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第14章 四度目の春、帝国は
第379話 是非力を貸してください
しおりを挟む さて、ポルトへの向けての帰りの船旅だけど、ルーナちゃんがすっかり孤児たちと打ち解けていた。
わたしと同室で豪華な船室が与えられているのに、わざわざ五日間ずっと荷室で孤児たちと一緒に寝起きしていたの。雑魚寝という状況が楽しくて、夜遅くまでお喋りしていたんだって。
孤児たちも楽しんでいたって言ってたけど、その状況が楽しめるのはお腹が空いてなくて、凍えてもいないからだと思うよ。
「ルーナ様ってとっても気さくな方ね。
貴族のお嬢様ってもっとお高くとまっていて、私達のことなど気にも留めないものだ思ってた。
子供達と一緒になって船の中でかくれんぼをしてテーテュスさんに怒られてたのは笑ったわ。」
そう言って、今も甲板で小さな子達と鬼ごっこをしているルーナちゃんをみながらソフィちゃんが笑っている。ソフィちゃんの表情もこの五日間で大分明るくなった、少しは気が晴れたのかな。
予定ではそろそろポルトが見えてくるはず、と思っていたら鬼ごっこをしていた子の一人が海を指差して大きな声を上げた。
「あっ!陸地が見えた!」
その声に引かれるように子供たちが船の縁に集まってきたの、みんな五日ぶりに見る陸地に興奮気味だ。
子供たちが陸地に気をとられて自分から離れていくとルーナちゃんがわたしの隣にやってきた。
「職場体験、ターニャちゃんについてきて良かった。とっても勉強になったよ。
去年の夏休みに『ピオニール号』の就航式を見に行ったでしょう。
あの時からずっと、機会があったら他の国に行ってみたいと思ってたんだ。」
就航式の日に、ミルトさんからこれから時代が変わるとか、多様な文化や考え方が入ってくるとか言われたのだけど、ルーナちゃんはピンと来なかったみたいなの。
やはり、行ったことない国のことなど想像できないみたい。
それで、今回わたしが職場体験で帝国へ行くという話しを聞いて便乗しようと考えたらしい。
「ハンデルスハーフェンの町が全てだとは思わないけど、王国とは随分違うんだなって思った。
スラムやそこに放置されている孤児にも驚いたし、何よりもあんなに領民に嫌われている領主がいるなんて思わなかったよ。
父さんが、領主は常に領民の暮らし向きに気を配らないといけないと言っている訳が分かった気がする。
領主が領民の生活が苦しくなっていることに気付かないとスラムみたいなものが出来るし、子供が捨てられる事態が起こってしまう。
領民が住む町に無関心だと『黒の使徒』みたいな悪党がはびこっても見落としてしまう。
そういうことなんだね。」
ルーナちゃんは、劣悪な環境のスラムやそこに放置されている孤児をみて、領主貴族の責任を改めて認識したみたい。
**********
予定通りの日程でポルトに到着したわたし達は、孤児達を連れて孤児院まで歩いた。
船を降りて街を歩いたときに子供たちが最初に言ったのが、「すごい!この町全然臭くないんだ!」だったのは笑ってしまった。
だって、ルーイヒハーフェンから孤児達を連れてきたときと同じなんだもの。
そして、精霊神殿の前までやってくると、神殿の前庭で掃除を手伝っていたネルちゃんがわたしに気付いて走ってきた。
「ターニャお姉ちゃん、いらっしゃい!
