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第6章 王家の森
第120話 ミルトさんの思い
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*お昼に1話投稿しています
お読みでない方はお手数ですが1話戻ってお読みください。
**********
精霊神殿でのミルトさんとグラウベ大司教のやり取りは、数日後には王都中の噂になっていた。
ミルトさんの思惑通り、噂は目撃していた患者さんの口からミルトさんに都合の良いように流れた。
すなわち、民のために治癒術を安価で提供したいミルト皇太子妃と創世教の利益のため治癒術を安売りしたくない大司教の舌戦として。
ミルトさんはしてやったりという顔をしているが、グラウベ大司教としてはほぞを噛む思いじゃないかと思うよ。
ミルトさんは言う。
「だいたい馬鹿にしているのよ、私のところに苦情を言いに来るなんて。
教会として文句があるのなら、正式に謁見の申請をして王に苦情申し立てをすればいいのよ。
おおかた、大司教が直接私に苦情を言えば、私が萎縮して引き下がると思っていたのよ。
だから、あんな人前で公然と苦情を言ったに違いないわ、侮られたものだわ。」
だとしたら、ミルトさんを与し易いと見て手痛いしっぺ返しを喰ったことになるね、あの大司教。
しかし、あの大司教の、お金を払わない人は信仰心が厚くないみたいな言い方はどうかと思うよ。
あれじゃ、あそこにいた患者さんはみんな信仰心が乏しいと言っているようなもんだもん。
民衆に喧嘩を売るようなことをさも当たり前のように言うって信じられないよ。
ミルトさんの見解では、今回のことは創世教にとってはたいした影響がなかったはずだったらしい。
創世教は大陸全体に治癒術師のネットワークを築いているのに対し、こちらはマリアさん一人しかいない。わたしやミルトさんが治癒を施すのは休日だけで、しかも毎週というわけでもない。
こんなの創世教の収益に対する障害になる訳がないって。
傷つくとすれば、治癒術師の独占が崩れることによる創世教の面子とそれを許してしまったグラウベ大司教の面子だけだったはずだとミルトさんは言う。
グラウベ大司教は自分の面子に傷が付くことに腹を立てて、余計に傷口を広げてしまったみたいね。
だって、ここ数日で創世教の評判はがた落ちだもん。
**********
ここは、精霊神殿の一室、いつものメンバーで午後のティータイムをしている。
「申し訳ございません。私のことでミルト様には大変ご迷惑をおかけしているようで。」
マリアさんが恐縮した様子でミルトさんに謝罪する。
「気にしないでいいのよ、あなたの相談に乗ったときからこの程度のことは覚悟していたから。
これをきっかけに創世教による治癒術師の独占を崩せたなら儲けものよ。
別にそこまで欲張らなくても、マリアさんを雇えただけでも良かったと思っているわ。
マリアさんこそ、創世教を辞めてきてよかったのかしら。」
ミルトさんの問いかけにマリアさんが余計に恐縮してしまった。
「はい、創世教にいたときより仕事にやりがいを感じています。
やはり私は、治癒術は一部のお金持ちのためではなく、病や怪我に苦しむ人に幅広く提供されるべきだと思います。
ただ、私、今、創世教にいたときよりたくさん手当てをいただいているのですが良いのでしょうか。
私が治癒術を施すことで受け取る施術料よりはるかに多いのですけど。」
「いいのよ、そんな事気にしないで。
前にも言ったかもしれないけど精霊神殿は王家の私的財産で営んでいるの、国の公費は全く使っていないわ。だから王家の自由にできるの。
はなから利潤なんて考えていないからマリアさん一人の手当てが増えたところでどうってことないわ。
それより、精霊神殿に常駐の治癒術師がいて、いつでも安価で治癒術を提供できるということの方が重要なの。
私はマリアさんが来てくれて本当に感謝しているわ。」
ミルトさんの返答にマリアさんは幾分表情を和らげていた。
わたしは少し気にかかったことを聞いてみることにした。
「ミルトさんは治癒術師を国で養成したいと言っていますけど、マリアさんを一人前の治癒術師にするのに金貨千枚が必要だったとすると凄いたくさんのお金が必要なんじゃないですか。
国にそんなお金があるんですか?」
ミルトさんはわたしを見て微笑むと、
「ターニャちゃんは良いことに気が付いたわね、とても八歳の子供とは思えないわ。
わたし達王族があまり華美な生活をしていないから想像出来ないかもしれないけど、この国は凄いお金持ちなのよ。治癒術師の養成に掛かるお金なんてたいしたことないわ。
むしろ、養成するためのノウハウを創世教が独占していることの方が問題よ。
もし将来、国で養成出来るようになったらマリアさんに指導者になってもらうしかないわね。」
ミルトさんの治癒術師を国で持ちたいという気持ちは強い。
今のように創世教が治癒術師を独占していると、疫病が流行したときなど創世教に頼らざるをえないのだって。
そのため、創世教の立場が強くなりすぎていて、創世教を国教にしろと言ってきたり、政治に口を挟んだりして来るそうだ。
この国では政教分離を徹底しているのでそれらを拒んでいるが、最近増長が目に余るという。
なにより、有事の際に自分達で対応できないのは拙いとミルトさんは感じているようだ。
それと治癒術師の育成が適うのならばその財源として手を付けたいお金があるんだそうだ。
その名を「西部地区開拓助成積立金」というものらしい。
この間からにわかに騒がしくなっている王家の森の開発問題の際にも聞かされたが、この国では荒野が多い西部地区の開発を奨励しているの。
開発が困難な西部地方を開発しようとする者を助成するため百年以上に亘って積み立てをしてきたそうだ。
しかし、実際に使われたのは数件しかなく、膨大なお金が国庫に眠っているとのことだ。
それだけ優遇する用意があるのに誰も手を上げず、あげく王家の森を開発させろなどと虫のいい話をするのであれば、こんな積立金は無駄だとミルトさんは言っている。
叶うならこのお金を取り崩して、治癒術師の育成に使いたいと思っているらしいの。
ミルトさんの言っていることはもっとな気がするけど、多分に私情が入っているように感じるのは気のせいかな…。
お読みでない方はお手数ですが1話戻ってお読みください。
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精霊神殿でのミルトさんとグラウベ大司教のやり取りは、数日後には王都中の噂になっていた。
ミルトさんの思惑通り、噂は目撃していた患者さんの口からミルトさんに都合の良いように流れた。
すなわち、民のために治癒術を安価で提供したいミルト皇太子妃と創世教の利益のため治癒術を安売りしたくない大司教の舌戦として。
ミルトさんはしてやったりという顔をしているが、グラウベ大司教としてはほぞを噛む思いじゃないかと思うよ。
ミルトさんは言う。
「だいたい馬鹿にしているのよ、私のところに苦情を言いに来るなんて。
教会として文句があるのなら、正式に謁見の申請をして王に苦情申し立てをすればいいのよ。
おおかた、大司教が直接私に苦情を言えば、私が萎縮して引き下がると思っていたのよ。
だから、あんな人前で公然と苦情を言ったに違いないわ、侮られたものだわ。」
だとしたら、ミルトさんを与し易いと見て手痛いしっぺ返しを喰ったことになるね、あの大司教。
しかし、あの大司教の、お金を払わない人は信仰心が厚くないみたいな言い方はどうかと思うよ。
あれじゃ、あそこにいた患者さんはみんな信仰心が乏しいと言っているようなもんだもん。
民衆に喧嘩を売るようなことをさも当たり前のように言うって信じられないよ。
ミルトさんの見解では、今回のことは創世教にとってはたいした影響がなかったはずだったらしい。
創世教は大陸全体に治癒術師のネットワークを築いているのに対し、こちらはマリアさん一人しかいない。わたしやミルトさんが治癒を施すのは休日だけで、しかも毎週というわけでもない。
こんなの創世教の収益に対する障害になる訳がないって。
傷つくとすれば、治癒術師の独占が崩れることによる創世教の面子とそれを許してしまったグラウベ大司教の面子だけだったはずだとミルトさんは言う。
