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第7章 二度目の夏休み、再び帝国へ

第149話 不自然な村

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「ところで村長さん、この村も瘴気の森に近いのでアインさん達のように瘴気にあたって体を壊す人が出てくるかもしれないよ。
 もし良かったら、この村の人には何の負担もなく瘴気の害を防ぐことができるんだけど。」

「本当にそんな事ができるんですか?」

 できないことは言わないよ…。
 わたしは村長さんに対し男の村のハンスさんにしたのと同じ説明をした。

 今回の旅の一番の目的はこの辺境の瘴気を減らすことだから、機会があればどんどん森を作らせて貰うよ。

 もちろん、村長さんは二つ返事で話に乗ってきた。


 村の外れまで来ると小さなお墓がいくつもあった。
 この村でも昨年の食料不足は酷いもので冬を乗り越えられない人が少なからずいたそうだ。
 それを聞いたハイジさんは辛そうな顔をしていた。
 昨年はこっちには来なかったからね、気の毒なことをしちゃったよ……。

 今年は隣村へ出稼ぎに行って稼いだお金で何とかなるみたいだ。隣村に行けば食べ物を売っている店があるみたいだしね。
 でも食べ物を作れたほうが安心だよね、この村は女手もあるようなので農地も作っておくよ。


 村の西側に農地を作り、村と農地を三方から囲うように西、南、北に森を作る。
 森の厚みは前の二つと同じで、村から西側は精霊の森にさせてもらった。

 ソールさん、シュケーさん、フェイさんの大業に村のみんなはビックリだけど、その様子は割愛で。

 畑は四面とってあり、既に青々としている。葉物野菜、大豆、ソバ、アマ芋、成長促進の効果で程なく収穫できるようになるはず。

 そして、フェイさんの泉、滾々と水が湧き出る泉にご婦人方が感激していたよ。
 やっぱり節約して水を使っていたんだね。

 三つ目の森もできたし、さあ、瘴気の森から木を伐り出しているという村に向けて出発だ。


     **********


「私はシュバーツアポステル商会とかいう商会がどんな業者なのかを知りたいです。
 帝都にある大きな商会なら名前くらい聞いたことがないとおかしいのです。」

 目的の村に向かう魔導車の中、首をかしげながらハイジさんが言う。

「製材所ができたのが昨年だとのことなのでアーデルハイト様が王国に留学されてから大きくなった商会ではございませんか?」

 悩ましげな表情のハイジさんを見かねたミーナちゃんがハイジさんが知らなくても不思議でない例をあげる。

「そうかも知れないですね。ここであれこれ考えても仕方ないですわね。」

 そう、行ってみなければわからないよ、その商会も、商会が何を考えているかも…。


 さっきの村から魔導車で走ること約三十分、目的の村が見えてきた。結構離れていたね、荷馬車だと半日以上かかりそうだよ。

 確かに立派な村だった。魔獣避けのため村を囲うように空堀と土塁が築かれている。
 頑丈な門もある、こんな村初めて見たよ。アインさんの言う通り町と呼んでいいくらいに大きいね。


 魔導車のまま門を潜ろうとすると門番の衛兵に止められた、珍しいことに門番までいるんだ。

「どちら様でしょうか?この村にどのような御用向きで?」

 ソールさんが門番に答えようとしたとき、

「帝国の第一皇女アーデルハイトです。
 旅の途中で少し休ませてもらおうかと立ち寄りましたの。入ってもよろしいですよね。」

とハイジさんが手にした何かを門番に示しながら言った。

 ハイジさんに示されたものを目にした門番はその場で跪いて答えた。

「これは大変失礼いたしました。もちろんお入りいただいて結構でございます。
 ただ、なにぶん辺境の地ゆえ、皇女殿下にお泊りいただくような宿屋はございませんがよろしいでしょうか。」

「かまいません、魔導車の中に宿泊できる設備は整っています。
 魔獣に襲われることがない安全な場所に魔導車を停められるだけで有り難いです。」

そう言って、ハイジさんは魔導車を進めるようにソールさんに指示をした。

 辺境の村にそぐわない石畳が敷かれた中央広場の一角に魔導車を停めて、わたし達はこれからどうするかを話し合うことにした。


     **********


「この村、やっぱりおかしいですわ。
 あの門番、明らかによそ者に立ち入って欲しくないという対応でした。
 それで私が前へ出ることにしたのです。」


 ハイジさんがいきなり身分を明かした理由を話す。
 でも、近隣の村から魔獣狩りの若い衆を呼んでいるんだよね。

「この村に都合の良い人だけを入れるようにしているということですか?」

 わたしの疑問に答えるようにミーナちゃんが言った。

「そんな感じですわね、それがなぜかを知りたいですわ。」


 そんなとき、窓の外を二人組みの男が通り過ぎる。
 一人は怪我をしているのか、もう一人に肩を借りて引き摺られるように移動している。


 その様子が気になったわたしは魔導車を降りて二人組みの前へ出た。

「どうかしまし…」

「邪魔だ、どけ!前を塞ぐな!」

 いているらしい若者が進路上に立ったわたしを脇へ突き飛ばして前へ進んでいく。

「何と言う無礼な若者だ。」

 そう言いながら、倒れ込みそうになったわたしをソールさんが抱きとめてくれた。
 まあまあ、そんなに怒らないで。焦っている人の前に飛び出したわたしも迂闊だったんだから。
 わたしとソールさんは二人組みの後を追った。
 着いたのは診療所の前、ちょうど二人組みが門前払いされているところだった。

「お願いだ、相棒を診てやってくれよ。金なら必ず払うからよ!」

「何度も言うようだが、前払いで払えないヤツの診療はできないよ。
 この村で魔獣狩りをやっているヤツに後払いで良いなんて言ったら取りっ逸れるよ。」

 診療所の人はすがる男をけんもほろろに突き放していた。


 怪我をしている男の方はだいぶ重症のようで既に意識が無くぐったりしている。
 患部はわき腹で、見えてはいけない物が見えてしまっている、血もだいぶ流したようだ。

「おい、しっかりしろ、必ず治してやるからな!」

 無事な方の男が、そういって怪我人を揺すっている。

「その人、早くしないと助かりませんよ。良かったら治しますけど。」

 わたしがそう声をかけると、

「なんだよ、うるさいな!そんな事はわかっているんだよ!
 邪魔だからあっち行け!」

 と返ってきた、取り乱していて話が噛み合っていない。
 もう面倒だから先に治しちゃおう、早くしないと死んじゃうよ、その人。

 わたしは、いつも通り光のおチビちゃんに傷口の『浄化』をしてもらったあとに、水のおチビちゃんに『癒し』を施してもらう。傷がかなり深くて臓物までいっちゃってるので念入りに『癒し』を施してもらったよ。


 わたしは、取り乱している男の肩に手を置いて、

「もう大丈夫だから少し落ち着いて。」

と言った。


 男はわたしの顔を見て、今度は怪我をした相棒を見て、信じられないと言う顔をして

「うそ、治っている……」

と一言もらした。


 さて、落ち着いたなら少し話を聞かせてもらいましょうか。



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