精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

文字の大きさ
上 下
222 / 508
第9章 王都の冬

第221話 グナーデ家の嫁探し

しおりを挟む
 なにこのお婆ちゃん、いきなり人に嫁にこないかと言ったよ、しかもどっちでも良いからって…。
 なんかわたし達の力だけが欲しいみたいな言い方で感じ悪いよね。

 わたしが憮然としているとヘラさんがお婆ちゃんをたしなめた。

「リーベ様、そのような言い方は如何なものですか。
 それではこの子たちの持つ治癒の能力を手に入れたいように聞こえますよ。
 だいたい自己紹介もなしで、嫁に来ないかはないでしょうに。」

 ヘラさんにたしなめられたおばあちゃんはバツの悪そうな顔で言う。

「ああ、そうだったな。逸材を見つけたものだから、つい気が急いてしまった。
 はじめまして、小さな治癒術師さん。私は、グナーデ家のリーベという、よろしく。
 実はな、ひ孫の嫁を探しているのだがな、なかなか条件に合う娘がいなくて難儀していたのだ。」

 リーベさんが言うお嫁さんの条件というのは、『色なし』で聡明な十歳以下の平民の娘というものらしい。出来れば孤児が良いそうだ。
 十歳以下と言うのはひ孫さんが今十歳なので姉さん女房は避けたいらしい。
 また、出来れば孤児がいいというのは、グナーデ家というのは貴族らしい。
 とある事情で平民の娘を嫁に取りたいが、貴族の家に嫁を出して余禄に預かろうとする性質の悪い親族がいると困るそうだ。
 それなら、いっそのこと孤児の方が良いと言うことで孤児院で嫁を物色しているらしい。

「自分で言うのもなんだが、怪しいものではないから安心していいよ。
 言葉巧みにあんたらに言い寄ってどこかへ売り飛ばそうなんてことは考えていないから。
 もちろん、ひ孫の嫁というのも正妻として迎えるからね、側室とか妾とかではないから安心してくれ。
 かく言う私もこの孤児院の出身だからね。」

「ええ、リーベ様はとっても良い方ですよ。
 今日も孤児院で風邪が流行っていると聞いて心配してお見舞いに来てくださったのです。
 たくさんの食べ物ととてもたくさんの寄付も持ってきてくださったのですよ。
 本当にいつも有り難うございます。」

「なにを言っているの、そんなの私がこの孤児院で受けた恩に比べれば些細なものだよ。
 どうせ墓場の中まで金を持ってはいけないのだから、将来のある子供にために使ってもらったほうがいいさ。
 それに、あまり良い物は食べていないのだろう、たまにはご馳走を食べさせてやればよい。」

 確かに悪い人ではないようだ、でもこの人なんか…。
 リーベさんの話はなお続く。

「そうそう、それでね、ここ最近この孤児院や当家の領地の孤児院を見て回っているんだけど、中々条件に合う娘がいないんだよ。
 一番肝心なのは貴族の社会で亘っていけるだけの聡明さなのだけど、中々難しくて。
 そう思っていたら、あんたら二人は大人に指示もないのに風邪をひいた子供達の容態を的確に把握して対処していくじゃないか、その判断力に舌を巻いたよ。
 別に、治癒術師を取り込みたいわけじゃないよ。
 そもそも、私と同じ『色なし』が治癒術を使うなんて何の冗談かと思ったからね。
 私はあんたらの聡明さを買ったのさ、お誂え向けに二人とも『色なし』だしね。
 どうだい、どっちでもいいから家に嫁に来る気はないかい。」

 なんか、この有無を言わさない話の進め方…。とりあえずあたしは辞退しておこう。

「申し訳ございませんが、わたしは貴族になる気はありませんので。
 貴族の友達の話を聞いているとわたしにはとてもあんな堅苦しい生活はできそうにありません。」

 よし、これでいいだろう、ミーナちゃんはどうするのかな。

「申し訳ございません、私も貴族になる気はないです。
 私は学園を卒業したら故郷へ帰って治癒術師をするつもりですので。」

 ああ、やっぱり、そう言うと思った。

「なんだい即答かい、少しは考えてくれてもいいじゃないか。
 うちのひ孫は厳しく育てたから平民だからって馬鹿にしたりしないよ。
 うちの一族はわたしを含めて『色なし』も多くて、肩身の狭い思いはしないから少しは検討しておくれよ。」

 結構粘るな、リーベさんはすぐに引く気はないようだ。
 まあ、是が非でもと言う感じでもないし、言うだけ言ってみて叶えば儲けものっていう感じかな。

 その時、職員室の扉からノックの音が響いた。

 ヘラさんが扉を開くとそこにはフローラちゃんを連れたミルトさんの姿が。
 午前中の宮中行事が終って駆けつけたんだね。

「あれ、ミルトにフローラじゃないかい、どうしてここに?
 新年の祝賀行事はすっぽかしたのかい?」

「えええ、御婆様?御婆様こそ何故こちらに?」

 やっぱり…、なんか雰囲気が似ていると思っていたんだ…。

「何故もなにも、ここは私の実家みたいなものだよ。
 実家の一大事となれば心配で駆けつけるのはおかしくはあるまい。」

「いえ、そういう意味ではなく、私は御婆様が領地にいらっしゃると思っていましたので。
 こちらにおられたので驚いたのです。」

 リーベさんはご高齢なこともあり、ここ数年は領地から出てきていなかったそうだ。
 今年七十歳を迎えたリーベさんのお祝いをこの孤児院の出身者でしたいという誘いがあって久し振りに王都に出てきたそうだ。そのついでに王都でひ孫の嫁探しをしていたらしい。


「ミルトよ、そう言うおまえこそ何故ここにいるのだ。
 だいたい風邪が蔓延していると言うのに体の弱いフローラまで連れて来おって。」

 ミルトさんは孤児院の風邪の患者の治療を頼まれてやってきたことやフローラちゃんがすっかり元気になって治癒術まで使えるようになったことをリーベさんに説明した。

「なんと、貴族連中に虐められて部屋に引き篭っていたミルトが随分と逞しくなったものだ。
 風の噂でミルトが治癒術を使えるようになったと聞いたとき、また随分と荒唐無稽な噂がなれたものだと呆れていたんだ。まさか、本当のことだったとは。」

 ミルトさんの変わりように驚き言葉を失うリーベさん。
 ミルトさんはそんなリーベさんとの会話を一旦打ち切り、院長に尋ねた。

「ところで、風邪の子供達はどうしました、早く治療しないといけないと思うのですが?」

 ヘラさんは午前中のうちにわたし達が子供の治療を終わらせたことをミルトさんに説明していた。

「ターニャちゃん、ミーナちゃん、有り難う。とっても助かったわ。
 遅くなってしまってごめんなさいね、宮中行事で抜け出せなくて。」

 ミルトさんがわたしたちに感謝の言葉と遅れたことへの詫びの言葉を述べると、それを聞いたリーベさんが言った。

「ミルト、おまえ、この二人と知り合いなのか?
 何故こんな逸材を隠しておった、私がひ孫の嫁を探していることは知っていたであろうに。」

 ああ、ミルトさんにとばっちりが…。

しおりを挟む
感想 217

あなたにおすすめの小説

俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ 『壽命 懸(じゅみょう かける)』 しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。 だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。 異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...