貴族嫌いの田舎者

フリーガム

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第1章 貴族嫌いの少年、冒険者学校に入学する

3話 入学試験 前編

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3話 入学試験 前編

 王都生活2日目が始まった。

 あれから、ターナが下級の身体強化魔法を習得する頃には夜もかなり更けてしまっていた。
 習得といっても覚えたてで精度はかなり悪いのだが、数時間しか練習していないことを考えると素晴らしい成果だ。
 それからターナ達に今日のところは泊まっていかないか、とも言われたのだが宿代が無駄になってしまうので遠慮して、急いで宿へと戻り就寝した。

***


 「よし、行くか!」

 朝早くに起き、支度を済ませてから試験会場に向かって歩いていると、同じように会場に向かっているのだろう同年代の子ども達でごった返しているのに気付いた。
 ファルタ王国全土から集まって来た同学年の子ども達だ。
 冒険者学校は3年制で、一学年につき300人ほどの生徒が在籍しているマンモス校なのだが、実はその背景には魔王軍の存在が深く関係している。
 冒険者は基本的に冒険者ギルドに加入してクエストを達成したり、倒した魔物の素材を売ったりして生計を立てる。
 ところがギルドに加入することで得られるギルドカードを持っていないと、商人も素材を買い取ってくれないので加入は実質的に必須事項となるのだ。
 商人が素材を買い取ってくれないのは、冒険者ギルドと商人ギルドを含めた他の様々なギルドが提携しているためである。
 一方で冒険者ギルドに加入すれば、魔王軍がもし人間の国へと攻め込んできた際に、それらと戦う義務を負うことになる。
 つまり、冒険者が多ければ多いほど国の緊急時戦力も増強されていくということだ。
 まぁ人間の国同士の戦争なんかにはさすがに駆り出されないらしいけど。
 こういった理由により優秀な冒険者をできるだけ多く育成するために冒険者学校は規模が大きくなり、生徒の育成のために国の資金がかなり投じられている。

***
 

 しばらく歩くと、校門にたどり着いた。
 前に係りの人が立っており受付場所の案内をしているのだが、受付は貴族用と市民用に分かれているらしい。
 俺ら市民側としても、変に絡まれないから安心だな。
 当然、俺は市民用の受付の列に並んだ。
 今のところ見当たらないが、ターナも今ごろ並んでいるか既に試験会場に行っていることだろう。


 列に並んでから少し待ったところで俺の番が訪れた。

 「名前と受験志望コースをここに」

 紙に名前と志望クラスを書くと受付の人から名前と志望コース、受験番号の書かれた受験票を渡された。
 俺が志望するのは剣士コースだ。
 別に魔法コースにしても良かったのだが、剣士コースの方が運動ができる機会が多そうだからな。

 「剣士コースの受験場所はあちらの建物です」
 
 
 指示された建物へ向かうと、そこはだだっ広い武道館のようになっていた。
 その入口にも受付があり、受験票を受付の人に渡すと受験内容について軽い説明を受けてから、簡易的に設けられた観客席で他の人の試験を見学しながら待機することになった。
 ちなみに、試験は模擬戦形式で行われる。
 剣士コースは武器あり、魔法コースは武器なしで魔法のみの模擬戦らしい。

 「31番と32番! 待機室Aに直ちに集合!」

 「33番と34番! 待機室Bに直ちに集合!」
 
 呼び出されているのは次の受験者たちだ。広い建物内を2つの武舞台に分け、同時進行で2組の試験を行なっている。
 俺は71番だから、まだ時間がかかりそうだな。


 ⋯⋯退屈だ。
 眠たくなってきたな、などと考えていたところ武舞台上にターナが現れた。

 よほど緊張しているのか手足が小刻みに震えている。
 だが先ほどから模擬戦を見ているところ、ターナの実力は受験生の中でもどちらかというと高い方に位置していると思われる。
 同世代と関わる機会が無かったから分からなかったが、彼女は優秀みたいだ。
 後は昨日、習得した身体強化魔法を少しでも有効に使いこなせるかってところだな。
 
 さて、ターナの試験が開始される前に試験内容とルールを再確認しておこう。
 
 ・模擬戦形式
 ・制限時間は3分で、どちらかが降参するか審判が危険と判断した場合は強制終了
 ・武器はあらかじめ学校側で用意された危険性の低い模擬刀を使用
 ・魔法の使用は自由
 ・模擬戦の勝敗で合否が決まる訳ではなく、あくまで審査員が見るのは各々の能力