グラウベ大司教は自分の面子に傷が付くことに腹を立てて、余計に傷口を広げてしまったみたいね。
だって、ここ数日で創世教の評判はがた落ちだもん。
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ここは、精霊神殿の一室、いつものメンバーで午後のティータイムをしている。
「申し訳ございません。私のことでミルト様には大変ご迷惑をおかけしているようで。」
マリアさんが恐縮した様子でミルトさんに謝罪する。
「気にしないでいいのよ、あなたの相談に乗ったときからこの程度のことは覚悟していたから。
これをきっかけに創世教による治癒術師の独占を崩せたなら儲けものよ。
別にそこまで欲張らなくても、マリアさんを雇えただけでも良かったと思っているわ。
マリアさんこそ、創世教を辞めてきてよかったのかしら。」
ミルトさんの問いかけにマリアさんが余計に恐縮してしまった。
「はい、創世教にいたときより仕事にやりがいを感じています。
やはり私は、治癒術は一部のお金持ちのためではなく、病や怪我に苦しむ人に幅広く提供されるべきだと思います。
ただ、私、今、創世教にいたときよりたくさん手当てをいただいているのですが良いのでしょうか。
私が治癒術を施すことで受け取る施術料よりはるかに多いのですけど。」
「いいのよ、そんな事気にしないで。
前にも言ったかもしれないけど精霊神殿は王家の私的財産で営んでいるの、国の公費は全く使っていないわ。だから王家の自由にできるの。
はなから利潤なんて考えていないからマリアさん一人の手当てが増えたところでどうってことないわ。
それより、精霊神殿に常駐の治癒術師がいて、いつでも安価で治癒術を提供できるということの方が重要なの。
私はマリアさんが来てくれて本当に感謝しているわ。」
ミルトさんの返答にマリアさんは幾分表情を和らげていた。
わたしは少し気にかかったことを聞いてみることにした。
「ミルトさんは治癒術師を国で養成したいと言っていますけど、マリアさんを一人前の治癒術師にするのに金貨千枚が必要だったとすると凄いたくさんのお金が必要なんじゃないですか。
国にそんなお金があるんですか?」
ミルトさんはわたしを見て微笑むと、
「ターニャちゃんは良いことに気が付いたわね、とても八歳の子供とは思えないわ。
わたし達王族があまり華美な生活をしていないから想像出来ないかもしれないけど、この国は凄いお金持ちなのよ。治癒術師の養成に掛かるお金なんてたいしたことないわ。
むしろ、養成するためのノウハウを創世教が独占していることの方が問題よ。
もし将来、国で養成出来るようになったらマリアさんに指導者になってもらうしかないわね。」
ミルトさんの治癒術師を国で持ちたいという気持ちは強い。
今のように創世教が治癒術師を独占していると、疫病が流行したときなど創世教に頼らざるをえないのだって。
そのため、創世教の立場が強くなりすぎていて、創世教を国教にしろと言ってきたり、政治に口を挟んだりして来るそうだ。
この国では政教分離を徹底しているのでそれらを拒んでいるが、最近増長が目に余るという。
なにより、有事の際に自分達で対応できないのは拙いとミルトさんは感じているようだ。
それと治癒術師の育成が適うのならばその財源として手を付けたいお金があるんだそうだ。
その名を「西部地区開拓助成積立金」というものらしい。
この間からにわかに騒がしくなっている王家の森の開発問題の際にも聞かされたが、この国では荒野が多い西部地区の開発を奨励しているの。
開発が困難な西部地方を開発しようとする者を助成するため百年以上に亘って積み立てをしてきたそうだ。
しかし、実際に使われたのは数件しかなく、膨大なお金が国庫に眠っているとのことだ。
それだけ優遇する用意があるのに誰も手を上げず、あげく王家の森を開発させろなどと虫のいい話をするのであれば、こんな積立金は無駄だとミルトさんは言っている。
叶うならこのお金を取り崩して、治癒術師の育成に使いたいと思っているらしいの。
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