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第9章 王都の冬

第225話 グナーデ家の想い

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「そうか、泉の精霊様が始祖様のことを覚えておられたか、あまり褒められた覚えられ方ではないが精霊様の記憶に留まっているだけ光栄なことだ。
 ところで、精霊様からお預かりしたということは理解したが、その二人はどのような人物なのだ。」

 そういえばわたし達自身のことは何も言ってなかったよね、私たちは自己紹介すらしていないよ。

「ターニャちゃんはヴァイスハイト様と同じ泉の精霊様に育てられた子よ。
 正確に言えば、泉の精霊様だけではなく、五人の大精霊様によって大切に育てられた子なの。
 精霊達の暮らす森で育てられたので人の社会のことを知らなかったの、それを学びにこの国に出てきたのよ。
 ミーナちゃんは、ノイエシュタットの出身で、ご両親を亡くされた後親戚に財産を奪われて酷い仕打ちを受けてたのをターニャちゃん達が保護したそうよ。
 ミーナちゃんを慕っていた精霊がターニャちゃん達に助けを求めたのですって。精霊に好かれる体質をしているのでターニャちゃんと一緒に行動しているの。ミーナちゃんも泉の精霊様のお気に入りなの。」

 ミルトさんが簡単にわたし達の紹介をしてくれたので、わたしとミーナちゃんはそれに続いて挨拶をした。

「そうか、泉の精霊様に育てられたのか、王祖様と同じ存在とあっては疎かには出来ないね。
 しかも、ミルトとフローラに王祖様と同じ力をもたらすきっかけとなった人物であれば粗相をする訳にはいかないか。
 しかし、フローラが病床に臥せっている正にその時に二人が王都に来てくれるなんて、何という幸運なのか。
 これはますます精霊様に対する感謝の気持ちを忘れてはいけないな。」

 そして、リーベさんは一族の念願が叶ってよかったといった。
 一族の念願、それは再び精霊に相見えること。
 実はグナーデ家には精霊に関わる色々な手記が残されているらしい 。
 二千年前の当主の手記に、『魔導王国の行いに嫌気が差したので人の社会に干渉するのを止める』と精霊から聞かされたと記されているのだそうだ。
 その手記を残した当主は、この国が愛想を尽かされたのでなければいつの日か再び精霊に相見えることが出来るだろうと考えたらしい。
 その時に、精霊と話を交わせる者がいなくてはいけないと考えたその当主は家訓を一つ加えたそうだ。それは、平民から嫁を取るときは、必ず『色なし』の娘にすること。

 それまでは、定期的に平民の血を入れるということが決められているだけだったそうだ。
 精霊と言葉を交わすことが出来るのは『色なし』だけだと知っていた当時の当主は、『色なし』という形質が稀にしか発現しない事も知っており、少しでも『色なし』の子供が出来る可能性を高めるため外から入れる血を『色なし』の者にしたそうだ。

 以来二千年もの間、グナーデ家では『色なし』の平民の娘を嫁に迎え続けてきたらしい。
 そして、その子供を王家に嫁に出していたんだね、だから王家に『色なし』の人が多いんだ。

 二千年の時が過ぎ、人が精霊の恩恵を忘れ去る頃には魔法を使えない『色なし』は差別の対象となり、忌避されるようになる。
 そんな『色なし』を好んで当主の正妻にしてきたグナーデ家は事情を知らない貴族からは奇異な目で見られているらしい。
 しかし、歴代の当主は、「うちは始祖様が『色なし』なんで、始祖様と同じ形質を大切にするのです。」と言って周囲からの悪意に満ちた雑音を無視してきたようだ。それって、結構忍耐が要るよね…。

 そして、念願が叶って自分の孫娘とひ孫が、泉の精霊様と相見えただけではなく、始祖様と同様の力を授かったと言う訳だ。
 リーベさんとしてはさぞかし感慨深いことなんだろうね。

