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第10章 王都に春はまだ遠く
第267話 リタさんは想像力も豊かだった ③
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「と、まあ、全ては私の妄想なのですけどね、仮定に仮定を重ねているので客観性に欠けるのです。
だいたい初代皇帝の出自からしてたった一冊の歴史書に記されているだけですので、それが本当のことかも分かりませんしね。
私が話した内容で正しいと裏付けが取れるのは、初代皇帝が初めて歴史の表舞台に現われたときその拠点となっていたのが今のオストエンデ付近であったことと当時その辺りを治めていた領主が魔導王国の王族であったことくらいです。」
リタさんは、そう言って帝国と『黒の使徒』との関係についての考察を語り終えた。
でも面白い話だったよ、『黒の使徒』が魔導王国の王族が作ったものだとは思いもしなかった。
「って、あれ? 」
あ、いけない、考え事をしていたら口に出てしまった。
「ターニャちゃん、何か気になることでも?」
「いえ、大したことではないのですが、リタさんの考えが正しいとすると『黒の使徒』の教皇って今でも魔導王国の王族の末裔がその地位にいるのかな?」
ミルトさんに尋ねられてわたしはちょっと気にかかった事をリタさんに質問した。
「私は、そうではないかと考えているのだけれどね。
創世教の場合だと、教皇様というのは創世教の中で聖職者としての貢献が認められて出世してきた方がなられるのでしたよね。
だから、普通世襲ということは考えられないし、自らの功績を示すために本人の露出が多くなるの。
私は、『黒の使徒』の教皇が表に出ないのは、功績があったからではなく世襲で教皇が引き継がれているので信徒に対する説明が上手くできないことも理由の一つだと思っているの。
そして、教皇が魔導王国の王族の末裔であるならなおさら表に出られないのではないかしら。
考えてみて、帝国成立時から皇帝と共にあるのよ、どちらが権威があるかというのが一目瞭然じゃない。
私の様に皇帝が傀儡だと疑う人が出てきてしまうわ、それは困るでしょう。
だから、決して表に出てこないのだと思うの。」
なるほど、もしそうなら『黒の使徒』が『色なし』を迫害するのもわかる気がする。
「ねえ、リタさん、『黒の使徒』がわたし達を目の敵にするのはどうしてだと思う。」
「『黒の使徒』のなけなしの教義が『色の黒い人』は神に選ばれた者達だから凄い魔法が使えるんだというもので、それを際立たせるために魔法が使えない『色なし』を神の恩寵を得られなかった不吉な者として対極においたのでしょう。
『色の黒い人』は神に選ばれたから強い魔法を授けられた、だから敬えと言いたいのに、ターニャちゃんみたいに『色なし』の人が『色の黒い人』より凄い魔法が使えたら教義が破綻しちゃうじゃないですか。」
リタさんは、他の人が言っていることと同じ見解を口にした。
「本当にそうかな、だって創世教はそこまで極端ではないよ。
創世教の中でも、『色なし』は神の恩寵が得られなかった忌むべきもので、親の信仰心が足りなかったから『色なし』が生まれてくるんだって言われているよね。
でも、『色なし』のことを嫌悪することはあっても露骨に迫害することはないよね。
帝国で生まれ育ったハンナちゃんなんか外に出るときは母親が必ずフードで髪や目を隠したって言ってたよ。そうじゃないとお店にも入れてもらえないって。」
わたしが考えていること伝えるとリタさんは帝国の事情までは知らなかったようで申し訳なさそうに言った。
「ごめんなさい、私は帝国の事情まで知らないもので、『黒の使徒』の勢力下ではそこまで『色なし』が迫害されているなんて知りませんでした。
確かに、『色なし』を蔑む事が浸透すれば良いのであって、そこまでする必要は感じませんね。
ただ、ターニャちゃん、虐めというのはどんどんエスカレートするのです。
最初は白い目で見るくらいだったものが、徐々にエスカレートして酷い迫害になったのかも。
もしかしたら、『黒の使徒』自体も最初はそんな酷い迫害になるなんて意図してなかったのかもしれませんよ。」
本当にそうかな、もし、『黒の使徒』の教祖に当たる人物が初代皇帝を育てた魔導王国の王族であるなら一つ思い当たることがあるんだけど…。
ただ、二千年もの間、そんな個人的な感情が伝えられるものなのだろうか?
