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第15章 四度目の夏、時は停まってくれない
第448話 名探偵じゃなくても、そのくらいは分かります
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先帝と側妃の国葬は、『黒の使徒』の司祭の乱入というアクシデントはあったものの、その後はしめやかに執り行われた。
乱入して皇帝を侮辱した『黒の使徒』の司祭は、国葬に列席した多くの人の前で『色なし』に変わってしまった。
人の口に戸は立てられないもので、この様子は葬儀に列席した人からたちどころに帝都中に広まり、神を騙って人々を虐げていた『黒の使徒』は神の怒りをかったと認知されたの。
まあ、このところ立て続けに『色の黒い人』が真っ白になる様子が目撃されているからね。
あの乱入した司祭、あれから隣町にある『黒の使徒』の教団施設に逃げ込んだの。
そこには、しばらく前から教皇たちが逗留しているんだよね。
コソコソと帝都の様子を嗅ぎ回っていたみたい。
見張りに付けたおチビちゃんによって情報が筒抜けなのも知らず、悪巧みをしていたの。
教皇はケントニスさんの即位式にイチャモンをつける計画をしていたので、あの司祭が国葬の妨害をしてくるとは想定外だった。
もっとも、国葬への乱入はあの司祭の単独行動のようで、教皇にも想定外の出来事だったようだ。
教皇は、葬儀というしめやかな場を妨害することで周囲の反感が強まることを警戒して、手出しをしない予定だったから。
ただ、司祭からの報告により、皇宮に現われた魔獣が側妃が生んだものだと知ったみたい。
あの魔獣の正体がずっと掴めなかった様だからね。
司祭の報告を聞いて教皇がどう思ったのかは分からない、何も言ってなかったから。
司祭のようにあの魔獣を神の子だなんて言うのかな。
ケントニスさんの即位式の日、『黒の使徒』はどう出てくるのかしら。
**********
さて、ケントニスさんの即位式、従前の戴冠式を廃して公衆の前で皇帝即位を宣言するお披露目の場にしてしまった。
神聖な戴冠の儀を蔑ろにするのかとクレーム付ける者はいなかった。
皇帝の権威は神から授かりしものとする思想から脱却することに異議はでなかったそうだ。
権威付けに神様を利用するのは『黒の使徒』の一件で懲りたみたい。
そして会場はやはり中央広場の一角、従来は皇宮の玉座の間で『黒の使徒』の教皇から戴冠を受けたそうだ。
仮設の会場は国葬が営まれた祭壇の躯体を利用し意匠を変更したものらしい。
しめやかな葬儀が行われた祭壇を再利用したものとは思えない、白を基調とした華やかで荘厳な舞台となっている。
即位式といっても式次第は簡略化されており、ケントニスさんが皇帝即位を宣言し、施政方針演説をする。
その後は、王国からの来賓としてミルトさんが祝辞を述べて、軍の将軍や宮廷の宰相など帝国の重臣が忠誠を誓う場面があるくらい。
余り大袈裟にして費用を掛けるつもりはないみたい。
この即位式は民衆の近いところにいる皇帝ということをアピールする目的とのことだ。
そのため、舞台の前に並んだ貴族席の後方には、縄で仕切られたスペースがあり誰でも即位式が見られる様になっている。立ち見だけどね。
そして迎えた即位式、ケントニスさんが舞台中央に据えられた演壇に立ち皇帝即位を宣言しようとした時。
お約束の道化師たちが現われたの、ホント、外さないのね……。
『黒の使徒』の司祭の正装をした五人の男が一般民衆をかき分けて現れた。
その先頭には、高級そうなローブを羽織り、赤のビロードの布地と金で出来た冠を頭に載せた老齢の男をがいる。
