精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第8章 夏休み明け

第198話 不機嫌な伯爵 ④

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 このところ悪いことが重なってイラついていたところへ、先日王からの召喚状なるものが届いた。
 召喚状?こんなものを貰うの初めてだ。書面には王の御前に出頭しろとだけあり、日時の指定があった。

 召喚状、正式な場で問い質したい事があって呼び出すときの用いられるが、実際はあまり使われたためしがない。
 こんな大げさなものを送り付けて王は儂に何を聞きたいというのだ。


 召喚に応じて王宮に出向くと会議室に通された。着席したテーブルの向かいには王が座っている、それはまあいい。よくわからないのは他の者達だ。
 王の右隣にはゲヴィッセン子爵、左隣にはミルトが座っている。ミルトの隣には初めて見る中年の女性、その女性に似た子供、先日うちの三男を治療した『色なし』の治癒術師が並んでいた。
 いったいこの顔ぶれは何なのだ。なんでこの席に子供が二人もいるのだ、儂は戸惑いを隠せなかった。

 ゲヴィッセン子爵がいるということは、奴の娘と儂の三男の縁談について聞きたいのだろうか。
 しかし、いくら王家といえども個別の縁談には口は挟めないはずだ。
 困惑する儂のことなど気にした様子もなく王は言った。

「伯爵はプッペという商人を知っておろう、どのような関係なのだ。」 

 肩透かしな質問だった、なんだ王はプッペのことを知りたいのか。いや、プッペが帝国の皇帝を後ろ盾に持つものだと知って、儂に紹介させようと言うのかもしれないぞ。
 ここは、少し儂とプッペのつながりの深さでもアピールしておこうか。

 儂はプッペの素性を説明すると共に非常に懇意にしていると自慢するように答えた。

 すると王は儂がプッペから資金援助を受けていることを知っているようで、その目的を問い質してきた。
 これは、プッペとの仲を取り持って欲しいのではなく、プッペが儂の派閥を支援しているのを知って牽制しているのか。

 それであればと、儂はあたり障りのないように答えた。
 しかし、儂の返答に納得しなかった王は、どうやって情報を得たのか王は儂がプッペから受け取った金額を正確に指摘し、あたかも儂が汚職をしているかのように言う。
 言いがかりも甚だしいと儂は腹が立ったが、相手は一応王である心を鎮めて対応することにする。

 その後も王はプッペについて知っていることを儂に尋ねてきた。いったいこいつは何が知りたいのだ。

 最後に王は、儂がプッペと懇意にしていることと金貨一万枚の資金援助を受けていることを改めて確認してきた。
 儂は何も後ろ暗いことはないので、はっきりと肯定の返事をしたのだ。


 すると、儂の肯定の言葉を待っていたかのように、

「そのプッペですが、魔晶石の不正流通の現行犯で逮捕拘束しました。
 その他にも、幾つかの罪状の現行犯に該当しています。」

 とミルトが言いおった。

 プッペの奴が魔晶石を不正に流通させていた? 聞いてないぞ、そんなこと。
 いや、それよりも現行犯逮捕したといったな。馬鹿かこいつはそんな事をしたら帝国と揉めるぞ。

 儂は帝国と問題になると告げ、即刻プッペを解放するように訴えた。

 すると、今までじっと話を聞いていたミルトの隣にいる中年女性が言ったのだ。

「ええ、プッペという商人の犯罪行為は許し難いことです。
 彼の背後にいると目される商会も非常にきな臭い商会で、この国に迷惑をおかけし大変申し訳なく思っています。
 プッペという商人は、この国の法に基づいて厳しく処罰してください。」 

 この中年女性は帝国の皇后というではないか。そういえば隣に座る子供は四年ほど前に一度だけ見た覚えがある。たしか、帝国から留学してきた第一皇女ということで歓迎会が催された時のことだ。

 と言うことは、この中年女性は紛れもなく帝国の皇后なのか。そして皇后がプッペをこの国で厳罰に処せと言ってしまいおった。これでは儂の立場がないではないか。


 そこで、王はプッペのことは今日儂が召喚されたことの本題ではないといい、ミルトに議題の説明をするように指示した。

 ミルトは娘のフローラ王女の側仕えにゲヴィッセン子爵の一人娘を内定したと言った。そして、その娘に儂の三男との縁談が持ち上がっていることを説明した。

 謀られた!儂はここに来て何故王が儂とプッペとの関係に拘ったのかやっと理解した。
 王族の側に仕えるものの縁談を進めるには王の許可が要る。王族の側に筋の悪い者を近づけない為だ。
 いかん、このまま話を進ませるわけには行かない、一旦話を切らんと。

 儂が「少しおまち…」と言ったところで、それを遮るように王は裁定を下しおった。

 王は大罪を犯した者と懇意にしている者の子息と王族の側仕えの縁談を許す訳にはいかないと言った。そして、今回流れた縁談を後になって再度持ちかけることも許さないと明言されてしまった。

 しかも、ゲヴィッセン子爵は以後儂の誘いには乗らないと宣誓までしてしまった。
 これでは、今回の縁談は諦めてほとぼりが冷めたところで新たな縁談として持ちかけるということが出来ないではないか。

 この用意周到な手口、これもミルトの仕業に違いない。儂がプッペの釈放を訴えた時の為に帝国の皇后をこの場に臨席させるとか、いかにもミルトが考えそうなことだ。帝国の第一皇女を臨席させたのは、儂が中年女性を帝国の皇后だと信じなかったときに証言させるつもりだったに違いない。
 まてよ、じゃあ、一番隅に座っている『色なし』の子供は何のためにいるんだ?


    **********


 儂がミルトに対する怒りを募らせていると、プッペの使いの者が金貨千枚を携えてのこのこやってきた。
 この男、プッペが多忙な時や不在の時に連絡要員として儂のもとに送られてくる者だ。

 儂はこの男に、

「プッペが魔晶石の不正販売で捕まったそうではないか。おかげでこちらが進めてきた計画が台無しになったぞ。」

と八つ当たり気味に言った。

 すると男は、

「プッペ支配人が捕まった?何をご冗談を、私は一月前にヴェストエンデにいるプッペ支配人から直接このお金を手渡され、一日の休みもなくここまで来たのですよ。
 いったい、いつ支配人が捕まったと言うのですか?」

と儂の苦言を笑い飛ばしおった。
 
 確かにこの男の言うことが本当であれば一月前にはプッペは無事なようだ。ヴェストエンデから王都までどう急いでも一月はかかるはずだ。では、いつプッペが捕まったと言うのだ?
 使いの男は儂に金を手渡すと、王都の事務所に行くといって去っていった。

 それから、半日ほど立ったその日の夜のこと、さっきの男が血相を変えて飛び込んできた。

「伯爵様、大変だ!
 うちの商会が閉鎖されている、出入り口の前を騎士が固めていて近寄れねえ。
 仕方がないので配下の商会へ回った見たんだが、全て閉鎖されていた。
 なんとか、使用人の幾人かを見つけて話を聞いたんだが、約一週間ほど前に一斉に摘発されたそうだ。幹部は全員拘束されていて、使用人はその場で事務所から締め出されたらしい。
 全ての場所を同時に踏み込まれたようで、連絡を取り合って逃げることが出来なかったようだ。
 いったい何なんだ、魔晶石をヤミで流通させ始めてまだ二ヵ月しか経っていないんだぜ。
 どうして、こんな早く嗅ぎつけられたんだ。」

 男が言うには、魔晶石は足が付き難いように幾つかの小さな商会を通じて流していたようだが、それが全て摘発されていたようだ。
 そして、儂は男の言葉に愕然とした。儂の派閥に属する貴族への資金援助はそれらの傘下の商会を通して行っていたそうだ。プッペの商会から直接資金を受け取っていたのは儂だけだったらしい。資金の出所を分散させて足が付き難いようにしていたそうだ。

 それで男が言うには、プッペの商会は傘下の商会も含めて全て、この国の官憲の管理の下に置かれてしまい全く機能していないそうだ。
 何ということだ、それでは今後の資金援助が期待できないと言うことではないか。

「伯爵様、先ほどは疑って申し訳ございませんでした。
 王都の事務所の状況を見るに、伯爵様のおっしゃるとおりプッペ支配人は捕縛されているのかもしれません。
 しかし、それが不思議なんです。プッペ支配人が捕縛されたとなると私と別れた後のことになります。
 王都の事務所の一斉摘発が約一週間前のようですので、プッペ支配人が捕縛されてから王都に商会の細かい情報が届くまでのことが最大三週間くらいの間に起こっている事になります。
 プッペ支配人がいたのは実は瘴気の森のすぐ近くで、ヴェストエンデから更に離れたところなのです。どう考えても時間的に難しいのです。」

 うん?そういえばミルトが娘の夏休みを利用してノイエシュタットへ行って来たと王宮の噂で聞いたな。そんな馬鹿なと思っていたが、それが可能な魔導車があるとすれば…。

「おい、もしかして、儂らが考えているより相当速い魔導車があるのかもしれないぞ。」

「いやだな、『白い聖女』の魔導車の噂じゃないんですから、そんなの有る訳ないですよ。」

 何だ『白い聖女』ってのは?

 儂が尋ねると昨年の夏に帝国に現れた『色なし』の女の子供二人組の噂らしい。
 そいつらは、餓えに苦しむ帝国辺境の民に食料を分け与え、病気や怪我に苦しむ辺境の民を癒し、更に辺境に農地を作ったという。
 その慈愛に満ちた行いと『色なし』にも関わらず奇跡のような魔法を使うことから『白い聖女』と呼ばれるようになったらしい。
 まあ、所詮は噂に過ぎませんけどと男は言った。

 その『白い聖女』がもの凄い速さの魔導車に乗り、帝国各地に施しをして歩いたと噂されているらしい。

 『色なし』、『奇跡のような魔法』、『凄い魔導車』、どこかで聞いた様な気がする…。

 そうだ、一年半前、三男が野盗に捕らわれたとき救ってくれた子供の話だ。
 リタが言っていた、凄く立派な魔導車を三台も連ねていたと。
 凄く早くて、牽引されていた馬車がもの凄く揺れて困ったと。

 あの娘、『色なし』の分際で儂に『奇跡のような魔法』を使って見せた。

 あの子供が全ての元凶か!
 何故あの時、あの子供が王宮のあの席に座っていたのか、プッペの捕縛に一役買っているのだろう。
 儂がプッペの件で何かゴネたらミルトはあの子供に証言させるつもりだったのだ。

 思い出してみるとあの『色なし』の子供、色々な場面でミルトの側にいた気がする。
 子供だと思って油断していた…。
 
 



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