精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第6章 王家の森

第129話 訪ねて来たお婆ちゃん

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 いつの間にか厳しい冬が過ぎ去り春が来たかと思っていたら、すでに初夏の陽射しが眩しい四の月になっていた。

 あれ以来、王家の森を開発したいとする者たちの動きは鳴りを潜めている。

「今までの手段が封じられたんで別のことを考えている最中なんでしょう。」

 ミルトさんは様子見を決め込んでいるみたい。


 そして先日、創世教の新しい大司教がここヴィーナヴァルトへ着任したんだ。

 新しい大司教は着任早々王へ謁見を申し込み、先代大司教が行った色々な不始末について創世教として正式に謝罪した。
 また、新任大司教は創世教の教皇からの親書を携えていた。

 そこには、不見識な大司教を任命したことの不明を恥じ大司教がこの国で行った数々の無礼について謝罪すると共に今後は王家のこと及びこの国の政治のことに関して口を挟まない旨が教皇の署名と共に記されていたらしい。


 ヴァイゼさんを始めとする王族の人たちは、創世教の正式な返答に満足したみたいだった。


     **********


 四の月も半ばに差し掛かった『癒しの日』、わたしたちは精霊神殿の前で最早恒例となった臨時診療所を開設していたの。

 わたしのところに並んでいた初老のお婆ちゃんが腰痛が酷いので診て欲しいという。
女性の天幕は向こうですと言おうとしたが腰の痛みが酷いようだ。
 元々天幕を分けたのは男性と一緒だと患部の面で差し障りのある女性がいるからなので、お婆ちゃんが気にしないならあえて向こうの天幕にうつる必要もないだろう。
 わたしはそう思い、お婆ちゃんにここは男の人用の天幕だけど構わないかと尋ねた。

「まあ、患者さんが気持ちよく治療を受けられるように気遣いしてくださるのね。
 素敵なことだわ、でもこれ以上動くのはしんどいのここで治療してくださるかしら。」

 なんかこのお婆ちゃん、質素な身形の割には言動に優雅さを感じるんだけど気のせいかな?

 わたしの傍にいる水のおチビちゃんが、このお婆ちゃんは腰が酷く傷んでるだけでなく体が大分疲れていると言っている。最近何か酷く疲れることでもしたのかな…。

 わたしは、おチビちゃんの言葉に従い多目のマナを放出し、念入りに『癒し』を施すように水のおチビちゃんにお願いした。

 ほのかな青い光がおばあちゃんの全身を包み込みやがて吸い込まれるように消える。

「あら、本当に凄いのね、嘘のように痛みが消えたわ。腰に痛みを感じないなんて何年振りかしら。
 お嬢ちゃん、今いくつ?わたしの孫娘より幼く感じるのだけど…。」

 喜んでもらえたならよかった。

「わたしはちょっと前に九歳になったところです。」

「九歳で熟練の治癒術師より『癒し』の力が強いとは末恐ろしいわね。
 ねえ、お嬢ちゃん、私は長いこと腰の痛みに悩まされていたのだけど、こんなにきれいに痛みを消してくれたのはお嬢ちゃんだけよ。
 しかも、全身の疲れも取ってくれたでしょう、あれはどうしてなの?」

「なんか、全身に疲れが溜まっているみたいで、腰を治しても他の部分を悪くしそうだ(とおチビちゃんが言っていた)から…。」

 お婆ちゃんは嘆息して言った。

「そう、そんな事までわかるのね、脱帽だわ…。」

 お婆ちゃんはなにやら思案し始めてしまった。後がつかえているのでどいてもらっていいかな…。

 そのとき、

「フィナントロープ先生ではございませんか?なんでこちらに?」

 天幕に入ってきたマリアさんがお婆ちゃんに声をかけた。お婆ちゃんはマリアさんの知り合いらしい。


「マリアが教会を辞めたのいうのを聞いて、ちょっと顔を見に寄ってみたのさ。
 本当に久し振りだけど、元気そうにしているみたいだね。
 ちょいと話があるんだけど、ここじゃあ診療の邪魔だね。
 場所を変えるかね。」

「それでは、神殿内の応接でよろしいでしょうか?」

「悪いね急に邪魔しちゃって。
 おおっと、忘れるところだった。
 お嬢ちゃん、腰の痛みを治してくれて有り難う。
 年寄りに長旅をさせるなんて酷いよね、長旅の疲れが腰に出て本当に難儀してたのさ。
 名乗るのが遅くなってすまないね。
 私は、フィナントロープ、この町の新しい大司教になったからよろしく頼むよ。
 すまないが、この診療が終ったらミルト様に少し時間をとってもらえるように伝えてくれるかい。
 あと、お嬢ちゃんとももう少し話がしたいんだ。
 それまで、マリアと近況でも話しながら待たしてもらうとしよう。
 なあに、前の大司教みたいに難癖付けに来たわけじゃないから安心していいよ。」

 急にフランクな口調になって自己紹介したお婆ちゃんは、なんと創世教の新しい大司教だった。

 優しそうな人に見えるけど大丈夫なのかな…。


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