今日はお休みの日じゃないのに遊びに来てくれたの?」
わたしに向かって満面の笑顔でそう言ったあと、キョロキョロと周りをみて、
「ザイヒトお兄ちゃんは?」
と尋ねてきた。わたし一人じゃ不満ですか、そうですか……。
「ゴメンね、ネルちゃん。今日はお休みじゃないから、ザイヒトお兄ちゃんは学校なの。
わたしは、学校の授業で帝国へ行ってきた帰りなんだ。
新しく孤児院に入ることになった子を連れてきたの。これから仲良くしてね。」
わたしの言葉に一寸がっかりした表情をみせたけど、孤児院の仲間が増えるのが嬉しかったのか気を取り直したみたい。
わたしの周りにいる子達に向かって、
「はじめまして、わたしはネル。
ポルトの孤児院へようこそ!これから仲良くしてください。」
と笑顔で言った。
可愛い挨拶に相好を崩したソフィちゃんが、ネルちゃんの前に屈んで挨拶を返す。
「とっても礼儀正しい良い子ね。
はじめまして、ネルちゃん。
わたしはソフィというの、ハンデルスハーフェンという町から来ました。
全員で十二人、これからお世話になるので仲良くしてくださいね。」
ソフィちゃんの両脇に寄り添っている小さな子二人が一緒に頭を下げる仕草がとても微笑ましかったよ。
わたし達よりも先に孤児院に向かったリタさんと共にステラ院長が前庭まで出てきてみんなを歓迎してくれた。
そして、孤児院の決まりごとを説明した後、孤児院内の案内や服の支給を行った。
ルーイヒハーフェンから連れてきた子の時と同じで、寝室を案内したときや服を支給したときは歓声が上がっていた。
そして、一年先に住んでいたルーイヒハーフェン組みのみんなに紹介が済んだら、歓迎会だ。
実は孤児院には、出発前に新たに孤児を保護する予定があることと帰国予定日を知らせ、十分な額の寄付金を渡して歓迎会を開いてもらえるように手配しておいたの。
かなり豪華な夕食になったので元からいた子供たちも大喜びだった。
**********
「あんな豪華な食事、初めて食べたわ。
ターニャちゃんが歓迎会の費用を寄付してくれたんですってね。
有り難う、ごちそうさまでした。
ここの孤児院ってとっても素敵なところね、予想をはるかに上回っていたわ。
国が与えてくれる施設と言うからもっと質素なものかと思っていた。
部屋もきれいだし、服だってこんな清潔なものがもらえるなんて思わなかった。
ここへ連れてきてくれて有り難う、もう冬を越せない心配をする必要なくなったわ。」
夕食後談話室で寛いでいるとソフィちゃんがお礼を言ってくれた。
そして、こう続けたの。
「ねえ、ターニャちゃん、私もターニャちゃんのお手伝いが出来ないかな。
私も両親を亡くしてスラムに住んでみて、孤児がどんなに大変か身に染みたの。
私がターニャちゃんに救ってもらえたように、私も少しでも孤児を救えたらって思うの。
何か私にできることはないかな。」
ソフィちゃんの申し出はとっても嬉しい、だけど残念ながら今じゃないんだ。
「ソフィちゃん有り難う、そう言ってもらえてすごく嬉しいよ。
でもね、今この瞬間も苦しんでる子がいるのは確かだけど、すぐにできることは少ないの。
例えば、この孤児院だってもう定員いっぱいで、これ以上の受け入れは難しいの。
わたしだって、まだ学園の生徒でいつでも帝国に行ける訳じゃないし。
帝国の孤児達を救いたいのなら、この国の孤児院の制度をよく勉強しておいて欲しいの。
孤児院に関する法や予算の立て方、それに孤児院の運営の仕組みなんかをよく学んでおいて。
ケントニスさんが帝国にも国営の孤児院を創りたいと言っているから力になって欲しいの。
帝国には孤児院運営のノウハウがないから必ず役に立つわ。
ソフィちゃんが孤児院運営の研究をしてくれると言うのなら、ケントニスさんに伝えておくわ。」