ビロードだろうか光沢のある黒い布地で出来たローブには金糸で緻密な刺繍が施されており、いかにも高価そうな雰囲気が漂っていた。
でも、まだ残暑が残るこの時期に厚手のローブはきついのでは……、見栄を張るのも大変だね。
先頭にいる老人は舞台のすぐ下まで来るとケントニスさんを指差して糾弾したの。
「貴様、なにをもって皇帝を僭称する。
『黒の使徒』の教皇が神意を受けて皇帝の冠をその頭に乗せたときから皇帝を名乗る。
それが、初代皇帝のときよりの帝国の慣わしなのを知らんのか。
先代の皇帝も私が戴冠式を執り行ってから皇帝を名乗ったのだぞ。」
そういった老人は、教皇たる自分が戴冠式をしていないケントニスさんが皇帝を名乗るのはけしからんとか、自分はケントニスさんに冠を授けるようにとの神意は受けていないので皇帝とは認めないとか一方的にまくし立てた。
この老人、相手にモノを言う隙を与えず、一方的に畳み掛けるタイプだな。
自分の言いたい事だけ言って、人の言葉は聞かないタイプ。困ったものだ…。
ケントニスさんも呆れた顔で、老人がまくし立てる言葉が終るのを待っていた。
そして、言ったの。
「言いたいのはそれだけか。
余の即位式、皇帝が執り行う公的な行事を妨害したのだ、極刑をうける覚悟は有るのだろうな。」
このタイプの人間に何を言っても無駄と判断したらしい……。
「何が皇帝だ、貴様が僭称しているだけであろう。
偽皇帝が、『黒の使徒』の教皇たるこの私を罰すると言うのか。
何と言う罰当たりな。」
「何を異なことを、法には皇帝が崩御したら皇太子が皇帝になるとはっきり明示されている。
余が皇太子になったとき、『黒の使徒』の者も式典に来ておったではないか。
そなたこそ何を持って余が皇帝を僭称しているなどと、侮辱をするのだ。」
ケントニスさんは一応話をする気のようだ、問答無用で摘み出せばいいのに。
「ほほう、法に基づきとな。
その法にはもう一文あるであろう。貴様、皇帝の証を全て持ってはいないだろが。
『皇帝は以下に掲げる三つの皇帝の証を持つ者とする。』と記されていたであろう。」
あっ、やっぱりその子供だましの言葉遊びを持ってきますか。
正確には 『皇帝は以下に掲げる三つの皇帝の証を持つものとする。』なんだよね。
普通に読めば、皇帝になった人が三つの証を保有するという意味に取るのだけど。
基本、『黒の使徒』は無法者の集団だ、揚げ足を取ってイチャモンが付けられれば良い。
後は、暴力的手段で解決、そんな感じで二千年をわたってきたのだ。
この条文だって、皇帝の証を持つ者が皇帝になるのだとも取れるようにワザと書いてある。
今回のように『黒の使徒』に不都合なことが生じたら隠し玉として使うつもりだったのね。
でも、こんなところで、そんなくだらないことで水掛け論はしないよ。
「この王冠も、玉璽もちゃんと皇宮の宝物庫に保管されていたものを持っておるぞ。
まさか、ニセモノだと難癖付けるのではあるまいな。」
ケントニスさんは敢えてそういう口振りで言ったのね。
それを聞いた老人は勝ち誇ったように、声を大にしてケントニスさんを糾弾した。
「ほれ、見たことか、貴様、『王家の指輪』を持っていないであろう。
三つの証も持たんくせに何が皇帝だ。
『王家の指輪』はな、正当なる血筋の証として『黒の使徒』の教皇が皇帝に授けるものなのだ。」
うーん、いかにも噛ませ犬のセリフだね。
「『王家の指輪』とはこれのことか?」
ケントニスさんは、左手にしていた儀礼用の白い手袋を外すと左手を老人にかざして見せた。
その中指にはバラの紋章が入った金色の指輪が、ケントニスさんはご丁寧にも魔力を込めて光らせて見せたよ。
「貴様、その指輪を何処で手に入れた、いやその指輪、ニセモノであろう。」
老人は狼狽を隠しきれない様子で、指輪をニセモノだと難癖を付けた。
「何ゆえに、この指輪をニセモノという。
この指輪、ニセモノを作るのは今の技術では難しいらしいぞ。
だいたい、どうやって光らせるのかも分からないし、所有者本人にしか光らせることが出来ないなんてこの指輪はどうなっているのだ。」
そう、あの怪しげな条文を目にしたリタさんがわたしに依頼してきたこと。
魔導王国の『王家の指輪』をケントニスさんのために用意できないかということ。
『黒の使徒』の連中、こんなところに保険をかけていたんだ。
皇帝の証の中に魔導王国の『王家の指輪』を入れておく、これは教皇以外に書き換えられる者はいないと思われていたから。
なんて、姑息な…。
ケントニスさんの言葉に老人は言葉を詰まらせた。
さて、そろそろ茶番も終わりかな。
「だって、その指輪は教皇しか用意できないと思っていたのですものね。
ねえ、ニセ教皇さん。」
わたしが五人の後ろから声をかけると、『黒の使徒』の連中は一斉に振り向いた。
「小娘、私をニセモノ呼ばわりするとは何と無礼な。
子供といえども許さんぞ。」
老人は怒りを露わにするけど、言葉が震えているよ。明らかに狼狽している。
「ニセモノがお気に召さないのなら、替え玉それとも影武者がよいかしら。
『黒い色』がご自慢の『黒の使徒』の教皇が、あなた達の言うところの只人では格好がつかないものね。
今日はシレッと貴族席から高みの見物かと思ったのだけど…。
来なかったのね、オストエンデの領主。
あなたを捨て駒にして、自分だけさっさとスタインブルグに逃げ込んじゃったみたいね。」
わたしが少し挑発すると老人は顔を真っ赤にして怒った。
「きさま、我らが教皇様を馬鹿にするのも大概にしろよ。教皇様を侮辱すると許さんぞ。
教皇様は、いったん仕切り直すと仰せられて、この場を私に委ねてお帰りあそばされたのだ。」
いつも思うのだけど、こいつら本当にバカ。惚けるとか白を切るということを知らないのだろうか。
少し教皇を馬鹿にしたら、自分がニセモノだということを認めちゃうんだもの。
だいたい、最初から変だと思っていたのよ。
瘴気の濃い東部辺境に一番近い町なのに『色の黒い人』が殆んどいないのだもの。
オストエンデが『黒の使徒』と無関係を装うために、『色の黒い人』にオストエンデに入らぬように命じていたのね。
それに、スタインブルグが平野部に移転したのがオストエンデならば、領主も一緒に動いたと考える方が合理的だよね。
そして、状況証拠的ないくつかのこと。
ミルトさん達王国の使節団がオストエンデに宿泊した時、領主代理の伝令と思われる馬車が向かったのがスタインブルグだったの。
また、オストエンデ領主は年数回事前の予約もなく現われては先帝と面談していたこともわかったの。
オストエンデ領主が『色の黒い人』が只人と見下す容姿にも拘らず、あの横柄な先帝が丁重にもてなしていたらしいので特別な立場の人だと想像できる。
そして、つい先日知った決定的なこと。
オストエンデ領主、家名をゼンターレス家と言うらしい。最初に聞いておけばよかった。
何のことはない、魔導王国の王家の家名ゼンターレスリニアール家の後ろ半分を切っただけじゃない。
まあ、それはともかく、ケントニスさんに言わないと。
「皇帝陛下、今聞かれたように、この者は教皇のニセモノでございます。
先帝の戴冠式もこの者が手掛けたと申しております。
教皇が戴冠式を執り行う慣わしなど真っ赤な嘘、先帝も教皇から戴冠を受けてはおりません。
やはり、戴冠式などというものは形ばかりのもの、そこに神意などありません。
この者の言うことなど気にせず、即位式を始められるのがよろしいかと。」
