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10話 ある貴族の婚約解消と
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「ついにカインがオフィリア王女から婚約解消を言い渡されたようだ。緘口令が敷かれたりと、王女は隠そうと躍起らしいが、当然宮廷内では噂が持ち切りだそうだ」
「あら」
アレクシオスの言葉に、特にリリィは心を動かさなかった。
当然の帰結である。
落ちた卵が割れただけのこと。
「対ヴァスタ公爵家のための動きも、これでお終いというわけね」
「いいのかい? 徹底的にやった方が……」
「余計な波風を立てるべきではないわ。連中の無茶な動きのせいで、ただでさえ王国の経済や政治に余計な余波が響いているのだから。今更ヴァスタ公爵家を怖がることなんて何一つないわ」
無論、対策は打っている。
連中がアスター侯爵家へと仕掛けてきた妨害工作。
その全ての証拠を押さえ、証言も取っている。
その気になれば、アスター侯爵家は容易くカインを破滅へと追い込むことができる。
「どちらかといえば、面子を潰されたと思っているであろう、第三王女派閥の方が厄介よ」
「そちらも問題はないよ。王が愛娘の後始末に奔走しているそうだがが、次があれば投獄すると、直々に仰られたとのことだ」
「だったら完全にこの件はお終いね。ここ一年、すっかり忙しかったものよ。すっかり行き遅れてしまったわ」
リリィが自嘲げに笑う。
「既にアスター侯爵家の汚名は注いだ。今まで以上に勢いのあるアスター侯爵家に、誰も手出しはできない。そろそろ自分の幸せについて考えてみてもいいんじゃないのか?」
アレクシオスがふと、軽い調子でそう言った。
リリィは少し驚き、そして思わず微笑んだ。
「自分の幸せ……ね」
リリィはその言葉を反芻し、何となく胸が高鳴るのを感じた。
婚約破棄以来、もう一年以上もそんなことを考えていなかったけど、今なら、またその感情を受け入れられる気がする。
ただ、それは今や、彼女には縁のない言葉であった。
「私は今、満足してるわよ。進行中のプロジェクトがいくらでもある。私が全てを投げ出して、他家へ嫁ぐことなんでできないわ。私はとっくに、生涯一人でいる決意を固めているわ。それに次の目標もあるの。私はこの国を、もっと平等で、もっと良い場所に変えたい」
リリィは心の中で一つの変化を感じ始めていた。
それは、愛に対する考え方の変化だった。
カインに冷徹に捨てられたあの日から、リリィは再び愛を信じることができるのだろうかと疑問に思っていた。
しかし、今になってようやく、愛はただ一つの感情に過ぎないのではなく、もっと広いものだと気づいたのだ。
愛はもはや、リリィを束縛するものではない。
「だとすれば、婿養子を迎え入れるのはどうだろうか? 君の実績を思えば、君がこのまま次期当主としての地位を盤石にすることに、不満を持つ人物はいまい」
「あははは、面白い話ね。私はもう十八近いわ。それも、公爵家相手に婚約破棄されたことが知れ渡っている。いったいどこの家の子息が、好き好んで私の元へ来るというのかしら」
リリィは窓から目を離し、アレクシオスに向き直る。
そのときアレクシオスは、リリィへと跪き、彼女へと大粒の宝石のついた指輪を差し出していた。
「リリィ、愛している。私は君を、生涯支えたいと願っている。だが、アスター侯爵家の激動を思えば、ずっと言い出すことができなかった。王国を導く大儀。そこに邁進する君を、生涯をかけて支え続ける役目を、私にもらえないだろうか?」
「あら」
アレクシオスの言葉に、特にリリィは心を動かさなかった。
当然の帰結である。
落ちた卵が割れただけのこと。
「対ヴァスタ公爵家のための動きも、これでお終いというわけね」
「いいのかい? 徹底的にやった方が……」
「余計な波風を立てるべきではないわ。連中の無茶な動きのせいで、ただでさえ王国の経済や政治に余計な余波が響いているのだから。今更ヴァスタ公爵家を怖がることなんて何一つないわ」
無論、対策は打っている。
連中がアスター侯爵家へと仕掛けてきた妨害工作。
その全ての証拠を押さえ、証言も取っている。
その気になれば、アスター侯爵家は容易くカインを破滅へと追い込むことができる。
「どちらかといえば、面子を潰されたと思っているであろう、第三王女派閥の方が厄介よ」
「そちらも問題はないよ。王が愛娘の後始末に奔走しているそうだがが、次があれば投獄すると、直々に仰られたとのことだ」
「だったら完全にこの件はお終いね。ここ一年、すっかり忙しかったものよ。すっかり行き遅れてしまったわ」
リリィが自嘲げに笑う。
「既にアスター侯爵家の汚名は注いだ。今まで以上に勢いのあるアスター侯爵家に、誰も手出しはできない。そろそろ自分の幸せについて考えてみてもいいんじゃないのか?」
アレクシオスがふと、軽い調子でそう言った。
リリィは少し驚き、そして思わず微笑んだ。
「自分の幸せ……ね」
リリィはその言葉を反芻し、何となく胸が高鳴るのを感じた。
婚約破棄以来、もう一年以上もそんなことを考えていなかったけど、今なら、またその感情を受け入れられる気がする。
ただ、それは今や、彼女には縁のない言葉であった。
「私は今、満足してるわよ。進行中のプロジェクトがいくらでもある。私が全てを投げ出して、他家へ嫁ぐことなんでできないわ。私はとっくに、生涯一人でいる決意を固めているわ。それに次の目標もあるの。私はこの国を、もっと平等で、もっと良い場所に変えたい」
リリィは心の中で一つの変化を感じ始めていた。
それは、愛に対する考え方の変化だった。
カインに冷徹に捨てられたあの日から、リリィは再び愛を信じることができるのだろうかと疑問に思っていた。
しかし、今になってようやく、愛はただ一つの感情に過ぎないのではなく、もっと広いものだと気づいたのだ。
愛はもはや、リリィを束縛するものではない。
「だとすれば、婿養子を迎え入れるのはどうだろうか? 君の実績を思えば、君がこのまま次期当主としての地位を盤石にすることに、不満を持つ人物はいまい」
「あははは、面白い話ね。私はもう十八近いわ。それも、公爵家相手に婚約破棄されたことが知れ渡っている。いったいどこの家の子息が、好き好んで私の元へ来るというのかしら」
リリィは窓から目を離し、アレクシオスに向き直る。
そのときアレクシオスは、リリィへと跪き、彼女へと大粒の宝石のついた指輪を差し出していた。
「リリィ、愛している。私は君を、生涯支えたいと願っている。だが、アスター侯爵家の激動を思えば、ずっと言い出すことができなかった。王国を導く大儀。そこに邁進する君を、生涯をかけて支え続ける役目を、私にもらえないだろうか?」
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