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第7章 二度目の夏休み、再び帝国へ
第179話 怪我をした女の子 ①
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お昼ご飯も食べたし、旅の思い出になる物も買った、お店も十分に見たことだしそろそろ別荘に帰ろうかということになって駐車場の方へ向かっていたときのことなの。
その時、ヒヒーンという馬の嘶きと共に何かがぶつかるような大きな音が聞こえた。
何事かと音が聞こえた方に目を向けると、車道に馬車が今にも横転しそうな形で停まってたの。
「馬車の前輪の車軸が折れたようですね。
片側の前輪が外れてしまっています。
速度が出ていなかったおかげか前輪が外れた方の車体が上手い具合に接地して横転は免れたようですね。」
わたしの後ろに控えていたフェイさんが説明してくれた。
ああ、それで車体が前のめりになって斜めに傾いでいるんだ。さっきの大きな音は車体が地面にぶつかった音だったんだね。
停まった馬車の周囲には何事かと思ったのだろう人が集まり始めているよ。
周囲の人の目が集まる中、侍女らしき服装の女の人がハンナちゃんくらいの小さな子供を抱えて馬車から降りてきたの。
「お嬢様、しっかりしてください。お嬢様、お嬢様…。」
侍女はそう言いながら、抱かかえた女の子を揺すっている。
抱かかえられた女の子はぐったりと脱力しており、気を失っているようだ。
あ、それは良くない…。そう思い女の子のもとへ向かおうとしたら…。
「おねえちゃん、そんなふうにゆすっちゃだめだよ。その子死んじゃうよ。
頭を強くぶつけたでしょう?頭の中で血が出ているって。
そういう時はゆすったらダメなんだって、静かに横にしておかないと。」
いつの間にかわたしの横からいなくなっていたハンナちゃんが、侍女に向かって言った。
あ、おチビちゃん達から聞いたんだね。
「えっ、なにを…?」
ハンナちゃんから注意された侍女は困惑しているようだ。自分が抱きかかえている子と同じ年頃の子に注意されても戸惑うよね、普通は。
わたしは、フローラちゃん、ミーナちゃん、フェイさんと一緒にハンナちゃんの傍まで出て行った。
「大丈夫です、その子に指示に従ってください。」
フローラちゃんが侍女に声をかけた。
「あ、フローラ姫だ!」
「姫様が、こんなところに…。」
周囲にいるフローラちゃんに見覚えのある貴族から声が上がった。
それが、目の前の侍女の耳にも入ったのだろう。
「姫様?」
と侍女が戸惑いの表情のまま呟いた。
「はい、フローラです。今はその子の手当てを急がないといけませんね。
ハンナちゃん、出来ますか?
無理ならば、私かターニャちゃんが治しますけれど?」
フローラちゃんはハンナちゃんに出来るかどうか尋ねた。
うん?いつもならわたしに振るところなのに、どうしてだろう?
「うん、ハンナ、できると思う、やってみるね。
小人さん、力を貸してね。」
そういうとハンナちゃんは指先にマナを集めると水のおチビちゃん達に、横たわる女の子に『治癒』を施すようにお願いする。
ハンナちゃんも、女の子の怪我が酷いことを分っているようでかなりのマナを放出しているようだ。
女の子の体をほのかな青い光が包み込み、それが体に吸い込まれるように消えていく。
かすかに目を開いた女の子が、女の子を覗き込んでいるハンナちゃんを目にしたようだ。
「…天使さま?…。」
そう呟くと再び目を閉じた。
顔色は良いし、呼吸は安定している、なにより安らいだ表情をしている。
気を失ったのではなく、スヤスヤと寝入ってしまったようだ。
ハンナちゃんの治療が上手くいったのかを気にするフローラちゃんや侍女に向けて、フェイさんが言った。
「もう心配要りませんよ、ちゃんと治癒できています。
この子は眠っているだけですので、じきに目を覚ますでしょう。」
フェイさんの言葉に侍女は安堵の表情を浮かべた、こういう時は大人の言葉が安心できるよね。
わたしはこっそりとフローラちゃんに尋ねた。
「どうして、ハンナちゃんに治療させたの?
かなりの重症のようだったし、いつもならわたしがやるところだよね?」
「ああ、それはね、ハンナちゃんが珍しく自分から出て行ったでしょう。
あの子とお友達になりたいのかと思いまして。
馬車の紋章を見ると筋の悪い家ではないので、ハンナちゃんの友達にどうかと思って。
ハンナちゃんが治療すれば友達になるきっかけになるでしょう。」
どうも、治療をした女の子はフローラちゃんが知っている家の子供みたい。
ハンナちゃんに年の近い友達がいたほうがいいのでは思ってハンナちゃんにさせてみたようだ。
もし無理なら、フローラちゃんが治療しても良いと思っていたようだね。
でも、貴族の友達ってハンナちゃんは喜ぶかな?
