敷地内の角に位置する空間だった。巨大な木が完全に雨をしのいでいるので、芝生の上に座っても濡れる心配はない。

 彼女の言う通り、先生に見つかるというリスクもなさそうだ。

「アタシ、いつも昼はここに来てんだよ」

 そう言うと、彼女は仰向けに寝転がる。なるほど、いつも昼休み教室にいないと思ったら、こんなところに来ていたとは。

 それはそうと……急にひざを立てて寝転がるものだから、体操着の半ズボンの裾がススーっと脚を滑り落ちて、彼女の白い太ももが付け根の当たりまで全開にさらけ出されてしまう。

 まるでモデルのようにスラっと伸びる長くて綺麗な脚。そのくせ男心をくすぐる豊満な肉付きをした、程よい太さの太もも。それはまるで何度も何度もかき混ぜて溶かした生クリームのように、白くて柔らかそうで……。

 その刺激的な光景に、俺の心臓は爆発するように高鳴った。

 高校生とは思えないほど発育のいい西城さんの太ももは眼福ではあるけれど、あまりにも刺激が強すぎた。このまま彼女の腿がチラチラと視界に入ってきたら、俺は平常心を保っていられる自信がない。早く直してもらうべきだろう。

「ちょっ、西城さん……その、ズボン……まくれすぎ」

「はぁ? 別にアタシの太ももくらい、見られたってなんともねーし」

 西城さんは自分の太ももをもてあそぶように、手の平で裏側からタプタプと叩く。重力で垂れ下がっていた腿の肉付きが、まるで皿にのせられたプリンのようにぷるんっ、ぷるんっ――と振動している。

 うわぁっ、柔らかそう……じゃなくてっ!

「ちょっ、だっ、ダメだって! 西城さん可愛いんだから、そんな無防備な格好してたら……」

 甘美に揺れる太ももに魅せられて、感情が高ぶった勢いでついそんなことを口走ってしまう。

「なっ、ななっ! なんだよっ、可愛い、とかっ……! ふ、ふざけたこと言ってんじゃねーよ!」

 西城さんは体を起きあげて、今までにないくらいの動揺っぷりでまくし立ててくる。

「あ、アタシが、かわ、可愛いとか……そんなわけ、ねーだろ……」

 片方の腕で口元を隠し、恥ずかしそうに顔を背ける。

「いや、あの、別にふざけてるわけじゃなくて……可愛いっていうのは、本当に思ってる……」

「なっ、なっ……!」

 かあぁぁっっと顔が真っ赤に染まる。ぷしゅーっと頭から煙が出てしまいそうな勢いだ。

「もう、マジでなんなんだよ……」

 それからもしばらくの間、西城さんは両手で顔を隠してごにょごにょと「なんだよ、アタシが可愛いとか……」を繰り返していた。
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