157 / 508
第7章 二度目の夏休み、再び帝国へ
第156話 王国へ帰る
しおりを挟むギリッグ支配人の気になる呟きのことをハイジさんに伝えるが、
「独り言のことを追求してもそんな事は言っていないと惚けられておしまいな気がしますね。
その件についてもお母様の耳に入れておきましょう。」
とハイジさんは言う。これ以上はギリッグ支配人から話を聞くのは難しいと考えているみたい。
少しでも早くヴィクトーリアさんと相談したいと言うハイジさんの希望も有り、早々にこの村を立ち去ることにした。
みんなで相談して、ハンナちゃんが帰り道に必ず寄ると約束していたロッテちゃんの村に少し立ち寄る以外はどこの村にも寄らないで、ノイエシュタットまで最短で帰ることになった 。
ロッテちゃんの村では、ハンナちゃんがロッテちゃんと別れを惜しんでいる間に、村長さんに製材所の村で見たことを伝えた。
製材所の村から出稼ぎの誘いがあるかもしれないが、瘴気中毒に罹る恐れがあるので出来れば断ったほうが良いと言っておいた。
村長さんは、わたし達の説明を黙って聞いていたが、最後まで聞き終わると言った。
「聖女様の仰せの通りにいたします。
村の者には出稼ぎの誘いがあっても絶対に乗らないようにきつく言い聞かせておきます。」
何度も言うけどわたしは『聖女』じゃないから…。
それにわたしは出稼ぎに行くなと強制している訳じゃないよ。
できればわたしに言われたからではなく自主的に判断して欲しいな、わたしが命じたみたいになると製材所からわたしが恨まれちゃうよ。
ロッテちゃんがいるから贔屓する訳ではないが、予定を大幅に短縮したために余ってしまった保存食や種苗をこの村に進呈すことにした。
ますます『聖女』と崇めれらそうな気がするけど、少しでも有効に使ったほうが良いものね。
「おかげさまで次の冬も食べ物に困ることは避けられそうです。」
と村長さんが喜んでいた。
ハンナちゃんがロッテちゃんとのお別れを済ませたのを見計らって、わたし達は帝国辺境の村から旅立った。
**********
帝国辺境を出て五日目の夕方、わたし達はこれまでで最短の時間でノイエシュタットに辿り着いた。
わたし達はそのまま侯爵邸に向かいミルトさんと合流することにした。
侯爵邸を訪れるとスムーズにミルトさんに取り次いでもらえ、すぐさま応接に通された。
「まあ、ターニャちゃんたら、早いお帰りで。まだ二週間しかたっていませんよ。向こうで何かあったのかしら?」
ほどなくしてフローラちゃんを伴いやってきたミルトさんがわずかに驚きを込めて言った。
精霊三人娘が一緒にいるのは言わずもがなだ。
わたし達は帝国辺境で見聞きしたこと、特に製材所のある村のことを詳しくミルトさんに説明した。
「それで、ヴェストエンデ伯爵領にはもう行ってみましたか?」
「いえ、まだ内偵の者からの報告が届いていませんので行っていませんが…。
それがどうかしましたか?」
わたしの問い掛けに答えたミルトさんがわたしに質問の意図を尋ねてきた。
「その製材所のある村で見た若者達の姿が、この町に遊びに来た隣町の若者の姿に重なって見えたのです。
ミルトさんも当然想定しているでしょうけど、あの柄の悪い連中を使って瘴気の森で魔晶石を採取しているのだと思います。
ただ、本当にそれだけなんでしょうか?
魔晶石を横流しして領地の裏収入にするのなら、領兵をこっそり動かしたほうが目立たない気がするのです。
柄の悪い連中をたくさん集めたら目立つし噂になりますよね。
そこに不正な魔晶石が流通したら子供のわたしでも柄の悪い連中が魔晶石を採取していると思いますよ。」
「まさか、ターニャちゃんはヴェストエンデ伯爵領でも瘴気の森から木材を伐り出していると言うの?」
「それが気になったから当初の予定を切り上げてこんなに早く帰ってきたのです。
瘴気の森に近いどこかにベースとしている場所があると思うのです。
考えてみてください、いくら隠して持ち込んだとしても若者が魔晶石をヴェストエンデに持ち込んだら、国の担当者が気付くと思いませんか。不正流通が発覚するほどの量なのですから。
もちろん国の担当者がグルなら話は違いますが。
どこかに魔晶石を集積するベースがあって、ヴェストエンデには持ち込まれずに魔晶石が流れているのではないですか。
その場合、採取しているのが魔晶石だけなのかということなのです。」
わたしの言葉にミルトさんは少し考えてから言った。
「でも、我が国の中で瘴気の森の木を材料にした調度品が流通しているとは聞いていないですよ。
それに、ヴェストエンデ伯爵領できこりを集めていると言う噂も聞いていません。」
「はい、わたしの考えすぎならばそれでいいんです。
ただ、どうしても気になるので一度行って確認したいと思ったので話したのです。」
帝国で瘴気の森産の木材を扱っているのは、皇帝や貴族の息のかかった商会だった。
もしも、あの商会が王国にまで進出してきているとすれば、王族の耳に届かないように、こっそりと貴族の中だけで流通させるのは簡単に出来ると思う。
それに、まだ取り掛かったばかりで流通に至っていないということもあるかもしれない。
ヴェストエンデ領内の瘴気の森近くなら、数日あれば一通り回れると思う。
もやもやっとした気分のままいるよりも、一度自分の目で見て確認したほうが気分が晴れると思うんだ。
だから、わたしはミルトさんに言った。
「わたし達は明日にでもヴェストエンデに行ってみようと思っています。
ミルトさん達はどうしますか?」
5
お気に入りに追加
2,295
あなたにおすすめの小説
異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
あの味噌汁の温かさ、焼き魚の香り、醤油を使った味付け——異世界で故郷の味をもとめてつきすすむ!
ねむたん
ファンタジー
私は砂漠の町で家族と一緒に暮らしていた。そのうち前世のある記憶が蘇る。あの日本の味。温かい味噌汁、焼き魚、醤油で整えた料理——すべてが懐かしくて、恋しくてたまらなかった。
私はその気持ちを家族に打ち明けた。前世の記憶を持っていること、そして何より、あの日本の食文化が恋しいことを。家族は私の決意を理解し、旅立ちを応援してくれた。私は幼馴染のカリムと共に、異国の地で新しい食材や文化を探しに行くことに。
俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~
シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。
目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。
『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。
カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。
ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。
ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる