精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第13章 何も知らない子供に救いの手を

第331話 化けましたね

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 学園の寮でザイヒト王子の誘拐未遂事件があった三日後、わたし達は帝都近郊にある精霊の森にいた。あれからきっちり三日で屋敷が完成したの、前の二つと瓜二つの形のものが。

 試しに森から出てみたら本当に帝都から目と鼻の先にあった。だって帝都が見えるんだもの。
 そして今、わたしの前には妙齢の美女が一人。

「誰?」

「そういうお約束のボケはいらないです。
 ここに、私以外の誰がいると言うのですか。」

 髪を結い上げ、きっちりお化粧を施したリタさんが言った。
 結い上げられた艶やかな栗毛色の髪には宝飾された髪留めが付けられ、王宮女官の礼装に身を包んだリタさんはどこからみても貴族のご令嬢だ。
 化粧により強調された切れ長の眼は如何にも頭の切れる女官と言う雰囲気を漂わせている。

「リタさん、随分化けましたね。」

「仕方がないでしょう。
 王国の皇太子妃の使者として帝国の皇太子様にお目にかかるのです。
 着慣れた侍女服という訳にはいかないでしょう。
 大体、通常の女官服だってヒラヒラして動きにくいのに、この服なんか高貴な方を正式に訪問する際の礼服ですからね。肩が凝って仕方がないですよ。」

 そう、これからリタさんにはケントニスさんを迎えに行ってもらうの。
 ミルトさんからの親書を携えていくという建て前になっているので、正装をしているんだ。
 リタさんに何かあるといけないので、フェイさんが侍女に、ソールさんが従者に扮して付いて行くことになっているの。

 ちなみに、この三日の間にフェイさんたちに上手く回ってもらい、帝都にある王国の大使館からケントニスさんに謁見する手筈を整えてもらっている。


     **********


 その日の夕方、リタさんが手はず通りケントニスさんを伴って無事に戻って来た。
 屋敷のメインリビングにリタさんに伴われたケントニスさんが入ってくると、ヴィクトーリアさんが立ち上がりケントニスさんの手を取り安堵の表情で言ったの。

「ああ、ケントニス、無事で良かった…。」

「母上こそ、お元気そうで良かったです。王国での静養は効果があるようですね。
 それで今日はどうなされたのですか?
 数日前に急に王国からの使者と聞き何事かと思えば、今日ここに母上がいるので来て欲しいとあったので驚きました。」

 あれ、あの親書には詳しい事情は書いてなかったのか。

「そうそう、ケントニス、こちらにいらっしゃる皆さんにお礼を言って。
 この方達が今日わたし達がここで会えるように段取りしてくださったのよ。
 この屋敷もティターニアさんのものなの。」

 そういって、ヴィクトーリアさんはこの森と屋敷のことを掻い摘んで説明した。

「そうですか、みなさんが荒地に森を作って歩いていたのですか。
 夏場過ぎから彼方此方で突然森ができたと、もっぱら話の種だったのです。
 しかも、森の中にこんな屋敷があるとは思いませんでした。
 今日は母上を連れてきてくださり有り難うございました。」


 その後ヴィクトーリアさんは、『黒の使徒』がケントニスさんを弑しザイヒト皇子を皇太子に据えようとしていることを打ち明けたの。そのために、ザイヒト皇子を誘拐しようとしたことと共に。

 また、その背景として今年の夏場以降あった出来事を順を追ってケントニスさんに説明していた。 
「そんな事があったのですか。
 ではやはり、『白い聖女』と言うのは、ティターニアさんとミーナさんのことなのですね。
 一昨年辺りから噂になっていたのですが、今年は帝国東部の広い地域を回って農地や泉を与えてくださったと帝都でもすごい評判になっているのです。
 『黒の使徒』は噂を打ち消すのに躍起になっています。
 しかし、アーデルハイトが『白い聖女』に助力をお願いしてると噂が実しやかに流れており、打ち消されるどころか噂は広がるばかりです。
 それでは、アーデルハイトが『白い聖女』と一緒に行動しているというのも事実なのですね。」

 ケントニスさんは、『白い聖女』の噂を聞いたとき、わたし達を思い浮かべたそうだ。
 一昨年帝都に来たときに、途中で食料を分けたり畑を作ったりしたことを話したからね。
 今年は、昨年、一昨年に比べてかなり広い地域を回ったし、農地を作った村も比べ物にならないくらい多かったので一気に噂が広がったようだ。まあ、商人の口コミも利用させてもらったしね。

「それで、ターニャちゃん達やアーデルハイトの活動は民の間でどう評価されているの?」

 ヴィクトーリアさんはわたし達が行ってきたことが、民衆に正当に評価されているか気になるようだ。

「ええ、『白い聖女』の評判は非常に良いです。賞賛は日に日に高まっています。
 それと同時に、『白い聖女』を連れてきたアーデルハイトへ感謝する声も大きくなっています。
 アーデルハイト自ら魔法を使った農作業の指導をしているとの話もそれを助長しているようです。」

 ハイジさんが兄であるケントニス皇太子の治世を支えていくと表明しているものだから、ケントニスさんに期待する声も高まっているらしい。

 ケントニスさんの話を聞いてヴィクトーリアさんは安堵の表情を見せながら言った。

「それで、東部の辺境地域は上手く治まっているのかしら。
 食糧事情が改善してくると今までの圧政に対する不満が爆発して帝国から離反する動きとかは出ていないかしら。」

「その辺は全く問題がありません。
 やはり、食糧事情が改善すると人心は穏やかになるようです。
 東部辺境地域での騒乱発生件数は今までより大幅に減少しています。
 それは、他地域と比較すると明らかです、他の地域では騒乱は減っていませんので。」

 うーん、東部辺境以外ではまだ食料不足が続いているんだ。他の地域は東部辺境ほど瘴気が濃い訳ではないはずだけど。
 森を全て伐り払ってしまって砂漠化が進んでいるのかな、それとも無理な連作で土がダメになったか。…両方かな。

 これからは東部辺境以外も回らないとダメかな、フェイさんが拠点を増やすと言っていたのはそのためか。

「皇帝は東部辺境での出来事をどう思っているようですか。」

「はい、母上。
 忌み嫌う『色なし』が聖女と崇拝されることに、父上は内心非常に腹を立てているようです。
 しかし、東部辺境の治安が急速に良くなっているため、表立って『白い聖女』を排斥しろとは言えないようです。
 アーデルハイトに関しても『白い聖女』を帝国に引き入れたことに怒りを感じているようです。
 しかし、穏健派の貴族がアーデルハイトのことを賞賛するので、口をつぐんでいます。
 表立って『白い聖女』の排斥を訴えているのは『黒の使徒』だけですね。
 彼らは、『白い聖女』の排斥を訴えれば、訴えるほど自分達の立場が悪くなるのを自覚していないのです。」

「そうですか、『黒の使徒』は追い込まれれば、追い込まれるほど過激な行動にでる危険性があります。
 身の安全にはくれぐれも気をつけてくださいね。」

「今日報告を受けたことは私を支持してくれる穏健派の貴族の皆さんにも報告しておきます。
 私も含めてこれから、いっそう警戒を強めることにします。」

 ケントニスさんの身を案ずるヴィクトーリアさんにケントニスさんはそう答えたの。
 二人の会話が一段落したようなので、わたしはケントニスさんに一言伝えておく。

「ケントニスさん、この森には特殊な魔法が施されていて、わたしが許可した人しか入れません。
 ケントニスさんはこの森に入れるようにしておきますので、身の危険を感じたときはこの森に避難してくださいね。」

 わたしがそう伝えるとケントニスさんはすごい魔法があるものだと感心していた。
 本当は違うのだけど精霊のことは教えないよ。

 ケントニスさんは、ソールさん達が魔導車で帝都の宮殿まで送っていくのだけど、立ち去り際にヴィクトーリアさんに尋ねた。

「これから、母上はここにお住まいになるのですか?」

 それに答えてヴィクトーリアさんは言う。

「ごめんなさいね。アーデルハイトが卒業するまでは王国にお世話になる予定で考えているの。」

「これからヴィーナヴァルトまでお戻りになるのですか。長旅はお体に障るのでは?」

 ヴィクトーリアさんは困った顔でわたしを見ている。

「ケントニスさん、実はわたしの従者の中に転移の魔法を使える者がいるの。
 他言無用でお願いしますが、ヴィクトーリア様はこれから一瞬でヴィーナヴァルトへ帰還します。
 あえて、ヴィクトーリアさんはザイヒト王子の誘拐未遂事件の起こった日を言いませんでしたが、実はまだ三日前の出来事なのですよ。
 『黒の使徒』の人達は自分たちの企てが失敗したことをまだ知りませんので、彼らの耳に入らないように情報統制に気をつけてくださいね。」

 そう説明すると心底驚いていたよ。
 わたしも含めて奇跡のような魔法を使える人材が集まっているのですねと感心していた。
 人ではないのだけどね…。





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