8 / 9
第8話
しおりを挟む
噂とは、とても怖い言葉の集合体ですね。
真実を隠す、まやかしの言葉。
本当のことなど、誰にも分かって貰えない。
でも人々は、その虚飾された甘美に惹かれる。
最高の退屈しのぎであり、自身の心の安らぎをも得られる魅力を持ち合わせている。
虚構だけでは信じて貰えない。だからもっともらしい真実も混ざることで、人々の間に広がっていく。
脚色されたおとぎ話でも、皆の心に浸透してしまえば、事実となり虚実となるのだ。
これから運命の人になるかもしれない。
そうであれば、せめて誠実であって欲しい。
王族であるならば、高い教養を備えており、他者との関係を良好にするよう教え込まれているはずなのだ。
一抹の不安を払拭するために、私はルスタリフ様の噂を改めてララに尋ねてみた。
「ルスタリフ様はあまり良い噂を聞かないのだけど、一体どんな殿方なのかしら?」
「お会いしたことが無いのでなんとも言えませんが、私は過度な噂だと考えております。」
このモフモフから、意外な言葉が返ってきて少し心のざわつきが治まる。
「どうしてそう思うの?気を使ってくれてるのなら嬉しいけど、本当のことを知りたいわ?」
「気を使っている訳ではありませんが、兵士達から悪い話は聞きませんね。むしろ、好意的な声も聞かれますよ。
ただ、その風貌や話し方から、よく思わない人々がいるのも事実と聞きます。」
語り手によって、噂の中身が異なるのだ。
「いわく、万の大軍相手に一歩も引かずに立ち向かい、仲間を鼓舞したおかげで先の大戦を勝利に導いたとか」
随分話が飛躍しているように聞こえる。
そんな人物なら、称賛の嵐なはずなのだが。
素行が悪いという噂はいったい何なのだろう。
「それならば、良い噂しか流れないし、ましてや大々的に伝えられるはずだわ。」
王族は評判を大切にする。
幻想を持たせるためにも、多少の脚色をしてでも良い話を話術士に広めさせる。
でも、それをしなかった。
「正室様が、ルスタリフ様のことを認めていないことが原因なのではないでしょうか。」
・・・なるほど。そういうことなのか。
第二王妃様との間に産まれたルスタリフ様。
流行病で一族が滅亡し、滅びてしまった国もある。
一族繁栄のためには、子を沢山なすことが大切である。
王族では一般的なことで、王妃も教え込まれている。
ただ、頭では分かっていても、心の底まで納得できるかは、別物なのだ。
「悪い噂を広めて、自分の子供に継承権を確実なものにしたい。ということなのかしらね。」
「そんなことしなくても、どちらも良い殿方なはずなのですが、念のためなのかもしれません。」
勇気を出してララに話を聞いてみたことは、正解だったのかもしれない。
大好きだったエリオット。
本当に心が許せる、最愛の人だったからこそ、今は強い呪縛になっている。
その呪縛から解放されるために、私はルスタリフ様に会う決心を固めたのだった。
真実を隠す、まやかしの言葉。
本当のことなど、誰にも分かって貰えない。
でも人々は、その虚飾された甘美に惹かれる。
最高の退屈しのぎであり、自身の心の安らぎをも得られる魅力を持ち合わせている。
虚構だけでは信じて貰えない。だからもっともらしい真実も混ざることで、人々の間に広がっていく。
脚色されたおとぎ話でも、皆の心に浸透してしまえば、事実となり虚実となるのだ。
これから運命の人になるかもしれない。
そうであれば、せめて誠実であって欲しい。
王族であるならば、高い教養を備えており、他者との関係を良好にするよう教え込まれているはずなのだ。
一抹の不安を払拭するために、私はルスタリフ様の噂を改めてララに尋ねてみた。
「ルスタリフ様はあまり良い噂を聞かないのだけど、一体どんな殿方なのかしら?」
「お会いしたことが無いのでなんとも言えませんが、私は過度な噂だと考えております。」
このモフモフから、意外な言葉が返ってきて少し心のざわつきが治まる。
「どうしてそう思うの?気を使ってくれてるのなら嬉しいけど、本当のことを知りたいわ?」
「気を使っている訳ではありませんが、兵士達から悪い話は聞きませんね。むしろ、好意的な声も聞かれますよ。
ただ、その風貌や話し方から、よく思わない人々がいるのも事実と聞きます。」
語り手によって、噂の中身が異なるのだ。
「いわく、万の大軍相手に一歩も引かずに立ち向かい、仲間を鼓舞したおかげで先の大戦を勝利に導いたとか」
