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第9章 王都の冬

第219話 似たもの親娘

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 ソールさんに魔導車を用意してもらっている間にわたし達もお出かけの準備をする。
 別にどこか寄るわけでもないが今の服装は外に出るには寒すぎる。

 わたし、ミーナちゃん、ハンナちゃん、三人お揃いの白いウールのコートを着て寮の正面玄関に戻ってくると車寄せにソールさんが待っていた。

「雪で視界が悪くなっている上に、路面が滑りやすく、ブレーキも利き難くなるので今日はゆっくり走りますね。」

 わたし達が魔導車に乗り込むとソールさんがそう告げてゆっくりと走り出す。

「うわー、暖かい。いつも思うんだけどターニャちゃんの魔導車って凄く快適だよね。
 いつだって心地よい温度だし、揺れないし、座り心地も良いし、ここから出たくなくなるよ。」

 ルーナちゃんが白い息をもらしながらホッとしたように言った
 玄関を出てから魔導車に乗り込むまでちょっと時間だったのに凄く寒さが身に染みたものね。
 こういうのをしばれる寒さって言うんだろうね。

 ゆっくりと走る車の窓からうっすらと雪化粧した王都の景色を見る、昨年は凄い積雪に圧倒されたがこのくらいの雪だと街並みが凄くきれいに見える。
 雪のためか外を歩く人影は疎らで街は静寂に包まれているよ。

「ターニャちゃん、本当に有り難う。
 さすがにこの雪の中、中央広場まで歩くのは無理だと思ったよ。」
 
 王都は広い、ルーナちゃんのご両親が滞在するホテルがある中央広場までは、わたし達子供の足では小一時間かかる。この寒さと雪じゃ遭難しかねないよ…。

「どういたしまして、わたしも雪の王都を見たかったから丁度良いよ。」

「そうですね、雪の積もり始めの王都って凄くきれいですね。私も出て来て良かったと思います。」

 わたしがルーナちゃんに返事をすると、ミーナちゃんもそれに言葉を続けた。
 ちなみに魔導車の中が心地良いせいか、お腹がいっぱいのせいか、ハンナちゃんはわたしにもたれかかって寝息を立てている。

 王都の雪景色を堪能すること三十分ほど、いつもの倍以上の時間をかけて車は中央広場に到着した。
 ルーナちゃんの案内でご両親の滞在するホテルの車寄せに魔導車をつける。
 丁度王宮に行っていた貴族達が帰ってくる時間らしく車寄せには何台もの馬車が止まっている。
 順番を待って正面エントランス前まで車を進め、ルーナちゃんを車から降ろしたときそれは起こった。

「今頃のこのこやって来おってこの馬鹿娘が!」

 わたし達の前に停まった馬車から降りた紳士がルーナちゃんを認めると早足に近付いてきていきなりルーナちゃんの頭に拳骨を落としたの。
 頭を抱えて涙目のルーナちゃんに、がっしりした体格の紳士が怒りを露わにして言う。

「あれほど王宮に年始の挨拶に行くまでにはホテルに来るようにと言っておいただろう。
 二年も続けて俺の言い付けを破るなんてまったく何を考えているのだ。」

 ええっ…、ルーナちゃん大丈夫って言ってたよね…。
 ルーナちゃんの父親らしき紳士のお小言はまだ続く。

「おまえがいなかったせいで俺はこの時間まで貴族連中のお茶会につき合わされたんだぞ。
 気の使いすぎで疲れてしまったぞ、王都の貴族連中はすぐに群れたがるから困るんだ。
 おまえがいれば子供を口実に断って帰ることが出来たのに。」
 
 怒っている理由が意外としょうもないことだった。
 貴族同士の付き合いが疲れるからだなんて、すっぽかしたルーナちゃんと同じじゃない。
 やっぱり親子だ、血は争えないね…。

 わたしとミーナちゃんが半ば呆れ顔で二人を見ているとわたし達の視線に気付いた紳士がこちらに向かって言った。

「これはお恥ずかしいところをお見せした。
 私はルーナの父のクラフトです、今日はルーナを送って頂いたようでお世話になりました。
 よろしかったらお礼にお茶でも一服いかがですかな。」

 わたし達はクラフトさんに自己紹介をした後、これ以上雪が降ると帰宅が難しくなるのでとお誘いを丁重にお断りして退散することにした。

「ターニャちゃん、ミーナちゃん、またねー。
 今日は楽しかったよ、ごちそうさまー。」

 ルーナちゃんが能天気に手を振っている、『またねー』じゃないでしょう、クラフトさんまだ怒っているよ…。


    **********


「ここまで来たのですから精霊神殿に寄って行きませんか?
 アクアさんやマリアさんに新年のご挨拶がしたいです。」

 ミーナちゃんの提案もあってわたし達は精霊神殿に向かうことにした。
 中央広場は疎らではあるがそれなりに人影があり、商店も開いていた。

「さすが王都ですね。この雪の中でも人が歩いているし、お店も開いてるんですね。
 しかも今日は新年を迎えたばかりですよ。ノイエシュタットの商店は年始の三日間は休みです。」

 中央広場の様子にミーナちゃんが感心している間に精霊神殿に着いた。

 神殿内に入るといつも通り水の精霊アクアさんが迎えてくれた。

(愛し子達よ、久しいな息災にしておったか?)
(はい、アクア様、元気に過ごしています。今日は新年の挨拶に来ました。)

 ミーナちゃんの返答に続けてわたしも言う。

(アクアさん、今年もよろしくお願いします。)

(そうか、そうか、こちらこそ、今年もよろしく。)

 アクアさんによるといつもの神官さんは新年の参拝に来た方の案内をしているという。
 わたし達が精霊神殿の前で神殿の慈善活動として臨時診療所をするようになってから、精霊神殿に参拝する人が増えているそうだ。アクアさんもこころなしか嬉しそうだ。

 わたし達はマリアさんの住まいする精霊神殿の奥に入り、マリアさんに新年の挨拶をする。

「マリアさん、王都の様子はいかがですか?風邪を引いた患者さんは増えていませんか?
 もし、大変そうであれば声をかけてください。すぐに手伝いに来ますので。」

 新年の挨拶を交わした後でミーナちゃんがマリアさんに言った。

「ええ、お気遣い有り難う。今のところは患者がそんなに増えている様子はないわ。
 ミルト様からも言われているし、もし大変そうであればお手伝いをお願いするわ。
 ミルト様に言えばあなた達に連絡を取ってくださるのでしょう。」

 さすがに新年早々やって来る患者もなく、マリアさんも今日はお休みだそうだ。

 精霊神殿を出たわたし達は再びゆっくりと王都の雪景色を堪能しながら寮へ戻った。
 降雪もこの程度なら苦にならないのにね。
 
 
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