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第9章 王都の冬
第234話 冬の日の精霊神殿
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今日は恒例の臨時診療所の日、昨年と同じように精霊神殿の礼拝堂を借りて診療活動をしている。
広い礼拝殿中に簡易な間仕切りで仕切ったスペースを二つ作り、男の人と女の人を分けている。
相変わらず雪は降り続いているが、こんな雪の中でも診療所を訪れる人はいる。
やっぱり一番多いのは風邪ひきさんだね。これは、老若男女を問わないけど、どちらかといえば体力のない子供やお年寄りが多いかな。
「お嬢ちゃん、助かったよ。
腰をやっちまって起き上がるのもしんどくてな、明日からの仕事を休まないといけねえかと思ってたんだ。
お嬢ちゃんのおかげですっかり痛みが治まったぜ。治癒術ってぇのは本当にすげえな。
これでタダでいいって言うんだから、精霊神殿さまさまだぜ。
有り難うよ、恩にきるぜ。」
鍛冶職人だというおじさんが腰の痛みが取れて上機嫌で帰っていく。
そう、この時期に増えるのが腰痛の男の人なの、雪かきで腰を痛めるみたい。
この大陸の人はわたし達みたいな『色なし』を除けばみんな魔法が使える。
でも、たいていの人は、薪に火を点けるときなどに使う『着火』の魔法とか、水やお湯を生み出す『給水』、『給湯』の魔法を使うのが精一杯なの。
馬鹿にしているわけではないよ、街で生活する分には種火を熾せて、水を出せるだけで十分だから。
そんな大きな魔法なんて生活の局面でいると思う?
何が言いたいかというと、昨年フェイさんがやって見せたような街道に降り積もった雪を瞬時に除雪するような大魔法を使える人はいないと言うこと。
街中の道を魔法で除雪できるくらいの魔法が使えれば、職業魔法使いとして魔法だけで生活できるくらいなの。
だから、自分の家の庭から街路までとか、お役所が除雪してくれない私道とかを除雪する際は人力で雪かきをする人が殆どみたいなの。
昨年や今年みたいに雪が多いと退かす雪の重さが半端ではない、結果として腰痛を訴える人が増えるらしいよ。
腰痛の人に混じって稀にいるのが骨折の人と打ち身の人、殆どが屋根の雪下ろしをしている最中に足を滑らして転落した人なの。
笑い事ではないよ、ここへ来られるのは不幸中の幸いな人なんだって。
毎年、転落した際に打ち所が悪くて亡くなる人もいるそうだから。
この雪の中だから、診療所を訪れる男の人は本当に症状の重い人だけだった。
男の人は不精な人が多そうだから、寝てれば治る程度の風邪やちょっとの腰痛ではわざわざ出てこないみたい。
患者さんが途切れたので、わたしとミーナちゃんは女性患者を診ているスペースに行くとやけに賑やかだった。
中を覗くと治療を終えたらしいご婦人達が薪ストーブを囲んで談笑している。
もちろんミルトさんも話の輪に加わっている。
会話に加われず所在なさげにしているフローラちゃんに尋ねてみた。
「ええっと、これはどういう状況?」
「それがね、朝からみんな列を作って順番を待っているでしょう。
今日は、症状の重い風邪の患者さんなんかが来るとみんな順番を譲ってくれるの。
親切な人が多いなと思っていたら、みんなここを井戸端会議に使いたかったみたいなの。
治療が終わって患者さんがいなくなったら、ここでおしゃべりを始めちゃって…。」
フローラちゃんの話では、ここでお喋りしているのはあかぎれや霜焼けを治してもらいにきた近所の奥さん方が殆どだと言う。