随分話が飛躍しているように聞こえる。
そんな人物なら、称賛の嵐なはずなのだが。
素行が悪いという噂はいったい何なのだろう。
「それならば、良い噂しか流れないし、ましてや大々的に伝えられるはずだわ。」
王族は評判を大切にする。
幻想を持たせるためにも、多少の脚色をしてでも良い話を話術士に広めさせる。
でも、それをしなかった。
「正室様が、ルスタリフ様のことを認めていないことが原因なのではないでしょうか。」
・・・なるほど。そういうことなのか。
第二王妃様との間に産まれたルスタリフ様。
流行病で一族が滅亡し、滅びてしまった国もある。
一族繁栄のためには、子を沢山なすことが大切である。
王族では一般的なことで、王妃も教え込まれている。
ただ、頭では分かっていても、心の底まで納得できるかは、別物なのだ。
「悪い噂を広めて、自分の子供に継承権を確実なものにしたい。ということなのかしらね。」
「そんなことしなくても、どちらも良い殿方なはずなのですが、念のためなのかもしれません。」
勇気を出してララに話を聞いてみたことは、正解だったのかもしれない。
大好きだったエリオット。
本当に心が許せる、最愛の人だったからこそ、今は強い呪縛になっている。
その呪縛から解放されるために、私はルスタリフ様に会う決心を固めたのだった。
0
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
婚約者とその幼なじみがいい雰囲気すぎることに不安を覚えていましたが、誤解が解けたあとで、その立ち位置にいたのは私でした
珠宮さくら
恋愛
クレメンティアは、婚約者とその幼なじみの雰囲気が良すぎることに不安を覚えていた。
そんな時に幼なじみから、婚約破棄したがっていると聞かされてしまい……。
※全4話。
婚約者とその幼なじみの距離感の近さに慣れてしまっていましたが、婚約解消することになって本当に良かったです
珠宮さくら
恋愛
アナスターシャは婚約者とその幼なじみの距離感に何か言う気も失せてしまっていた。そんな二人によってアナスターシャの婚約が解消されることになったのだが……。
※全4話。
婚約破棄されたのたが、兄上がチートでツラい。
藤宮
恋愛
「ローズ。貴様のティルナシア・カーターに対する数々の嫌がらせは既に明白。そのようなことをするものを国母と迎え入れるわけにはいかぬ。よってここにアロー皇国皇子イヴァン・カイ・アローとローザリア公爵家ローズ・ロレーヌ・ローザリアの婚約を破棄する。そして、私、アロー皇国第二皇子イヴァン・カイ・アローは真に王妃に相応しき、このカーター男爵家令嬢、ティルナシア・カーターとの婚約を宣言する」
婚約破棄モノ実験中。名前は使い回しで←
うっかり2年ほど放置していた事実に、今驚愕。
もうすぐ、お別れの時間です
夕立悠理
恋愛
──期限つきの恋だった。そんなの、わかってた、はずだったのに。
親友の代わりに、王太子の婚約者となった、レオーネ。けれど、親友の病は治り、婚約は解消される。その翌日、なぜか目覚めると、王太子が親友を見初めるパーティーの日まで、時間が巻き戻っていた。けれど、そのパーティーで、親友ではなくレオーネが見初められ──。王太子のことを信じたいけれど、信じられない。そんな想いにゆれるレオーネにずっと幼なじみだと思っていたアルロが告白し──!?
幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?
ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」
「はあ……なるほどね」
伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。
彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。
アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。
ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。
ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる