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第13章 何も知らない子供に救いの手を
第326話 テーテュスさんの話しでは
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六の月の最後の休日、わたしはみんなと一緒にポルトの孤児院に来ている。
月に一度はリリちゃんをスラムの友達に会わせてあげようと考え、月末の休日はポルトに来ることにしたんだ。
転移場所に王家の別荘を利用させてもらうので、当然王家の誰かが一緒に来ることになる。
勝手にわたし達だけで使うことは出来ないからね。
ということで、ポルトへ来る時はミルトさんがついて来ることになったの。
休日二日のうち一日は精霊神殿の前で臨時診療所を開いて、もう一日は西大陸との交易の打ち合わせをするんだって。ミルトさん、働きすぎじゃないの…。
精霊神殿に併設された孤児院にリリちゃんとハンナちゃんを送り届けたら、残りのメンバーは精霊神殿の前で診療活動だ。
午前中に公爵の下に仕えるお役人さんが精霊神殿前で無料診療を行っていると町の人に宣伝して回ったので、お昼頃になると診療所を訪れる人が増えてきた。
相変わらず、ミルトさんの許には派手な化粧で派手な服を着た若いお姉さんの患者さんがいっぱいだ。なんでも、この町にくる船乗りさんの淋しさを癒してあげるお仕事をしているらしい。
何故か、このお姉さん達は創世教の人からは嫌われているようなの。
そんな中で、どんな人でも分け隔てなく無償で治療してくれるミルトさんはお姉さん達から女神のように崇拝されているの。
診療所に来る人たちが一段落してホッとしていると、わたし達が来ていることを耳にしたらしいテーテュスさんが顔を出した。
ミルトさんの天幕に行かずにわたしの所へ来たということはお仕事の話ではないんだね。
「おい、ターニャ、面白い話を聞いたんで教えてやろうと思ってきたぞ。」
「こんにちは、テーテュスさん。挨拶も抜きで、いきなりですね。」
わたしがそう返すとテーテュスさんが笑いながら言う。
「まあ、そんな硬いことは言うな。おまえだってそんな礼儀正しい方じゃないだろう。
それより、おまえ、『黒の使徒』の救済神官って知っているか?」
いや、たしかにエルフリーデちゃんからもう少し礼儀正しくしろってよく注意されるけど…、「こんにちは」くらいはちゃんと言うよ。
それはともかく…。
「ええ、知っていますよ。
自分達の教義に逆らう者を魂の救済と称して殺して回る頭のおかしい人たちですよね。
自分達の教義に従わないものは魂の穢れた者だなんてひどい言い掛かりですよね。
一度、わたし達のところにも来たじゃないですか、あのときテーテュスさんもいましたよね。」
『黒の使徒』自体が狂っていると思うけど、その中でも極め付けに頭のおかしな集団だ。
わたしが救済神官について知っていることを答えるとテーテュスさんは大笑いした。
「あはは、頭のおかしな人という表現は良いな、全くその通りだ。
それでな、そいつら大挙してルーイヒハーフェンに攻め込んできたんだ。
シュバーツアポステル商会の支店とその下部組織を潰された報復に来たようだ。
その数は優に百人を超えていたな、いったいドンだけ殺戮するつもりで送ってきたのやら。」
そうですか、早速仕掛けが役に立ちましたか、それはテーテュスさんが大笑いするはずだ。
さぞかし、愉快なことになったのだろう。
「森のおチビ達がいい仕事をしてくれてな、町を囲む森を抜けてルーイヒハーフェンの町の中に入ってきたときにはすっかり浄化されて奴らみんな真っ白だ。
自慢の黒い色がすっかり抜け落ちて、真っ白になった自分達を見てうろたえていたぜ。」
ルーイヒハーフェンへ続く森の中の道は、途中で馬車を引き返せるようになっていないので、救済神官を乗せた馬車の隊列は町の中まで入って来たそうだ。
丁度、町の外に出ていた住人が、町に向かってくる馬車の隊列を目撃して、なにやら不穏なものを感じたらしい。救済神官の馬車が町に辿り着く前に帰り着き、町の衛兵に賊の襲撃と伝えたらしい。
賊の襲撃を迎え撃つべく衛兵と腕に覚えのある有志が待ち構えているところにやってきた救済神官の馬車。
そこで、連中は対応を間違えたようだ。
「あいつら、馬鹿じゃないか。そのまま、そ知らぬ顔で引き返していけば良かったのに。
よりによって、自分達は『黒の使徒』の救済神官でシュバーツアポステル商会に逆らった魂の穢れた者を救済しにきたなんて偉そうに言うんだ。
二つの意味で馬鹿だよな、まずは自分達が魔法が使えなくなっているのに多勢を相手に戦えると思っていること。