 ただ…

「しかし、ミルトよ、先ほど姿を消すのを見せて頂いたのでそちらのお三方が精霊様だと言うのは信じるが、私がご先祖様の手記で呼んだものとは印象がかなり違うのだが…。
 手記で読んだ精霊様はもっと神々しいというか…。
 失礼を承知で言えば、ミルトと親子にしか見えないのだが。」

と、リーベさんはこぼす。

 まあ、一族の念願だった精霊との邂逅がミドリ達じゃあ、ガッカリもするよね。

「お婆様、ミドリちゃん達三人は精霊としてはまだ幼いのです。
 これから何百年、何千年もの齢を重ねて神々しい精霊に成長していくのですよ。
 それに、ミドリ、ヒカリ、スイの三人は小さな精霊の時から私のマナを吸収して大きくなったのです。
 いわば、血を分けた娘と同じです。親子に見えるのは当然です。」

 ミルトさんは心外そうに返すが、なおも残念そうにリーベさんは言う。

「できれば私も泉の精霊様のご尊顔を拝したかった。」

 最近頻繁に現れているし、言葉を交わす人も増えてきたから、出くわす機会はあるかもしれないよ。
 わたしがそう思っていたら、ミルトさんも同じことを考えていたようだ。

「お婆様、お婆様が邪な考えを持っていなければお目にかかる機会があるかもしれませんよ。
 最近ですと、アデル侯爵やブルーメン子爵がお目にかかっているので。
 特にブルーメン子爵にはウンディーネ様の方からお声をかけられたそうですから。」

「おお、そうか、そういえばあの二人も若いのに精霊様に対する感謝の念を忘れていない者たちであるからな。
 では、私も泉の精霊様にお目にかかれるように、精霊神殿に行ってお祈りでもしてこようか。」

 感謝の念を忘れていない?そうか? あの二人は伝承にあるウンディーネおかあさんのことを女神様だと思っていたみたいだけど?

 まあ、それはさておき、リーベさんがイメージしている精霊であれば今私の後ろにいるのだけど、三人ほど…。

 ミルトさんは教えるつもりはないのだろうか?私が言ってしまっても良いものか…。

「ええっと、お婆様…。今更なのですが、お婆様の言葉は全て精霊様に聞かれていますよ。
 実は、今この場にいる精霊は、ミドリちゃん達三人だけではないのです。
 フローラたちの後ろに立っているお三方、侍女や侍従の格好をしていますけど、実は精霊様なのです。しかも、かなり高位の精霊様です。
 フローラの後ろにおられるのが光の精霊のルナ様、体の弱いフローラのためにウンディーネ様が遣わしてくれた精霊様です。
 ターニャちゃんの後ろのお二方が光の精霊のソール様と水の精霊のフェイ様です。
 こちらはターニャちゃんとミーナちゃんの保護者であると共に、色々な面での指導者でもあり、またターニャちゃん達に悪い虫が付かない様にする監視者でもあるのです。
 そういった意味では、私達もターニャちゃん達を自分達の都合の良いことに利用していないかを常に監視されているのです。」

 ミルトさんの言葉を聞いたリーベさんは泡を食って言った。

「これは大変ご無礼をこの二人には無理を言って申し訳ございませんでした。」

 リーベさんの謝罪にソールさんが応えて言う。

「いいえ、あなたの言葉に邪気がないのは分かっていましたから口を挟む積りはありませんでした。
 あのくらいのことはこの二人が自分で対処できないと困ることですから。
 まあ、ミルトさんが上手くおさめてくれると思っていましたので。」

 そうか、リーベさんの勧誘ぐらいは自分達でちゃんと断れなくてはダメなのか…。
 ソールさんのわたし達の要求する水準が高すぎる気がするのだけど。

 まあ、差し当たりリーベさんはわたし達への勧誘を諦めてくれたようだし良しとしますか。




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