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第3話 小悪魔な後輩とデート②

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「先輩っ! オムライス来ましたよっ、オムライス!」

「おう、そうだな」

 カフェに来てからずっと若菜さんは楽しそうにはしゃいでる。決して演技には見えない。

 やっぱり若菜さんはあいつらにうながされただけであって、彼女自身に俺をだまそうというつもりはないのだろう。

 しかしそうすると、若菜さんがなぜこんなに俺とのデートを楽しんでいるのかという謎が残ってしまう。

 実は若菜さんは本当に俺のことを……というのはまずないとして――

「先輩っ、これ本当に全部おごりでいいんですよね?」

 あ、そういうことか……タダでここのメニューを食べられるのが嬉しいからこんなにはしゃいでるんだな。

「もちろん。そういう約束だったし」

 俺みたいな陰キャと我慢してデートしている若菜さんのことを考えたら、ついおごってあげなきゃという気になってしまったのだ。

「えへへ、やっぱり先輩って優しいですね……んま~♡」

 若菜さんはぽっぺたを両手で押さえるようにしてオムライスを頬張っている。それにしても美味しそうに食べるな……。

 さて、俺も食べるかな。そう思いスプーンを口に運びかけたとき……

「じゃあおごってもらうお返しに、先輩にはご褒美をあげなきゃですね。はい、あ~ん♡」

「えっ!?」

 ちょうど口を開いていたタイミングでスプーンを差し込まれ、俺は若菜さんが一度口をつけたスプーンに乗ったオムライスを口に入れてしまう。

「――んんッ」

「先輩、どうですか?」

「お、美味しい……」

 美味しい、けど……

「ふふっ、よかったです♡」

 なんかもう色々とヤバい。

 俺はこのあざとい小悪魔後輩に、手の平の上でもてあそぶように、してやられてしまうのだった。

 #

「先輩っ、今日は楽しかったです!」

「こちらこそ」

 カフェを出てから一緒にショッピングをしたりして、そろそろ解散しようということになった。空はすでに夕焼け色に染まっている。

 俺はそろそろあいつらが種明かしをしに来る頃だろうと思い、身構えていた。

「あの、先輩……」

 しかしいつになってもあいつらが出てくる様子はなく、なぜか頬を赤らめた若菜さんが俺の服の袖をくいくいとつかんで上目遣いに見てきた。

「この前は、琴莉のこと助けてくれて本当にありがとうございました」

 この前……あぁ。

 そのとき俺は酔いつぶれて忘れていたときの記憶をふと思い出した。

 合コンの解散後、悪友である蛇原だはら ごうが若菜さんを路地裏に誘い込み、無理やり服を脱がせたり身体を触ったりしているところに遭遇した。

 俺は酔っていたということもあり、何も考えず思うままに行動した。つまり蛇原を突き飛ばし、若菜さんを逃がしたのだ。

 あぁ、そういえばそうだった。なんか、紛失していたパズルのピースが見つかって穴が埋まっていく感覚だ。

「大したことしてないよ。それより、あの後あいつから何かされたりしてない?」

「はいっ! 先輩がちゃんと家まで送ってくれたので」

 えっ?

 待って、そこまでした記憶はないんだが……いや、言われると確かにそんな気も。酔いつぶれてるときの俺の行動力ヤバくないか?

「先輩っ、また次のデートも楽しみにしてます! チュッ♡」

「えっ……」

 若菜さんは俺の頬に唇を触れ、あざとい小悪魔的な笑みを浮かべて去って行った。

 えっ、待って次のデート? あれ、今日あいつらが出てきてドッキリは終わるんじゃなかったのか?

 俺は意味が分からず、頬にキスをされた熱を感じながらただ立ち尽くすのだった。
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