精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第12章 三度目の夏休み

第297話 孤児達を迎えに

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「おう、おまえら、外はかなり愉快なことになっているぞ。
 今、町はお祭り騒ぎだ、中々良い仕事したじゃないか。」

 その日の夜、船の中で夕食をとっていると、町の様子を探っていたテーテュスさんが上機嫌で帰ってきた。

 わたし達の目の前で始まったハーフェン組に対する袋叩き、領主が衛兵に鎮圧命令を出したが衛兵はこれを無視したらしい。
 衛兵は皆、この町出身の平民だそうだ、今まで領主の命令でハーフェン組の所業をみて見ぬ振りをしてきたが相当腹に据えかねていたらしい。
 そして、暴動に乗じてハーフェン組の事務所に押し入り悪行の証拠を押収したそうだ。

 一向に暴動が治まらないため、領主自ら騎士を率いて暴動の鎮圧に出てきたらしい。
 さすがに騎士が出てきたことから暴動に加わっていた町の人は鎮まったそうだ。
 そして、領主はハーフェン組への暴行に加わった町の人の捕縛を衛兵に命じたのだが、衛兵はそれには従わず、代わりに領主、市民が揃っている前で押収した書類を読み上げたらしい。
 そう、ハーフェン組が領主に贈った賄賂の記録を。

 次々と読み上げられていくハーフェン組と領主の癒着の記録、漂い始めた不穏な空気に領主は読み上げをやめろとは言えなかったみたい。
 そして、延々と読み上げられた書面は大まかに分けて三種類、ハーフェン組と領主の癒着の証拠、賭博や人身売買等のハーフェン組の犯罪の証拠、そしてシュバーツアポステル商会からハーフェン組の出された犯罪の指示だったとのこと。

 ここに至って再び暴動になりそうな気配を悟ったのだろう、領主は渋々シュバーツアポステル商会の者の捕縛を衛兵に命じたらしい。
 帝国では裁判権は領主にあり領主の一存で罪の有り無しから量刑まで決められるが、さすがにこの状況は拙いと思ったようだ。
 シュバーツアポステル商会の者に対する裁判は異例の公開の場で行うことになったみたい。
 そして、証拠隠滅防止のため証拠書類は町の顔役に預けられ、シュバーツアポステル商会の者の身柄は衛兵が押さえたらしい。領主には渡さないんだって。

 ちなみに、ハーフェン組の連中だが、怪我の治療もしてもらえずに町からたたき出されたそうだ。
 『色なし』状態になっていて魔法が使えないし、袋叩きにあって全員かなりの怪我をしていたらしいので、町の人の腹の虫が納まったみたい。 えっ、それで良いの?裁判は?

「おまえらのおかげでこの町の人の表情は随分明るくなったぞ。
 まあ、おまえらの目的は十分達成したんじゃないのか。」

 とテーテュスさんは言うけど、予想以上の成果だよ。

 まさか、シュバーツアポステル商会の支店まで潰せるとは思わなかったよ。


     **********


 そして翌朝、約束の時間にわたし達は再びスラムにヤン君を訪ねた。
 路上で待ち構えていたヤン君は、わたし達を彼らが住むあばら家に案内してくれた。

 かなりガタが来ている建物だけど雨風は凌げそうだ、冬場でも暖かいこの町ならば凍死する心配はないだろう。

 そこには五十人ほどの子供が集まっていた。見た目、二歳位からヤン君くらいまで、ヤン君はわたしより少し年上、多分十二、三歳だと思う。男女は半々くらいかな。

 わたしはヤン君に尋ねた。

『良く話し合ってくれたかな?話し合いはまとまった?』

『一応、昨日みんなで話し合ってどうするかは決まったんだけど、みんな、おまえから直接話しが聞きたいって言うんだ。
 それで、もう一度考えたいって。』

 ふむ、ヤン君からの又聞きではイマイチ信用できないってか、わかったよ。

『みんな、おはよう。わたしはティターニアって言うの、呼び難ければターニャでいいよ。
 それで、わたしはみんなを保護するために迎えに来ました。
 みんなを連れていくのは、ポルトという大きな港町です。
 そこにみんなのために孤児院を用意しました。
 みんなが十五歳になって独り立ちできるようになるまで、国がそこで生活を保障してくれます。
 六人部屋だけど、きれいだし、一人一人にベッドが当たりますよ。
 食事も一日三回提供されますし、毎年数着の服も支給されます。』