すぐにできることは少ないと言われてソフィちゃんは気落ちしていたが、
「そう、今の私では余り役に立たないか……。
わかった、ターニャちゃんの言う通り一所懸命勉強するわ。
この孤児院のお手伝いもして、孤児院の実際の運営方法も覚える。
だから、帝国に孤児院を作るときには私にも手伝わせて。約束だよ。」
と答えてくれた。
「ところで、ケントニスさんって誰?」って尋ねられたから、帝国の皇太子だと言ったらソフィちゃんは目を丸くしていたよ。
何で、皇太子と知り合いなんだとソフィちゃんの目が言っている。
でもね、ネルちゃんがザイヒトお兄ちゃんって気軽に呼んでいる人も帝国の第二皇子だからね。
そのうち遊びに来るから、きっと、ビックリすると思うよ。
わたしと同室で豪華な船室が与えられているのに、わざわざ五日間ずっと荷室で孤児たちと一緒に寝起きしていたの。雑魚寝という状況が楽しくて、夜遅くまでお喋りしていたんだって。
孤児たちも楽しんでいたって言ってたけど、その状況が楽しめるのはお腹が空いてなくて、凍えてもいないからだと思うよ。
「ルーナ様ってとっても気さくな方ね。
貴族のお嬢様ってもっとお高くとまっていて、私達のことなど気にも留めないものだ思ってた。
子供達と一緒になって船の中でかくれんぼをしてテーテュスさんに怒られてたのは笑ったわ。」
そう言って、今も甲板で小さな子達と鬼ごっこをしているルーナちゃんをみながらソフィちゃんが笑っている。ソフィちゃんの表情もこの五日間で大分明るくなった、少しは気が晴れたのかな。
予定ではそろそろポルトが見えてくるはず、と思っていたら鬼ごっこをしていた子の一人が海を指差して大きな声を上げた。
「あっ!陸地が見えた!」
その声に引かれるように子供たちが船の縁に集まってきたの、みんな五日ぶりに見る陸地に興奮気味だ。
子供たちが陸地に気をとられて自分から離れていくとルーナちゃんがわたしの隣にやってきた。
「職場体験、ターニャちゃんについてきて良かった。とっても勉強になったよ。
去年の夏休みに『ピオニール号』の就航式を見に行ったでしょう。
あの時からずっと、機会があったら他の国に行ってみたいと思ってたんだ。」
就航式の日に、ミルトさんからこれから時代が変わるとか、多様な文化や考え方が入ってくるとか言われたのだけど、ルーナちゃんはピンと来なかったみたいなの。
やはり、行ったことない国のことなど想像できないみたい。
それで、今回わたしが職場体験で帝国へ行くという話しを聞いて便乗しようと考えたらしい。
「ハンデルスハーフェンの町が全てだとは思わないけど、王国とは随分違うんだなって思った。
スラムやそこに放置されている孤児にも驚いたし、何よりもあんなに領民に嫌われている領主がいるなんて思わなかったよ。
父さんが、領主は常に領民の暮らし向きに気を配らないといけないと言っている訳が分かった気がする。
領主が領民の生活が苦しくなっていることに気付かないとスラムみたいなものが出来るし、子供が捨てられる事態が起こってしまう。
領民が住む町に無関心だと『黒の使徒』みたいな悪党がはびこっても見落としてしまう。
そういうことなんだね。」
ルーナちゃんは、劣悪な環境のスラムやそこに放置されている孤児をみて、領主貴族の責任を改めて認識したみたい。
**********
予定通りの日程でポルトに到着したわたし達は、孤児達を連れて孤児院まで歩いた。
船を降りて街を歩いたときに子供たちが最初に言ったのが、「すごい!この町全然臭くないんだ!」だったのは笑ってしまった。
だって、ルーイヒハーフェンから孤児達を連れてきたときと同じなんだもの。
そして、精霊神殿の前までやってくると、神殿の前庭で掃除を手伝っていたネルちゃんがわたしに気付いて走ってきた。
「ターニャお姉ちゃん、いらっしゃい!
