上 下
142 / 508
第7章 二度目の夏休み、再び帝国へ

第141話 辺境の荒野に森を作る

しおりを挟む
「じゃあ、とりあえず木を植えよう。
 今度は『黒の使徒』が切り倒せないくらいたくさん植えちゃおう!」

 ミーナちゃんの話を聞いたわたしはみんなにそう呼びかけた。
 元々、今回はソールさんやシュケーさんに協力してもらって本格的に植樹する予定だったからやることは変わらないんだ。

 もしミーナちゃんの言うとおり森を作られたくないのなら、さぞかし腹を立てることだろうね。

「でも大丈夫でしょうか?
 ターニャちゃんは『黒の使徒』に目を付けられているのにそんな目立つことをして。」

 ハイジさんが心配そうに言うが、わたしはそんなに心配していないんだ。

「大丈夫だと思うよ。たぶん『黒の使徒』の人って常にこの辺境部にいる訳では無いと思うんだ。
 だって、去年の『黒の使徒』の教導団ってわざわざ帝都から来たって言っていたもん。
 あの人たちがここに植林したって話を聞きつける頃には、わたし達は他の村に行っているか、王国に帰っているかだよ。」

 あの見るからに特権意識の高そうな人たちが不便な辺境に住んでいるとは思えないんだもん。
 ここから一番近い町のオストエンデまでわたし達の魔導車で二日、普通の馬車なら二十日かかる距離だよ。
 あの人たちがオストエンデに常駐していたとしても、わたし達がここにいるということを知るのは最短で二十日後になってしまう。その頃にはわたし達はもう帰り支度をしているはずだ。
 どう考えてもわたし達を害することは出来ないと思うし、ましてや途中で邪魔することは到底出来ないと思うよ。


 わたしがそのことをみんなに話すとみんな納得していた。
 村長さんにも確認したけど、やっぱり辺境地域に『黒の使徒』が常駐している村は無いそうだ。
 
 話が一段落したので、わたしは村長さんに手土産に持ってきた干し肉を渡し、村の人で分けてもらうように言った。
 畑の作物が実ったことから食糧事情は改善したけど依然として行商人はやってこないらしい。
 今は、魔獣狩りの人たちがオストエンデの街まで魔晶石を売りに行き、帰りに必要な物資を買い入れてくるそうだ。
 なので、干し肉は貴重らしく大量に配ったら凄く喜ばれた。

 この村でたった一人の小さな女の子にはわたし達がおやつに持ってきた焼き菓子を分けてあげた。彼女の名前はロッテちゃんというらしい、今更ながら初めて聞いたよ。

 辺境の村では甘いお菓子はほとんど手に入らないらしく、

「なにこれ、甘くて美味しい!初めて食べたよ!」

焼き菓子を口にしたロッテちゃんはそう言って嬉しそうに食べている。

 喜んでもらえたようでなによりだね。


     **********


 翌日の朝、わたし達は村外れに来ている。この村は村の南側が辺境を東西に貫く街道に面している。
 昨年は村に面した東側に農地を作ったけど、今回は畑の東側、村の北側、村の西側を全て森に変えてしまう予定なんだ。昨日のうちに村長にもちゃんとお許しを貰ったよ。
 そんな大技、わたしやミーナちゃんではとてもできないよ。
 今回は予め光の上位精霊のソールさんと木の上位精霊シュケーさんに力を振るってもらうようにお願いしたんだ。

 今まで上位精霊のみんなはわたしの保護者的な役割で、直接精霊の力を振るうことは殆んどなかったんだ。

 昨年帝国へきたときソールさんは瘴気の濃さに絶句し、一帯を浄化したかったそうだ。
 わたしの勉強のために手を出すのを我慢して、わたしの好きなようにやらせてくれたみたい。

 わたしが手伝って欲しいといったら喜んで協力するって言ってくれた。

 特に今日はシュケーさんが、

「昨年ターニャちゃん達が頑張って植えた木々にあんな酷いことするなんて許せません。
 目に物を見せてあげましょう。」

と張り切っている。


 わたしは村が大きくなってもいいように村から少し離れた場所からだいたい森の厚みが二百シュトラーセくらいになるように村の三方を囲って欲しいとお願いする。

 わたしの希望を聞いたソールさんが一気に『浄化』の力を放出した。眩い光がソールさんを中心に同心円状に広がっていく。
 おそらく二百シュトラーセではきかない範囲の土壌、空気が一瞬にして浄化されたんじゃないだろうか。わたしの周りの空気が清浄さを取り戻し、呼吸が楽になった。