**********
侍女に抱きかかえられたまま眠る女の子を見ていたフローラちゃんが言った。
「いつまでも、このようなところで寝かしておくわけにも参りません。
それに、一応目を覚ますまではちゃんと治癒できたかが心配ですので私達の目の届く所に居た方が良いでしょう。
差し支えなければ、私の別荘が近くにありますのでそこでこの子を休ませませんか。」
フローラちゃんの提案に侍女は戸惑っていたが、王族からの誘いを無碍に出来るわけがない。
結局、その子はわたし達の魔導車に乗せて別荘に連れてくることになった。
その時、ヒヒーンという馬の嘶きと共に何かがぶつかるような大きな音が聞こえた。
何事かと音が聞こえた方に目を向けると、車道に馬車が今にも横転しそうな形で停まってたの。
「馬車の前輪の車軸が折れたようですね。
片側の前輪が外れてしまっています。
速度が出ていなかったおかげか前輪が外れた方の車体が上手い具合に接地して横転は免れたようですね。」
わたしの後ろに控えていたフェイさんが説明してくれた。
ああ、それで車体が前のめりになって斜めに傾いでいるんだ。さっきの大きな音は車体が地面にぶつかった音だったんだね。
停まった馬車の周囲には何事かと思ったのだろう人が集まり始めているよ。
周囲の人の目が集まる中、侍女らしき服装の女の人がハンナちゃんくらいの小さな子供を抱えて馬車から降りてきたの。
「お嬢様、しっかりしてください。お嬢様、お嬢様…。」
侍女はそう言いながら、抱かかえた女の子を揺すっている。
抱かかえられた女の子はぐったりと脱力しており、気を失っているようだ。
あ、それは良くない…。そう思い女の子のもとへ向かおうとしたら…。
「おねえちゃん、そんなふうにゆすっちゃだめだよ。その子死んじゃうよ。
頭を強くぶつけたでしょう?頭の中で血が出ているって。
そういう時はゆすったらダメなんだって、静かに横にしておかないと。」
いつの間にかわたしの横からいなくなっていたハンナちゃんが、侍女に向かって言った。
あ、おチビちゃん達から聞いたんだね。
「えっ、なにを…?」
ハンナちゃんから注意された侍女は困惑しているようだ。自分が抱きかかえている子と同じ年頃の子に注意されても戸惑うよね、普通は。
わたしは、フローラちゃん、ミーナちゃん、フェイさんと一緒にハンナちゃんの傍まで出て行った。
「大丈夫です、その子に指示に従ってください。」
フローラちゃんが侍女に声をかけた。
「あ、フローラ姫だ!」
「姫様が、こんなところに…。」
周囲にいるフローラちゃんに見覚えのある貴族から声が上がった。
それが、目の前の侍女の耳にも入ったのだろう。
「姫様?」
と侍女が戸惑いの表情のまま呟いた。
「はい、フローラです。今はその子の手当てを急がないといけませんね。
ハンナちゃん、出来ますか?
無理ならば、私かターニャちゃんが治しますけれど?」
フローラちゃんはハンナちゃんに出来るかどうか尋ねた。
うん?いつもならわたしに振るところなのに、どうしてだろう?
「うん、ハンナ、できると思う、やってみるね。
小人さん、力を貸してね。」
そういうとハンナちゃんは指先にマナを集めると水のおチビちゃん達に、横たわる女の子に『治癒』を施すようにお願いする。
ハンナちゃんも、女の子の怪我が酷いことを分っているようでかなりのマナを放出しているようだ。
女の子の体をほのかな青い光が包み込み、それが体に吸い込まれるように消えていく。
かすかに目を開いた女の子が、女の子を覗き込んでいるハンナちゃんを目にしたようだ。
「…天使さま?…。」
そう呟くと再び目を閉じた。
顔色は良いし、呼吸は安定している、なにより安らいだ表情をしている。
気を失ったのではなく、スヤスヤと寝入ってしまったようだ。
ハンナちゃんの治療が上手くいったのかを気にするフローラちゃんや侍女に向けて、フェイさんが言った。
「もう心配要りませんよ、ちゃんと治癒できています。
この子は眠っているだけですので、じきに目を覚ますでしょう。」
フェイさんの言葉に侍女は安堵の表情を浮かべた、こういう時は大人の言葉が安心できるよね。
わたしはこっそりとフローラちゃんに尋ねた。
「どうして、ハンナちゃんに治療させたの?
かなりの重症のようだったし、いつもならわたしがやるところだよね?」
「ああ、それはね、ハンナちゃんが珍しく自分から出て行ったでしょう。
あの子とお友達になりたいのかと思いまして。
馬車の紋章を見ると筋の悪い家ではないので、ハンナちゃんの友達にどうかと思って。
ハンナちゃんが治療すれば友達になるきっかけになるでしょう。」
どうも、治療をした女の子はフローラちゃんが知っている家の子供みたい。
ハンナちゃんに年の近い友達がいたほうがいいのでは思ってハンナちゃんにさせてみたようだ。
もし無理なら、フローラちゃんが治療しても良いと思っていたようだね。
でも、貴族の友達ってハンナちゃんは喜ぶかな?
**********
侍女に抱きかかえられたまま眠る女の子を見ていたフローラちゃんが言った。
「いつまでも、このようなところで寝かしておくわけにも参りません。
それに、一応目を覚ますまではちゃんと治癒できたかが心配ですので私達の目の届く所に居た方が良いでしょう。
差し支えなければ、私の別荘が近くにありますのでそこでこの子を休ませませんか。」
フローラちゃんの提案に侍女は戸惑っていたが、王族からの誘いを無碍に出来るわけがない。
結局、その子はわたし達の魔導車に乗せて別荘に連れてくることになった。
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