自分でも疑問に思いつつもリタさんの意見を聞いてみることにした。
「リタさんの仮説のとおり『黒の使徒』を興したのが魔導王国の王族であるのならば、思い当たることがあるのだけど。
リタさんの意見を聞かせてもらえるかな。」
そう言ってわたしは考えていることをリタさんに聞いてもらうことにした。
「魔導王国でなんで魔導具が開発されるようになったかは、リタさんも知っているよね。
さっき、精霊の力に魅せられて、その力に嫉妬し、終には数多の魔導具という形でその力を手に入れた一族とリタさんも言っていたものね。
魔導王国の王様は精霊の力を戦争に使いたかったんだよね、精霊の力を用いれば他国を侵略するのが容易いと思ったから。
でも、精霊はその力を戦いに用いられることを厭い、力を貸さなかったんだ。
当時の王様は精霊が視えなかったので、その使い手である『色なし』が協力を拒んでいると判断したみたいなの。
実際は精霊が協力を拒んだからなんだけどね。
だから、王様は『色なし』を捕らえて、非人道的な手段で精霊の術の秘密を聞き出したらしいよ。
それを基に魔道具に置き換える研究をしたんだって。
魔道具により精霊の力をある程度再現できるようになり、それによる武器なんかが作れるようになると、『色なし』は用済みになったみたい。
際限なく魔導具が生み出されるようになると精霊が人間に愛想を尽かし、関わりを絶つことになったの。
精霊に関係を絶たれた『色なし』はそれまで使えた精霊の力が使えなくなった訳なの。
その時、王様は『色なし』を迫害しようと思ったんじゃないかな。
『色なし』は王様の命令を聞かなかった訳だし、もし、再び精霊の力が使えるようになった時に敵対されたら困るでしょう。
だから、『色なし』を完全に社会から排除してしまいたかったんじゃないかと思う。
多分、魔導王国では『黒の使徒』が出来るだいぶ前から『色なし』が迫害されていたのだと思うよ。
そして、魔導王国が滅んだあと生き残った王族が、『黒の使徒』を作ったのだとしたら、引き続き『色なし』を迫害しようとしたとしても不思議ではないと思う。」
「なるほど、魔導王国の王族は、『黒の使徒』ができるずっと前から『色なし』を排除しようとしていたと言うのですか。
有りうる話ですね、それが『黒の使徒』にまで受け継がれたと…。
だとしたら、ここに再び精霊の力を行使できる人が集まっているのですから、『黒の使徒』にとっては目障りな存在でしょうね。
しかし、二千年以上昔からの因縁ですか、本当に蛇のように執念深いのですね。」
リタさんはそう言って呆れつつも、それなら尚更警戒を強めないといけないではないですかとぼやいていた。
だいたい初代皇帝の出自からしてたった一冊の歴史書に記されているだけですので、それが本当のことかも分かりませんしね。
私が話した内容で正しいと裏付けが取れるのは、初代皇帝が初めて歴史の表舞台に現われたときその拠点となっていたのが今のオストエンデ付近であったことと当時その辺りを治めていた領主が魔導王国の王族であったことくらいです。」
リタさんは、そう言って帝国と『黒の使徒』との関係についての考察を語り終えた。
でも面白い話だったよ、『黒の使徒』が魔導王国の王族が作ったものだとは思いもしなかった。
「って、あれ? 」
あ、いけない、考え事をしていたら口に出てしまった。
「ターニャちゃん、何か気になることでも?」
「いえ、大したことではないのですが、リタさんの考えが正しいとすると『黒の使徒』の教皇って今でも魔導王国の王族の末裔がその地位にいるのかな?」
ミルトさんに尋ねられてわたしはちょっと気にかかった事をリタさんに質問した。
「私は、そうではないかと考えているのだけれどね。
創世教の場合だと、教皇様というのは創世教の中で聖職者としての貢献が認められて出世してきた方がなられるのでしたよね。
だから、普通世襲ということは考えられないし、自らの功績を示すために本人の露出が多くなるの。
私は、『黒の使徒』の教皇が表に出ないのは、功績があったからではなく世襲で教皇が引き継がれているので信徒に対する説明が上手くできないことも理由の一つだと思っているの。
そして、教皇が魔導王国の王族の末裔であるならなおさら表に出られないのではないかしら。
考えてみて、帝国成立時から皇帝と共にあるのよ、どちらが権威があるかというのが一目瞭然じゃない。
私の様に皇帝が傀儡だと疑う人が出てきてしまうわ、それは困るでしょう。
だから、決して表に出てこないのだと思うの。」
なるほど、もしそうなら『黒の使徒』が『色なし』を迫害するのもわかる気がする。
「ねえ、リタさん、『黒の使徒』がわたし達を目の敵にするのはどうしてだと思う。」
「『黒の使徒』のなけなしの教義が『色の黒い人』は神に選ばれた者達だから凄い魔法が使えるんだというもので、それを際立たせるために魔法が使えない『色なし』を神の恩寵を得られなかった不吉な者として対極においたのでしょう。
『色の黒い人』は神に選ばれたから強い魔法を授けられた、だから敬えと言いたいのに、ターニャちゃんみたいに『色なし』の人が『色の黒い人』より凄い魔法が使えたら教義が破綻しちゃうじゃないですか。」
リタさんは、他の人が言っていることと同じ見解を口にした。
「本当にそうかな、だって創世教はそこまで極端ではないよ。
創世教の中でも、『色なし』は神の恩寵が得られなかった忌むべきもので、親の信仰心が足りなかったから『色なし』が生まれてくるんだって言われているよね。
でも、『色なし』のことを嫌悪することはあっても露骨に迫害することはないよね。
帝国で生まれ育ったハンナちゃんなんか外に出るときは母親が必ずフードで髪や目を隠したって言ってたよ。そうじゃないとお店にも入れてもらえないって。」
わたしが考えていること伝えるとリタさんは帝国の事情までは知らなかったようで申し訳なさそうに言った。
「ごめんなさい、私は帝国の事情まで知らないもので、『黒の使徒』の勢力下ではそこまで『色なし』が迫害されているなんて知りませんでした。
確かに、『色なし』を蔑む事が浸透すれば良いのであって、そこまでする必要は感じませんね。
ただ、ターニャちゃん、虐めというのはどんどんエスカレートするのです。
最初は白い目で見るくらいだったものが、徐々にエスカレートして酷い迫害になったのかも。
もしかしたら、『黒の使徒』自体も最初はそんな酷い迫害になるなんて意図してなかったのかもしれませんよ。」
本当にそうかな、もし、『黒の使徒』の教祖に当たる人物が初代皇帝を育てた魔導王国の王族であるなら一つ思い当たることがあるんだけど…。
ただ、二千年もの間、そんな個人的な感情が伝えられるものなのだろうか?
自分でも疑問に思いつつもリタさんの意見を聞いてみることにした。
「リタさんの仮説のとおり『黒の使徒』を興したのが魔導王国の王族であるのならば、思い当たることがあるのだけど。
リタさんの意見を聞かせてもらえるかな。」
そう言ってわたしは考えていることをリタさんに聞いてもらうことにした。
「魔導王国でなんで魔導具が開発されるようになったかは、リタさんも知っているよね。
さっき、精霊の力に魅せられて、その力に嫉妬し、終には数多の魔導具という形でその力を手に入れた一族とリタさんも言っていたものね。
魔導王国の王様は精霊の力を戦争に使いたかったんだよね、精霊の力を用いれば他国を侵略するのが容易いと思ったから。
でも、精霊はその力を戦いに用いられることを厭い、力を貸さなかったんだ。
当時の王様は精霊が視えなかったので、その使い手である『色なし』が協力を拒んでいると判断したみたいなの。
実際は精霊が協力を拒んだからなんだけどね。
だから、王様は『色なし』を捕らえて、非人道的な手段で精霊の術の秘密を聞き出したらしいよ。
それを基に魔道具に置き換える研究をしたんだって。
魔道具により精霊の力をある程度再現できるようになり、それによる武器なんかが作れるようになると、『色なし』は用済みになったみたい。
際限なく魔導具が生み出されるようになると精霊が人間に愛想を尽かし、関わりを絶つことになったの。
精霊に関係を絶たれた『色なし』はそれまで使えた精霊の力が使えなくなった訳なの。
その時、王様は『色なし』を迫害しようと思ったんじゃないかな。
『色なし』は王様の命令を聞かなかった訳だし、もし、再び精霊の力が使えるようになった時に敵対されたら困るでしょう。
だから、『色なし』を完全に社会から排除してしまいたかったんじゃないかと思う。
多分、魔導王国では『黒の使徒』が出来るだいぶ前から『色なし』が迫害されていたのだと思うよ。
そして、魔導王国が滅んだあと生き残った王族が、『黒の使徒』を作ったのだとしたら、引き続き『色なし』を迫害しようとしたとしても不思議ではないと思う。」
「なるほど、魔導王国の王族は、『黒の使徒』ができるずっと前から『色なし』を排除しようとしていたと言うのですか。
有りうる話ですね、それが『黒の使徒』にまで受け継がれたと…。
だとしたら、ここに再び精霊の力を行使できる人が集まっているのですから、『黒の使徒』にとっては目障りな存在でしょうね。
しかし、二千年以上昔からの因縁ですか、本当に蛇のように執念深いのですね。」
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