393 / 508
第15章 四度目の夏、時は停まってくれない
第392話 悪いことばかりしていると魔法が使えなくなっちゃうよ。
しおりを挟む
皇帝が念証に署名した途端、ケントニスさんから王国からの輸入穀物の流通に関る人員を派遣すると申し出がなされ、担当大臣がそれを了承してしてしまった。
しかも、穀物の輸出先の代表としてきているリタさんもそれを歓迎しているため、皇帝は何もいえなくなってしまう。
『黒の使徒』の息のかかった役人を流通段階に配することで約定の骨抜きを狙ったのだろうが、ケントニスさんが先回りをしてそれを塞いでしまったのだ。
皇帝としては怒鳴り散らしたい気分だろうが、言葉が浮かばないようで、顔を赤くしたままムスッとしている。
そこにケントニスさんは言ったの。
「みなの者、見ての通りである。
この通り、小麦などの流通過程において不当に価格を吊り上げていたシュバーツアポステル商会の排除が皇帝陛下の裁可に拠って決した。
これからは、みなの者に手に届くパンの価格も大幅に下げることであろう。
シュバーツアポステル商会の穀物の払い下げからの排除及び小麦等の小売価格の上限については帝都の各所に掲示する予定である。
みなの者は、帰ったら今日この場で見聞きしたことを、周りの者に正確に伝え人心を鎮める事に努めるように。」
その段階に至って皇帝は部屋の隅にいるわたし達平民に気がついたようだ。
どうやら、怒りの余り視野狭窄に陥っていたらしい。
「ケントニス、どうしてここに下賎の民がおるのだ。
ここ皇宮は平民の立ち入るところではないぞ。」
「皇帝陛下、税を収めてくれる民に対して『下賎』とは甚だ不適切なお言葉ではないですか。
何故、ここにいるのかですか、これも全てシュバーツアポステル商会と『黒の使徒』の愚かな行いのせいですぞ。
奴らが民衆の感情を逆撫ですることを言い、民衆を挑発したため、シュバーツアポステル商会の排除を民衆に周知しないと帝都に暴動の火種が燻る事になってしまったのです。
こうして、民の代表の前でことを決することにより、人心を平らかにしようという配慮です。
何か問題がございますか。」
「馬鹿者!問題だらけではないか!
これでは、シュバーツアポステル商会や『黒の使徒』の面目が丸潰れではないか。
しかも、愚民共に要らぬ知恵を付けようなどと、何を考えておるのだ。
愚民共には、知恵を付けず、余計なことを知らせないと言うのが楽に統治をする秘訣なのだ。
おまえは、その歳にもなって、そんなことも分からないのか!」
なんか、『黒の使徒』に被れている人って、みんな同じ事を言うよね。
民には知らせず、教えずって、何処まで民衆をバカにしているんだろうか。
「皇帝陛下、民を『愚民』とは聞き捨てならない発言ですよ。
シュバーツアポステル商会及び『黒の使徒』についてはあれだけの悪事を働いたのです。
目せしめになるのは当たり前じゃないですか。
それに、『民には知らせず、教えず』とは古い考え方ですね。
世の中が閉鎖的であった昔ならそれで良かったかも知れません。
しかし、昨今、口コミによって帝国各地であった出来事が帝都でも流布するようになったのですよ。
ご存知ありませんか?」
ケントニスさんは、帝国の東部辺境地域で『黒の使徒』が完全に排斥されたことやルーイヒハーフェン及びその周辺の港町でシュバーツアポステル商会及び『黒の使徒』が断罪されたことが、口コミによって帝都の民に知れ渡っていることを話した。
また、ハンデルスハーフェンでの出来事に至っては、政府の者が把握する前に正確かつ詳細に帝都の民に知れ渡ったことを指摘し、民衆の情報統制は困難だと主張した。
そんな状況下で、下手に情報を隠すと民衆に不信感を与えるため、民に周知してしまった方が良いと言ったの。
「貴様は、まだ『黒の使徒』の方々の行いを悪事と申すのか、不遜に過ぎるぞ。
『黒の使徒』の行いは神の代行だと言っているではないか、『黒の使徒』の行いは全てが正しきことなのだ。
貴様には皇太子としての自覚がないようだな、この際、貴様を廃嫡しても良いのだぞ。」
情報を民に知らせるか否かと言う大切な話をしているのに、皇帝には『黒の使徒』の行動に対する評価の方が気にかかったらしい。何だかな……。
いきなり、皇帝が暴論を吐いた、とその瞬間……。
「陛下、まだそのような世迷い言を申されますか。
率直に申し上げます。
今迄の、陛下と皇太子殿下のやり取りを伺う限りにおいて、全面的に皇太子殿下のおっしゃることが正しいです。
陛下、現実をよく見てください。
『黒の使徒』の無法な振る舞いに民の怒りは募るばかりです。
もう既に帝国の各地で『黒の使徒』の排斥は進んでいます。
今、『黒の使徒』と縁切りしませんと陛下にも災禍が及びますぞ。」
それまで二人のやり取りを静観していた大臣が意を決したように言ったの。
そして、今回捕らえたシュバーツアポステル商会及び『黒の使徒』をどうするかについて、皇帝派にも皇太子派にも属さない中立な立場で、かつ法に明るい高位貴族に委任して公開の場で裁きを行うことを大臣は提案した。
誰に裁きを委任するかは、大臣に一任して欲しいって、買収防止のため当日まで秘密だって。
「大臣、そなたまで余が間違っていると申すのか?」
「はい、客観的に見て『黒の使徒』に属するもの以外は全ての者が同じ意見だと存じ上げます。
『黒の使徒』及びその信者はいささか増長しすぎです。
このままでは、民の怒りは『黒の使徒』のみならず、帝国政府にも向いてしまいます。
幸い、皇太子殿下、第一皇女殿下の民からの支持が非常に高いので、かろうじて民の怒りが帝国政府に向くのは避けられている状況かと存じます。
功労者のお一人である皇太子殿下を廃嫡などと言うのは冗談でも口にして良いことではございませんぞ。」
中立派だという大臣が皇太子のことを支持し、皇太子の廃嫡を口にしたことを諌めたことから皇帝は不機嫌の度を強めた。皇帝は本気でケントニスさんを廃嫡しようと思っていたのに冗談であしらわれたものね。
しばらく沈黙していた皇帝であるが、ニッとイヤな笑いを浮かべると言ったの。
「わかった、大臣、おまえに任せようではないか。
公開の場で裁きを行うことを許そうではないか、公正な裁きというのを見せてもらおうか。」
あ、これ、絶対に良からぬことを企んでいるね。全くロクでもないな……。
わたしはおチビちゃんに皇帝を監視するように頼んだよ。
**********
「ケントニスよ、まだ終わりではないぞ。
余の子飼いの魔導部隊の者を罪人として捕縛したというのはどういう了見だ。
ことと次第によっては本当に許さんぞ。」
「その前に、陛下は魔導部隊の者にどのような命を下したか正確に教えていただけませんか。」
ケントニスさんは皇帝からの詰問に対し質問で返した。
「それが何だというのだ。
余は市中で生じている騒動を速やかに鎮めろと命じたのだぞ。」
「それで本当に間違いございませんね。」
「だからなんだと言うのだ」
皇帝からの返答に念押しすると皇帝から焦れた声が上がる。
「いえ、それに相違なければ、あの者共は重大な命令違反を犯しました。
軍法会議に付す事になります。」
そういって、ケントニスさんは、魔導部隊が騒動にかかる事実関係を確認することなく、一方的に『黒の使徒』に加担し混乱に拍車をかけたことを説明し、これが重大な命令違反だと指摘した。
騒動を速やかに鎮めるのであらば、衛兵に協力して罪人であるシュバーツアポステル商会及び『黒の使徒』を捕縛すれば、簡単に済んだことだと主張した。
また、魔導部隊の者は問答無用で無抵抗な市民に強力な攻撃魔法を放っており、死傷者を出す危険性に加え、大規模な暴動に発展する可能性があったと言ったの。
「バカなことを言うな。魔導部隊の行いの何処が命令違反だと言うのだ。
『黒の使徒』の方の捕縛などできるわけがないであろう、そんな罰当たりな。
そんなの愚民共を数人見せしめに殺してやれば、すぐに鎮まるではないか。
一寸待て、おまえ、魔導部隊が強力な魔法を放ったと言ったな。
それで、愚民共に死傷者が出ず、魔導部隊の方が捕縛されたと言うのか。
何でそうなる?」
皇帝は子飼いの魔導部隊の者が捕縛されたことに怒りを覚えていたため、ご自慢の魔導部隊が衛兵に捕縛されてしまったということの不自然さを見落としていたみたい。
今やっと気付いたようね。
「目撃していたシューネフェルト卿の証言では、一人の勇敢な者が身を挺して魔導部隊の魔法から民衆を守ったそうです。」
「馬鹿な!
