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第12章 三度目の夏休み
第305話 大変な思いをした甲斐がありました
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ヴィッツさんに計画書を託してから数日後、学園の授業が終って寮へ戻るとリタさんがわたしの帰りを待っていた。
カリーナちゃんのお父さんから呼び出しがあったので、至急一緒に来るようにと言われたの。
入り口に主計と書かれた大きな部屋の中は、たくさんの机が並べられ、官吏の人たちが慌ただしく動き回っていて殺気立った雰囲気だったの。
わたしが臆しているとリタさんが言った。
「ああ、気にしたら負けです、ここは年がら年中こんな雰囲気らしいですから。」
りたさんは、言葉通り殺気立った雰囲気を気にもせずスタスタと部屋に入って行った。
そんなに忙しいところなんだ…。
机でできた島からは離れた部屋の奥まったところに、カリーナちゃんのお父さんはいた。
一際大きくて立派な机を前にして、これまた立派な椅子に座っているカリーナちゃんのお父さんは、見るからに不機嫌な顔をしていた。
なんか、すごいヤバ気な雰囲気なんですが…。
わたしが気後れしていることなど気にも留めずリタさんはカリーナちゃんのお父さんに話しかけた。
「ゲヴィッセン卿、ミルト殿下付きの女官リタにございます。お呼びに従い参上いたしました。」
カリーナちゃんのお父さんはリタさんを睨んだ後、わたしの方を見て言った。
「ご苦労様、いきなり呼びつけてすまないね。
それでこの件なんだけど…。」
カリーナちゃんのお父さんはわたしが提出した計画書を机の上においた。
そして、歯切れの悪い口調でこう言葉を続けたの。
「わたしも年端の行かない少女、しかも娘の恩人にこんなことを言うのは気が引けるし…。
何よりも子供を虐めるようで後味が悪いんだけどね…。」
あっ、これはヤバイやつだ…。
…散々怒られました。
国家予算は子供のおこずかいじゃないんだ、組織の決まりを無視して宰相のところへ持っていくなど何事だ、わたしの我が儘で何人の人が大変な思いをしていると思っているのか等々。
「本来、孤児院の新設なんて、不測の事態が生じたときしかありえないことだよ。
想定を上回る戦災や天災があったときくらいさ。
他国の孤児を保護したいから金をよこせなんて、普通なら箸にも棒にも掛からない要求なんだけどね…。
悔しいことにこの計画書に書かれている通りなんだ。
ここ半年くらい商務の連中から帝国語を話せる人材を増やしたいから金をよこせって矢の様にせっつかれているんだよ。
そこへ、計ったかのようなタイミングでこの計画書だ。
まるで、誰かさんの掌の上で踊らされているようで腹が立つけど、宰相の決裁もとれてるし甚だ遺憾だけど予算は付けるよ。」
最後にそう言ってカリーナちゃんのお父さんはリタさんを睨んだが、リタさんは何処吹く風と聞き流していた。
こうして、わたしは孤児院の設置許可とその予算を取り付けたの。
**********
わたしが孤児院の設置許可が取れたことを報告に訪れるとミルトさんは上機嫌で迎えてくれた。
「早かったわね、まだ一週間経っていないじゃない。あれ、普通なら一年掛かりよ。
途中で音を上げるかと思ったのだけどよく頑張ったわね、偉いわ。
どう今回は色々と勉強になったでしょう?」
実際はリタさんが殆どお膳立てしてくれたおかげだけどね。
わたしが自分でやったら一年どころか、ミルトさんの言うように途中で音を上げていたと思う。
ミルトさんは、安易に精霊の力や魔導王国の残したお金に頼ろうとしたわたしを戒めると共に、本来一つのことをするためにどれだけの人が関わっているのかを教えてくれたのだね。
「はい、わたしの思いつき一つでたくさんの方に迷惑をかけてしまったことを反省しています。
それと、本来の手続きで孤児達を救おうとしたらどれだけ大変かも学びました。」
わたしの返答を聞いたミルトさんは満足そうに頷いていた。
「そうね、ターニャちゃんの持っているものは特別なモノばかりなの。
それに頼ること自体は悪いことではないわ、でもそれを当たり前だと思ってしまったら困るの。
世間一般と判断の基準がずれてしまうからね。