今日はお休みの日じゃないのに遊びに来てくれたの?」
わたしに向かって満面の笑顔でそう言ったあと、キョロキョロと周りをみて、
「ザイヒトお兄ちゃんは?」
と尋ねてきた。わたし一人じゃ不満ですか、そうですか……。
「ゴメンね、ネルちゃん。今日はお休みじゃないから、ザイヒトお兄ちゃんは学校なの。
わたしは、学校の授業で帝国へ行ってきた帰りなんだ。
新しく孤児院に入ることになった子を連れてきたの。これから仲良くしてね。」
わたしの言葉に一寸がっかりした表情をみせたけど、孤児院の仲間が増えるのが嬉しかったのか気を取り直したみたい。
わたしの周りにいる子達に向かって、
「はじめまして、わたしはネル。
ポルトの孤児院へようこそ!これから仲良くしてください。」
と笑顔で言った。
可愛い挨拶に相好を崩したソフィちゃんが、ネルちゃんの前に屈んで挨拶を返す。
「とっても礼儀正しい良い子ね。
はじめまして、ネルちゃん。
わたしはソフィというの、ハンデルスハーフェンという町から来ました。
全員で十二人、これからお世話になるので仲良くしてくださいね。」
ソフィちゃんの両脇に寄り添っている小さな子二人が一緒に頭を下げる仕草がとても微笑ましかったよ。
わたし達よりも先に孤児院に向かったリタさんと共にステラ院長が前庭まで出てきてみんなを歓迎してくれた。
そして、孤児院の決まりごとを説明した後、孤児院内の案内や服の支給を行った。
ルーイヒハーフェンから連れてきた子の時と同じで、寝室を案内したときや服を支給したときは歓声が上がっていた。
そして、一年先に住んでいたルーイヒハーフェン組みのみんなに紹介が済んだら、歓迎会だ。
実は孤児院には、出発前に新たに孤児を保護する予定があることと帰国予定日を知らせ、十分な額の寄付金を渡して歓迎会を開いてもらえるように手配しておいたの。
かなり豪華な夕食になったので元からいた子供たちも大喜びだった。
**********
「あんな豪華な食事、初めて食べたわ。
ターニャちゃんが歓迎会の費用を寄付してくれたんですってね。
有り難う、ごちそうさまでした。
ここの孤児院ってとっても素敵なところね、予想をはるかに上回っていたわ。
国が与えてくれる施設と言うからもっと質素なものかと思っていた。
部屋もきれいだし、服だってこんな清潔なものがもらえるなんて思わなかった。
ここへ連れてきてくれて有り難う、もう冬を越せない心配をする必要なくなったわ。」
夕食後談話室で寛いでいるとソフィちゃんがお礼を言ってくれた。
そして、こう続けたの。
「ねえ、ターニャちゃん、私もターニャちゃんのお手伝いが出来ないかな。
私も両親を亡くしてスラムに住んでみて、孤児がどんなに大変か身に染みたの。
私がターニャちゃんに救ってもらえたように、私も少しでも孤児を救えたらって思うの。
何か私にできることはないかな。」
ソフィちゃんの申し出はとっても嬉しい、だけど残念ながら今じゃないんだ。
「ソフィちゃん有り難う、そう言ってもらえてすごく嬉しいよ。
でもね、今この瞬間も苦しんでる子がいるのは確かだけど、すぐにできることは少ないの。
例えば、この孤児院だってもう定員いっぱいで、これ以上の受け入れは難しいの。
わたしだって、まだ学園の生徒でいつでも帝国に行ける訳じゃないし。
帝国の孤児達を救いたいのなら、この国の孤児院の制度をよく勉強しておいて欲しいの。
孤児院に関する法や予算の立て方、それに孤児院の運営の仕組みなんかをよく学んでおいて。
ケントニスさんが帝国にも国営の孤児院を創りたいと言っているから力になって欲しいの。
帝国には孤児院運営のノウハウがないから必ず役に立つわ。
ソフィちゃんが孤児院運営の研究をしてくれると言うのなら、ケントニスさんに伝えておくわ。」
すぐにできることは少ないと言われてソフィちゃんは気落ちしていたが、
「そう、今の私では余り役に立たないか……。
わかった、ターニャちゃんの言う通り一所懸命勉強するわ。
この孤児院のお手伝いもして、孤児院の実際の運営方法も覚える。
だから、帝国に孤児院を作るときには私にも手伝わせて。約束だよ。」
と答えてくれた。
「ところで、ケントニスさんって誰?」って尋ねられたから、帝国の皇太子だと言ったらソフィちゃんは目を丸くしていたよ。
何で、皇太子と知り合いなんだとソフィちゃんの目が言っている。
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