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第9章 王都の冬
第223話 グナーデ家の事情 ②
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リーベさんの説明によるとグナーデ家は貴族の中で最も格上の侯爵家であるそうだ。
領地は王都の隣、王都から馬車でわずか半日の距離にあるグナーデの町とその周辺の農村数ヶ所、侯爵領としては飛び抜けて小さな領地らしい。
ただ、領都グナーデは王国を南北に貫く大街道と王都とノイエシュタットを結ぶ街道の交差する場所にあり交通の要衝として栄えているそうだ。
いくらグナーデが栄えていると言っても北の大領主アデル侯爵家の領地に比べれば面積、人口共に十分の一にも満たず、グナーデ家の経済力は子爵家の上位から伯爵家の下位程度しかないとのこと。
爵位に見合わない経済力の小ささには理由があるそうだ。
それは、王家に王位継承権を持つものが居なくなった場合には、グナーデ家の当主に第一位の王位継承権が発生するためだそうだ。これは、はっきりと王室典範に記されているらしい。
そのため、グナーデ家に大きな経済力を持たせると国が割れる恐れがあり、あえて所領は小さく抑えられているらしい。
要するにグナーデ家というのは王家のスペアなんだって。
王家とグナーデ家の間では頻繁に婚姻関係が結ばれており、数代に一回は王家の姫が降嫁して来るらしい。スペアであるグナーデ家に流れる王家の血を薄めないためだそうだ。
でも実際の目的は違っているようで、
「近親婚の弊害って知っているかい?」
とリーベさんがわたし達に尋ねてきた。それを何故か慌ててミルトさんがリーベさんの言葉を遮った。
「お婆様、この年の子供にまだそういう話は早いです。」
「イヤだねぇ、私だって子供相手に生々しい話をするつもりはないよ。」
二人のよくわからないやり取りがあったあと、リーベさんが近親婚の弊害について説明してくれた。
近親婚というのは兄妹とか親娘など血縁関係の近いもので結婚をすることだと言う。
さて、親子は容姿が似ているケースが多いけど、これは親から子に引き継がれた因子が発現したものだとリーベさんは言う。この因子というのが曲者で人間の体の中には発現せずに隠れているものがあるらしい。それは良いものの場合もあるし、悪いものの場合もあるそうだ。
まあ、兄妹とか親娘とか極端なケースではなくても、親戚同士で結婚を繰り返すと血が濃くなり隠れた因子が発現し易くなるんだって。
それで、近親婚を繰り返していると、体や知能に欠陥がある子供が出来る危険性が高まるらしい。
「最近の貴族の馬鹿共は、自分達を青い血などとぬかしおって貴族同士で婚姻を結びたがる。
いまやみんな親戚ではないか。
派閥の内部で婚姻を繰り返すもんだから血が濃くなりすぎて、知恵の回らない者が出てくるんだ。
そもそも、近親婚はいけないと精霊神殿の教えにもちゃんと書いてあるだろうに。」
あ、あれにはそんな事も書いてあったんだ。
でも、数代に一回王家と婚姻を結んでいるのだったら、グナーデ家も血が濃くなりすぎているんじゃないの。近親婚の典型のような気がするんだけど…。
「なんだ、おまえたち、近親婚の典型のようなグナーデ家の者が何を言っているのかと顔に書いてあるぞ。
これから話すことにグナーデ家の真の役割があるのだよ。
もっとも、秘密でもなんでもないのだが知らない者が増えてしまって嘆かわしいことだ。」
グナーデ家の真の役割、それは王家の血を薄めることらしい。
薄める?近親婚を繰り返してるのに?