たった一人で魔導部隊の攻撃を防いだというのか?
では、その者が魔導部隊を鎮圧したと申すのか。」
「いえ、民衆を魔導部隊の魔法から守ったのはその者一人の手柄ですが。
魔導部隊の鎮圧については天罰が当たったと言うのです。
そうですな、シューネフェルト卿?」
ケントニスさんに尋ねられたリタさんは手短に言った。
わたしのことは言わないよ、皇帝の勘気に触れるし、こちらの切り札だから。
「はい、魔導部隊の者が民衆に対し酷く傲慢なことを言ったときでした。
魔導部隊と『黒の使徒』を包み込むように眩い光が生じたかと思えば、それが収まった後には『色なし』のような容貌になった者達がおり、魔法が使えなくなっていたのです。」
リタさんの言葉を引き継ぐようにケントニスさんが感想を述べた。
「『黒の使徒』は自分達は神に選ばれた者だから強い魔法を使えるのだと主張してますよね。
魔法を取り上げられてしまうと言うのは、悪事が過ぎたので神に見放されたのだと思いますが違いますか?
もし、陛下の言う通り神が実在するなら、その事実だけでも、魔導部隊の行いが神の意に反していることだとは思いませんか?」
「何ということだ、余の子飼いの魔導部隊の一中隊百人が『色なし』になってしまったと言うのか。
シューネフェルトとやら、それは誠の事なのだな。」
「はい、この目でしかと見ておりますので。
魔導中隊の隊員百人と『黒の使徒』の司教等二十人、それにシュバーツアポステル商会の職員約二百人が私の目の前で魔法が使えなくなっておりました。」
それを聞いた皇帝は色を失っていた。
それは、自分も魔法を使えなくなるかも知れないと言う恐怖からか、それとも、虎の子の魔導部隊を一中隊失ってしまったショックからなのか。
それを見ていたケントニスさんが皇帝に進言した。
「陛下も、余り傲慢な言動は慎まれたほうが良いのでは。
神意に反するとご自慢の『黒い色』を失うかもしれませんよ。」
しかも、穀物の輸出先の代表としてきているリタさんもそれを歓迎しているため、皇帝は何もいえなくなってしまう。
『黒の使徒』の息のかかった役人を流通段階に配することで約定の骨抜きを狙ったのだろうが、ケントニスさんが先回りをしてそれを塞いでしまったのだ。
皇帝としては怒鳴り散らしたい気分だろうが、言葉が浮かばないようで、顔を赤くしたままムスッとしている。
そこにケントニスさんは言ったの。
「みなの者、見ての通りである。
この通り、小麦などの流通過程において不当に価格を吊り上げていたシュバーツアポステル商会の排除が皇帝陛下の裁可に拠って決した。
これからは、みなの者に手に届くパンの価格も大幅に下げることであろう。
シュバーツアポステル商会の穀物の払い下げからの排除及び小麦等の小売価格の上限については帝都の各所に掲示する予定である。
みなの者は、帰ったら今日この場で見聞きしたことを、周りの者に正確に伝え人心を鎮める事に努めるように。」
その段階に至って皇帝は部屋の隅にいるわたし達平民に気がついたようだ。
どうやら、怒りの余り視野狭窄に陥っていたらしい。
「ケントニス、どうしてここに下賎の民がおるのだ。
ここ皇宮は平民の立ち入るところではないぞ。」
「皇帝陛下、税を収めてくれる民に対して『下賎』とは甚だ不適切なお言葉ではないですか。
何故、ここにいるのかですか、これも全てシュバーツアポステル商会と『黒の使徒』の愚かな行いのせいですぞ。
奴らが民衆の感情を逆撫ですることを言い、民衆を挑発したため、シュバーツアポステル商会の排除を民衆に周知しないと帝都に暴動の火種が燻る事になってしまったのです。
こうして、民の代表の前でことを決することにより、人心を平らかにしようという配慮です。
何か問題がございますか。」
「馬鹿者!問題だらけではないか!
