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第7章 二度目の夏休み、再び帝国へ
第144話 森の様子を見る
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森を作った翌朝、わたし達は街道の南側に新しい畑とオレンジの果樹園を作った。
昨年は荒地があっという間に農地に変わる様子に驚いていた村の人も、瞬く間に森ができるという驚愕の光景を目にした後では平然としたものだった。
わたし達が畑を作っている間、村の片隅でハンナちゃんがひまわりなどの夏の花を咲かせてロッテちゃんを喜ばせていた。ご婦人たちにはこちらの方が受けが良かったよ。
畑と果樹園作りが一段落したので、わたし達は精霊の森の様子を見に森に入ることにした。
もちろん、村の人は入れないし、ハイジさんも入れないよ。
ハンナちゃんはロッテちゃんを連れて行けないことを残念そうにしていたけど、そこは我慢してもらうしかないね。
**********
森に足を踏み入れると、突然森の様子が変わる、王家の森と同じだ。
さっきまでの暑さが嘘のような春の陽気だ。
「ここは良いですね。空気がきれいで、陽射しも暖か、なんだかホッとします。」
ミーナちゃんが呟きを漏らす。
キョロキョロと辺りを見回していたハンナちゃんが走り出した。
「あっ!ウサギさんだ!」
いったいどこから連れてきたんだろう?よく見るとウサギだけじゃなくリスや小鳥もいる。
こんな砂漠みたいなところに最初からいるわけないし、おチビちゃん達が何処かから連れてきたんだよね?
きっと、「どうやって?」と聞いてはいけないのだろう……。
ウサギを抱きかかえたハンナちゃんが、森のチビちゃん達に何か言っている。
「どうしたの、ハンナちゃん?」
「小人さんにお願いしてたの。あそこに生っている甘い実をちょうだいって。」
ハンナちゃんの指差す先には、たわわに実をつけたモモの木があった。
そのほかにもリンゴやナシ、オレンジまで季節感無視で色々な実をつけた果樹がある。
そもそも、物を食べない精霊が何でこんなに果樹を育てるのかと思ったら、小動物が果実を啄ばんでいる。
小動物たちに食べさせるために植えていたんだ…。
わたしがフェイさんにそう言うと、
「えっ、おチビたちはそんな事考えていませんよ。
精霊は本能的に色々な動植物がいるだけで嬉しいのです。
それときれいなものが好きなのです。あそこにある果実は色とりどりできれいでしょう。」
と言われた。
…結果的に小動物の糧となっているだけらしい。
わたしがリスやウサギと戯れるハンナちゃんを見ていたら、目の前で淡い光の玉が生まれた。
下位の精霊だ……。
「精霊は精霊の森でしか生まれないのです。
自分で移動できない下位の精霊は瘴気から逃げることはできません。
もし、人に切り払える森に生まれたら森が無くなった途端に瘴気に晒されて消滅してしまいます。
だから、人が手を出せない精霊の森でしか生まれなくなったのです。
こうして新しい精霊の森ができるとそこに新たな精霊が生まれてきます。
考えてみれば不思議なことですね。 」
本当に不思議だよね、なんで精霊の森ができた途端にそこに精霊が発生するのか…。
存在の力が希薄な下位の精霊は瘴気に対する抵抗力も弱く、清浄なマナの中でしか存在を保てない。
だから精霊の森にしかいないのだけど、精霊の森でしか生まれないというのは知らなかった。
ほんの少しずつ、ポツリ、ポツリと生まれてくる光の玉を見ていたら、ハンナちゃんがミーナちゃんに伴われて戻って来た。
二人とも腕いっぱいに果実を抱えている、モモの他にもリンゴ、ナシ、オレンジなど。
「みてみて、おみやげに美味しい実をいっぱいもらったよ!」
ハンナちゃんが嬉しそうに貰った果実を見せてくる。
「ハンナちゃんが、ロッテちゃんにも食べさせたいって……。
ハンナちゃんのマナと引き換えに貰ってきたんです。」
「うん、ハンナ、ちゃんと小人さんたちにお礼したよ。」
そうだね、お互いに納得しているのなら良いと思うよ。
**********
村に戻ったハンナちゃんは、さっそくロッテちゃんに果実を振る舞っていた。
「なにこれ、なにこれ、初めて食べたよ!甘い、柔らかい、美味しい!」
ハンナちゃんが一番気に入っているモモを食べたロッテちゃんの喜びようが凄い。
この大陸にはない木らしいから、この国の皇帝でも食べたことないと思うよ…。
喜んでもらえたようで良かったね。
はしゃぐロッテちゃんを羨ましいそうに見る村人の目が気になったのか、ミーナちゃんが腕に抱えた果実を村人に配っていた。モモはもうないけどね。
ミーナちゃんが抱えられる量だ、そんなに数が無いから一人に一つがやっとだったみたいね。
モモは泉のほとりに、オレンジは果樹園に植えてあることを改めて説明しておいた。
その際に、モモは非常に珍しいもので、強欲な者、特に権力者に知られると面倒なことになるかもしれないから村の人だけの秘密にした方がいいと伝えた。
***********
翌朝、名残惜しそうなロッテちゃんの見送りを受けてわたし達は次の村に向けて出発した。
「ロッテちゃん、またね!帰りに必ず寄るからね!」
ハンナちゃんが魔導車の窓から身を乗り出して手を振っていた。
昨年は荒地があっという間に農地に変わる様子に驚いていた村の人も、瞬く間に森ができるという驚愕の光景を目にした後では平然としたものだった。
わたし達が畑を作っている間、村の片隅でハンナちゃんがひまわりなどの夏の花を咲かせてロッテちゃんを喜ばせていた。ご婦人たちにはこちらの方が受けが良かったよ。
畑と果樹園作りが一段落したので、わたし達は精霊の森の様子を見に森に入ることにした。
もちろん、村の人は入れないし、ハイジさんも入れないよ。
ハンナちゃんはロッテちゃんを連れて行けないことを残念そうにしていたけど、そこは我慢してもらうしかないね。
**********
森に足を踏み入れると、突然森の様子が変わる、王家の森と同じだ。
さっきまでの暑さが嘘のような春の陽気だ。
「ここは良いですね。空気がきれいで、陽射しも暖か、なんだかホッとします。」
ミーナちゃんが呟きを漏らす。
キョロキョロと辺りを見回していたハンナちゃんが走り出した。
「あっ!ウサギさんだ!」
いったいどこから連れてきたんだろう?よく見るとウサギだけじゃなくリスや小鳥もいる。
こんな砂漠みたいなところに最初からいるわけないし、おチビちゃん達が何処かから連れてきたんだよね?