ケントニスさんは不敬の罪で五人の捕縛を命じ、その後はつつがなく即位式が執り行われました。
乱入して皇帝を侮辱した『黒の使徒』の司祭は、国葬に列席した多くの人の前で『色なし』に変わってしまった。
人の口に戸は立てられないもので、この様子は葬儀に列席した人からたちどころに帝都中に広まり、神を騙って人々を虐げていた『黒の使徒』は神の怒りをかったと認知されたの。
まあ、このところ立て続けに『色の黒い人』が真っ白になる様子が目撃されているからね。
あの乱入した司祭、あれから隣町にある『黒の使徒』の教団施設に逃げ込んだの。
そこには、しばらく前から教皇たちが逗留しているんだよね。
コソコソと帝都の様子を嗅ぎ回っていたみたい。
見張りに付けたおチビちゃんによって情報が筒抜けなのも知らず、悪巧みをしていたの。
教皇はケントニスさんの即位式にイチャモンをつける計画をしていたので、あの司祭が国葬の妨害をしてくるとは想定外だった。
もっとも、国葬への乱入はあの司祭の単独行動のようで、教皇にも想定外の出来事だったようだ。
教皇は、葬儀というしめやかな場を妨害することで周囲の反感が強まることを警戒して、手出しをしない予定だったから。
ただ、司祭からの報告により、皇宮に現われた魔獣が側妃が生んだものだと知ったみたい。
あの魔獣の正体がずっと掴めなかった様だからね。
司祭の報告を聞いて教皇がどう思ったのかは分からない、何も言ってなかったから。
司祭のようにあの魔獣を神の子だなんて言うのかな。
ケントニスさんの即位式の日、『黒の使徒』はどう出てくるのかしら。
**********
さて、ケントニスさんの即位式、従前の戴冠式を廃して公衆の前で皇帝即位を宣言するお披露目の場にしてしまった。
神聖な戴冠の儀を蔑ろにするのかとクレーム付ける者はいなかった。
皇帝の権威は神から授かりしものとする思想から脱却することに異議はでなかったそうだ。
権威付けに神様を利用するのは『黒の使徒』の一件で懲りたみたい。
そして会場はやはり中央広場の一角、従来は皇宮の玉座の間で『黒の使徒』の教皇から戴冠を受けたそうだ。
仮設の会場は国葬が営まれた祭壇の躯体を利用し意匠を変更したものらしい。
しめやかな葬儀が行われた祭壇を再利用したものとは思えない、白を基調とした華やかで荘厳な舞台となっている。
即位式といっても式次第は簡略化されており、ケントニスさんが皇帝即位を宣言し、施政方針演説をする。
その後は、王国からの来賓としてミルトさんが祝辞を述べて、軍の将軍や宮廷の宰相など帝国の重臣が忠誠を誓う場面があるくらい。
余り大袈裟にして費用を掛けるつもりはないみたい。
この即位式は民衆の近いところにいる皇帝ということをアピールする目的とのことだ。
そのため、舞台の前に並んだ貴族席の後方には、縄で仕切られたスペースがあり誰でも即位式が見られる様になっている。立ち見だけどね。
そして迎えた即位式、ケントニスさんが舞台中央に据えられた演壇に立ち皇帝即位を宣言しようとした時。
お約束の道化師たちが現われたの、ホント、外さないのね……。
『黒の使徒』の司祭の正装をした五人の男が一般民衆をかき分けて現れた。
その先頭には、高級そうなローブを羽織り、赤のビロードの布地と金で出来た冠を頭に載せた老齢の男をがいる。
ビロードだろうか光沢のある黒い布地で出来たローブには金糸で緻密な刺繍が施されており、いかにも高価そうな雰囲気が漂っていた。
でも、まだ残暑が残るこの時期に厚手のローブはきついのでは……、見栄を張るのも大変だね。
先頭にいる老人は舞台のすぐ下まで来るとケントニスさんを指差して糾弾したの。
「貴様、なにをもって皇帝を僭称する。