**********
話は二千五百年前、王国の創成期にまでさかのぼるそうだ。
自ら荒地を開墾し国を作り上げたヴァイスハイトさんの伴侶はやはり孤児だったみたい。
何もないところから一代で国を作り上げたヴァイスハイト夫婦に苦言を呈する者は誰もいなかった。
ヴァイスハイトさんが儲けた王子の伴侶は、ヴァイスハイトさんの庇護のもとにあった孤児の娘だったらしい。
このとき、ヴァイスハイトさんに苦言を呈する者が現れる、それはこの国の貴族であったり、近隣の国の王族であったりしたようだ。
苦言の内容はどれも同じで、皇太子の妃に平民、しかも孤児は相応しくないと言うものだったみたい。同時に自分の娘こそ皇太子の妃に相応しいと売り込むものだったみたいだね。
それは妃を送り込むことにより、この国の政に強い影響力を持ちたいという下心が透けて見えるものであったそうだ。当時新興国であったこの国は他の国から目をつけられていたみたい。
当時、絶対的な権力を握っていたヴァイスハイトさんはそんな苦言を一顧だにしなかったらしい。
孤児が作り上げた国の王が孤児を馬鹿にすることは許されないと言う思いがあったから。
でも、自分の孫の代になったらそうは言っていられないかも知れないとヴァイスハイトさんは不安になったみたい。
ヴァイスハイトさんは平民を見下すような貴族を王家の血筋には入れたくなかったんだって。
貴族や近隣の王家の言うことには一つの懸念も抱いていた。それは、育ての親の精霊から言われていた近親婚を厳に戒める教えに反するかもしれないこと。
もし、数の限られている貴族や近隣王家としか婚姻を結ばないのであれば、それは近親婚を繰り返すことになると心配したようだ。
頭を悩ますヴァイスハイトさんに側近として仕えていたグナーデ家の始祖初代ミルトさんがこう言ったそうだ。
「では、私の息子の嫁は孤児にしましょう。
私だって孤児だったのです、孤児を嫁に迎えるのに何の支障がありましょうか。
そして、私の孫をヴァイスハイト様のお孫様の伴侶にしていただければ、半分は侯爵家の血、半分は孤児の血が流れています。
侯爵家の子を王族の伴侶に相応しくないと言う輩はいないでしょう。」
この後、ヴァイスハイトさんは他の側近も交えて初代ミルトさんの意見をもとに今の仕組みを作ったらしい。
グナーデ家から頻繁に王族の伴侶を迎え入れることに対する貴族の批判をかわすため、数代に一度王家から嫁を迎え入れて王家のスペアとなることやグナーデ家の権勢が強くなりすぎないようにグナーデ家の者は王国の要職には就かない事が決められたそうだ。
同時に所領も今の規模に縮小したみたい、本当はもっと大領だったんだって。
自領を縮小するって、初代ミルトさん、どんだけヴァイスハイトさんのことが好きだったんだ。
そういえば、ウンディーネおかあさんが初代ミルトさんは小さい頃からヴァイスハイトさんにくっついて歩いていたって行っていたもんね。
ちなみにこの話はアデル侯爵家とか国の創成期にヴァイスハイトさんと共にあった貴族家には伝わっていることらしい。
この話を知らないのは新参者だそうだ。新参者って…、それ二千年単位の話だよね…。
**********
「そういうことで、グナーデ家の一番の役割は王家の血を平民の血で薄めて王家にお返しすることなんだ。
本当なら、王家から嫁を貰う代以外は全部平民から嫁を取りたいところなんだがね、貴族の柵ってやつがあってここ二代続けて貴族から嫁取りをすることになってしまったんだよ。
だから、この代で平民の血を入れるのは好都合かもしれないと思ってはいるんだ。
このまま、なし崩し的に貴族から嫁を取り続けるわけにはいかんので、私が生きている間に平民から嫁を見つけておこうと思ってね。
という訳でどうだい、どっちでもいいからうちのひ孫の嫁になってくれないかい。」
一通り事情を説明したリーベさんは、再びわたし達の勧誘に乗り出した。
ミルトさん、そろそろ出番ですよ。
領地は王都の隣、王都から馬車でわずか半日の距離にあるグナーデの町とその周辺の農村数ヶ所、侯爵領としては飛び抜けて小さな領地らしい。
ただ、領都グナーデは王国を南北に貫く大街道と王都とノイエシュタットを結ぶ街道の交差する場所にあり交通の要衝として栄えているそうだ。
いくらグナーデが栄えていると言っても北の大領主アデル侯爵家の領地に比べれば面積、人口共に十分の一にも満たず、グナーデ家の経済力は子爵家の上位から伯爵家の下位程度しかないとのこと。
爵位に見合わない経済力の小ささには理由があるそうだ。
それは、王家に王位継承権を持つものが居なくなった場合には、グナーデ家の当主に第一位の王位継承権が発生するためだそうだ。これは、はっきりと王室典範に記されているらしい。
そのため、グナーデ家に大きな経済力を持たせると国が割れる恐れがあり、あえて所領は小さく抑えられているらしい。
要するにグナーデ家というのは王家のスペアなんだって。
王家とグナーデ家の間では頻繁に婚姻関係が結ばれており、数代に一回は王家の姫が降嫁して来るらしい。スペアであるグナーデ家に流れる王家の血を薄めないためだそうだ。
でも実際の目的は違っているようで、
「近親婚の弊害って知っているかい?」
とリーベさんがわたし達に尋ねてきた。それを何故か慌ててミルトさんがリーベさんの言葉を遮った。
「お婆様、この年の子供にまだそういう話は早いです。」
「イヤだねぇ、私だって子供相手に生々しい話をするつもりはないよ。」
二人のよくわからないやり取りがあったあと、リーベさんが近親婚の弊害について説明してくれた。
近親婚というのは兄妹とか親娘など血縁関係の近いもので結婚をすることだと言う。
さて、親子は容姿が似ているケースが多いけど、これは親から子に引き継がれた因子が発現したものだとリーベさんは言う。この因子というのが曲者で人間の体の中には発現せずに隠れているものがあるらしい。それは良いものの場合もあるし、悪いものの場合もあるそうだ。
まあ、兄妹とか親娘とか極端なケースではなくても、親戚同士で結婚を繰り返すと血が濃くなり隠れた因子が発現し易くなるんだって。
それで、近親婚を繰り返していると、体や知能に欠陥がある子供が出来る危険性が高まるらしい。
「最近の貴族の馬鹿共は、自分達を青い血などとぬかしおって貴族同士で婚姻を結びたがる。
いまやみんな親戚ではないか。
派閥の内部で婚姻を繰り返すもんだから血が濃くなりすぎて、知恵の回らない者が出てくるんだ。
そもそも、近親婚はいけないと精霊神殿の教えにもちゃんと書いてあるだろうに。」
あ、あれにはそんな事も書いてあったんだ。
でも、数代に一回王家と婚姻を結んでいるのだったら、グナーデ家も血が濃くなりすぎているんじゃないの。近親婚の典型のような気がするんだけど…。
「なんだ、おまえたち、近親婚の典型のようなグナーデ家の者が何を言っているのかと顔に書いてあるぞ。
これから話すことにグナーデ家の真の役割があるのだよ。
もっとも、秘密でもなんでもないのだが知らない者が増えてしまって嘆かわしいことだ。」
グナーデ家の真の役割、それは王家の血を薄めることらしい。
薄める?近親婚を繰り返してるのに?
