精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第8章 夏休み明け

第209話 事情を聞く ④

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 ヴィクトーリアさんを前にして黙ってしまったシャッテンがボソリと言った。

「なあ、小娘よ、プッペの兄貴の捕縛にどうせおまえが絡んでいるんだろ。
 なんで、プッペの兄貴があの森に拠点を築いたのがわかったんだ。
 魔晶石を外に流すようになってまだ三ヶ月も経っていないんだぜいくらなんでも早すぎるだろう。」

 そんなの律儀に種明かしする馬鹿がいると思うかな、実際ここにいるんだけど。
 わたしは口惜しがるシャッテンの顔が見たくてあえて話すことにした、本当は怒りに任せて何か漏らしてくれるといいなと思ったんているんだけどね。

「おじさん、ギリッグって名前に覚えはある?」

「知っているも何もギリッグさんが始めたことを王国でもやれって上から命じられて来たのがプッペの兄貴だ、知らないわけないだろう。」

「やっぱりそうなんだ。
 わたしは、ここにいるミルトさんからこの国で魔晶石が不正に流通していることを知らされていたの。それと、ノイエシュタットの街でヴェストエンデに集まるゴロツキ共の噂を聞いたんだよ。
 それから、帝国の辺境へ行ったらギリッグがスラムの若者を瘴気の森に入れて魔獣狩りさせているじゃない。
 ギリッグはスラムの若者を使い捨ての消耗品のように酷い扱いをしていたけど帝国では違法なことじゃないと聞いてわたしは腹を立てていたんだ。
 そのとき、魔獣を狩っている若者を見て、魔晶石の不正流通とヴェストエンデに集まるゴロツキの話を思い出したの。そして、もしかしたら、王国でも同じことをしているんじゃないかと思ったんだ。
 帝国では止めさせられないけど、王国では止めさせる事が出来るかもと思って帰ってきたんだ。
 で、帰国してみたら案の定プッペが瘴気の森に施設を作っていたの。」

「ちょっと待て、それは明らかにおかしいだろう。魔晶石を市場に流すようになってまだ三ヶ月だ、人の噂になったのは精々二ヶ月前かそこらだぜ。
 それからギリッグさんの施設を見たのなら何でおまえはここにいる?」

「たぶんそこがおじさんの納得のいかないところだと思うよ。
 わたしが、ミルトさんから魔晶石の不正流通の話を聞いたのが五の月の初め、ギリッグの製材所を見たのが五の月の第二週、プッペの施設を発見して摘発したのが五の月の第三週、そして私は関与していないけどプッペの王都の組織を一網打尽にしたのが五の月の最終週のこと。
 ちなみに、おじさんには関係ないけどわたしは五の月の最終週はアデル領でリゾートを楽しんでいたの。王都から三十シュッタトも離れているアデル領でね。
 何が言いたいかわかるよね。わたしは使っている魔導車のおかげで他の人たちとの機動力の差が大きいの。
 わたしは子供だから大人みたいに考えることは出来ないけど、見てきたことを伝えることは出来る。
 普通の人が一月経たないと知りえないことをわたしなら三、四日で伝えることが出来るの。
 後はわたしの話を聞いたミルトさんが迅速に動いてくれたわ、わたしが見て来たことを伝えた三日後にはプッペの施設を発見したもの。
 だから、おじさん達みたいに広域で悪いことをしている人は後手に回っちゃうし、そのことに納得できないのだと思うよ。」


「ちくしょう、辺境で流れていた『白い聖女』の乗る魔導車の噂は本当だったのか。
 荒唐無稽な話だったので、噂が広がるうちに大げさになったもんだとばかり思っていた。」

 どんな噂が流れていたのか知らないけど、普通の人が乗る馬車の十倍から十五倍の速度が出る魔導車だものね。話に聞いただけじゃあ、ホラ話に聞こえても無理はないよね。


     **********


「じゃあ、おじさん、今度はこっちの質問に答えてよ。
 おじさん達は何の目的で王国にやってきたの?」

「何の目的って、俺達は宗教団体だぜ、信者を増やすために決まっているじゃないか。
 それも、出来るだけ権力の中枢に近いものを信者のするのさ。
 そうすれば、政治に影響力を持つことが出来るだろう、甘い汁も吸えるし。
 商会を前面に出しているのは、帝国の政府が『黒の使徒』の布教活動を王国で行うことを禁じているからさ。商会は隠れ蓑だな、まあ、活動資金を稼ぐという実利面もあるんだけどな。」

「国教として保護してくれている帝国がやっちゃだめと言っているのに王国へ出てきたんだ。」

「そりゃあ、出てくるに決まっているだろう、信者が多いほうがお布施がたくさん集まるんだから。
 だいたいこの国が信仰の自由を謳っているのに、保護してくれているはずの帝国が出て行ったらだめというのはおかしな話だぜ。
 帝国はな、十数年前に大陸西部の統一を成し遂げてそれ以上大きくならなくなってしまったんだ。
 帝国と王国の間には兵を進めるのが難しい広大な森があるので、王国と覇権を争うのははなから諦めているからな。
 俺達は帝国にくっついて帝国の拡大と共に信者を増やしてきたんだけど、帝国の拡大が止まって信者が増えなくなった。
 隣に人口の多い大国があって自由に信仰を広めて良いと言っているんだ、手をこまねく必要はないだろう。
 帝国が王国を取り込む気がなくても、俺達が王国を取り込むのは勝手だろ。」

 さっきまでヴィクトーリアさんを気にしてだんまりだったシャッテンがいきなり饒舌に話し出した。
 うん?何かおかしくないか?

 そう思ったときの事だった、いきなりシャッテンが口から血を吐いて倒れた。

「いけない!ターニャちゃん、この男、毒を仕込んでいた。
 お願いこの男を死なせないで、まだ話してもらうことはいっぱいあるの。」

 ミルトさんの叫び声に、わたしは慌てて光のおチビちゃんに毒の浄化をお願いする。
 ついでに、この男の瘴気も全部浄化してしまおうっと。

 眩い浄化の光がシャッテンを包み込み、光が消えた後には静かに眠るシャッテンの姿があった。
 シャッテンの自慢の黒髪はすっかり色がなくなり白髪になっている。もちろん褐色の肌も真っ白だ。

「この男、いきなりベラベラ喋りだしたかと思ったら、口の中に毒を仕込んでいたのね。
 最期だからと思っていいたいことを言った感じかな。
 ターニャちゃん、有り難うね。今この男に死なれる訳にはいかないの。
 もっと情報を引き出さないといけないのでね。」

 ミルトさんはホッとした表情でわたしにお礼を言った。

「ちくしょう、やはり素直に死なせてはくれないか。
 おまけに、魔力が全然感じられない、これが話に聞いていた魔力を奪うと言うやつか。
 この俺に『色なし』として生きていけと言うのか、何て残酷なヤツだ。
 噂どおり、おまえは悪魔だったんだ。」

 いつの間にか目を覚ましたシャッテンがすっかり白くなった自分の手を見ながら呟いている。
 うん、おじさんは今まで自分が蔑んできた『色なし』として生きて、今までの自分の行いを反省したほうが良いと思うよ。
 
     

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