『黒の使徒』の教皇が神意を受けて皇帝の冠をその頭に乗せたときから皇帝を名乗る。
それが、初代皇帝のときよりの帝国の慣わしなのを知らんのか。
先代の皇帝も私が戴冠式を執り行ってから皇帝を名乗ったのだぞ。」
そういった老人は、教皇たる自分が戴冠式をしていないケントニスさんが皇帝を名乗るのはけしからんとか、自分はケントニスさんに冠を授けるようにとの神意は受けていないので皇帝とは認めないとか一方的にまくし立てた。
この老人、相手にモノを言う隙を与えず、一方的に畳み掛けるタイプだな。
自分の言いたい事だけ言って、人の言葉は聞かないタイプ。困ったものだ…。
ケントニスさんも呆れた顔で、老人がまくし立てる言葉が終るのを待っていた。
そして、言ったの。
「言いたいのはそれだけか。
余の即位式、皇帝が執り行う公的な行事を妨害したのだ、極刑をうける覚悟は有るのだろうな。」
このタイプの人間に何を言っても無駄と判断したらしい……。
「何が皇帝だ、貴様が僭称しているだけであろう。
偽皇帝が、『黒の使徒』の教皇たるこの私を罰すると言うのか。
何と言う罰当たりな。」
「何を異なことを、法には皇帝が崩御したら皇太子が皇帝になるとはっきり明示されている。
余が皇太子になったとき、『黒の使徒』の者も式典に来ておったではないか。
そなたこそ何を持って余が皇帝を僭称しているなどと、侮辱をするのだ。」
ケントニスさんは一応話をする気のようだ、問答無用で摘み出せばいいのに。
「ほほう、法に基づきとな。
その法にはもう一文あるであろう。貴様、皇帝の証を全て持ってはいないだろが。
『皇帝は以下に掲げる三つの皇帝の証を持つ者とする。』と記されていたであろう。」
あっ、やっぱりその子供だましの言葉遊びを持ってきますか。
正確には 『皇帝は以下に掲げる三つの皇帝の証を持つものとする。』なんだよね。
普通に読めば、皇帝になった人が三つの証を保有するという意味に取るのだけど。
基本、『黒の使徒』は無法者の集団だ、揚げ足を取ってイチャモンが付けられれば良い。
後は、暴力的手段で解決、そんな感じで二千年をわたってきたのだ。
この条文だって、皇帝の証を持つ者が皇帝になるのだとも取れるようにワザと書いてある。
今回のように『黒の使徒』に不都合なことが生じたら隠し玉として使うつもりだったのね。
でも、こんなところで、そんなくだらないことで水掛け論はしないよ。
「この王冠も、玉璽もちゃんと皇宮の宝物庫に保管されていたものを持っておるぞ。
まさか、ニセモノだと難癖付けるのではあるまいな。」
ケントニスさんは敢えてそういう口振りで言ったのね。
それを聞いた老人は勝ち誇ったように、声を大にしてケントニスさんを糾弾した。
「ほれ、見たことか、貴様、『王家の指輪』を持っていないであろう。
三つの証も持たんくせに何が皇帝だ。
『王家の指輪』はな、正当なる血筋の証として『黒の使徒』の教皇が皇帝に授けるものなのだ。」
うーん、いかにも噛ませ犬のセリフだね。
「『王家の指輪』とはこれのことか?」
ケントニスさんは、左手にしていた儀礼用の白い手袋を外すと左手を老人にかざして見せた。
その中指にはバラの紋章が入った金色の指輪が、ケントニスさんはご丁寧にも魔力を込めて光らせて見せたよ。
「貴様、その指輪を何処で手に入れた、いやその指輪、ニセモノであろう。」
老人は狼狽を隠しきれない様子で、指輪をニセモノだと難癖を付けた。
「何ゆえに、この指輪をニセモノという。
この指輪、ニセモノを作るのは今の技術では難しいらしいぞ。
だいたい、どうやって光らせるのかも分からないし、所有者本人にしか光らせることが出来ないなんてこの指輪はどうなっているのだ。」
