精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

文字の大きさ
上 下
209 / 508
第8章 夏休み明け

第208話 事情を聞く ③

しおりを挟む
 わたし達はシャッテンの話を聞くため牢獄を訪れた。
 強い魔法を使える者を留置する石造りの堅固な牢屋にシャッテンは鉄製の手枷足枷を嵌められて留置されていた。

 わたしが顔を見せるとシャッテンは怒りの表情を強め、

「この悪魔!やはり貴様が俺達の組織の邪魔をしていたんだな!
 何でおまえがのうのうと生きているんだ、あの三人はどうしたんだ!」

とわたしを糾弾した。

 ふむ、おじさん、わたしに殺し屋が差し向けられた事、しかもそれが三人だったという事まで知っているんだ。
 やっぱり、このおじさんは『黒の使徒』の人だね、しかも、あの三人と同じような仕事をしている人じゃないかな。

「おじさん、わたしに殺し屋が送られたことを正確に知っているんだ。
 やっぱり、『黒の使徒』の人でいいのかな?あの三人と面識があるの?」

「ああそうだよ、おまえのせいでもう教団に戻ることは出来ないだろうがな。
 いったいなんなんだよ、おまえは!子供の癖に大人のやることを邪魔しやがって。」

 へーえ、取調べには黙秘していると聞いてたけど、私には隠そうとすらしないんだ。隣でミルトさんが聞いているのに。
 しかも酷い言い草だ、子供だって自分に都合の悪いことは邪魔するよ。殺し屋が来たら撃退するに決まっているじゃない。

「わたし、おじさんに聞きたい事があってここへきたの。
 何でおじさんはナル、アロガンツ伯爵の三男、を使ってわたしを殺そうとしたの。
 伯爵にはナルからわたしの情報を聞いたら一旦帝国へ戻ると言っていたそうだよね。」

「へん、帝国に戻れる訳がないじゃないか。
 王国に足掛かりを築くのにどれだけのお金と時間をかけたと思っているんだ。
 それが全て台無しになったなんていったら俺の首が危ねえよ。
 アロガンツの倅に話を聞きに言ったのは王都にいると言う小娘がおまえに間違いないか確認すためさ。」

「それでなんでナルを使おうと思ったの。」

「俺は王都でちょこまか動いている小娘がおまえだと確認できれば消してしまおうと思っていたんだ。
 教団にとって目障りな存在のおまえを消せばここで時間と金をドブに捨てた失点を挽回できるかと思ってな。
 それで、アロガンツの倅に会ったら、あいつもおまえに恨みを持っているというじゃないか。
 ちょうどいいから利用させてもらったんだ、あいつの利用価値もなくなっちまったし良い捨て駒だと思ったんだよ。
 教団の暗部の中でも腕利きのヤツを三人も送ったのに無事に生き延びたようだから、一筋縄には行かないと思ってな、むしろ同じ子供同士なら警戒も緩むと思ったのさ。
 まさか、あいつの侍女にしてやられるとは思わなかったぜ。」

「そう、おじさんは最初からナルを捨て駒にする気だったの?」

「馬鹿言え!あいつはな俺達が王国で勢力を伸ばす際の御輿になる予定だったんだ。
 あいつはこの国では珍しい黒髪・黒い瞳・褐色の肌と三拍子揃っている貴重な子供だからな。
 お誂え向きに高位貴族で、そのうえ頭が少し足りないときている。
 こんな良い御輿は早々ないぜ、なんていったって御輿は軽いほうが担ぎやすいからな。
 だから、口が上手くて、言い含めるのが上手なやつをあいつの家庭教師に付けたんだ。
 あいつには三年もかけて俺達の思想を刷り込んできたんだ、あいつの自尊心をくすぐりながら毎日同じようなことを聞かせてやりゃ、いくら頭の出来が悪くてもちゃんと染まるんだ。
 しかも、人を威圧するには十分以上の魔法力を持っていた。俺達の操り人形にするには最高の素材だったのさ。
 それが、久し振りに会ってみれば高貴な色を失って平凡な容貌になっているじゃないか、しかも魔法が殆ど使えないと言うし。
 御輿としての価値が大暴落で気が遠くなったぜ、まあこの時点で利用価値は殆どなくなったな。
 でだ、王国に作った俺達の組織はおまえらのせいで壊滅状態だ、あいつを利用する組織の方が無くなっちまったんだからあいつの利用価値はゼロだな。
 だから、捨て駒になった貰ったんだよ。」

 シャッテンは溜まっていた鬱憤を晴らすかのように洗いざらいぶちまけてくれた。
 ミルトさんはわたしの後ろでシャッテンの話を黙って聞いている。

「そう、じゃあ、ザイヒト王子もあなた達の御輿にするつもりで王子の近くにあなた達の仲間を侍らせて刷り込みをしたんだ。言動がナルに通じるところがあるんだよね。」

「貴様!ザイヒト殿下に手を出したら絶対に許さないぞ。
 ザイヒト殿下は俺達の教団の次代の旗頭なんだ、何者にも代え難い存在なのだぞ。
 それこそ、幼少の時から俺達の教団の人間を送り込んで大切に育ててきたんだ。」

 こいつ自棄になっているのか、それともわたしが子供だからかやけに口が軽いな…。
 そう思っていると、ミルトさんが口を挟んだ。

「だそうですよ、ヴィクトーリア様。」

 すると、牢の鉄格子の向こう物陰から、一人の女性が出てきた。

「あなた方、随分好き勝手やってくれたみたいね。
 隣国まで来て迷惑を掛けて一体どういうつもりなの。
 ザイヒトのことも思っていた通りだわ、なんか考え方が偏っていると思っていたのよ。
 これはよく話を聞かせてもらう必要がありそうね。」

 ヴィクトーリアさんの顔を見たシャッテンはしまったという表情を見せ、

「背信者の皇后はこんなところに隠れていたのか、通りで見つからないはずだ。」

と言った。あれ?ヴィクトーリアさんを預かっていることは周知されていなかったっけ?
 そうか、ハイジさんのところに身を寄せていると思っていたんだね。

 しかし、シャッテンはその後だんまりを決め込んでしまった。
 さずがに、ヴィクトーリアさんの前で色々話すのは差し障りがあるようだ。
 そうだよね、『黒の使徒』に批判的な立場を取るケントニス皇太子に情報が筒抜けになるものね。

しおりを挟む
感想 217

あなたにおすすめの小説

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します

mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。 中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。 私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。 そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。 自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。 目の前に女神が現れて言う。 「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」 そう言われて私は首を傾げる。 「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」 そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。 神は書類を提示させてきて言う。 「これに書いてくれ」と言われて私は書く。 「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。 「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」 私は頷くと神は笑顔で言う。 「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。 ーーーーーーーーー 毎話1500文字程度目安に書きます。 たまに2000文字が出るかもです。

処理中です...