みんな、ハンナちゃんが担当の患者さんらしいよ。
おやつを持ってハンナちゃんのところにやって来てハンナちゃんを餌付けする。治療が終わったら、他のご婦人方とおしゃべりをする。半ば恒例となっている光景らしい。
「市井のご婦人方もこの大雪で外出も出来ずストレスを溜めているらしいの。
かといって、市井の方のお宅では大勢で集まってお喋りするスペースもないらしくて。
ここなら広いし暖房もしているから、集まってお喋るするのに丁度良いと思ったらしいの。
お母様も、他の患者さんがいないときであれば、ご婦人方の精神衛生の面でも良いだろうから自由にさせておけって…。
お母様まで話に混ざっちゃうし、私はここでボーッとしているしかなかったの。」
フローラちゃんはご婦人たちの話についていけなくて一人ぽつねんとしていたみたい。
「今日は雪が酷いこともあって、あまり来る人がいませんわね。
昨年、ポルトに行った時に途中の町で遭遇したような酷い風邪が流行しなくて何よりです。
昨年はてんてこ舞いでしたからね。」
フローラちゃんが昨年を思い出しながら言うが、本格的な冬は始まったばかりだから、まだ安心するのは早いと思うよ。
この間の孤児院の風邪だってわたし達の動きが遅かったら王都全体に広がってしまったかもしれない。もしかしたら、王都のどこかに孤児院の風邪みたいな火種があるかもしれないからね。
「でも、ホッとしますわ。今日は久し振りに堅苦しい宮廷行事から開放されました。
年明けからこっち、やれ謁見だわ、やれパーティだわと新年の行事で目が回る思いでしたの。
こうして、市井の人が穏やかに会話している様子を見るとホッとします。
貴族との会話は狐と狸の化かし合い見たいなところがあって気を抜けませんもの。
私は迂闊なことを言わないようにずっと黙っているのですよ、凄く苦痛だったのです。」
賑やかに邪気のない話をする奥さん方を見てフローラちゃんが言う。
油断のならない貴族ってそんなに多いの、アロガンツ伯爵みたいな人が宮廷には多いのかな?
領主貴族の人には、ラインさんやエルフリーデちゃんのお父さんみたいに結構良い人が多いみたいだけど。
フローラちゃんはだいぶお疲れのようだが、年明けからまだ一週間、冬の社交シーズンはこれからが本番だそうだ。
王侯貴族に生まれなくて本当に良かったと思うよ。
広い礼拝殿中に簡易な間仕切りで仕切ったスペースを二つ作り、男の人と女の人を分けている。
相変わらず雪は降り続いているが、こんな雪の中でも診療所を訪れる人はいる。
やっぱり一番多いのは風邪ひきさんだね。これは、老若男女を問わないけど、どちらかといえば体力のない子供やお年寄りが多いかな。
「お嬢ちゃん、助かったよ。
腰をやっちまって起き上がるのもしんどくてな、明日からの仕事を休まないといけねえかと思ってたんだ。
お嬢ちゃんのおかげですっかり痛みが治まったぜ。治癒術ってぇのは本当にすげえな。
これでタダでいいって言うんだから、精霊神殿さまさまだぜ。
有り難うよ、恩にきるぜ。」
鍛冶職人だというおじさんが腰の痛みが取れて上機嫌で帰っていく。
そう、この時期に増えるのが腰痛の男の人なの、雪かきで腰を痛めるみたい。
この大陸の人はわたし達みたいな『色なし』を除けばみんな魔法が使える。
でも、たいていの人は、薪に火を点けるときなどに使う『着火』の魔法とか、水やお湯を生み出す『給水』、『給湯』の魔法を使うのが精一杯なの。
馬鹿にしているわけではないよ、街で生活する分には種火を熾せて、水を出せるだけで十分だから。
そんな大きな魔法なんて生活の局面でいると思う?