そう、あの怪しげな条文を目にしたリタさんがわたしに依頼してきたこと。
魔導王国の『王家の指輪』をケントニスさんのために用意できないかということ。
『黒の使徒』の連中、こんなところに保険をかけていたんだ。
皇帝の証の中に魔導王国の『王家の指輪』を入れておく、これは教皇以外に書き換えられる者はいないと思われていたから。
なんて、姑息な…。
ケントニスさんの言葉に老人は言葉を詰まらせた。
さて、そろそろ茶番も終わりかな。
「だって、その指輪は教皇しか用意できないと思っていたのですものね。
ねえ、ニセ教皇さん。」
わたしが五人の後ろから声をかけると、『黒の使徒』の連中は一斉に振り向いた。
「小娘、私をニセモノ呼ばわりするとは何と無礼な。
子供といえども許さんぞ。」
老人は怒りを露わにするけど、言葉が震えているよ。明らかに狼狽している。
「ニセモノがお気に召さないのなら、替え玉それとも影武者がよいかしら。
『黒い色』がご自慢の『黒の使徒』の教皇が、あなた達の言うところの只人では格好がつかないものね。
今日はシレッと貴族席から高みの見物かと思ったのだけど…。
来なかったのね、オストエンデの領主。
あなたを捨て駒にして、自分だけさっさとスタインブルグに逃げ込んじゃったみたいね。」
わたしが少し挑発すると老人は顔を真っ赤にして怒った。
「きさま、我らが教皇様を馬鹿にするのも大概にしろよ。教皇様を侮辱すると許さんぞ。
教皇様は、いったん仕切り直すと仰せられて、この場を私に委ねてお帰りあそばされたのだ。」
いつも思うのだけど、こいつら本当にバカ。惚けるとか白を切るということを知らないのだろうか。
少し教皇を馬鹿にしたら、自分がニセモノだということを認めちゃうんだもの。
だいたい、最初から変だと思っていたのよ。
瘴気の濃い東部辺境に一番近い町なのに『色の黒い人』が殆んどいないのだもの。
オストエンデが『黒の使徒』と無関係を装うために、『色の黒い人』にオストエンデに入らぬように命じていたのね。
それに、スタインブルグが平野部に移転したのがオストエンデならば、領主も一緒に動いたと考える方が合理的だよね。
そして、状況証拠的ないくつかのこと。
ミルトさん達王国の使節団がオストエンデに宿泊した時、領主代理の伝令と思われる馬車が向かったのがスタインブルグだったの。
また、オストエンデ領主は年数回事前の予約もなく現われては先帝と面談していたこともわかったの。
オストエンデ領主が『色の黒い人』が只人と見下す容姿にも拘らず、あの横柄な先帝が丁重にもてなしていたらしいので特別な立場の人だと想像できる。
そして、つい先日知った決定的なこと。
オストエンデ領主、家名をゼンターレス家と言うらしい。最初に聞いておけばよかった。
何のことはない、魔導王国の王家の家名ゼンターレスリニアール家の後ろ半分を切っただけじゃない。
まあ、それはともかく、ケントニスさんに言わないと。
「皇帝陛下、今聞かれたように、この者は教皇のニセモノでございます。
先帝の戴冠式もこの者が手掛けたと申しております。
教皇が戴冠式を執り行う慣わしなど真っ赤な嘘、先帝も教皇から戴冠を受けてはおりません。
やはり、戴冠式などというものは形ばかりのもの、そこに神意などありません。
この者の言うことなど気にせず、即位式を始められるのがよろしいかと。」
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しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
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