 そこまで話して、一旦間をおくと少し年長の男の子が質問してきた。

『俺達はそこで何をさせられるんだ、奴隷みたいに働かされるんじゃないのか?』

『まさか、そんな事はさせませんよ。
 ポルトに着いたらみんなにやってもらうのはまず王国語を覚えることです。
 みんなは知らないかもしれないけど、この大陸には帝国と王国という二つの国があって違う言葉を話しています。このスラムは帝国にあります。
 みんなを連れて行くポルトは王国にあるので言葉が違うのです。
 心配しないでもいいですよ、そんなに難しくないですから。
 リリちゃんはもうしゃべれるようになりましたからね。
 リリちゃん、王国語は難しくないよって、王国語でみんなに言ってみて。』

「王国語は難しくないから安心して、すぐしゃべれるようになるよ。」

 わたしに促されてリリちゃんが流暢な王国語で言った。いや、半月でここまでしゃべれるようにはならないと思うよ、普通は。

『はい、上手にしゃべれたね、リリちゃん。
 みんなもすぐにリリちゃんみたいに話せるようになるから心配しないでいいよ。
 それで、八歳になったら学校へ通って四年間読み書きや計算なんかを勉強してもらいます。
 学校に通う歳になるまででやってもらうのは、孤児院の掃除、洗濯、食事の準備や後片付けのお手伝いくらいですよ。
 それまでは、食べて、寝て、元気に育つことがみんなのやるべきことです。
 四年間の学校を終えた後の事はその時詳しく説明されると思いますが、学校の成績が優秀な子は上の学校へ行くことができます。そうでない子は、どこか修行先に通って職業訓練を受けることになります。
 どちらにしろ、十五歳までは孤児院で責任もって生活を支えますし、孤児院を出るときにはちゃんと職を斡旋します。』

 すると、さっき質問した男の子が再び質問してきました。

『俺、多分十二歳を過ぎていると思うのだけど、俺は読み書きを教えてもらえないのか。』

『そのことについては、事前に打ち合わせをして特例を設けることにしました。
 今回受け入れるみんなについては、年齢に関わらず四年間学校に通ってもらいます。
 年下の子と一緒で恥ずかしいかもしれませんが、王国では読み書きができないことの方が恥ずかしいので我慢してください。
 それと、これも特例ですけど、今回受け入れる子については四年間の学校を卒業するまでは、十五歳を過ぎても孤児院で生活できるように取り計らいました。』

 この辺の根回しが地味に大変だったの…。
 わたしの説明でその男の子は安心したみたい、結構しっかりしていて好感が持てるね。

『こんなところでいいかな、細かいことも決まっているのだけど、話すとキリがないの。』

『おお、十分だと思うぜ。
 それで、おまえらどうする?昨日決めた通りでいいのか、変更するなら今のうちだぞ。
 じゃあ、このお嬢さんに付いて行くという奴は手を上げろ。』

 ヤン君の指示により、女の子は全員が挙手したが、男の子は年長の子四人が挙手しなかった。
 その中にはヤン君も含まれていた。

『お兄ちゃん、一緒に来ないの?』

 リリちゃんがヤン君の腕を掴んで悲しそうに聞いた。

『ゴメンな、リリ、俺達はここを守らないといけないんだ。
 ここには俺達みたいに捨てられてくる子が毎年のように出るんだ。
 俺達がいなくなったら、そういう子供を誰が世話をするんだ。
 だから、俺達年長組は残ることにしたんだ。』

 ふむ、やっぱりそうなったか、テーテュスさんに言われた通りになったね。
 テーテュスさんは出掛けに、リーダーをはじめ数名は付いて来ないだろうと言ったの。
 なんで、テーテュスさんは予想できたのだろう、不思議だ…。

『わかったわ、じゃあ、あなた達四人以外はみんな一緒に来ることで決まりね。
 それで、ヤン君、あなたがここに残ることに異存はないけど、あなたに話があると言う人がいるの。
 悪いけど、一緒に来てくれないかな。』

 わたしはテーテュスさんに指示されたとおりヤン君を誘うのだった。
 
 

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