 って感じか。
 武器は両刃や片刃の剣のみならず、ダガーや槍といった種類の模擬刀も用意してあるみたいだ。
 
 とここで、ターナの相手となる受験生が姿を現した。
 人族の女の子だ。
 ターナの身長が140cm程度で小柄なのに対し、相手の身長は150cmほどある。
 双方とも武器はショートソードを選び盾は持たないみたいなので、ターナが勝つためにはまずはリーチの差を克服する必要があるな。
 
 「それでは、57番と58番による模擬戦、はじめ!」

 
 結果はというと、ターナの勝利だった。 
 彼女が覚えたのは下級の身体強化魔法だが、持ち前のすばしっこさを活かして最後まで相手を翻弄することができていた。 
 相手の方も始めは隙を見せずに対処していたが、これでもかというほどに攻撃を躱され、少しずつ剣の振り方が雑になっていったのだ。
 最後にはターナの一振りが有効打と見なされ判定勝ち。
 この感じだと、ターナの合格はほぼ間違いないだろう。
 何しろ、先ほどから俺の見ている限りで身体強化魔法を扱えている人は半分ほどしかいない。
 貴族の人たちは別の会場で試験が行われているらしく、ここにいるのは市民だけなのだがやはり金銭の問題などから魔法を覚えることができる機会そのものが少ないのだろう。
 そして、この冒険者学校はそういった市民の受け皿にもなっているということだ。
 
 試験を終え、ホッとした表情で待機室の方へ戻ろうとするターナ。

 ⋯⋯よく考えたら、俺はターナの師匠みたいなものだよな。
 師匠としては、弟子の活躍を労ってあげる必要があるな、うん。
 決して暇だから話し相手が欲しいとか、1人だと寝てしまいそうだとかそういう自分勝手な理由ではないのだ。


 手前の通路で待っていると、待機室からターナが出てきた。

 「よう! お疲れさん!」

 「あ、ロイ君! もしかして、次はロイ君の番なの?」

 尻尾が波打つように揺れ動いている。
 嬉しいことがあるとつい動いてしまうらしい。  
 可愛いらしいな。

 「いや、俺の番はまだだけど、ターナの勝利を労いたくてな! いい勝負だったよ。おめでとう」

 なんて澄まし顔で言ってのける俺は詐欺師に向いているのかもしれない。

 「本当にありがとう! お父さんを助けてもらって魔法も教えてもらって、ロイ君には感謝してもしきれないよ⋯⋯」

 「まぁまぁ。困ったときはお互い様! ってことで、俺の番がくるまで話し相手になってくれよ!」

 「⋯⋯」

 ジトっとした目で俺の方を見るターナ。

 「もしかして、私に会いにきたのって暇つぶしのためなんじゃ⋯⋯」

 「そ、そんなことないって⋯⋯ハハッ」

 「まぁ別に良いんだけどね! 昨日聞けなかったロイ君のお話、教えてくれる?」

 そういえば、俺の出自について少しだけ話したんだっけ。
 まぁターナには隠すつもりもないし、問題ない。

 「もちろんいいぞ!」
 

 そうして、俺自身と家族のことについてターナに色々と話した。
 ターナは俺の両親のことはあまり知らないみたいだが、なんとなく凄い人達だってことは理解してもらえたみたいだ。
 それに、母さんが亜人差別撤廃活動に勤しんでいたのは少しだけ耳にしたことがあるという。
 
 「やっぱりロイ君って只者じゃなかったんだ! 私はロイ君と違って大したことはできないけど、良かったらこれからも仲良くしてね!」
 
 「あぁ、よろしくな!」

 とは言ったものの、実は1つだけ懸念がある。
 両親のことを王家に勘づかれた場合、俺は何かしらの嫌がらせを受けたりもしかすると国から追い出されたりするかもしれないのだ。
 そういった際に、友人であるターナにまで危害が及びかねない。
 もちろん、絶対にそうならないように俺が注意するつもりなのだが、ターナにはきちんとそのことを伝えておかないといけないな。
 この入学試験が終わってから、きちんと話す機会をつくろう。
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