その点を学ばなければ、精霊の森を出て人の社会に来た意味がないわ。
今回は人の社会の決まりに従って大きなことをする場合の大変さを知って欲しかったの。
かなりの無茶振りかなと思ったけど、乗り越えてくれて良かったわ。
リタさんもフォローしてくれて有り難うね。」
わたしとミルトさんの会話を聞いていたリタさんがポツリと言った。
「なんで、全てが丸く収まったみたいなことを言っているのですか。
後日、宰相とゲヴィッセン卿からお小言があると思いますので覚悟しておいてくださいね。
わたしはその点に関してはフォローしませんからね。」
**********
一週間前、わたし達はポルトを訪れ、ポルト公爵に精霊神殿を孤児院として利用することを説明すると共に孤児院で働いてくれる人の募集をお願いしたの。
そして…。
「確かに立派な建物ですが、だいぶ汚れていますね。」
孤児院にする予定の建物の内部を見て歩きながらリタさんが呟いた。
おかしいな、記憶ではもう少し綺麗だったはずなのだけど・・・。
わたしが首を傾げているとミルトさんが言う。
「あれだけ多くの病人を収容したのですもの汚れもするでしょう。
でも、この状態で孤児を受け入れるのは少し可哀想ですわね。」
あっ、コルテス王国の将校を収容したときに汚れたのか。
どうしたものかなと思案しているとリタさんが言った。
「ターニャちゃん、いつものピカッてので綺麗にしちゃってくださいよ。
こういうときに使わなくていつ使うのですか。」
…ですよね。でも、この建物、結構大きいよ。
結局、ソールさんからも「やってみなさい」と言われて、わたしは孤児院の内部全体を浄化することになったの。
光のおチビちゃん達にどんどんマナを吸い取られて、全部終わったときはヘトヘトになったよ。
「いつもながら便利なモノですね。見違えるようにピカピカになりましたよ。」
隣で疲れ果てているわたしを意に介せず、リタさんはのんきな感想をもらしていたの。
少しは労わってよ…。
その後も、備品の運び入れなんかですったもんだして…。
***********
『すごい綺麗な部屋、それにふかふかなベッド!本当に今日からここで寝て良いの?
うれしい!』
孤児達の歓声が聞こえる。
そう、こうして今日、無事に孤児達を迎え入れることができたの。
喜んでもらえて本当に良かった、大変な思いをした甲斐が有ったよ。
カリーナちゃんのお父さんから呼び出しがあったので、至急一緒に来るようにと言われたの。
入り口に主計と書かれた大きな部屋の中は、たくさんの机が並べられ、官吏の人たちが慌ただしく動き回っていて殺気立った雰囲気だったの。
わたしが臆しているとリタさんが言った。
「ああ、気にしたら負けです、ここは年がら年中こんな雰囲気らしいですから。」
りたさんは、言葉通り殺気立った雰囲気を気にもせずスタスタと部屋に入って行った。
そんなに忙しいところなんだ…。
机でできた島からは離れた部屋の奥まったところに、カリーナちゃんのお父さんはいた。
一際大きくて立派な机を前にして、これまた立派な椅子に座っているカリーナちゃんのお父さんは、見るからに不機嫌な顔をしていた。
なんか、すごいヤバ気な雰囲気なんですが…。
わたしが気後れしていることなど気にも留めずリタさんはカリーナちゃんのお父さんに話しかけた。
「ゲヴィッセン卿、ミルト殿下付きの女官リタにございます。お呼びに従い参上いたしました。」
カリーナちゃんのお父さんはリタさんを睨んだ後、わたしの方を見て言った。
「ご苦労様、いきなり呼びつけてすまないね。
それでこの件なんだけど…。」
カリーナちゃんのお父さんはわたしが提出した計画書を机の上においた。
そして、歯切れの悪い口調でこう言葉を続けたの。
「わたしも年端の行かない少女、しかも娘の恩人にこんなことを言うのは気が引けるし…。
何よりも子供を虐めるようで後味が悪いんだけどね…。」
あっ、これはヤバイやつだ…。
…散々怒られました。
国家予算は子供のおこずかいじゃないんだ、組織の決まりを無視して宰相のところへ持っていくなど何事だ、わたしの我が儘で何人の人が大変な思いをしていると思っているのか等々。
「本来、孤児院の新設なんて、不測の事態が生じたときしかありえないことだよ。
想定を上回る戦災や天災があったときくらいさ。
他国の孤児を保護したいから金をよこせなんて、普通なら箸にも棒にも掛からない要求なんだけどね…。
悔しいことにこの計画書に書かれている通りなんだ。
ここ半年くらい商務の連中から帝国語を話せる人材を増やしたいから金をよこせって矢の様にせっつかれているんだよ。
そこへ、計ったかのようなタイミングでこの計画書だ。
まるで、誰かさんの掌の上で踊らされているようで腹が立つけど、宰相の決裁もとれてるし甚だ遺憾だけど予算は付けるよ。」
最後にそう言ってカリーナちゃんのお父さんはリタさんを睨んだが、リタさんは何処吹く風と聞き流していた。
こうして、わたしは孤児院の設置許可とその予算を取り付けたの。
**********
わたしが孤児院の設置許可が取れたことを報告に訪れるとミルトさんは上機嫌で迎えてくれた。
「早かったわね、まだ一週間経っていないじゃない。あれ、普通なら一年掛かりよ。
途中で音を上げるかと思ったのだけどよく頑張ったわね、偉いわ。
どう今回は色々と勉強になったでしょう?」
実際はリタさんが殆どお膳立てしてくれたおかげだけどね。
わたしが自分でやったら一年どころか、ミルトさんの言うように途中で音を上げていたと思う。
ミルトさんは、安易に精霊の力や魔導王国の残したお金に頼ろうとしたわたしを戒めると共に、本来一つのことをするためにどれだけの人が関わっているのかを教えてくれたのだね。
「はい、わたしの思いつき一つでたくさんの方に迷惑をかけてしまったことを反省しています。
それと、本来の手続きで孤児達を救おうとしたらどれだけ大変かも学びました。」
わたしの返答を聞いたミルトさんは満足そうに頷いていた。
「そうね、ターニャちゃんの持っているものは特別なモノばかりなの。
それに頼ること自体は悪いことではないわ、でもそれを当たり前だと思ってしまったら困るの。
世間一般と判断の基準がずれてしまうからね。
その点を学ばなければ、精霊の森を出て人の社会に来た意味がないわ。
今回は人の社会の決まりに従って大きなことをする場合の大変さを知って欲しかったの。
かなりの無茶振りかなと思ったけど、乗り越えてくれて良かったわ。
リタさんもフォローしてくれて有り難うね。」
わたしとミルトさんの会話を聞いていたリタさんがポツリと言った。
「なんで、全てが丸く収まったみたいなことを言っているのですか。
後日、宰相とゲヴィッセン卿からお小言があると思いますので覚悟しておいてくださいね。
わたしはその点に関してはフォローしませんからね。」
**********
一週間前、わたし達はポルトを訪れ、ポルト公爵に精霊神殿を孤児院として利用することを説明すると共に孤児院で働いてくれる人の募集をお願いしたの。
そして…。
「確かに立派な建物ですが、だいぶ汚れていますね。」
孤児院にする予定の建物の内部を見て歩きながらリタさんが呟いた。
おかしいな、記憶ではもう少し綺麗だったはずなのだけど・・・。
わたしが首を傾げているとミルトさんが言う。
「あれだけ多くの病人を収容したのですもの汚れもするでしょう。
でも、この状態で孤児を受け入れるのは少し可哀想ですわね。」
あっ、コルテス王国の将校を収容したときに汚れたのか。
どうしたものかなと思案しているとリタさんが言った。
「ターニャちゃん、いつものピカッてので綺麗にしちゃってくださいよ。
こういうときに使わなくていつ使うのですか。」
…ですよね。でも、この建物、結構大きいよ。
結局、ソールさんからも「やってみなさい」と言われて、わたしは孤児院の内部全体を浄化することになったの。
光のおチビちゃん達にどんどんマナを吸い取られて、全部終わったときはヘトヘトになったよ。
「いつもながら便利なモノですね。見違えるようにピカピカになりましたよ。」
隣で疲れ果てているわたしを意に介せず、リタさんはのんきな感想をもらしていたの。
少しは労わってよ…。
その後も、備品の運び入れなんかですったもんだして…。
***********
『すごい綺麗な部屋、それにふかふかなベッド!本当に今日からここで寝て良いの?
うれしい!』
孤児達の歓声が聞こえる。
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