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第9章 王都の冬
第240話 精霊の森へようこそ ③
しおりを挟む精霊の森で過ごすためのルールを確認したあと、わたし達は早速外へ出ることにした。
ちなみにミルトさんは三人娘を連れてお風呂へ行ったよ、鼻歌を歌いながらご機嫌な様子だった。
前回来た時お風呂に入る時間がなくて落ち込んでいたけど、よっぽど楽しみにしていたんだね。
ルーナちゃんを除けば、みんな、いかにも深窓の令嬢という感じの貴族のお嬢様だ。
普段は物腰穏やかな動作で決して走ったりなどしない。
しかし、今日は皆いつもより足早に外へ出て行く、やはり雪が降り続き外出できない日が続いたためストレスが溜まっていたんだね。
「こうして、お庭をのんびり歩くのなんて本当に久し振り、八の月以降は寒くてのんびり外にいるような陽気ではなかったですものね。
それに、この二週間は大雪で外に出るどころの話ではありませんでしたわ。
花壇に咲く花を見ていると心が穏やかになります。
北国育ちで慣れていると自分では思っていても、やはりストレスは溜まるものですね。」
エルフリーデちゃんはここに来た時の困惑した表情とは打って変わって穏やかな表情で花壇の花を見ている。
「ほら、いつもはボクが部屋の中でじっとしているのは退屈だと言うと部屋の中で楽しめることを探しなさいというくせに。
自分だって、本当は部屋の中でじっとしていることに苦痛を感じていたんじゃない。」
言わなければいいのに、ルーナちゃんがエルフリーデちゃんをからかった。
「お黙りなさい、もう既に、雪に閉じ込められて二週間ですよ、誰だってストレスが溜まり始めます。
ルーナさんの場合は昨年雪が降り始めたその日から言っていたではないですか。
こらえ性がなさ過ぎです。
昨年の冬も言ったでしょう、レース編みなり、刺繍なり部屋の中でできる楽しみを探しなさいと。
貴族の娘の嗜みですよ。」
ほら、叱られた、いわんこっちゃない…。
「でも、立派な回遊式の庭園ですね。いつの間にこんな物を作っていたのですか?」
それ、聞いちゃう?返事を聞いたらまた驚くよ。
「完成したのは数日前で、かかった日数は三日かな?」
庭を造るのにじゃなくて、森から全部造るのにかかった時間だけどね…。
それを聞いたエルフリーデちゃんは一瞬言葉を失ったが、すぐに気を取り直して
「もう驚くのにも疲れましたわ、精霊の力というのはそういうものだと素直に感心しておきます。」
と言った。
そうそう、あまり深く考えない方がいいと思うよ。
**********
わたし達は庭をゆっくりと散策した後、精霊の森の中に入った。
「見たことのない樹木がたくさんありますわ。
少なくとも、王都付近や北部地方では見ない樹木ですね。
かと思えば、わたし達の育った北部地方特有の樹木も生えていますし。」
「精霊達が気に入った植物を持ってきて勝手気ままに植えているからね。
この森には植物の生育に干渉できる樹木の精霊もたくさんいるから、色々な地方の樹木が生えているんだよ。」
不思議なことに精霊はマナを糧にしていて食べ物をとらないのに、何故か食べられる果実を実らせる樹木が多いんだ。
シュケーさんに聞いたのだけど、精霊はきれいな物が好きで、それは花であったり、色とりどりの果実であったりするんだって。果実の彩が気に入っているみたいなの。
それと、精霊は動物達のことも好きなので、森の動物たちの糧となる果実が実る樹木を好むらしいよ。
「そうなんですか。
そういうお話を聞くと私が精霊を見ることができないのが残念ですわ。
この森にはたくさんいるのでしょう、ターニャちゃんが見ている光景はきっと素敵なのでしょうね。」
そうなの、生まれたての精霊が空中に浮かんでほのかな光を放っているのがとてもきれいなの。
わたしも、みんなに見てもらえないのがとっても残念だよ。
そんな少しセンチメンタルな気分になっているのを台無しにするように、両手に山盛りの果物を抱えてルーナちゃんがやってきた。
「ねえ、ねえ、見て、見て、フェイさんがみんなで食べなさいって、こんなに果物をくれたの。
アンズとかは見たことあるけど、見た事がない果物がいっぱいあるの。
これなんか凄いよ、星の形をしている果物なんて初めて見たよ。」
ルーナちゃんは食べきれないほどの果物をもらって幸せそうだ…。
ルーナちゃんには、目に見えない精霊に思いをはせるより、果物をもらって喜んでいる方がしっくり来るね。
すると一羽のウサギが寄ってきて、ルーナちゃんに果物をねだる。
「あら、随分と人懐っこいウサギですこと。
野生動物は中々人に寄って来ないのですけどね、特にウサギなんかは臆病なようですし。」
エルフリーデちゃんはそう言うとルーナちゃんからリンゴを一つ受け取りウサギに与えた。
そういえば、王家の森でもハンナちゃんが小動物に囲まれて遊んでいたよね。
精霊の森の動物達は自分たちに害なす存在がこの森にはいないとわかっているのかな?
小さな両手で自分の顔より大きなリンゴを抱えてシャリシャリとかじるウサギ、その可愛い仕草に和んでいると、また一羽別のウサギが寄ってきて再び果物をねだった。
そのウサギにもリンゴを一つ与えると、別のウサギが寄ってくるという循環が始まった。
都合五回それを繰り返し、六匹のモフモフのウサギに囲まれてエルフリーデちゃんは大喜びだった。実はかわいい小動物が大好きだったらしい。
それとは逆に腕の中のリンゴをウサギに奪われたルーナちゃんは少し寂しそうな目をしている。
まだ、腕の中に食べきれないくらい残っているよね、足りなかったらシュケーさんに頼んでもらってあげるから、そんな切ない顔しないでよ。
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