**********
話は二千五百年前、王国の創成期にまでさかのぼるそうだ。
自ら荒地を開墾し国を作り上げたヴァイスハイトさんの伴侶はやはり孤児だったみたい。
何もないところから一代で国を作り上げたヴァイスハイト夫婦に苦言を呈する者は誰もいなかった。
ヴァイスハイトさんが儲けた王子の伴侶は、ヴァイスハイトさんの庇護のもとにあった孤児の娘だったらしい。
このとき、ヴァイスハイトさんに苦言を呈する者が現れる、それはこの国の貴族であったり、近隣の国の王族であったりしたようだ。
苦言の内容はどれも同じで、皇太子の妃に平民、しかも孤児は相応しくないと言うものだったみたい。同時に自分の娘こそ皇太子の妃に相応しいと売り込むものだったみたいだね。
それは妃を送り込むことにより、この国の政に強い影響力を持ちたいという下心が透けて見えるものであったそうだ。当時新興国であったこの国は他の国から目をつけられていたみたい。
当時、絶対的な権力を握っていたヴァイスハイトさんはそんな苦言を一顧だにしなかったらしい。
孤児が作り上げた国の王が孤児を馬鹿にすることは許されないと言う思いがあったから。
でも、自分の孫の代になったらそうは言っていられないかも知れないとヴァイスハイトさんは不安になったみたい。
ヴァイスハイトさんは平民を見下すような貴族を王家の血筋には入れたくなかったんだって。
貴族や近隣の王家の言うことには一つの懸念も抱いていた。それは、育ての親の精霊から言われていた近親婚を厳に戒める教えに反するかもしれないこと。
もし、数の限られている貴族や近隣王家としか婚姻を結ばないのであれば、それは近親婚を繰り返すことになると心配したようだ。
頭を悩ますヴァイスハイトさんに側近として仕えていたグナーデ家の始祖初代ミルトさんがこう言ったそうだ。
「では、私の息子の嫁は孤児にしましょう。
私だって孤児だったのです、孤児を嫁に迎えるのに何の支障がありましょうか。
そして、私の孫をヴァイスハイト様のお孫様の伴侶にしていただければ、半分は侯爵家の血、半分は孤児の血が流れています。
侯爵家の子を王族の伴侶に相応しくないと言う輩はいないでしょう。」
この後、ヴァイスハイトさんは他の側近も交えて初代ミルトさんの意見をもとに今の仕組みを作ったらしい。
グナーデ家から頻繁に王族の伴侶を迎え入れることに対する貴族の批判をかわすため、数代に一度王家から嫁を迎え入れて王家のスペアとなることやグナーデ家の権勢が強くなりすぎないようにグナーデ家の者は王国の要職には就かない事が決められたそうだ。
同時に所領も今の規模に縮小したみたい、本当はもっと大領だったんだって。
自領を縮小するって、初代ミルトさん、どんだけヴァイスハイトさんのことが好きだったんだ。
そういえば、ウンディーネおかあさんが初代ミルトさんは小さい頃からヴァイスハイトさんにくっついて歩いていたって行っていたもんね。
ちなみにこの話はアデル侯爵家とか国の創成期にヴァイスハイトさんと共にあった貴族家には伝わっていることらしい。
この話を知らないのは新参者だそうだ。新参者って…、それ二千年単位の話だよね…。
**********
「そういうことで、グナーデ家の一番の役割は王家の血を平民の血で薄めて王家にお返しすることなんだ。
本当なら、王家から嫁を貰う代以外は全部平民から嫁を取りたいところなんだがね、貴族の柵ってやつがあってここ二代続けて貴族から嫁取りをすることになってしまったんだよ。
だから、この代で平民の血を入れるのは好都合かもしれないと思ってはいるんだ。
このまま、なし崩し的に貴族から嫁を取り続けるわけにはいかんので、私が生きている間に平民から嫁を見つけておこうと思ってね。
という訳でどうだい、どっちでもいいからうちのひ孫の嫁になってくれないかい。」
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