きっと、「どうやって?」と聞いてはいけないのだろう……。
ウサギを抱きかかえたハンナちゃんが、森のチビちゃん達に何か言っている。
「どうしたの、ハンナちゃん?」
「小人さんにお願いしてたの。あそこに生っている甘い実をちょうだいって。」
ハンナちゃんの指差す先には、たわわに実をつけたモモの木があった。
そのほかにもリンゴやナシ、オレンジまで季節感無視で色々な実をつけた果樹がある。
そもそも、物を食べない精霊が何でこんなに果樹を育てるのかと思ったら、小動物が果実を啄ばんでいる。
小動物たちに食べさせるために植えていたんだ…。
わたしがフェイさんにそう言うと、
「えっ、おチビたちはそんな事考えていませんよ。
精霊は本能的に色々な動植物がいるだけで嬉しいのです。
それときれいなものが好きなのです。あそこにある果実は色とりどりできれいでしょう。」
と言われた。
…結果的に小動物の糧となっているだけらしい。
わたしがリスやウサギと戯れるハンナちゃんを見ていたら、目の前で淡い光の玉が生まれた。
下位の精霊だ……。
「精霊は精霊の森でしか生まれないのです。
自分で移動できない下位の精霊は瘴気から逃げることはできません。
もし、人に切り払える森に生まれたら森が無くなった途端に瘴気に晒されて消滅してしまいます。
だから、人が手を出せない精霊の森でしか生まれなくなったのです。
こうして新しい精霊の森ができるとそこに新たな精霊が生まれてきます。
考えてみれば不思議なことですね。 」
本当に不思議だよね、なんで精霊の森ができた途端にそこに精霊が発生するのか…。
存在の力が希薄な下位の精霊は瘴気に対する抵抗力も弱く、清浄なマナの中でしか存在を保てない。
だから精霊の森にしかいないのだけど、精霊の森でしか生まれないというのは知らなかった。
ほんの少しずつ、ポツリ、ポツリと生まれてくる光の玉を見ていたら、ハンナちゃんがミーナちゃんに伴われて戻って来た。
二人とも腕いっぱいに果実を抱えている、モモの他にもリンゴ、ナシ、オレンジなど。
「みてみて、おみやげに美味しい実をいっぱいもらったよ!」
ハンナちゃんが嬉しそうに貰った果実を見せてくる。
「ハンナちゃんが、ロッテちゃんにも食べさせたいって……。
ハンナちゃんのマナと引き換えに貰ってきたんです。」
「うん、ハンナ、ちゃんと小人さんたちにお礼したよ。」
そうだね、お互いに納得しているのなら良いと思うよ。
**********
村に戻ったハンナちゃんは、さっそくロッテちゃんに果実を振る舞っていた。
「なにこれ、なにこれ、初めて食べたよ!甘い、柔らかい、美味しい!」
ハンナちゃんが一番気に入っているモモを食べたロッテちゃんの喜びようが凄い。
この大陸にはない木らしいから、この国の皇帝でも食べたことないと思うよ…。
喜んでもらえたようで良かったね。
はしゃぐロッテちゃんを羨ましいそうに見る村人の目が気になったのか、ミーナちゃんが腕に抱えた果実を村人に配っていた。モモはもうないけどね。
ミーナちゃんが抱えられる量だ、そんなに数が無いから一人に一つがやっとだったみたいね。
モモは泉のほとりに、オレンジは果樹園に植えてあることを改めて説明しておいた。
その際に、モモは非常に珍しいもので、強欲な者、特に権力者に知られると面倒なことになるかもしれないから村の人だけの秘密にした方がいいと伝えた。
***********
翌朝、名残惜しそうなロッテちゃんの見送りを受けてわたし達は次の村に向けて出発した。
「ロッテちゃん、またね!帰りに必ず寄るからね!」
ハンナちゃんが魔導車の窓から身を乗り出して手を振っていた。
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