292 / 508
第11章 王都、三度目の春
第291話 帝国の孤児
しおりを挟む
リリちゃんを私達が預かることに決めて一息ついたとき、リリちゃんのお腹が盛大に鳴った。
聞けば昨日の晩から何も食べていないらしい、あいつらに捕まってから一日一食しか食べさせてもらえなかったそうだ。その一食すらあいつらの機嫌が悪いと当たらなかったと言う。
こんな小さな子にひもじい思いさせるなんて本当に許せない…。
寮へ帰ってもまだ夕食には早いので、フェイさんに頼んで中央広場に出ている屋台からヴィーナヴァルト名物の揚げ鳥を買ってきてもらった。
「ううっ、美味しいよー。リリ、こんな美味しいもの食べたの生まれて初めて。
これ全部食べちゃっていいの?」
うん、気に入ってもらえてよかったよ、確かに王都の揚げ鳥はどこの屋台で買っても美味しいよね。でも、泣きながら食べるのはやめて、こっちまで切なくなるから。
「ええ、全部食べていいのよ。
誰も取らないから、落ち着いて食べなさい。」
泣きながら揚げ鳥を頬張るリリちゃんに、ミルトさんがなんともいえない顔をして言った。
たぶん、王都では一般の市民が気軽に買っている揚げ鳥を生まれて初めてと言われてリアクションに困ったのだと思う。
でも、ハンナちゃんのときも似たようなものだったよ。
王族のミルトさんにはスラムにいる孤児の生活は想像もできないのだと思う。
いや、ミルトさんは孤児院なんかも率先して慰問をしているから、孤児といえばこの国の孤児を思い浮かべるのだろう。
私もこの冬、風邪の治療で初めて孤児院に行ったけどすごく清潔で、孤児達の栄養状態も良かったしね。
ミルトさんは、この国と帝国の孤児の境遇の違いに驚いているのかもしれない。
リリちゃんはお腹がいっぱいになるとホッとしたのか寝てしまった。
きっとすごく疲れていたんだね。
**********
「可哀想に、よっぽど緊張していたのね。
安心したら疲れがどっと出たみたいよ、これじゃあ明日の朝まで起きそうもないわね。」
ミルトさんがソファーで寝ているリリちゃんの頭を撫でながら言った。
「ねえ、ミルトさん、『黒の使徒』の連中って何でこんな酷いことが出来るのかな。
去年に夏にも思ったのだけど『黒の使徒』の連中ってスラムの人を消耗品扱いしているんだよ。
スラムの人ならいくら使い潰しても良い様な事言っているの、誰だって好きでスラムに住んでいる訳ではないのに。
人を人と思っていないの、今回も相手が子供ならこちらが警戒しないと思って、子供を暗殺に使おうと思ったのでしょう。
わたしが『色なし』なので、わざわざ同じ『色なし』のリリちゃんを選んだのだと思う。その方がより警戒が緩むと考えたから。
リリちゃんはたとえわたしの殺害に成功しても絶対に逃げられなかったよね。あんなに足が遅いのだもの。
あの二人、リリちゃんがわたしを刺すのを見届けたらリリちゃんを放置して姿を消すつもりだったのだと思う。
本当に使い捨てにするつもりでリリちゃんをスラムから拉致してきたんだよ。酷いことするよね…。」
わたしが、『黒の使徒』のやることに憤っていると、ミルトさんが言う。
「そうね、ターニャちゃんの言う通りだけど、帝国ではそんな酷いことをしても許されるような風潮になっているのだと思う。
たぶん、スラムの住人達が同じ街のスラム以外に住む人達と衝突して煙たがられているのだと思うわ。
まずはスラムそのものを何とかしないと『黒の使徒』のように考える人は後を絶たないと思うわ。」
ミルトさんは言う。
スラムの住人、特に、子供の頃にスラムに捨てられたような孤児は読み書きが全くできないケースが多く、就業機会が限られるそうだ。
しかもお金が稼げない小さなときから食べ物に窮する事から、盗みに手を染めたりすることも多く、成長するに伴いそれがエスカレートし徒党を組んで追い剥ぎや強盗のようなことを者も現れるという。
そうなってしまうと、スラムの外に住む人はスラムの住人を嫌悪するようになり、いなくなって欲しいと思うようになるのだと。
そういう人の意識につけ込んで『黒の使徒』が人道に反するようなことを平気でするのであろうと。
「あのね、ターニャちゃん。
スラムのような場所を放置するのは社会的に大きな損失なの。
もしかしたら、有能な人材かもしれないのに、教育や職業訓練を受けられないために人材が腐ってしまうかもしれないでしょう。
この国にはスラムはないことになっているわ。
実際には行政の目が届かない場所が有って存在するかもしれないけど、国は無くすように努めているの。
たとえば、孤児に関してはこの国の王祖様が孤児だったということもあって、孤児院を充実させて孤児達にも義務教育をきちんと受けさせているでしょう。
それに、義務教育の後に職業訓練を施すように孤児院の中に施設を設けているし、優秀な子には奨学金を設けて上の教育が受けられるようにもしているの。
子供以外にも、怪我や病気で働けなくなった人や途中で職を失った人への支援をすることでスラムが生まれないようにこの国は努力しているのよ。」
帝国では長らく戦争をしていたため、国家予算の多くを軍関係費が占めており、孤児院を始めとするスラムへの対策に全くというくらい予算が付いていないみたい。
ヴィクトーリアさんやハイジさん、それにケントニス皇太子は軍事予算を減らして、スラムの対策などに予算を回すように主張しているとミルトさんは聞いているらしい。
しかし、ずっと戦争をしてきた帝国では軍閥の力が強く軍関係の予算を減らすことが難しいとヴィクトーリアさんが嘆いているそうなの。
しかも、トップにいる皇帝が、『強い帝国』に拘っていて軍関係費を減らすのに拒絶反応を示すみたい。あの皇帝って如何にも血の気が多そうだものね…。
そうなのね、帝国は国としてスラムや孤児の問題に取り組むつもりはないんだ、少なくても皇帝やその取り巻きは…。
うん、ミルトさん、良くわかったよ。じゃあ、…。
聞けば昨日の晩から何も食べていないらしい、あいつらに捕まってから一日一食しか食べさせてもらえなかったそうだ。その一食すらあいつらの機嫌が悪いと当たらなかったと言う。
こんな小さな子にひもじい思いさせるなんて本当に許せない…。
寮へ帰ってもまだ夕食には早いので、フェイさんに頼んで中央広場に出ている屋台からヴィーナヴァルト名物の揚げ鳥を買ってきてもらった。
「ううっ、美味しいよー。リリ、こんな美味しいもの食べたの生まれて初めて。
これ全部食べちゃっていいの?」
うん、気に入ってもらえてよかったよ、確かに王都の揚げ鳥はどこの屋台で買っても美味しいよね。でも、泣きながら食べるのはやめて、こっちまで切なくなるから。
「ええ、全部食べていいのよ。
誰も取らないから、落ち着いて食べなさい。」
泣きながら揚げ鳥を頬張るリリちゃんに、ミルトさんがなんともいえない顔をして言った。
たぶん、王都では一般の市民が気軽に買っている揚げ鳥を生まれて初めてと言われてリアクションに困ったのだと思う。
でも、ハンナちゃんのときも似たようなものだったよ。
王族のミルトさんにはスラムにいる孤児の生活は想像もできないのだと思う。
いや、ミルトさんは孤児院なんかも率先して慰問をしているから、孤児といえばこの国の孤児を思い浮かべるのだろう。
私もこの冬、風邪の治療で初めて孤児院に行ったけどすごく清潔で、孤児達の栄養状態も良かったしね。
ミルトさんは、この国と帝国の孤児の境遇の違いに驚いているのかもしれない。
リリちゃんはお腹がいっぱいになるとホッとしたのか寝てしまった。
きっとすごく疲れていたんだね。
**********
「可哀想に、よっぽど緊張していたのね。
安心したら疲れがどっと出たみたいよ、これじゃあ明日の朝まで起きそうもないわね。」
ミルトさんがソファーで寝ているリリちゃんの頭を撫でながら言った。
「ねえ、ミルトさん、『黒の使徒』の連中って何でこんな酷いことが出来るのかな。
去年に夏にも思ったのだけど『黒の使徒』の連中ってスラムの人を消耗品扱いしているんだよ。
スラムの人ならいくら使い潰しても良い様な事言っているの、誰だって好きでスラムに住んでいる訳ではないのに。
人を人と思っていないの、今回も相手が子供ならこちらが警戒しないと思って、子供を暗殺に使おうと思ったのでしょう。
わたしが『色なし』なので、わざわざ同じ『色なし』のリリちゃんを選んだのだと思う。その方がより警戒が緩むと考えたから。
リリちゃんはたとえわたしの殺害に成功しても絶対に逃げられなかったよね。あんなに足が遅いのだもの。
あの二人、リリちゃんがわたしを刺すのを見届けたらリリちゃんを放置して姿を消すつもりだったのだと思う。
本当に使い捨てにするつもりでリリちゃんをスラムから拉致してきたんだよ。酷いことするよね…。」
わたしが、『黒の使徒』のやることに憤っていると、ミルトさんが言う。
「そうね、ターニャちゃんの言う通りだけど、帝国ではそんな酷いことをしても許されるような風潮になっているのだと思う。
たぶん、スラムの住人達が同じ街のスラム以外に住む人達と衝突して煙たがられているのだと思うわ。
まずはスラムそのものを何とかしないと『黒の使徒』のように考える人は後を絶たないと思うわ。」
ミルトさんは言う。
スラムの住人、特に、子供の頃にスラムに捨てられたような孤児は読み書きが全くできないケースが多く、就業機会が限られるそうだ。
しかもお金が稼げない小さなときから食べ物に窮する事から、盗みに手を染めたりすることも多く、成長するに伴いそれがエスカレートし徒党を組んで追い剥ぎや強盗のようなことを者も現れるという。
そうなってしまうと、スラムの外に住む人はスラムの住人を嫌悪するようになり、いなくなって欲しいと思うようになるのだと。
そういう人の意識につけ込んで『黒の使徒』が人道に反するようなことを平気でするのであろうと。
「あのね、ターニャちゃん。
スラムのような場所を放置するのは社会的に大きな損失なの。
もしかしたら、有能な人材かもしれないのに、教育や職業訓練を受けられないために人材が腐ってしまうかもしれないでしょう。
この国にはスラムはないことになっているわ。
実際には行政の目が届かない場所が有って存在するかもしれないけど、国は無くすように努めているの。
たとえば、孤児に関してはこの国の王祖様が孤児だったということもあって、孤児院を充実させて孤児達にも義務教育をきちんと受けさせているでしょう。
それに、義務教育の後に職業訓練を施すように孤児院の中に施設を設けているし、優秀な子には奨学金を設けて上の教育が受けられるようにもしているの。
子供以外にも、怪我や病気で働けなくなった人や途中で職を失った人への支援をすることでスラムが生まれないようにこの国は努力しているのよ。」