もう一つは、シュバーツアポステル商会が『黒の使徒』と密接に関係していると公言してしまったことだよ。国教が悪徳商人とグルだなんて聞いて民衆が黙っている訳ないだろうが。」
連中なりの使命感からなのか、『色なし』状態になってもなお、住民の粛清を行おうとしたらしい。救済神官の数は百人ほど、対する住民側は三百人ほど集まったらしい。
さすがに人殺しのプロも、魔法が使えなくなった上に三倍の人数を相手にするのは難しかったようだ。救済神官たちはなすすべもなく、住民達に袋叩きにあったそうだ。
またもや、ルーイヒハーフェンの町は暴動騒ぎとなり、領主が鎮圧に乗り出してきたようだ。
『黒の使徒』の救済神官は領主が出てくればこちらのモノと住民達の不法を訴えたが、わが身可愛いさに領主は騎士に対し『賊』を捕縛するように命じたらしい。
「領主にしてみれば、『黒の使徒』との癒着をベラベラと喋られたら、それこそわが身が危ないと思ったのだろうな。 住民達はみな血走った目をしていたから。
領主としてはあくまで町を襲ってきた賊を捕縛したものとして扱いたかったのだと思う。」
捕縛された『賊』達は、領主ではなく衛兵が拘留する事となり、公開の場で裁判にかけられるらしい。
帝国では通常裁判が公開の場で行われることはなく、公正な裁判は望めない。
しかし、領主は前回の件で信用失墜しており、こうしないと大きな暴動に発展しそうで安心できないみたいだ。
ところで、救済神官って『黒の使徒』全体でどの位いるのだろう?
百人減ればだいぶ戦力を削れたんじゃないかと思うのだけど。
**********
診療活動を終えた後、孤児院の談話室にハンナちゃんとリリちゃんの様子を見に行くと、子供達が集まって何かしていた。
「じゃあ、今度はリリちゃんがやってみて、大丈夫だよ練習通りにやればちゃんとできるから。」
リリちゃんの前には手を傷つけたらしい女の子が座っていた。
「まずは光の術で傷口の消毒をして、」
リリちゃんがそういうと、女の子に手が金色の光に包まれる。
「次に水の術で傷口を治すの、えい、『癒し』」
リリちゃんの掛け声にあわせるように、女の子の手が仄かな青い光に包まれた。
「すごい、リリちゃん、ほら傷が治ったよ。ありがとう!」
女の子が賞賛の声を上げた。うん、リリちゃんも術の使い方が日に日に上達しているね。
もう、小さな傷程度であれば治せるようになったんだ。
今日は孤児院でお披露目するんだと張り切っていたの。
リリちゃんの頑張る姿とそれを賞賛するみんなの姿を見たらなんかホッコリして優しい気持ちになったよ。
月に一度はリリちゃんをスラムの友達に会わせてあげようと考え、月末の休日はポルトに来ることにしたんだ。
転移場所に王家の別荘を利用させてもらうので、当然王家の誰かが一緒に来ることになる。
勝手にわたし達だけで使うことは出来ないからね。
ということで、ポルトへ来る時はミルトさんがついて来ることになったの。
休日二日のうち一日は精霊神殿の前で臨時診療所を開いて、もう一日は西大陸との交易の打ち合わせをするんだって。ミルトさん、働きすぎじゃないの…。
精霊神殿に併設された孤児院にリリちゃんとハンナちゃんを送り届けたら、残りのメンバーは精霊神殿の前で診療活動だ。
午前中に公爵の下に仕えるお役人さんが精霊神殿前で無料診療を行っていると町の人に宣伝して回ったので、お昼頃になると診療所を訪れる人が増えてきた。
相変わらず、ミルトさんの許には派手な化粧で派手な服を着た若いお姉さんの患者さんがいっぱいだ。なんでも、この町にくる船乗りさんの淋しさを癒してあげるお仕事をしているらしい。
何故か、このお姉さん達は創世教の人からは嫌われているようなの。
そんな中で、どんな人でも分け隔てなく無償で治療してくれるミルトさんはお姉さん達から女神のように崇拝されているの。
診療所に来る人たちが一段落してホッとしていると、わたし達が来ていることを耳にしたらしいテーテュスさんが顔を出した。
ミルトさんの天幕に行かずにわたしの所へ来たということはお仕事の話ではないんだね。
「おい、ターニャ、面白い話を聞いたんで教えてやろうと思ってきたぞ。」
「こんにちは、テーテュスさん。挨拶も抜きで、いきなりですね。」
わたしがそう返すとテーテュスさんが笑いながら言う。
「まあ、そんな硬いことは言うな。おまえだってそんな礼儀正しい方じゃないだろう。
それより、おまえ、『黒の使徒』の救済神官って知っているか?」
いや、たしかにエルフリーデちゃんからもう少し礼儀正しくしろってよく注意されるけど…、「こんにちは」くらいはちゃんと言うよ。
それはともかく…。
「ええ、知っていますよ。
自分達の教義に逆らう者を魂の救済と称して殺して回る頭のおかしい人たちですよね。
自分達の教義に従わないものは魂の穢れた者だなんてひどい言い掛かりですよね。
一度、わたし達のところにも来たじゃないですか、あのときテーテュスさんもいましたよね。」
『黒の使徒』自体が狂っていると思うけど、その中でも極め付けに頭のおかしな集団だ。
わたしが救済神官について知っていることを答えるとテーテュスさんは大笑いした。
「あはは、頭のおかしな人という表現は良いな、全くその通りだ。
それでな、そいつら大挙してルーイヒハーフェンに攻め込んできたんだ。
シュバーツアポステル商会の支店とその下部組織を潰された報復に来たようだ。
その数は優に百人を超えていたな、いったいドンだけ殺戮するつもりで送ってきたのやら。」
そうですか、早速仕掛けが役に立ちましたか、それはテーテュスさんが大笑いするはずだ。
さぞかし、愉快なことになったのだろう。
「森のおチビ達がいい仕事をしてくれてな、町を囲む森を抜けてルーイヒハーフェンの町の中に入ってきたときにはすっかり浄化されて奴らみんな真っ白だ。
自慢の黒い色がすっかり抜け落ちて、真っ白になった自分達を見てうろたえていたぜ。」
ルーイヒハーフェンへ続く森の中の道は、途中で馬車を引き返せるようになっていないので、救済神官を乗せた馬車の隊列は町の中まで入って来たそうだ。
丁度、町の外に出ていた住人が、町に向かってくる馬車の隊列を目撃して、なにやら不穏なものを感じたらしい。救済神官の馬車が町に辿り着く前に帰り着き、町の衛兵に賊の襲撃と伝えたらしい。
賊の襲撃を迎え撃つべく衛兵と腕に覚えのある有志が待ち構えているところにやってきた救済神官の馬車。
そこで、連中は対応を間違えたようだ。
「あいつら、馬鹿じゃないか。そのまま、そ知らぬ顔で引き返していけば良かったのに。
よりによって、自分達は『黒の使徒』の救済神官でシュバーツアポステル商会に逆らった魂の穢れた者を救済しにきたなんて偉そうに言うんだ。
二つの意味で馬鹿だよな、まずは自分達が魔法が使えなくなっているのに多勢を相手に戦えると思っていること。
もう一つは、シュバーツアポステル商会が『黒の使徒』と密接に関係していると公言してしまったことだよ。国教が悪徳商人とグルだなんて聞いて民衆が黙っている訳ないだろうが。」
連中なりの使命感からなのか、『色なし』状態になってもなお、住民の粛清を行おうとしたらしい。救済神官の数は百人ほど、対する住民側は三百人ほど集まったらしい。
さすがに人殺しのプロも、魔法が使えなくなった上に三倍の人数を相手にするのは難しかったようだ。救済神官たちはなすすべもなく、住民達に袋叩きにあったそうだ。
またもや、ルーイヒハーフェンの町は暴動騒ぎとなり、領主が鎮圧に乗り出してきたようだ。
『黒の使徒』の救済神官は領主が出てくればこちらのモノと住民達の不法を訴えたが、わが身可愛いさに領主は騎士に対し『賊』を捕縛するように命じたらしい。
「領主にしてみれば、『黒の使徒』との癒着をベラベラと喋られたら、それこそわが身が危ないと思ったのだろうな。 住民達はみな血走った目をしていたから。
領主としてはあくまで町を襲ってきた賊を捕縛したものとして扱いたかったのだと思う。」
捕縛された『賊』達は、領主ではなく衛兵が拘留する事となり、公開の場で裁判にかけられるらしい。
帝国では通常裁判が公開の場で行われることはなく、公正な裁判は望めない。
しかし、領主は前回の件で信用失墜しており、こうしないと大きな暴動に発展しそうで安心できないみたいだ。
ところで、救済神官って『黒の使徒』全体でどの位いるのだろう?
百人減ればだいぶ戦力を削れたんじゃないかと思うのだけど。
**********
診療活動を終えた後、孤児院の談話室にハンナちゃんとリリちゃんの様子を見に行くと、子供達が集まって何かしていた。
「じゃあ、今度はリリちゃんがやってみて、大丈夫だよ練習通りにやればちゃんとできるから。」
リリちゃんの前には手を傷つけたらしい女の子が座っていた。
「まずは光の術で傷口の消毒をして、」
リリちゃんがそういうと、女の子に手が金色の光に包まれる。
「次に水の術で傷口を治すの、えい、『癒し』」
リリちゃんの掛け声にあわせるように、女の子の手が仄かな青い光に包まれた。
「すごい、リリちゃん、ほら傷が治ったよ。ありがとう!」
女の子が賞賛の声を上げた。うん、リリちゃんも術の使い方が日に日に上達しているね。
もう、小さな傷程度であれば治せるようになったんだ。
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