これでは、シュバーツアポステル商会や『黒の使徒』の面目が丸潰れではないか。
しかも、愚民共に要らぬ知恵を付けようなどと、何を考えておるのだ。
愚民共には、知恵を付けず、余計なことを知らせないと言うのが楽に統治をする秘訣なのだ。
おまえは、その歳にもなって、そんなことも分からないのか!」
なんか、『黒の使徒』に被れている人って、みんな同じ事を言うよね。
民には知らせず、教えずって、何処まで民衆をバカにしているんだろうか。
「皇帝陛下、民を『愚民』とは聞き捨てならない発言ですよ。
シュバーツアポステル商会及び『黒の使徒』についてはあれだけの悪事を働いたのです。
目せしめになるのは当たり前じゃないですか。
それに、『民には知らせず、教えず』とは古い考え方ですね。
世の中が閉鎖的であった昔ならそれで良かったかも知れません。
しかし、昨今、口コミによって帝国各地であった出来事が帝都でも流布するようになったのですよ。
ご存知ありませんか?」
ケントニスさんは、帝国の東部辺境地域で『黒の使徒』が完全に排斥されたことやルーイヒハーフェン及びその周辺の港町でシュバーツアポステル商会及び『黒の使徒』が断罪されたことが、口コミによって帝都の民に知れ渡っていることを話した。
また、ハンデルスハーフェンでの出来事に至っては、政府の者が把握する前に正確かつ詳細に帝都の民に知れ渡ったことを指摘し、民衆の情報統制は困難だと主張した。
そんな状況下で、下手に情報を隠すと民衆に不信感を与えるため、民に周知してしまった方が良いと言ったの。
「貴様は、まだ『黒の使徒』の方々の行いを悪事と申すのか、不遜に過ぎるぞ。
『黒の使徒』の行いは神の代行だと言っているではないか、『黒の使徒』の行いは全てが正しきことなのだ。
貴様には皇太子としての自覚がないようだな、この際、貴様を廃嫡しても良いのだぞ。」
情報を民に知らせるか否かと言う大切な話をしているのに、皇帝には『黒の使徒』の行動に対する評価の方が気にかかったらしい。何だかな……。
いきなり、皇帝が暴論を吐いた、とその瞬間……。
「陛下、まだそのような世迷い言を申されますか。
率直に申し上げます。
今迄の、陛下と皇太子殿下のやり取りを伺う限りにおいて、全面的に皇太子殿下のおっしゃることが正しいです。
陛下、現実をよく見てください。
『黒の使徒』の無法な振る舞いに民の怒りは募るばかりです。
もう既に帝国の各地で『黒の使徒』の排斥は進んでいます。
今、『黒の使徒』と縁切りしませんと陛下にも災禍が及びますぞ。」
それまで二人のやり取りを静観していた大臣が意を決したように言ったの。
そして、今回捕らえたシュバーツアポステル商会及び『黒の使徒』をどうするかについて、皇帝派にも皇太子派にも属さない中立な立場で、かつ法に明るい高位貴族に委任して公開の場で裁きを行うことを大臣は提案した。
誰に裁きを委任するかは、大臣に一任して欲しいって、買収防止のため当日まで秘密だって。
「大臣、そなたまで余が間違っていると申すのか?」
「はい、客観的に見て『黒の使徒』に属するもの以外は全ての者が同じ意見だと存じ上げます。
『黒の使徒』及びその信者はいささか増長しすぎです。
このままでは、民の怒りは『黒の使徒』のみならず、帝国政府にも向いてしまいます。
幸い、皇太子殿下、第一皇女殿下の民からの支持が非常に高いので、かろうじて民の怒りが帝国政府に向くのは避けられている状況かと存じます。
功労者のお一人である皇太子殿下を廃嫡などと言うのは冗談でも口にして良いことではございませんぞ。」
中立派だという大臣が皇太子のことを支持し、皇太子の廃嫡を口にしたことを諌めたことから皇帝は不機嫌の度を強めた。皇帝は本気でケントニスさんを廃嫡しようと思っていたのに冗談であしらわれたものね。
しばらく沈黙していた皇帝であるが、ニッとイヤな笑いを浮かべると言ったの。
「わかった、大臣、おまえに任せようではないか。
公開の場で裁きを行うことを許そうではないか、公正な裁きというのを見せてもらおうか。」
あ、これ、絶対に良からぬことを企んでいるね。全くロクでもないな……。
わたしはおチビちゃんに皇帝を監視するように頼んだよ。
**********
「ケントニスよ、まだ終わりではないぞ。
余の子飼いの魔導部隊の者を罪人として捕縛したというのはどういう了見だ。
ことと次第によっては本当に許さんぞ。」
「その前に、陛下は魔導部隊の者にどのような命を下したか正確に教えていただけませんか。」
ケントニスさんは皇帝からの詰問に対し質問で返した。
「それが何だというのだ。
余は市中で生じている騒動を速やかに鎮めろと命じたのだぞ。」
「それで本当に間違いございませんね。」
「だからなんだと言うのだ」
皇帝からの返答に念押しすると皇帝から焦れた声が上がる。
「いえ、それに相違なければ、あの者共は重大な命令違反を犯しました。
軍法会議に付す事になります。」
そういって、ケントニスさんは、魔導部隊が騒動にかかる事実関係を確認することなく、一方的に『黒の使徒』に加担し混乱に拍車をかけたことを説明し、これが重大な命令違反だと指摘した。
騒動を速やかに鎮めるのであらば、衛兵に協力して罪人であるシュバーツアポステル商会及び『黒の使徒』を捕縛すれば、簡単に済んだことだと主張した。
また、魔導部隊の者は問答無用で無抵抗な市民に強力な攻撃魔法を放っており、死傷者を出す危険性に加え、大規模な暴動に発展する可能性があったと言ったの。
「バカなことを言うな。魔導部隊の行いの何処が命令違反だと言うのだ。
『黒の使徒』の方の捕縛などできるわけがないであろう、そんな罰当たりな。
そんなの愚民共を数人見せしめに殺してやれば、すぐに鎮まるではないか。