帝国では長らく戦争をしていたため、国家予算の多くを軍関係費が占めており、孤児院を始めとするスラムへの対策に全くというくらい予算が付いていないみたい。
ヴィクトーリアさんやハイジさん、それにケントニス皇太子は軍事予算を減らして、スラムの対策などに予算を回すように主張しているとミルトさんは聞いているらしい。
しかし、ずっと戦争をしてきた帝国では軍閥の力が強く軍関係の予算を減らすことが難しいとヴィクトーリアさんが嘆いているそうなの。
しかも、トップにいる皇帝が、『強い帝国』に拘っていて軍関係費を減らすのに拒絶反応を示すみたい。あの皇帝って如何にも血の気が多そうだものね…。
そうなのね、帝国は国としてスラムや孤児の問題に取り組むつもりはないんだ、少なくても皇帝やその取り巻きは…。
うん、ミルトさん、良くわかったよ。じゃあ、…。
15
お気に入りに追加
2,292
あなたにおすすめの小説
突然シーカーになったので冒険します〜駆け出し探索者の成長物語〜
平山和人
ファンタジー
スマートフォンやSNSが当たり前の現代社会に、ある日突然「ダンジョン」と呼ばれる異空間が出現してから30年が経過していた。
26歳のコンビニアルバイト、新城直人はある朝、目の前に「ステータス画面」が浮かび上がる。直人は、ダンジョンを攻略できる特殊能力者「探索者(シーカー)」に覚醒したのだ。
最寄り駅前に出現している小規模ダンジョンまで、愛用の自転車で向かう大地。初心者向けとは言え、実際の戦闘は命懸け。スマホアプリで探索者仲間とダンジョン情報を共有しながら、慎重に探索を進めていく。
レベルアップを重ね、新しいスキルを習得し、倒したモンスターから得た魔石を換金することで、少しずつではあるが確実に成長していく。やがて大地は、探索者として独り立ちしていくための第一歩を踏み出すのだった。
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
異世界最強の賢者~二度目の転移で辺境の開拓始めました~
夢・風魔
ファンタジー
江藤賢志は高校生の時に、四人の友人らと共に異世界へと召喚された。
「魔王を倒して欲しい」というお決まりの展開で、彼のポジションは賢者。8年後には友人らと共に無事に魔王を討伐。
だが魔王が作り出した時空の扉を閉じるため、単身時空の裂け目へと入っていく。
時空の裂け目から脱出した彼は、異世界によく似た別の異世界に転移することに。
そうして二度目の異世界転移の先で、彼は第三の人生を開拓民として過ごす道を選ぶ。
全ての魔法を網羅した彼は、規格外の早さで村を発展させ──やがて……。
*小説家になろう、カクヨムでも投稿しております。
異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!
アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。
->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました!
ーーーー
ヤンキーが勇者として召喚された。
社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。
巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。
そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。
ほのぼのライフを目指してます。
設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。
6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。
転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。
固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~
うみ
ファンタジー
恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。
いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。
モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。
そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。
モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。
その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。
稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。
『箱を開けるモ』
「餌は待てと言ってるだろうに」
とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる