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第7章 二度目の夏休み、再び帝国へ
第141話 辺境の荒野に森を作る
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「じゃあ、とりあえず木を植えよう。
今度は『黒の使徒』が切り倒せないくらいたくさん植えちゃおう!」
ミーナちゃんの話を聞いたわたしはみんなにそう呼びかけた。
元々、今回はソールさんやシュケーさんに協力してもらって本格的に植樹する予定だったからやることは変わらないんだ。
もしミーナちゃんの言うとおり森を作られたくないのなら、さぞかし腹を立てることだろうね。
「でも大丈夫でしょうか?
ターニャちゃんは『黒の使徒』に目を付けられているのにそんな目立つことをして。」
ハイジさんが心配そうに言うが、わたしはそんなに心配していないんだ。
「大丈夫だと思うよ。たぶん『黒の使徒』の人って常にこの辺境部にいる訳では無いと思うんだ。
だって、去年の『黒の使徒』の教導団ってわざわざ帝都から来たって言っていたもん。
あの人たちがここに植林したって話を聞きつける頃には、わたし達は他の村に行っているか、王国に帰っているかだよ。」
あの見るからに特権意識の高そうな人たちが不便な辺境に住んでいるとは思えないんだもん。
ここから一番近い町のオストエンデまでわたし達の魔導車で二日、普通の馬車なら二十日かかる距離だよ。
あの人たちがオストエンデに常駐していたとしても、わたし達がここにいるということを知るのは最短で二十日後になってしまう。その頃にはわたし達はもう帰り支度をしているはずだ。
どう考えてもわたし達を害することは出来ないと思うし、ましてや途中で邪魔することは到底出来ないと思うよ。
わたしがそのことをみんなに話すとみんな納得していた。
村長さんにも確認したけど、やっぱり辺境地域に『黒の使徒』が常駐している村は無いそうだ。
話が一段落したので、わたしは村長さんに手土産に持ってきた干し肉を渡し、村の人で分けてもらうように言った。
畑の作物が実ったことから食糧事情は改善したけど依然として行商人はやってこないらしい。
今は、魔獣狩りの人たちがオストエンデの街まで魔晶石を売りに行き、帰りに必要な物資を買い入れてくるそうだ。
なので、干し肉は貴重らしく大量に配ったら凄く喜ばれた。
この村でたった一人の小さな女の子にはわたし達がおやつに持ってきた焼き菓子を分けてあげた。彼女の名前はロッテちゃんというらしい、今更ながら初めて聞いたよ。
辺境の村では甘いお菓子はほとんど手に入らないらしく、
「なにこれ、甘くて美味しい!初めて食べたよ!」
焼き菓子を口にしたロッテちゃんはそう言って嬉しそうに食べている。
喜んでもらえたようでなによりだね。
**********
翌日の朝、わたし達は村外れに来ている。この村は村の南側が辺境を東西に貫く街道に面している。
昨年は村に面した東側に農地を作ったけど、今回は畑の東側、村の北側、村の西側を全て森に変えてしまう予定なんだ。昨日のうちに村長にもちゃんとお許しを貰ったよ。
そんな大技、わたしやミーナちゃんではとてもできないよ。
今回は予め光の上位精霊のソールさんと木の上位精霊シュケーさんに力を振るってもらうようにお願いしたんだ。
今まで上位精霊のみんなはわたしの保護者的な役割で、直接精霊の力を振るうことは殆んどなかったんだ。
昨年帝国へきたときソールさんは瘴気の濃さに絶句し、一帯を浄化したかったそうだ。
わたしの勉強のために手を出すのを我慢して、わたしの好きなようにやらせてくれたみたい。
わたしが手伝って欲しいといったら喜んで協力するって言ってくれた。
特に今日はシュケーさんが、
「昨年ターニャちゃん達が頑張って植えた木々にあんな酷いことするなんて許せません。
目に物を見せてあげましょう。」
と張り切っている。
わたしは村が大きくなってもいいように村から少し離れた場所からだいたい森の厚みが二百シュトラーセくらいになるように村の三方を囲って欲しいとお願いする。
わたしの希望を聞いたソールさんが一気に『浄化』の力を放出した。眩い光がソールさんを中心に同心円状に広がっていく。
おそらく二百シュトラーセではきかない範囲の土壌、空気が一瞬にして浄化されたんじゃないだろうか。わたしの周りの空気が清浄さを取り戻し、呼吸が楽になった。
すかさずシュケーさんが予め村の周囲に簡単に植えておいた何十本かの苗木の成長促進を行う。初めて見るシュケーさんの大技だ。
最初の苗木が見る見る大きくなると実を落とし、そこから芽を出しまたそれが大樹となる。
しばらくの間、それを繰り返しあっという間に緑が濃くなっていく。
「凄い……。」
思わず感嘆の声が出てしまう大迫力の光景だ。
一時間ほど経ったときには村の三方に立派な青々とした森が茂っていた。
流石に、この光景には村のみんなが愕然として言葉を失っていたよ。
仕上げとばかりにフェイさんが村の北の森に泉を作ってくれた。
わたしがお願いしていない突然の贈り物だ。
滔滔と湧き出る泉は池を作りそこから村の東の畑に向けて小川となって流れ出た。
「この泉の清浄な水が、土に留まった瘴気を洗い流してくれるでしょう。」
フェイさんは自信満々に言った。
ソールさんが一帯を浄化してから、ここまで二時間もかかっていない。
わたしも初めて見る上位精霊の力、本当に吃驚した。
たしかに易々と使って良い力じゃないと思ったよ。
今度は『黒の使徒』が切り倒せないくらいたくさん植えちゃおう!」
ミーナちゃんの話を聞いたわたしはみんなにそう呼びかけた。
元々、今回はソールさんやシュケーさんに協力してもらって本格的に植樹する予定だったからやることは変わらないんだ。
もしミーナちゃんの言うとおり森を作られたくないのなら、さぞかし腹を立てることだろうね。
「でも大丈夫でしょうか?
