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第7章 二度目の夏休み、再び帝国へ

第156話 王国へ帰る

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 ギリッグ支配人の気になる呟きのことをハイジさんに伝えるが、

「独り言のことを追求してもそんな事は言っていないと惚けられておしまいな気がしますね。
 その件についてもお母様の耳に入れておきましょう。」

とハイジさんは言う。これ以上はギリッグ支配人から話を聞くのは難しいと考えているみたい。

 少しでも早くヴィクトーリアさんと相談したいと言うハイジさんの希望も有り、早々にこの村を立ち去ることにした。

 みんなで相談して、ハンナちゃんが帰り道に必ず寄ると約束していたロッテちゃんの村に少し立ち寄る以外はどこの村にも寄らないで、ノイエシュタットまで最短で帰ることになった 。

 ロッテちゃんの村では、ハンナちゃんがロッテちゃんと別れを惜しんでいる間に、村長さんに製材所の村で見たことを伝えた。
 製材所の村から出稼ぎの誘いがあるかもしれないが、瘴気中毒に罹る恐れがあるので出来れば断ったほうが良いと言っておいた。

 村長さんは、わたし達の説明を黙って聞いていたが、最後まで聞き終わると言った。

「聖女様の仰せの通りにいたします。
 村の者には出稼ぎの誘いがあっても絶対に乗らないようにきつく言い聞かせておきます。」

 何度も言うけどわたしは『聖女』じゃないから…。

 それにわたしは出稼ぎに行くなと強制している訳じゃないよ。
 できればわたしに言われたからではなく自主的に判断して欲しいな、わたしが命じたみたいになると製材所からわたしが恨まれちゃうよ。

 ロッテちゃんがいるから贔屓する訳ではないが、予定を大幅に短縮したために余ってしまった保存食や種苗をこの村に進呈すことにした。
 ますます『聖女』と崇めれらそうな気がするけど、少しでも有効に使ったほうが良いものね。

「おかげさまで次の冬も食べ物に困ることは避けられそうです。」
 
 と村長さんが喜んでいた。

 ハンナちゃんがロッテちゃんとのお別れを済ませたのを見計らって、わたし達は帝国辺境の村から旅立った。


     **********


 帝国辺境を出て五日目の夕方、わたし達はこれまでで最短の時間でノイエシュタットに辿り着いた。
 わたし達はそのまま侯爵邸に向かいミルトさんと合流することにした。
 侯爵邸を訪れるとスムーズにミルトさんに取り次いでもらえ、すぐさま応接に通された。

「まあ、ターニャちゃんたら、早いお帰りで。まだ二週間しかたっていませんよ。向こうで何かあったのかしら?」

 ほどなくしてフローラちゃんを伴いやってきたミルトさんがわずかに驚きを込めて言った。
 精霊三人娘が一緒にいるのは言わずもがなだ。
 
 わたし達は帝国辺境で見聞きしたこと、特に製材所のある村のことを詳しくミルトさんに説明した。

「それで、ヴェストエンデ伯爵領にはもう行ってみましたか?」

「いえ、まだ内偵の者からの報告が届いていませんので行っていませんが…。
 それがどうかしましたか?」

 わたしの問い掛けに答えたミルトさんがわたしに質問の意図を尋ねてきた。

「その製材所のある村で見た若者達の姿が、この町に遊びに来た隣町の若者の姿に重なって見えたのです。
 ミルトさんも当然想定しているでしょうけど、あの柄の悪い連中を使って瘴気の森で魔晶石を採取しているのだと思います。
 ただ、本当にそれだけなんでしょうか?
 魔晶石を横流しして領地の裏収入にするのなら、領兵をこっそり動かしたほうが目立たない気がするのです。
 柄の悪い連中をたくさん集めたら目立つし噂になりますよね。
 そこに不正な魔晶石が流通したら子供のわたしでも柄の悪い連中が魔晶石を採取していると思いますよ。」

「まさか、ターニャちゃんはヴェストエンデ伯爵領でも瘴気の森から木材を伐り出していると言うの?」

「それが気になったから当初の予定を切り上げてこんなに早く帰ってきたのです。
 瘴気の森に近いどこかにベースとしている場所があると思うのです。
 考えてみてください、いくら隠して持ち込んだとしても若者が魔晶石をヴェストエンデに持ち込んだら、国の担当者が気付くと思いませんか。不正流通が発覚するほどの量なのですから。
 もちろん国の担当者がグルなら話は違いますが。
 どこかに魔晶石を集積するベースがあって、ヴェストエンデには持ち込まれずに魔晶石が流れているのではないですか。
 その場合、採取しているのが魔晶石だけなのかということなのです。」

 わたしの言葉にミルトさんは少し考えてから言った。

「でも、我が国の中で瘴気の森の木を材料にした調度品が流通しているとは聞いていないですよ。
 それに、ヴェストエンデ伯爵領できこりを集めていると言う噂も聞いていません。」

「はい、わたしの考えすぎならばそれでいいんです。
 ただ、どうしても気になるので一度行って確認したいと思ったので話したのです。」


 帝国で瘴気の森産の木材を扱っているのは、皇帝や貴族の息のかかった商会だった。
 もしも、あの商会が王国にまで進出してきているとすれば、王族の耳に届かないように、こっそりと貴族の中だけで流通させるのは簡単に出来ると思う。
 それに、まだ取り掛かったばかりで流通に至っていないということもあるかもしれない。

 ヴェストエンデ領内の瘴気の森近くなら、数日あれば一通り回れると思う。
 もやもやっとした気分のままいるよりも、一度自分の目で見て確認したほうが気分が晴れると思うんだ。

 だから、わたしはミルトさんに言った。


「わたし達は明日にでもヴェストエンデに行ってみようと思っています。
 ミルトさん達はどうしますか?」






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