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第8章 夏休み明け
第203話 変なお客さん
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学園祭初日は大盛況だったよ。初日分に予定していた鉢植えは全て売れてしまったし、球根や花のタネの売れ行きも好調だったの。
そしてなによりも、コスモスの迷路は終日お客さんが途切れることが無かったよ。
初日のお客さんが帰って近所の人にでも話したのだろう、口コミに乗って二日目は初日以上のお客さんが来てくれた。
盛況なのは有り難いけど…、お客さんが多いと変な人もいる訳で…。
**********
午前中最後の鉢植えに花を咲かせ終わって一息ついている時のことだった。
「ハンナちゃん凄いのね、怪我の治療だけでなく、花を咲かせることも出来るんだ。」
「本当よね、まるで天使のようだわ、こんな小さいのに。」
「ハンナちゃん、おばさんたち、出店でお菓子買ってきたから後で食べてね。」
わたしの目の前では、ハンナちゃんが、精霊神殿前の臨時診療所で馴染みになったおばさん達に囲まれて、お菓子や果物をもらっていた。
ハンナちゃんがここで鉢植えに花を咲かせて見せていると聞いてやって来たみたい。
相変わらず餌付けされているな…。
そんな微笑ましい光景を眺めていると、いかにも商人という身なりのおじさんが人ごみを掻き分けて姿を見せた。
「ちょっとごめんなさいね。お嬢ちゃん、ハンナちゃんって言うんだっけ。
噂で聞いたよ、ご両親がいないんだってね。まだ小さいのに、可哀想に。
どうだい、おじさんの娘にならないかい。」
ああ、欲に目が眩んだ人ね、こういう人は初めてだ。普段、人前で術を使うのは女性専用の天幕の中だけだからね。
あの診療所に来るご婦人達はみんなハンナちゃんのファンだから害になりそうな人は寄せ付けないものね。
「え、いやだよ。ハンナはターニャおねえちゃんやミーナおねえちゃんと一緒の方が楽しいもの。」
「なんだいそれは、孤児院のお姉ちゃんかな?
孤児院で慎ましい生活しなくても、おじさんのところに来ればうんと贅沢できるんだよ。」
「あんた、何を馬鹿な…。」
「うるさい、俺は今ハンナちゃんと大事な話ををしているんだ。口を挟まないでおくれ。」
おばさんの一人が注意しようとするが、おじさんはそれを聞こうとはしなかった。
うーん、何で人の噂ってこんな中途半端に伝わるのだろう…。ハンナちゃんが普段誰と一緒にいるかは聞いていないんだね。
「おじさん、ぜいたくってどんなこと?
ポルトの海で大きなお船に乗るようなこと?それとも湖畔の別荘で小さなお舟にのるの?」
ハンナちゃんって、本当に船に乗るのが好きだよね、ハンナちゃん基準では一番の贅沢がそれなのか…。
「ポルト?湖畔の別荘?それは流石に無理かな。」
「そうなの?でも、ポルトのおじいちゃんは養女になればいつでもお船に乗せてくれるって言ってたよ。ことわったけど。」
「ポルトのお爺ちゃん?誰だいそれ?」
まあ、普通の人はポルトのお爺ちゃんでポルト公爵だとは思わないよね。
「ポルトのおじいちゃんは、ミルトおばさんのお父さんだよ。」
すると会話を聞いていたおばさんの一人が言った。
「ミルト様のお父様と言ったらポルトの公爵様だっけ。」
「ああぁ?公爵様だって?馬鹿言ってんじゃないぞ、何で孤児が公爵様の養女になんて話になるんだ?」
この人、絶対に不正確な情報に踊らされて損をするタイプの人だよ、情報はもっと正確に掴もうよ。
「あんた、私達と同じ地区の平民街で流行らない雑貨屋をやっている旦那だろう。
ちゃったあ、ハンナちゃんの身なりをよく見たらどうなんだい。
今ハンナちゃんが着ているワンピース一着であんたの稼ぎが何か月分とんでいくと思って。
そんな事もわからないから店が流行らないんだよ。」
「うるせいやい、余計なお世話だっての。
ハンナちゃんと組んでこれから一山当てようって思っているんだから、引っ込んでろ。」
文句を言いつつもおばさんの指摘を受けてまじまじとハンナちゃんを観察するおじさん。
今本音が駄々漏れだったよ…。
おじさんはハッとした表情を見せると、いきなりハンナちゃんのワンピースの裾をまくった。
わたしが慌ててハンナちゃんのもとへ行こうとしたら…。
「何してんだい!この変質者!」
あ、おばさんにどつかれた…。
「こ、このタグは…、王室御用達の…。」
ああ、ワンピースの裾の裏につけられたタグを確認したかったのね。
今ハンナちゃんが着ている服はフローラちゃんから紹介された仕立て屋さんで作ったものだ。
その仕立て屋さん、必ずスカート部分の裾の裏に自分のサインの刺繍を入れた小さなタグを縫い付けてある。品質に絶対の自信があるから出来るんだよね。
そのタグを確認したおじさんは言葉をなくしている。
「馬鹿だね、今頃気付いたのかい。商売人なんだからもっと相手を観察しなよ。
だいたい、街の噂だってもうちょっとよく聞けば、この子の後ろ盾に誰がいるかわかる筈だよ。」
おばさんの指摘に雑貨屋のおじさんは肩を落としている。
ちなみに、昨年の学園祭の打ち上げパーティでミルトさんがハンナちゃんを紹介しているので、王都の貴族や大商人でハンナちゃんにちょっかいを出す愚か者はいない。
商人の情報網は凄いので、目端の利く商人はパーティに出席していなくてもハンナちゃんの情報は把握しているみたい。
まあ、その情報網からもれていた時点で、この商人の程度は知れているということなのだろうね。
そしてなによりも、コスモスの迷路は終日お客さんが途切れることが無かったよ。
初日のお客さんが帰って近所の人にでも話したのだろう、口コミに乗って二日目は初日以上のお客さんが来てくれた。
盛況なのは有り難いけど…、お客さんが多いと変な人もいる訳で…。
**********
午前中最後の鉢植えに花を咲かせ終わって一息ついている時のことだった。
「ハンナちゃん凄いのね、怪我の治療だけでなく、花を咲かせることも出来るんだ。」
「本当よね、まるで天使のようだわ、こんな小さいのに。」
「ハンナちゃん、おばさんたち、出店でお菓子買ってきたから後で食べてね。」
わたしの目の前では、ハンナちゃんが、精霊神殿前の臨時診療所で馴染みになったおばさん達に囲まれて、お菓子や果物をもらっていた。
ハンナちゃんがここで鉢植えに花を咲かせて見せていると聞いてやって来たみたい。
相変わらず餌付けされているな…。
そんな微笑ましい光景を眺めていると、いかにも商人という身なりのおじさんが人ごみを掻き分けて姿を見せた。
「ちょっとごめんなさいね。お嬢ちゃん、ハンナちゃんって言うんだっけ。
噂で聞いたよ、ご両親がいないんだってね。まだ小さいのに、可哀想に。
どうだい、おじさんの娘にならないかい。」
ああ、欲に目が眩んだ人ね、こういう人は初めてだ。普段、人前で術を使うのは女性専用の天幕の中だけだからね。
あの診療所に来るご婦人達はみんなハンナちゃんのファンだから害になりそうな人は寄せ付けないものね。
「え、いやだよ。ハンナはターニャおねえちゃんやミーナおねえちゃんと一緒の方が楽しいもの。」
「なんだいそれは、孤児院のお姉ちゃんかな?
孤児院で慎ましい生活しなくても、おじさんのところに来ればうんと贅沢できるんだよ。」
「あんた、何を馬鹿な…。」
「うるさい、俺は今ハンナちゃんと大事な話ををしているんだ。口を挟まないでおくれ。」
おばさんの一人が注意しようとするが、おじさんはそれを聞こうとはしなかった。
うーん、何で人の噂ってこんな中途半端に伝わるのだろう…。ハンナちゃんが普段誰と一緒にいるかは聞いていないんだね。
「おじさん、ぜいたくってどんなこと?
ポルトの海で大きなお船に乗るようなこと?それとも湖畔の別荘で小さなお舟にのるの?」
ハンナちゃんって、本当に船に乗るのが好きだよね、ハンナちゃん基準では一番の贅沢がそれなのか…。
「ポルト?湖畔の別荘?それは流石に無理かな。」
「そうなの?でも、ポルトのおじいちゃんは養女になればいつでもお船に乗せてくれるって言ってたよ。ことわったけど。」
「ポルトのお爺ちゃん?誰だいそれ?」
まあ、普通の人はポルトのお爺ちゃんでポルト公爵だとは思わないよね。
「ポルトのおじいちゃんは、ミルトおばさんのお父さんだよ。」
すると会話を聞いていたおばさんの一人が言った。
「ミルト様のお父様と言ったらポルトの公爵様だっけ。」
「ああぁ?公爵様だって?馬鹿言ってんじゃないぞ、何で孤児が公爵様の養女になんて話になるんだ?」
この人、絶対に不正確な情報に踊らされて損をするタイプの人だよ、情報はもっと正確に掴もうよ。
「あんた、私達と同じ地区の平民街で流行らない雑貨屋をやっている旦那だろう。
ちゃったあ、ハンナちゃんの身なりをよく見たらどうなんだい。
今ハンナちゃんが着ているワンピース一着であんたの稼ぎが何か月分とんでいくと思って。
そんな事もわからないから店が流行らないんだよ。」
「うるせいやい、余計なお世話だっての。
ハンナちゃんと組んでこれから一山当てようって思っているんだから、引っ込んでろ。」
文句を言いつつもおばさんの指摘を受けてまじまじとハンナちゃんを観察するおじさん。
今本音が駄々漏れだったよ…。
おじさんはハッとした表情を見せると、いきなりハンナちゃんのワンピースの裾をまくった。
わたしが慌ててハンナちゃんのもとへ行こうとしたら…。
「何してんだい!この変質者!」
あ、おばさんにどつかれた…。
「こ、このタグは…、王室御用達の…。」
ああ、ワンピースの裾の裏につけられたタグを確認したかったのね。
今ハンナちゃんが着ている服はフローラちゃんから紹介された仕立て屋さんで作ったものだ。
その仕立て屋さん、必ずスカート部分の裾の裏に自分のサインの刺繍を入れた小さなタグを縫い付けてある。品質に絶対の自信があるから出来るんだよね。
そのタグを確認したおじさんは言葉をなくしている。
「馬鹿だね、今頃気付いたのかい。商売人なんだからもっと相手を観察しなよ。
だいたい、街の噂だってもうちょっとよく聞けば、この子の後ろ盾に誰がいるかわかる筈だよ。」
おばさんの指摘に雑貨屋のおじさんは肩を落としている。
ちなみに、昨年の学園祭の打ち上げパーティでミルトさんがハンナちゃんを紹介しているので、王都の貴族や大商人でハンナちゃんにちょっかいを出す愚か者はいない。
商人の情報網は凄いので、目端の利く商人はパーティに出席していなくてもハンナちゃんの情報は把握しているみたい。
まあ、その情報網からもれていた時点で、この商人の程度は知れているということなのだろうね。
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