ターニャちゃんは『黒の使徒』に目を付けられているのにそんな目立つことをして。」
ハイジさんが心配そうに言うが、わたしはそんなに心配していないんだ。
「大丈夫だと思うよ。たぶん『黒の使徒』の人って常にこの辺境部にいる訳では無いと思うんだ。
だって、去年の『黒の使徒』の教導団ってわざわざ帝都から来たって言っていたもん。
あの人たちがここに植林したって話を聞きつける頃には、わたし達は他の村に行っているか、王国に帰っているかだよ。」
あの見るからに特権意識の高そうな人たちが不便な辺境に住んでいるとは思えないんだもん。
ここから一番近い町のオストエンデまでわたし達の魔導車で二日、普通の馬車なら二十日かかる距離だよ。
あの人たちがオストエンデに常駐していたとしても、わたし達がここにいるということを知るのは最短で二十日後になってしまう。その頃にはわたし達はもう帰り支度をしているはずだ。
どう考えてもわたし達を害することは出来ないと思うし、ましてや途中で邪魔することは到底出来ないと思うよ。
わたしがそのことをみんなに話すとみんな納得していた。
村長さんにも確認したけど、やっぱり辺境地域に『黒の使徒』が常駐している村は無いそうだ。
話が一段落したので、わたしは村長さんに手土産に持ってきた干し肉を渡し、村の人で分けてもらうように言った。
畑の作物が実ったことから食糧事情は改善したけど依然として行商人はやってこないらしい。
今は、魔獣狩りの人たちがオストエンデの街まで魔晶石を売りに行き、帰りに必要な物資を買い入れてくるそうだ。
なので、干し肉は貴重らしく大量に配ったら凄く喜ばれた。
この村でたった一人の小さな女の子にはわたし達がおやつに持ってきた焼き菓子を分けてあげた。彼女の名前はロッテちゃんというらしい、今更ながら初めて聞いたよ。
辺境の村では甘いお菓子はほとんど手に入らないらしく、
「なにこれ、甘くて美味しい!初めて食べたよ!」
焼き菓子を口にしたロッテちゃんはそう言って嬉しそうに食べている。
喜んでもらえたようでなによりだね。
**********
翌日の朝、わたし達は村外れに来ている。この村は村の南側が辺境を東西に貫く街道に面している。
昨年は村に面した東側に農地を作ったけど、今回は畑の東側、村の北側、村の西側を全て森に変えてしまう予定なんだ。昨日のうちに村長にもちゃんとお許しを貰ったよ。
そんな大技、わたしやミーナちゃんではとてもできないよ。
今回は予め光の上位精霊のソールさんと木の上位精霊シュケーさんに力を振るってもらうようにお願いしたんだ。
今まで上位精霊のみんなはわたしの保護者的な役割で、直接精霊の力を振るうことは殆んどなかったんだ。
昨年帝国へきたときソールさんは瘴気の濃さに絶句し、一帯を浄化したかったそうだ。
わたしの勉強のために手を出すのを我慢して、わたしの好きなようにやらせてくれたみたい。
わたしが手伝って欲しいといったら喜んで協力するって言ってくれた。
特に今日はシュケーさんが、
「昨年ターニャちゃん達が頑張って植えた木々にあんな酷いことするなんて許せません。
目に物を見せてあげましょう。」
と張り切っている。
わたしは村が大きくなってもいいように村から少し離れた場所からだいたい森の厚みが二百シュトラーセくらいになるように村の三方を囲って欲しいとお願いする。
わたしの希望を聞いたソールさんが一気に『浄化』の力を放出した。眩い光がソールさんを中心に同心円状に広がっていく。
おそらく二百シュトラーセではきかない範囲の土壌、空気が一瞬にして浄化されたんじゃないだろうか。わたしの周りの空気が清浄さを取り戻し、呼吸が楽になった。
すかさずシュケーさんが予め村の周囲に簡単に植えておいた何十本かの苗木の成長促進を行う。初めて見るシュケーさんの大技だ。
最初の苗木が見る見る大きくなると実を落とし、そこから芽を出しまたそれが大樹となる。
しばらくの間、それを繰り返しあっという間に緑が濃くなっていく。
「凄い……。」
思わず感嘆の声が出てしまう大迫力の光景だ。
一時間ほど経ったときには村の三方に立派な青々とした森が茂っていた。
流石に、この光景には村のみんなが愕然として言葉を失っていたよ。
仕上げとばかりにフェイさんが村の北の森に泉を作ってくれた。
わたしがお願いしていない突然の贈り物だ。
滔滔と湧き出る泉は池を作りそこから村の東の畑に向けて小川となって流れ出た。
「この泉の清浄な水が、土に留まった瘴気を洗い流してくれるでしょう。」
フェイさんは自信満々に言った。
ソールさんが一帯を浄化してから、ここまで二時間もかかっていない。
わたしも初めて見る上位精霊の力、本当に吃驚した。
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