何が言いたいかというと、昨年フェイさんがやって見せたような街道に降り積もった雪を瞬時に除雪するような大魔法を使える人はいないと言うこと。
街中の道を魔法で除雪できるくらいの魔法が使えれば、職業魔法使いとして魔法だけで生活できるくらいなの。
だから、自分の家の庭から街路までとか、お役所が除雪してくれない私道とかを除雪する際は人力で雪かきをする人が殆どみたいなの。
昨年や今年みたいに雪が多いと退かす雪の重さが半端ではない、結果として腰痛を訴える人が増えるらしいよ。
腰痛の人に混じって稀にいるのが骨折の人と打ち身の人、殆どが屋根の雪下ろしをしている最中に足を滑らして転落した人なの。
笑い事ではないよ、ここへ来られるのは不幸中の幸いな人なんだって。
毎年、転落した際に打ち所が悪くて亡くなる人もいるそうだから。
この雪の中だから、診療所を訪れる男の人は本当に症状の重い人だけだった。
男の人は不精な人が多そうだから、寝てれば治る程度の風邪やちょっとの腰痛ではわざわざ出てこないみたい。
患者さんが途切れたので、わたしとミーナちゃんは女性患者を診ているスペースに行くとやけに賑やかだった。
中を覗くと治療を終えたらしいご婦人達が薪ストーブを囲んで談笑している。
もちろんミルトさんも話の輪に加わっている。
会話に加われず所在なさげにしているフローラちゃんに尋ねてみた。
「ええっと、これはどういう状況?」
「それがね、朝からみんな列を作って順番を待っているでしょう。
今日は、症状の重い風邪の患者さんなんかが来るとみんな順番を譲ってくれるの。
親切な人が多いなと思っていたら、みんなここを井戸端会議に使いたかったみたいなの。
治療が終わって患者さんがいなくなったら、ここでおしゃべりを始めちゃって…。」
フローラちゃんの話では、ここでお喋りしているのはあかぎれや霜焼けを治してもらいにきた近所の奥さん方が殆どだと言う。
みんな、ハンナちゃんが担当の患者さんらしいよ。
おやつを持ってハンナちゃんのところにやって来てハンナちゃんを餌付けする。治療が終わったら、他のご婦人方とおしゃべりをする。半ば恒例となっている光景らしい。
「市井のご婦人方もこの大雪で外出も出来ずストレスを溜めているらしいの。
かといって、市井の方のお宅では大勢で集まってお喋りするスペースもないらしくて。
ここなら広いし暖房もしているから、集まってお喋るするのに丁度良いと思ったらしいの。
お母様も、他の患者さんがいないときであれば、ご婦人方の精神衛生の面でも良いだろうから自由にさせておけって…。
お母様まで話に混ざっちゃうし、私はここでボーッとしているしかなかったの。」
フローラちゃんはご婦人たちの話についていけなくて一人ぽつねんとしていたみたい。
「今日は雪が酷いこともあって、あまり来る人がいませんわね。
昨年、ポルトに行った時に途中の町で遭遇したような酷い風邪が流行しなくて何よりです。
昨年はてんてこ舞いでしたからね。」
フローラちゃんが昨年を思い出しながら言うが、本格的な冬は始まったばかりだから、まだ安心するのは早いと思うよ。
この間の孤児院の風邪だってわたし達の動きが遅かったら王都全体に広がってしまったかもしれない。もしかしたら、王都のどこかに孤児院の風邪みたいな火種があるかもしれないからね。
「でも、ホッとしますわ。今日は久し振りに堅苦しい宮廷行事から開放されました。
年明けからこっち、やれ謁見だわ、やれパーティだわと新年の行事で目が回る思いでしたの。
こうして、市井の人が穏やかに会話している様子を見るとホッとします。
貴族との会話は狐と狸の化かし合い見たいなところがあって気を抜けませんもの。
私は迂闊なことを言わないようにずっと黙っているのですよ、凄く苦痛だったのです。」
賑やかに邪気のない話をする奥さん方を見てフローラちゃんが言う。
油断のならない貴族ってそんなに多いの、アロガンツ伯爵みたいな人が宮廷には多いのかな?
領主貴族の人には、ラインさんやエルフリーデちゃんのお父さんみたいに結構良い人が多いみたいだけど。
フローラちゃんはだいぶお疲れのようだが、年明けからまだ一週間、冬の社交シーズンはこれからが本番だそうだ。
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