精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第7章 二度目の夏休み、再び帝国へ

第148話 当たりを引いたみたい

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 瘴気中毒に罹った村の人たちを治した翌日、わたし達は村長さんのお宅にお邪魔している。
土間のテーブル、わたしの向かいには昨日一番最初に診た若夫婦の旦那さんが座っている。

 男の人はアインさんと名乗り、

「あんた達が俺達の病気を治してくれたのか、本当に有り難うよ。
 俺なんか嫁さんを貰ったばっかりでおっ死んじまうところだったぜ。」

と気さくな話し方で昨日の治療に感謝の気持ちを示してくれた。


「それで、お聞きしたいのですが、隣村でいったいどんな仕事をしてきたのですか?
 アインさんの病気は濃い瘴気に晒されために体が異常を起こしたものです。
 あんなに多くの人が全員発症するなんてよっぽど濃い瘴気の中に長い時間いたんじゃないかと思うんですが。」

わたしがアインさんに尋ねると、

「それがな、お嬢ちゃん。
 隣村に依頼された魔獣狩りって言うのが、魔獣を捜して狩るんじゃんなくて一カ所に待機して寄ってきた魔獣を狩るというもんだったんだ。」

と言う。

 アインさんの話では、二人一組で持ち場を任され朝から夕方までそこで魔獣を狩る、魔獣が来ても来なくても日当は同じ、魔獣を狩ったらその魔晶石は狩った人のものにしてかまわないという条件だったそうだ。
 アインさん達にとっては、魔獣を一匹も狩らなくてもそれなりの日当が貰えるという旨みのある仕事だったみたい。更に、日当を貰った上で、狩った魔獣の魔晶石を持ち帰って良いと言うのは破格の条件らしい。
 一方で、日中はずっと瘴気の森に留まることになり、いつもの魔獣狩りより長時間濃い瘴気に晒されたみたいだ。
 この村の魔獣狩りは朝瘴気の森に入って昼過ぎには戻るそうだから、だいぶ時間は長いね。

「しかもよう、その村には魔晶石の買取屋があるんでその場で金に換えられるんだぜ。
 それに加えて雑貨屋までありやがる、みんな女房子供に土産を買って帰れるって喜んでたんだ。
 辺境で店がある村なんて初めて見たぜ。」

 今の辺境でお店がある村なんて珍しい、普通は行商頼りだ。隣の村は相当大きな村なのかな?
 おかしいな、そんな大きな村があるなら、ここに来るまでに噂を耳にしてもいいはずだけど…。

 それに、魔獣狩りって魔晶石を採取するためにするんだよね……。
 日当を払うから魔晶石を採って来てくれと依頼されたら魔晶石は依頼主に納めるのが普通な気がする。
 日当を払って魔獣を狩らせたのに、その魔晶石は狩った人の物っては話が上手すぎるよ。


「ねえ、アインさん、隣の村ってそんな大きな村なんですか?隣村の話は初めて聞いたのですけど。
 それに、魔晶石の買取屋さんがあるほど魔獣狩りが盛んなのに他の村にも応援依頼があるほど魔獣が多いんですか?その村にも魔獣狩りをしている人がたくさんいるんじゃないの?」

「おおよ、その村はでっかいぜ、もう村と言うより町だな。
 お嬢ちゃんが初耳だと言うのも当然だ、あんな大きくなったのはこの一年のことだからな。
 なんか帝都のでっかい商会が村に製材所を作ったんだ、それまではこの村と大して変わらんかったんだよ。魔獣狩りをする者も増えてはいるんだろうがそう多くはなかったと思うぜ。
 俺達だって行って見るまで知らなかったんだからな、他所よそのもんが知らないのは当たり前だぜ。」


 思ったより早く当たりを引いたみたい、こっちの方に来て正解だったみたいだ。

 一年ほど前に大手の商会が隣村に製材所を完成し、それにあわせて製材所の職人ときこりがたくさん移住してきたそうだ。
 伐採場所のきこりを守るために魔獣狩りをする者も連れてきたようだが、元からいる者と併せても伐採場所を守るには不足しているらしい。それで、近隣の村に応援を呼びかけたみたい。

 雑貨屋や魔晶石の買取屋も製材所と同じ商会が経営しているみたいだよ。
 雑貨屋だけでなく酒場なんかも色々とあるらしい、途中でフェイさんに耳を塞がれたから詳しくはわからないけど。

 わたしの後ろで侍女として立っているフェイさんが、

「雇った人間に支払った日当を酒場や色事で巻き上げているのですね、宵越しの金を持たないような連中が多そうですし、さぞかしボロい商売でしょうね。」

とボソッとこぼしてた。


 すると黙って話を聞いていたハイジさんがアインさんに尋ねた。

「その帝都の商会の名前は聞きませんでしたか?」

「すまねえ、直接商会の人間と話をした訳じゃないんでちゃんと聞いてないんだ。
 なんか長い名前で…、たしかシュバーツアポステル商会とか言っていた気がする。
 悪い、聞き間違いがあったら勘弁な。」

「シュバーツアポステル商会ですか…。聞き覚えのない名前ですね。
 似たような名前の商会も聞いたことないです。」


 ハイジさんに心当たりはないようだ。皇女殿下と言ってもまだ十三歳だし、大店の名前全て知っているわけじゃないよね。

 それより、わたしは気になることがある。

「その村の人でアインさんたちと同じ病気に罹っている人はいませんでしたか?」

 アインさんの言う通り一年前から製材所が運営されているのなら、濃い瘴気に晒されている人がたくさんいるはずだ。
 一週間ほど出稼ぎに行っていたアインさん達がみんな発症したなら、隣村の住人にはかなりの数の患者さんがいると見た方が良いと思う。

「ごめん、それもわからねえや。
 俺達も一日中瘴気の森にいると気を張るもんだから、心身ともに疲れちまって酒場で晩飯を食ったらバタンキューでな、あんまり隣村の細かい様子は見てないんだ。
 たぶん他の連中に聞いてもわからないっていうと思うぞ。」

 そうすると直接乗り込んでみるしかないかな…。
 





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