 すかさずシュケーさんが予め村の周囲に簡単に植えておいた何十本かの苗木の成長促進を行う。初めて見るシュケーさんの大技だ。

 最初の苗木が見る見る大きくなると実を落とし、そこから芽を出しまたそれが大樹となる。
 しばらくの間、それを繰り返しあっという間に緑が濃くなっていく。

「凄い……。」

 思わず感嘆の声が出てしまう大迫力の光景だ。


 一時間ほど経ったときには村の三方に立派な青々とした森が茂っていた。
 流石に、この光景には村のみんなが愕然として言葉を失っていたよ。


 仕上げとばかりにフェイさんが村の北の森に泉を作ってくれた。
 わたしがお願いしていない突然の贈り物だ。
 滔滔と湧き出る泉は池を作りそこから村の東の畑に向けて小川となって流れ出た。

「この泉の清浄な水が、土に留まった瘴気を洗い流してくれるでしょう。」

 フェイさんは自信満々に言った。

 ソールさんが一帯を浄化してから、ここまで二時間もかかっていない。
 わたしも初めて見る上位精霊の力、本当に吃驚した。
 たしかに易々と使って良い力じゃないと思ったよ。

 




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【物真似(モノマネ)】の力を嫉妬され仲間を外された俺が一人旅を始めたら……頼られるし、可愛い女の子たちとも仲良くなれて前より幸せなんですが?

シトラス=ライス
ファンタジー
銀髪の冒険者アルビスの持つ「物真似士(ものまねし)」という能力はとても優秀な能力だ。直前に他人が発動させた行動や技をそっくりそのまま真似て放つことができる……しかし先行して行動することが出来ず、誰かの後追いばかりになってしまうのが唯一の欠点だった。それでも優秀な能力であることは変わりがない。そんな能力を持つアルビスへリーダーで同郷出身のノワルは、パーティーからの離脱を宣告してくる。ノワル達は後追い行動ばかりで、更に自然とではあるが、トドメなどの美味しいところを全て持っていってしまうアルビスに不満を抱いていたからだった。 半ば強引にパーティーから外されてしまったアルビス。一人にされこの先どうしようとか途方に暮れる。 しかし自分の授かった能力を、世のため人のために使いたいという意志が変わることは無かったのだ。 こうして彼は広大なる大陸へ新たな一歩を踏み出してゆく――アルビス、16歳の決断だった。 それから2年後……東の山の都で、“なんでもできる凄い奴”と皆に引っ張りだこな、冒険者アルビスの姿があった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

農民の少年は混沌竜と契約しました

アルセクト
ファンタジー
極々普通で特にこれといった長所もない少年は、魔法の存在する世界に住む小さな国の小さな村の小さな家の農家の跡取りとして過ごしていた 少年は15の者が皆行う『従魔召喚の儀』で生活に便利な虹亀を願ったはずがなんの間違えか世界最強の生物『竜』、更にその頂点である『混沌竜』が召喚された これはそんな極々普通の少年と最強の生物である混沌竜が送るノンビリハチャメチャな物語

私の愛した召喚獣

Azanasi
ファンタジー
アルメニア王国の貴族は召喚獣を従者として使うのがしきたりだった。 15歳になると召喚に必要な召喚球をもらい、召喚獣を召喚するアメリアの召喚した召喚獣はフェンリルだった。 実はそのフェンリルは現代社会で勤務中に死亡した久志と言う人間だった、久志は女神の指令を受けてアメリアの召喚獣へとさせられたのだった。 腐敗した世界を正しき方向に導けるのかはたまた破滅目と導くのか世界のカウントダウンは静かに始まるのだった。 ※途中で方針転換してしまいタイトルと内容がちょっと合わなく成りつつありますがここまで来てタイトルを変えるのも何ですので、?と思われるかも知れませんがご了承下さい。 注)4章以前の文書に誤字&脱字が多数散見している模様です、現在、修正中ですので今暫くご容赦下さい。

没落令嬢カノンの冒険者生活〜ジョブ『道具師』のスキルで道具を修復・レベルアップ・進化できるようになりました〜

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 事業に失敗した父親の借金の返済期限がやって来た。数十人の金貸し達が屋敷に入って来る。  屋敷に一人残された男爵令嬢の三女カノン・ネロエスト(17歳)は、ペットの大型犬パトラッシュと一緒に追い出された。  長い金髪を切られ、着ていた高価な服もボロ服に変えられた。  そんな行く当てのない彼女に金貸しの男が、たったの2500ギルド渡して、冒険者ギルドを紹介した。  不幸の始まりかと思ったが、教会でジョブ『道具師』を習得した事で、幸福な生活がすぐに始まってしまう。  そんな幸福な日常生活の物語。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

処理中です...