一寸待て、おまえ、魔導部隊が強力な魔法を放ったと言ったな。
それで、愚民共に死傷者が出ず、魔導部隊の方が捕縛されたと言うのか。
何でそうなる?」
皇帝は子飼いの魔導部隊の者が捕縛されたことに怒りを覚えていたため、ご自慢の魔導部隊が衛兵に捕縛されてしまったということの不自然さを見落としていたみたい。
今やっと気付いたようね。
「目撃していたシューネフェルト卿の証言では、一人の勇敢な者が身を挺して魔導部隊の魔法から民衆を守ったそうです。」
「馬鹿な!
たった一人で魔導部隊の攻撃を防いだというのか?
では、その者が魔導部隊を鎮圧したと申すのか。」
「いえ、民衆を魔導部隊の魔法から守ったのはその者一人の手柄ですが。
魔導部隊の鎮圧については天罰が当たったと言うのです。
そうですな、シューネフェルト卿?」
ケントニスさんに尋ねられたリタさんは手短に言った。
わたしのことは言わないよ、皇帝の勘気に触れるし、こちらの切り札だから。
「はい、魔導部隊の者が民衆に対し酷く傲慢なことを言ったときでした。
魔導部隊と『黒の使徒』を包み込むように眩い光が生じたかと思えば、それが収まった後には『色なし』のような容貌になった者達がおり、魔法が使えなくなっていたのです。」
リタさんの言葉を引き継ぐようにケントニスさんが感想を述べた。
「『黒の使徒』は自分達は神に選ばれた者だから強い魔法を使えるのだと主張してますよね。
魔法を取り上げられてしまうと言うのは、悪事が過ぎたので神に見放されたのだと思いますが違いますか?
もし、陛下の言う通り神が実在するなら、その事実だけでも、魔導部隊の行いが神の意に反していることだとは思いませんか?」
「何ということだ、余の子飼いの魔導部隊の一中隊百人が『色なし』になってしまったと言うのか。
シューネフェルトとやら、それは誠の事なのだな。」
「はい、この目でしかと見ておりますので。
魔導中隊の隊員百人と『黒の使徒』の司教等二十人、それにシュバーツアポステル商会の職員約二百人が私の目の前で魔法が使えなくなっておりました。」
それを聞いた皇帝は色を失っていた。
それは、自分も魔法を使えなくなるかも知れないと言う恐怖からか、それとも、虎の子の魔導部隊を一中隊失ってしまったショックからなのか。
それを見ていたケントニスさんが皇帝に進言した。
「陛下も、余り傲慢な言動は慎まれたほうが良いのでは。
神意に反するとご自慢の『黒い色』を失うかもしれませんよ。」
16
お気に入りに追加
2,315
あなたにおすすめの小説

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる
僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。
それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
土曜日以外は毎日投稿してます。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~
シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。
目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。
『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。
カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。
ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。
ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します
mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。
中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。
私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。
そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。
自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。
目の前に女神が現れて言う。
「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」
そう言われて私は首を傾げる。
「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」
そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。
神は書類を提示させてきて言う。
「これに書いてくれ」と言われて私は書く。
「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。
「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」
私は頷くと神は笑顔で言う。
「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。
ーーーーーーーーー
毎話1500文字程度目安に書きます。
たまに2000文字が出るかもです。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる